2017年5月21日日曜日

ドイツ連邦議会選挙の行方(3)

1 メルケル候補、独走態勢か?

 ザールラント州(326)、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州(57)、そして地元ノルドライン=ヴェストファーレン州(514)で三連敗したシュルツ候補率いるSPD
 ZDFの5月19日付の調査では、メルケル候補とシュルツ候補の支持率の差はさらに広がった。


 ZDF調査「首相としてどちらが望ましいか」( Politbarometer19.05.2017)
  1月   シュルツ氏 40%  メルケル氏 44% シュルツ候補好スタート
  2月   シュルツ氏 49%  メルケル氏 38% シュルツ候補逆転
  3月   シュルツ氏 44%  メルケル氏 44% 両者譲らず
  47日  シュルツ氏 40%  メルケル氏 48% メルケル氏再びリード
  428日   シュルツ氏 37%  メルケル氏 50% メルケル氏リードを広げる
  5月19日   シュルツ氏 33%  メルケル氏 57% メルケル氏さらにリードを広げる

 各政党の支持率を見ても、少しずつではあるがCDU/CSUはSPDを引き離している。同じく、5月19日付ZDF調査による政党支持率でシミュレートすると、シュルツ候補が首相になるための前提条件となる「SPD主導の連立」のパターンはいずれも厳しい状況が続いている。
 各政党の支持率
   CDU/CSU 38%(+1%)SPD 27%(ー2%)、左派党 9%(±0%)、緑の党 7%(ー1%)
FDP 8%(+2%)AfD 7%(1%)、その他 4%(+1%)
    パターン① × SPD 27%CDU/CSU 38%
    パターン② × SPD 27%+緑の党 7%34% < 過半数
    パターン③ × SPD 27%+左派党 9%+緑の党 7%43% < 過半数

 依然として形勢不利の状況が続くシュルツ候補。
 ザールラント州の選挙結果で見たとおり、「無党派層」の「浮動票」がCDUに流れたことが選挙結果に大きく影響したが、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州でも同じことが起きた 

2 シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州議会選挙(57日実施)
() 各政党の得票率と議席獲得数(投票率64.2%2012年は60.2%)
政党名
得票率
獲得議席数
コメント
CDU
32.0%(1.2%)
25(3)
SPDと同数の22議席から3議席増やし比較第一党の座に
SPD
27.2%(3.2%)
21(1)
北ドイツでもシュルツ効果及ばず
緑の党
12.9%(0.3%)
10(±0)
改選前の議席数を維持
FDP
11.5%(3.3%)
9(3)
大健闘
海賊党
1.2%(7.0%)
0(6)
5%を大きく割り議席を失う
SSW()
3.3%(1.3%)
3(±0)
改選前の議席数を維持
AfD
5.9%(5.9%)
5(5)
同州で初の議席獲得
左派党
3.8%(1.5%)
0(±0)
得票率は増やしたが議席獲得には至らず
その他
2.2%(0.1%)

合計議席数
73議席(過半数は37議席)
   ()SSWSüdschleswigscher Wählerverband(南シュレスヴィヒ選挙人同盟)の略称で、同州
    に住むデンマーク人の少数民族政党。少数民族を代表する地域政党は5%条項の適用外な
    ので、得票率5%未満でも議席が獲得できる。党のカラーは青と黄。
 
 シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州のSPD、緑の党、SSWによる「海岸連立」は、州議会の定数69議席のうち35議席を確保してかろうじて過半数を確保していたが、今回の選挙でSPDが1議席減らしたうえ、超過議席が発生したおかげで議員定数は73になり、過半数には3議席足りないという結果になってしまった。
そこで出てくるのがどの連立になるかという問題である。

(2)連立の組み合わせ  

政党名
議席数
大連立
信号連立
ジャマイカ連立
海岸連立()
CDU
25


SPD
21

10

FDP
9


AfD
5




SSW
3




73
4637
4037
4437
3437
  ()およそ5万人のデンマーク人が海岸に面するシュレスヴィヒ地方に住んでいるためかSPD、緑の党、SSWの連立は「海岸連立(Küsten Koalition)」と呼ばれている。またの名はSSWの党のカラーのうち黄色をとって「デンマーク人の信号連立」、または素直に「赤緑青連立」との表現もある。


