東京・六本木のサントリー美術館では「虫めづる日本の人々」が開催されています。
美術館入口のパネル |
今回の展覧会の主役は「虫」。
サントリー美術館では虫がメインテーマとなるのは初めてという展覧会。
今回も楽しい動画が期待を高めてくれています。
展覧会のPR動画(開催概要のサイトの下の方にあります)⇒展覧会関連動画
こんなかわいい虫たちの動画を見たら展覧会に行かないわけにはいきません。
それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。
展覧会開催概要
会 期 2023年7月22日(土)~9月18日(月・祝)
※各作品の出品期間は、出品作品リスト(PDF)をご参照ください。
※作品保護のため、会期中展示替があります。ポスター等に掲載している伊藤若冲
《菜蟲譜》の展示期間は8月9日~9月18日で、期間中に場面替があります。
※日時指定予約制ではありません。
開館時間 10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)
※8月10日(木)、9月17日(日)は20時まで開館
※いずれも入館は閉館の30分前まで
休館日 火曜日 9月12日(火)は18時まで開館
入館料 一般 1,500円 大学・高校生 1,000円
※中学生以下無料
※障害者手帳をお持ちの方は、ご本人と介護の方1名様のみ無料
展覧会の詳細等は同館公式サイトをご覧ください⇒サントリー美術館
展示構成
第一章 虫めづる国にようこそ
第二章 生活の道具を彩る虫たち
第三章 草と虫の楽園-草虫図の受容について-
第四章 虫と暮らす江戸の人々
第五章 展開する江戸時代の草虫図-見つめる、知る、喜び-
第六章 これからも見つめ続ける-受け継がれる虫めづる精神-
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真はプレス内覧会で美術館の特別の許可を得て撮影したものです。
虫めづる国の擬人化が楽しい!
「虫めづる日本」の展覧会ですので楽しみにしていたことがありました。
それは「虫の擬人化」です。
古くから動物を擬人化して描く日本の絵師たちなので、虫も擬人化するのではと思っていましたが、やはり期待どおりでした。
こちらは玉虫姫をめぐって蝉(セミ)の右衛門督、螽斯(キリギリス)の紀伊守、蜩(ヒグラシ)の備中守たちが恋争いをする物語が描かれた《きりぎりす絵巻》の一場面。
《きりぎりす絵巻》(部分) 住吉如慶 二巻のうち 江戸時代・17世紀 細見美術館 全期間展示(ただし場面替えあり) |
虫に着物を着せているので、屋敷の縁台に腰かける従者とおぼしきトンボの背中からは翅がはみ出していますが、これがまた擬人化の面白いところです。
作者は江戸初期のやまと絵師で、住吉派の創始者・住吉如慶。土佐派に学び、精細な表現を得意とする如慶らしく、金地の屏風や障壁画、そして杉戸絵など、細やかに描かれた画中画にも注目したいです。
《きりぎりす物語》のクライマックス、玉虫姫の婚礼の行列は8/23~9/18に展示されるので、すでにご来館いただいた方もぜひまたお越しいただきたいです。
続いて今回の展覧会のメインビジュアルになっている伊藤若冲の《菜蟲譜》。
擬人化ではありませんが、若冲が描く虫たちは、首をかしげるように横を振り向くバッタ?や、目がクリッとしておどけたような表情をした蜂がいたりして、どことなく人間っぽさが感じられます。
重要文化財《菜蟲譜》(部分) 伊藤若冲 一巻 寛政2年(1790)頃 佐野市立吉澤記念美術館 展示期間:8/9-9/18(場面替えあり) |
重要文化財《菜蟲譜》(部分) 伊藤若冲 一巻 寛政2年(1790)頃 佐野市立吉澤記念美術館 展示期間:8/9-9/18(場面替えあり) |
虫を見つけるのは楽しい!
