2023年7月10日月曜日

東京ステーションギャラリー 甲斐荘楠音の全貌

東京ステーションギャラリーでは、甲斐荘楠音の全貌が開催されています。

展示室出口のパネル

サブタイトルは、絵画、演劇、映画を越境する個性

「甲斐荘楠音の全貌」展は、歌舞伎が好きで自ら女形として舞台に立ったり、時代劇映画の衣裳のデザインに携わるなど、日本画家としてだけでなく、演劇人や映画人としてジャンルを越えて個性を発揮した甲斐荘楠音の、まさに全貌がわかる内容盛りだくさんの展覧会です。

展覧会開催概要


会 場  東京ステーションギャラリー
会 期  2023年7月1日(土)から8月27日(日)
     *会期中、展示替えがあります。[前期7/1-7/30、後期8/1-8/27] 
休館日  月曜日(7/17、8/14、8/21は開館)、7/18(火)
開館時間 10時~18時(金曜日は20時まで) *入館は閉館30分前まで
入館料  一般 1400円、高校・大学生 1200円、中学生以下無料

展覧会の詳細等は同館公式サイトをご覧ください⇒東京ステーションギャラリー     

展示構成
 序章   描く人 
 第1章 こだわる人
 第2章 演じる人
 第3章 越境する人
 終章   数奇な人

※展示室内及びミュージアムショップは撮影不可です。掲載した写真はプレス内覧会で主催者の許可を得て撮影したものです。

序章   描く人


3階展示室の冒頭に展示されているのは、甲斐荘楠音が注目されるきっかけとなった第1回国画創作協会展(1918(大正7)年)に出品された《横櫛》(下の写真右 広島県立美術館 前期展示)(※)はじめ女性美を追求した美人画の名品の数々。
(※)もう一点の《横櫛》(下の写真中央 京都国立近代美術館)は通期展示。

序章展示風景


甲斐荘の美人画は、上村松園や鏑木清方ほかの美人画とは違う独特の雰囲気がありますが、その秘密は画学生時代に傾倒したレオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロなどの陰影をつけて立体感を表わす西洋絵画の人物表現だったのです。

序章展示風景


第1章 こだわる人


第1章に展示されているのは、甲斐荘が集めた写真や新聞の切り抜きなどを貼り付けたスクラップブックや、本画に至るまでに描いたスケッチなど。

スクラップブックは現在60冊ほどが確認されているとのことで、ページ一面には多くは女性の写真が貼られていますが、中には田中角栄や三島由紀夫といった男性著名人もあって、とてもユニークな「人選」だと思いました。
今でこそどんな画像でもネットで検索すればすぐに見つかりますが、そんな便利なものがなかった時代の甲斐荘にとって、スクラップブックは貴重な画像のデータベースだったのでしょう。

第1章展示風景

何枚も描いたスケッチと本画を比べてみると、甲斐荘が人物表現にこだわりをもって描いたことがよく分かります。


第1章展示風景


甲斐荘が美人画を描くときの「こだわり」がよくわかるので、創作の源泉となったスクラップブックやスケッチを見てからもう一度序章の美人画を見ることをおすすめしたいです。

第1章のもう一つの見どころは、ニューヨークのメトロポリタン美術館が所蔵する《春》(下の写真右)。
第1回新樹社展(1929(昭和4)年)に出品されたこの作品は、甲斐荘本人が意図したように、ボッティチェッリの《プリマヴェーラ(春)》を思わせる明るい雰囲気が感じられます。

第1章展示風景


ここまでは私たちが知っている甲斐荘楠音なのですが、2階展示室に移ると様相はがらりと
変わります。


第2章 演じる人


歌舞伎や文楽などを題材にした作品やスケッチと並んで、自らが女形を演じた場面がパネル展示されています(下の写真奥)。


第2章展示風景

美人画を描き、自らも美人を演じるという、ここでも「こだわる人」甲斐荘の側面が垣間見えたような気がしてきました。

そして、このような芝居好きの素養が開花したのが、次の章で見られる映画人としての甲斐荘でした。

第3章 越境する人


赤レンガの壁面の空間にずらりと着物が展示される光景がいきなり出現したら誰もが驚くのではないでしょうか。

第3章展示風景


甲斐荘は、1940(昭和15)年頃、絵画から映画制作の世界に越境して、衣裳制作などで活躍するようになりました。甲斐荘が係わった映画の数はおよそ250点もあるとのことです。

ここには時代劇映画全盛期の人気シリーズ、「眉間に冴える三日月形、天下御免の向こう傷」の名セリフで知られる市川右太衛門主演の「旗本退屈男」をはじめとした時代劇衣裳が展示されています。

第3章展示風景

衣裳とその衣裳を着た市川右太衛門が写っているポスターが並んで展示されているので、ぜひ見比べてみてください。

甲斐荘が衣裳を手がけた「雨月物語」がアメリカ・アカデミー賞衣裳デザイン賞(白黒部門)にノミネートされた時の資料も展示されています。
ノミネート状には「Tadaoto Kainoscho」と書かれています。甲斐荘の名はアメリカにまで響きわたっていたのですね。

第3章展示風景


終章 数奇な人


展示の最後には甲斐荘が終生にわたり手を加えた大作が2点展示されています。
ひとつは若い頃に影響を受けたレオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロへの思いが強く感じられる未完成作《畜生塚》。
そして、もう一点が《虹のかけ橋(七妍)》(下の写真右)
(どちらも京都国立近代美術館)。

終章展示風景

どちらの作品もスケッチなどがあわせて展示されているので、本画を描くまで過程がよくわかるようになっています。


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ぜひミュージアムショップにもお立ち寄りください!

ミュージアムショップ

全作品のカラー画像、充実のエッセイ群や甲斐荘の携わった映画作品リスト、年譜など貴重な資料が収録された展覧会公式図録(税込3,200円)もおすすめです。

展覧会公式図録


年譜の1974(昭和49)年の項に「4月から6月にかけて、東京国立博物館で開催の「モナ・リザ展」を観るため東京に出かける。」との記載がありました。
この時、甲斐荘は御年79歳。
青年期から憧れていたレオナルド・ダ・ヴィンチの最高傑作の実物にようやく巡り合えた甲斐荘の感動はきっと大きかったことでしょう。この一行を読んでジーンときてしまいました。


「甲斐荘楠音の全貌」展は、京都で生まれ育ち、京都の太秦で活躍した甲斐荘楠音の地元、京都国立近代美術館で今年(2023年)2月から4月にかけて開催された展覧会の巡回展です。
京都の魅力がいっぱい詰まった展覧会が東京で見られる絶好の機会ですので、ぜひご覧ください。