 Welt紙には「ジャマイカ、信号又は大連立(“Jamaika,Ampel oder GroKo“)?」と、ジャマイカ人が見たら「何のことか」とびっくりするような見出しが出ていた(GroKoGroße Koalition(大連立)の略)。
各党にはさまざまな思惑がある。
CDUはせっかく比較第一党になったのだから首相の座を射止めたい、一方のSPDは首相の座は渡したくない、(その場合、信号連立以外選択肢はないが)FDPは「信号連立はあり得ない」と言っている。
SSWの政策は左寄りでSPDと緑の党とは相性がいいが、数の上ではちょうど過半数の37議席になるCDUFDPとの連立はありえない。
AfDは、将来的には他党との連立も視野に入れるというペトリ党首の「現実路線」の動議が4月24日にケルンで開催された党大会で却下され、さらに右傾化したので他党との連立はあり得ない(この結果、ペトリ党首は党内で孤立化した)
 こういった状況なので、連立交渉の駆け引きは長引くかもしれない。

 次に、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州の1週間後に行われたノルドライン=ヴェストファーレン州議会選挙(514日実施)の結果を見てみたい。ここでは「無党派層」の「浮動票」だけでなく、CDUに対する期待の大きさが選挙結果に影響したことが見て取れる。

3 ノルドライン=ヴェストファーレン州議会選挙(514日実施)
() 各政党の得票率と議席獲得数(投票率65.2%2012年は59.5%)

政党名
得票率
獲得議席数
コメント
CDU
33.0%(6.6%)
72(5)
得票率、議席数ともSPDを逆転
SPD
31.2%(7.9%)
69(30)
30議席減らし記録的敗北
緑の党
6.4%(4.9%)
14(15)
連立与党も議席数が半減
FDP
12.6%(4.0%)
28(6)
2週連続で大健闘
海賊党
1.0%(6.8%)
0(20)
5%を大きく割り議席を失う
AfD
7.4%(7.4%)
16(16)
同州で初の議席獲得
左派党
4.9%(2.4%)
0(±0)
得票率は増やしたが議席獲得には及ばず
その他
3.5%(0.6%)

合計議席数
199議席(過半数は100議席) ()

  
()NRW州議会の定数は199議席。2012年の選挙結果は超過議席が発生したので237議席で過半数は119
席。SPDと緑の党で128議席を得ていたので過半数を超えていたが、今回の選挙では両党合わせて83
席にしかならず過半数を割り込んだ。


(2)連立の組み合わせ
政党名
議席数
大連立
信号連立
黒黄連立
ジャマイカ連立
CDU
72

SPD
69


14


FDP
28

AfD
16





199
141100
111100
100100
114100



 シュルツ候補の出身地ノルドライン=ヴェストファーレン州でもSPDは負けてしまい、連立相手の緑の党も議席を大きく減らした。
その一方でCDUFDPは躍進して、お互いが「望ましい連立」と言っている両党だけの連立でも過半数に達することになり、この両党の間で連立交渉が始められている。
 
(3)有権者の関心が高い課題と課題解決に対する各政党への期待
重要な課題上位5
SPD
CDU
緑の党
FDP
   教育
41%
26%
31%
4%
11%
   難民受入
27%
24%
31%
6%
6%
   交通
23%
19%
30%
11%
7%
   犯罪対策
15%
15%
39%
1%
4%
   雇用
13%
27%
36%
1%
9%


 上の表は、有権者が重要と考える課題の上位5位と、それぞれの課題に対してどの政党が解決できるかという期待を表したもので、いずれもCDUSPDを上回っている。
上位5位には、環境問題に関連する③交通問題を除けば緑の党の中心的政策である「環境問題」は入っていない。「環境問題」が有権者の関心事にならないことが緑の党の退潮の大きな原因になっているとの指摘もある(それだけ環境対策が進んでいるということであろう)。
また、独自路線を行くAfDは、党内の内紛が党のイメージを悪くして、それが選挙結果に影響したとの報道もあったが、その前から党内に極右勢力の台頭が目立ってきたことから、2016年に行われた州議会選挙では得票率が軒並み二桁だったものが、今年は一桁にとどまったところに有権者の「AfD離れ」を見ることがでる。
2016年 BW15.1%RP12.6%SA24.3%MV20.8%ベルリン都市州14.2%
2017年 Sa6.2%SH5.9%NRW7.4%

