2023年11月2日木曜日

上野の森美術館 「モネ 連作の情景」

東京・上野公園の上野の森美術館では「モネ 連作の情景」が開催されています。

美術館前看板

印象派の画家の中でも日本で特に人気の高いモネ(1840-1926)の展覧会は今までも開催されていますが、今回のモネ展は国内外40館以上の美術館から60点を超えるモネの代表作が大集結した「100%モネの展覧会」
そして、この展覧会の大きなこだわりは「連作」
普段は別々の美術館に所蔵され展示されている〈積みわら〉〈睡蓮〉などのモティーフを時間などを変えて繰り返し描いたモネの連作をまとまって見ることができる絶好のチャンスです。さらに普段はあまりなじみのない「印象派以前」のモネの作品も展示されているので、画家の生涯をたどることもできるのです。

それでは開会前に開催されたプレス内覧会に参加しましたので、展示の様子をさっそくご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2023年10月20日(金)~2024年1月28日(日)
休館日  2023年12月31日(日)、2024年1月1日(月・祝)
開館時間 9:00~17:00(金・土・祝日は~19:00) 
     ※入館は閉館の30分前まで
会 場  上野の森美術館
入館料(税込) 日時指定予約推奨   
平日(月~金) 一般2,800円/大学・専門学校・高校生1,600円/中学・小学生1,000円
土・日、祝日 一般3,000円/大学・専門学校・高校生1,800円/中学・小学生1,200円
チケットの購入方法、展覧会の詳細等については展覧会公式サイトをご覧ください⇒モネー連作の情景


巡回展情報
 大阪展  大阪中之島美術館 2024年2月10日(土)~5月6日(月・休)
 *東京展、大阪展で出品作品が一部異なります。


展覧会公式図録には東京展、大阪展に出品される全75点すべてのカラー図版に加え、詳細なコラムや作品解説、年譜、関連年表も掲載されています。
モネの旅路の追体験ができる究極の一冊です。

展覧会公式図録


展示構成
 1章 印象派以前のモネ
 2章 印象派の画家、モネ
 3章 テーマへの集中
 4章 連作の画家、モネ
 5章 「睡蓮」とジヴェルニーの庭

※展示室内は一部を除き撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館より許可を得て撮影したものです。


展示室内で最初にお出迎えしてくれるのは、モネが後半生をすごしたジヴェルニーの自邸の「睡蓮の池」。



壁面に映されているのは実際の「睡蓮の池」で撮影された映像で、すぐに「モネの世界」に入り込んだ気分になりますが、それだけでなく床面の一部には触覚提示技術Haptics(ハプティクス)を搭載したソニーの「Active Slate(アクティブスレート)」が設置されていて、人の歩行にあわせた多彩な振動フィードバックによって水の上を歩くような感覚を体験することもできるのです。
※会場内にある「体験前の注意事項」をご確認ください。


モネがサロン(官展)に落選したことをきっかけに新たな境地を切り開いたことはよく知られていますが、「1章 印象派以前のモネ」にはまさにそのサロンで落選して、モネにとっての転機となった大作《昼食》が展示されています。 

「1章 印象派以前のモネ」展示風景
中央がモネ《昼食》1868-69年
 シュテーデル美術館、フランクフルト

当時のサロンは画家にとっての登竜門でした。
渾身の自信作《昼食》が落選したので大きく落ち込んでしまったモネですが、その後、サロン落選を経験したルノワール、ピサロ、ドガら仲間たちとグループを結成して1874年に開催したのが「第1回印象派展」でした。


「2章 印象派の画家、モネ」には、第1回から1886年の第8回まで開催された「印象派展」(※)とほぼ同時期の、「印象派の画家」としての歩みを始めた頃のモネらしい、パリ郊外ののどかな風景が描かれた作品が続きます。
(※)モネは第1回~第4回、第7回の5回のみ参加。