蝶のように色が鮮やかですぐにわかる虫もいますが、草の蔭に隠れていたり、草と同じ色をして見つけにくい虫たちもいます。
絵の中のそんな虫たちを探すのも今回の展覧会の楽しみのひとつ。
『源氏物語』第十帖「賢木」を題材にした《野々宮蒔絵硯箱》には合計で四匹の鈴虫が登場しますが(『源氏物語』では松虫)、全部見つけるのは至難のワザ。
蓋の下の中央にある青貝が埋め込まれた鈴虫はすぐにわかりますが、あとの三匹はかなり難易度が高いです。
展示では矢印で鈴虫の位置が示されているので、ぜひその場でトライしてみてください!
《野々宮蒔絵硯箱》江戸時代・17世紀 サントリー美術館 全期間展示 |
「第三章:草と虫の楽園-草虫図の受容について-」には、中国や朝鮮から日本に渡ってきた草虫図と、その影響が見られる室町~桃山時代の日本の絵師たちの作品が向かい合うように展示されています。
ここは中国絵画ファン(筆者もその一人)にとっては特に注目したいエリアです。
右から 《葡萄垂架図》伝 任仁発 元時代・14世紀 東京国立博物館 《牡丹図》伝 徽宗 元時代・14世紀 個人蔵 重要文化財《竹虫図》 伝 趙昌 南宋時代・13世紀 東京国立博物館 いずれも展示期間:7/22-8/21 |
上の写真右の《葡萄垂架図》には、二匹の虻(アブ)と螽斯(キリギリス)が描かれていますが、二匹目の螽斯を見つけるのは少し難しいかもしれません(ヒント:葡萄の葉の穴から顔を出している)。
8月23日からはこちらの3作品は入れ替えになるのでぜひもう一度見に行きたいです。
蝶が描かれている作品は、どこに蝶がいるのかよく分かりますが、下の写真左の《百蝶図》になると何匹いるのか数えるのが大変です。
それにしても、波濤の上をおびただしい数の蝶が舞うという、現実にはありえそうもない光景ですが、蝶の翅の鮮やかな色合いが華やかさを演出しているように見えました。
右から 《草花群虫図》狩野伊川院栄信 江戸時代・18~19世紀 東京国立博物館 《蝶図》森文良 江戸時代・18~19世紀 個人蔵 《百蝶図》松本交山 江戸時代・19世紀 神田の家 井政 いずれも展示期間:7/22-8/21 |
上の写真の作品は8/21までの展示ですが、8/23からも多くの蝶が描かれた作品が展示されるのでお楽しみに!
生活の中の虫たちが楽しめる!
酒器や、衣裳、装飾品など、身近な生活の道具にも虫たちが登場します。
展示風景 |
秋草にとまる鈴虫があしらわれた《鈴虫蒔絵銚子》。
秋の夜長、鈴虫の音を思い浮かべながらこの《鈴虫蒔絵銚子》から注がれる酒を味わったらさぞかし美味しいのではと想像してみました。
4階の第1展示室から3階の第2展示室に降りてくると、夜空に蛍が飛び交う様が再現された演出がお出迎えしてくれます。
展示風景 |
《納凉之圖》に描かれているのは、川辺に座り夕涼みを楽しむ女性と子供たち。
空を飛び交うのは蝙蝠(コウモリ)や蛍。
今では都心の川辺で蛍狩りなどとてもできることではありませんが、ここなら江戸時代にタイムスリップした気分で蛍狩りを楽しむことができます。
最後に展示されているのは、現代作家・満田晴穂氏の自在置物の虫たち。
下の写真中央の鬼蜻蜓は、自在という江戸時代の技法と、緑色の複眼を表現するためのエナメル焼付けという現代の技法がミックスされて完成したまさに現代の超絶技巧。
「虫」をテーマに、絵巻、屏風、掛け軸、浮世絵、蒔絵、金工、衣裳、そして現代の超絶技巧まで、さまざまなジャンルの作品が楽しめる展覧会です。
熱中症には十分気を付けていただいてぜひお楽しみください!