2005年には当時のシュレーダー首相率いるSPDは、ノルドライン=ヴェストファーレン州でCDUに負け、連邦議会選挙でもCDU/CSUに負けて首相の座をメルケル氏に譲るという屈辱を味わった。
プロサッカー選手を夢見たシュルツ候補は、同州選挙翌日のインタビューでサッカーの試合にたとえて「まだ00だ」と強気の姿勢を崩していないが、連邦議会選挙まであと4か月、はたして逆転のゴールを奪うことができるのか。
 625日にはSPDの党大会が開催され、そこで連邦議会選挙に向けた選挙公約が決定される。SPDはここで有権者の支持をつなぎ止める政策を打ち出すことができるのか注目したい。

 (次回は625日に開催されるSPD党大会の様子をレポートします。)

 過去の連載はこちらです。

  ドイツ連邦議会選挙の行方(1)
  ドイツ連邦議会選挙の行方(2)



  


2017年5月6日土曜日

ドイツ連邦議会選挙の行方(2)

1 かげりが見え始めたシュルツ効果

 3月26日に行われたザールラント州選挙の前あたりからSPDのシュルツ候補の勢いにかげりが見え始めている。
 ZDFの調査を見ても、シュルツ候補は3月まではメルケル候補に互角の闘いを挑んでいたが、4月に入り徐々にメルケル候補にリードを広げられている。

 質問「首相としてどちらが望ましいか」
   1月   シュルツ候補 40% メルケル候補 44%
   2月   シュルツ候補 49% メルケル候補 38%
   3月   シュルツ候補 44% メルケル候補 44%
   4月7日  シュルツ候補 40% メルケル候補 48%
   4月28日 シュルツ候補 37% メルケル候補 50%

2 シュルツ候補は首相になることができるか?

 各政党の支持率を見てもSPDは勢いを失いかけているのがわかる。
 同じくZDFの調査では、CDU/CSUがわずかに支持率を上げた一方で、SPDは支持率を下げているので、各政党の支持率をシュルツ候補が首相になるために必要となるSPD主導の連立の三パターンに当てはめてみると、依然として厳しい状況が続いている。

  各政党の支持率(4月28日調査) カッコ内は3月調査時との増減比
   CDU/CSU 37%(+3%)、SPD 29%(-3%)、左派党 9%(+1%)、
   緑の党 8%(+1%)、FDP 6%(+1%)、AfD 8%(-1%)、その他 3%(-2%)

   パターン① SPD主導による大連立
         SPD 29% < CDU/CSU 37% ⇒ ×
   パターン② 赤緑連立
         SPD 29%+緑の党 8% =37%<過半数 ⇒ ×
   パターン③ 赤赤緑連立
         SPD 29%+左派党 9%+緑の党 8% =46%<過半数 ⇒ × 

3 ドイツの有権者が望むのは大連立

 前回見たように、「アジェンダ2010」の修正を主張して旧SPD左派を呼び戻そうとしたシュルツ候補。
 SPDにとってシュルツ効果のインパクトは強かった。
 かつては20%そこそこで低迷していたSPDの支持率を一気に30%台に上げ、新たに1万人以上の党員を獲得することができた(※)。
 (※)3月2日にSPDは「最近5週間で1万人以上の新たな党員を獲得した。2月末現
  在、党員数は438,829人で、CDUの党員数430,683人を超えた。」と発表してい
  るが、フランクフルターアルゲマイネ紙は同日付の公式サイトの記事で、2016年末
  のSPDの党員数は432,706人で、2月末現在では6,000人あまりしか増えていない、と
  皮肉っぽく報じている。

 このままの勢いで州議会選挙を乗り切ろうと目論んでいた矢先、思わぬところから伏兵が出てきた。
 それはザールラント州の選挙結果の分析で述べるが、今まで投票に行かなかったが、左に舵が切られるのを望まない、いわゆる「無党派層」(※)の存在である。
 (※)ドイツ語では"Nichtwähler"で、直訳すると「選挙に行かない人」だが、ここでは
  今までは選挙に行かず特定の支持政党もない有権者という意味で便宜的に「無党派
  層」と訳す。
   

 4月7日のZDF調査では多くの有権者が左派連立でなく大連立を望むという結果が出ている。

 質問 どの連立が望ましいか?

