2024年10月2日水曜日

大倉集古館 企画展「寄贈品展」

東京・虎ノ門の大倉集古館では、企画展「寄贈品展」が開催されています。

大倉集古館外観

今回の企画展は、大倉集古館を設立した大倉喜八郎氏の嗣子・喜七郎氏が収集した近代日本画、木彫工芸家、木内半古・省古の木彫工芸品、保坂なみの明治の刺繍、古備前再現を目指した陶芸家、森陶岳の備前焼はじめ、近年、大倉集古館に寄贈されたさまざまなジャンルの作品が見られる展覧会です。

9月14日に開幕したのですが、遅ればせながら先日、展覧会におうかがいしてきましたので、展示の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2024年9月14日(土)~10月20日(日)
開館時間 10:00~17:00 金曜日は19:00まで(入館は閉館の30分前まで)
休館日  毎週月曜日(休日の場合は翌火曜日)
入館料  一般 1,000円、大学生・高校生 800円、中学生以下無料
※展覧会の詳細、ギャラリートーク、各種割引等は同館公式サイトをご覧ください⇒https://www.shukokan.org/

*展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は主催者より広報用画像をお借りしたものです。
*展示作品はすべて大倉集古館蔵です。


1階展示室に入ってすぐに気がついたのは、大画面で鮮やかな色彩の近代日本画が多く展示されているので、とても華やいだ雰囲気が感じられることでした。


大倉喜七郎氏が愛した近代日本画

今回の企画展のメインビジュアルになっているこの作品は、花鳥画を得意とした荒木十畝の《晩秋》。秋の深まりとともに色づく紅葉の赤が印象的です。

《晩秋》荒木十畝、昭和4年(1929)


今回寄贈を受けた近代日本画のうち、《晩秋》を含む7点が昭和5年(1930)にイタリア・ローマで開催された日本美術展覧会(ローマ展)に展示されたものでした。
ローマ展は、大倉喜七郎氏の全面的な支援によって、横山大観、竹内栖鳳、川合玉堂ほか当時の日本画界を代表する画家約80名、約170点の作品が展示された大規模な展覧会でした。
今年の春の企画展「大倉集古館の春」でローマ展に出展された横山大観《夜桜》(大倉集古館蔵)を拝見しましたが、今回もまるで「ミニ・ローマ展」と思えるくらいの作品を見ることができたので、とてもうれしかったです。

続いては同じくローマ展に出展された《菊》。
正倉院宝物を思わせるエキゾチックな壺の模様がきっとローマっ子を魅了したのではないかと思える、菊池契月らしい格調の高さがうかがえる作品です。

《菊》菊池契月、昭和4年(1929)


日本の書道界や絵画界への援助を惜しまなかった喜七郎氏は、横山大観、川合玉堂に大倉組嘱託の待遇を与え、援助を行ったといわれています。

玉堂が描いた《暮るる山家》は、琳派の代名詞ともいえる「たらしこみ」の技法が見られる作品。
画面右上のまるで名刀のような鋭い三日月があらわす緊張感を感じると同時に、画面下に描かれたつぶらな瞳の子馬の可愛さに癒される作品です。

《暮るる山家》川合玉堂、大正7年(1918)



日中のかけはし・王一亭(王震)の書

《行書王之渙涼州詞軸》は、中国・清時代から民国時代初期に上海を中心に活躍した実業家で書画家の王一亭が中国・唐時代の王之渙作「涼州詞」を書写し、大倉組副頭取・門野重九郎氏に贈ったもので、のちに大倉組監査役の肥田耕三氏に贈られ、この度、ご遺族から大倉集古館に寄贈されました。
大倉集古館には、ほかにも王一亭の書や絵画が所蔵されているとのことなので、いつかはぜひ、大倉財閥と上海実業界のかけはしとなった王一亭作品をまとまって見てみたいです。

《行書王之渙涼州詞》王一亭、中華民国時代・20世紀



保坂なみによる明治の刺繍

明治期に刺繍が女性が社会で生き抜いていくために必要とされた技術の一つとして教えられていたことも、保坂なみのことも知らなかったので、今回、「百花の王」牡丹や、そのまわりを舞う蝶が描かれたこの作品のように吉祥文様や花鳥が施された刺繍作品を見ることができたのは大きな収穫でした。
(中国語では、高齢の老人を意味する耄耋(もうてつ、ぼうてつ)という言葉があり、耄は猫、耋は蝶と発音が共通するので、猫も蝶もどちらも長寿の象徴なのです。)


《袱紗 牡丹に胡蝶模様刺繍》保坂なみ、明治~大正・20世紀 


木内半古・省古の木彫工芸品

木内喜八、半古、省古は三代続いて江戸・東京で活躍した木彫工芸家で、大倉家が支援したご縁で、この度、ご遺族より二代半古による一重切の竹花入や、三代省古が娘のためにつくった可愛らしい木画(寄木象嵌)の帯留ほかなどの作品が寄贈されました。

半古の《竹花入》は、まさに侘び寂びの世界。豊臣秀吉の小田原攻めに同行した千利休が作ったと伝わる《一重切花入》を思い浮かべました。

《竹花入》木内半古、明治~昭和・19~20世紀


宮内庁正倉院御物整理掛に出仕した半古と省古は、宝物の修理を通して得た知見を自身の制作に活かしたことでも知られています。
省古の《花喰織文木画帯留》に表された花の枝をくわえた瑞鳥は正倉院宝物にあしらわれていた「花喰鳥」の模様を踏襲したもので、シルクロードを通って奈良時代の日本に渡ってきた模様でした。

小さな帯留に、省古の娘さんへの愛情が込められたとても愛らしい作品です。

《花喰織文木画帯留》木内省古、明治~昭和・19-20世紀


江戸時代の竹取物語


奈良絵本とは室町時代後半~江戸時代前期に、おもに御伽草子を題材として作られた絵入の冊子のことで、嫁入道具として好まれました。
奈良絵本『竹取物語』は明治~昭和のジャーナリスト・徳富蘇峰が旧蔵し、大正13年(1924)に「威子嬢」(詳細不明)に贈ったもので、喜八郎氏とは旧知の仲の蘇峰が旧蔵したこの作品は、めぐりめぐって大倉集古館に所蔵されることになりました。


奈良絵本『竹取物語』江戸時代・17世紀


挑戦者・森陶岳の作陶


2階は1階の華やいだ雰囲気とはがらりと変わって、森陶岳による落ち着いた雰囲気の備前焼の作品が展示されています。

森陶岳は、古備前に魅せられ、一度絶えた焼成法を摸索し、さらに古備前を超えた独自の作風を切り開いた挑戦者でした。

どっしりとしたいかにも備前らしい形の《備前大蕪花入》。


《備前大蕪花入》森陶岳、昭和61年(1986)

こちらは独自性が発揮された《彩土器》。《備前大蕪花入》とほぼ同じ時期に作られたのに印象は全く異なり、弥生式土器を思わせる丸い胴体に銀やプラチナを塗って黒と白の不思議な感じのする模様をほどこした作品です。

《彩土器》森陶岳、昭和60年(1985)


ススキ?がなびく先に見えるのは満月、そして台鉢の形は半月。
ほかにも備前焼の徳利やぐい呑みが展示されているので、こんな優雅な景色をながめながら酒を飲み、料理を味わってみたいと思いました。
 
《備前半月台鉢》森陶岳、昭和61年(1986)

会期は10月20日(日)まで。
この秋おすすめの展覧会です。