「2章 印象派の画家、モネ」展示風景


ここである考えがふと頭の中に浮かんできました。
歴史に「もし」は禁物と言われますが、もし《昼食》がサロンに入選して、その後、サロンの常連として順風満帆な人生を歩んでいたら、「印象派」という言葉も、モネの名作も生まれていなかったのかもしれません。

ご存じのように「印象派」は、「第1回印象派展」にモネが出品した《印象、日の出》(パリ、マルモッタン美術館蔵)が批評家に酷評されたことからモネたちのグループが「印象派」と呼ばれるようになったのですが、もしモネが《印象、日の出》を描かなかったら、このグループは何と呼ばれていたのでしょうか。

「2章 印象派の画家、モネ」展示風景


続いて今回のサブタイトルにある「連作」の兆しが見えてくる「3章 テーマへの集中」へ。

「印象派の画家」モネは、新たな画題を求めてノルマンディー地方のル・アーブルやエトルタ、地中海沿岸のマルセイユからイタリアのボルディゲラはじめヨーロッパ各地を旅して、海岸の風景を描きました。

「3章 テーマへの集中」展示風景


海岸を描いた作品の中でも特にモネらしさが感じられるのは、ノルマンディー地方のプールヴィルや象の鼻の形をしたアヴァルの門で知られるエトルタなどの荒々しい波が押し寄せる断崖絶壁の風景ではないでしょうか。

「3章 テーマへの集中」展示風景


そして「4章 連作の画家、モネ」からはいよいよ連作の始まりです。

モネが体系的に「連作」の手法を実現したのは〈積みわら〉が最初であると考えられています。
フランスの収穫期の田園風景が描かれている〈積みわら〉ですが、ここにもジャポニズムの影響が見られるのです。意外かもしれませんが、この積みわらの形は歌川広重(初代)の人気シリーズ《東海道五拾三次之内 鞠子 名物茶屋》のとろろ汁の茶店の藁ぶき屋根から影響を受けたものなので、〈積みわら〉の作品を見ると条件反射的に鞠子宿で食べたとろろ汁の味わいを思い出してもう一度食べたくなってくるのです。
(おそらくモネさんはとろろ汁は食べたことはないでしょうが。)

「4章 連作の画家、モネ」展示風景

とろろ汁はともかく、〈積みわら〉の作品を見て思い浮かべるのが抽象絵画の先駆者カンディンスキー。
1896年、モスクワで開催された「フランス美術展」でモネの〈積みわら〉の作品を見たカンディンスキーは自然の光を採り入れた明るく自由な色遣いに大きな衝撃を受けて、モスクワでの法学者としてのキャリアを投げうってパリと並んで芸術の都だったミュンヘンに飛び出していったのです。カンディンスキー30歳の時でした。
その後、カンディンスキーは前衛的な芸術家集団「青騎士」に加わり、その後、バウハウス教授を務めるなどして数多くの名作を残しました。

歴史に禁物の「もし」を繰り返しますが、《昼食》が入選してモネが〈積みわら〉の連作を描かなければ、カンディンスキーの抽象絵画は生まれなかったのかもしれません。

そんなことを考えながら先に進むと、モネがたびたび訪れたロンドンの〈ウォータールー橋〉の連作が見えてきました。

ここから先は撮影禁止のマークのある作品以外は撮影ができます。撮影については会場内の注意事項をご確認ください。

「4章 連作の画家、モネ」展示風景



そして、展示の最後には、冒頭で体験したジヴェルニーの庭をモネが描いた〈睡蓮〉の連作が展示されていて展覧会のクライマックスを迎えます。


「5章 「睡蓮」とジヴェルニーの庭」展示風景


印象派以前のモネの作品に始まり、モネの画業をたどりながら、モネが繰り返し描いた〈積みわら〉や〈睡蓮〉などの連作をはじめとした名品がまとまって見られる絶好のチャンスです。
ぜひこの機会に新たなモネを発見してみてはいかがでしょうか。