連立の形態
望ましい
望まない
   CDU/CSU,SPD
49%
31%
   SPDFDP
23%
52%
   CDU/CSUFDP
21%
53%
   SPD左派
24%
62%


(参考)連立の名称
 ①は二大政党が連立するので「大連立」、②は政党のカラーがそれぞれ赤、緑、黄なので「信号連立」、③は政党のカラーが黒、緑、黄なのでジャマイカの国旗にちなんで「ジャマイカ連立」、④は政党のカラーそのもので「赤赤緑連立」。ちなみに、バーデン=ビュルテンベルク州の緑の党とCDUの連立は、果物のキウイを切ると緑の実の中に黒いつぶつぶがあるのでそれになぞらえて「キウイ連立」と呼ばれている。

4 ザールラント州議会選挙の結果

 各政党の得票率と議席獲得数は次のとおり、シュルツ効果は及ばず、CDUの勝利に終わった
  
政党名
得票率
獲得議席数
コメント
CDU
40.7%(5.5%)
24(5)
単独過半数にあと一歩の勢い
SPD
29.6%(1.0%)
17(±0)
シュルツ効果及ばず横ばい
左派党
12.9%(3.2%)
7(2)
ラフォンテーヌの地元ながら微減
海賊党
0.7%(6.7%)
0(4)
5%を大きく割り議席を失う
緑の党
4.0%(1.0%)
0(2)
5%をわずかに割り議席を失う
FDP
3.3%(2.1%)
0(±0)
得票率は伸びたが5%に及ばず
AfD
6.2%(6.2%)
3(3)
同州で初の議席獲得
その他
2.6%(1.9%)

合計議席数
51議席(過半数は26議席)


  今回選挙の投票率は69.7%201261.6%)と高く、Welt紙は、現政権(CDU主導
 の大連立)の政策に不満はなく、赤赤連立に取って代わられるのをおそれた無党派層が
 CDUに投票し、現政権に批判的な無党派層がAfDに投票したと分析している。
  それを裏付けるデータが、選挙一週間前にザールラント州の有権者を対象にZDFが
 実施した調査の結果である。
  なお、党員数ではSPDがCDUを上回ったとの発表は、皮肉にも、固定票ではSPDに分
 があるが、無党派層の浮動票が流れてCDUが勝利したとの分析が正しかったことの裏付
 けになってしまった。

連立の形態
望ましい
望ましくない
CDU主導の大連立
46%
28%
SPD主導の大連立
41%
32%
赤赤連立
28%
57%
赤赤緑連立
23%
62%
CDU、緑の党、FDP連立
21%
56%
(Quelle:ZDF Politbarometer17.3.2017)

  ザールラント州の有権者は、選挙前と同じくCDU主導の大連立が一番、次にSPD主導の大連立(どちらも、望ましい>望ましくない)、ただし、針が左に振れるのは「ナイン ダンケ」(望ましい<望ましくない)との意識である
  針を左に振れさせて(=「アジェンダ2010」の修正を主張して)、旧SPD左派を呼び戻そうとするシュルツ氏にとって、ザールラント州の選挙結果は厳しい現実をつきつけられるものとなった。
  シュルツ候補が左を向けば向くほど、それを望まない無党派層はSPDが大きくなって左派党と連立を組むのをおそれてCDUに投票する。
  このような状況を、私はひそかにシュルツ効果((独)Schulz-Effekt)ならぬシュルツ・ジレンマ((独)Schulz-Dilemma)と呼んでいる。

(次回はシュレスヴィヒ=ホルシュタイン州議会選挙の結果をレポートします。)

ドイツ連邦議会選挙の行方(1)はこちらです。