2017年5月6日土曜日

ドイツ連邦議会選挙の行方(2)

1 かげりが見え始めたシュルツ効果

 3月26日に行われたザールラント州選挙の前あたりからSPDのシュルツ候補の勢いにかげりが見え始めている。
 ZDFの調査を見ても、シュルツ候補は3月まではメルケル候補に互角の闘いを挑んでいたが、4月に入り徐々にメルケル候補にリードを広げられている。

 質問「首相としてどちらが望ましいか」
   1月   シュルツ候補 40% メルケル候補 44%
   2月   シュルツ候補 49% メルケル候補 38%
   3月   シュルツ候補 44% メルケル候補 44%
   4月7日  シュルツ候補 40% メルケル候補 48%
   4月28日 シュルツ候補 37% メルケル候補 50%

2 シュルツ候補は首相になることができるか?

 各政党の支持率を見てもSPDは勢いを失いかけているのがわかる。
 同じくZDFの調査では、CDU/CSUがわずかに支持率を上げた一方で、SPDは支持率を下げているので、各政党の支持率をシュルツ候補が首相になるために必要となるSPD主導の連立の三パターンに当てはめてみると、依然として厳しい状況が続いている。

  各政党の支持率(4月28日調査) カッコ内は3月調査時との増減比
   CDU/CSU 37%(+3%)、SPD 29%(-3%)、左派党 9%(+1%)、
   緑の党 8%(+1%)、FDP 6%(+1%)、AfD 8%(-1%)、その他 3%(-2%)

   パターン① SPD主導による大連立
         SPD 29% < CDU/CSU 37% ⇒ ×
   パターン② 赤緑連立
         SPD 29%+緑の党 8% =37%<過半数 ⇒ ×
   パターン③ 赤赤緑連立
         SPD 29%+左派党 9%+緑の党 8% =46%<過半数 ⇒ × 

3 ドイツの有権者が望むのは大連立

 前回見たように、「アジェンダ2010」の修正を主張して旧SPD左派を呼び戻そうとしたシュルツ候補。
 SPDにとってシュルツ効果のインパクトは強かった。
 かつては20%そこそこで低迷していたSPDの支持率を一気に30%台に上げ、新たに1万人以上の党員を獲得することができた(※)。
 (※)3月2日にSPDは「最近5週間で1万人以上の新たな党員を獲得した。2月末現
  在、党員数は438,829人で、CDUの党員数430,683人を超えた。」と発表してい
  るが、フランクフルターアルゲマイネ紙は同日付の公式サイトの記事で、2016年末
  のSPDの党員数は432,706人で、2月末現在では6,000人あまりしか増えていない、と
  皮肉っぽく報じている。

 このままの勢いで州議会選挙を乗り切ろうと目論んでいた矢先、思わぬところから伏兵が出てきた。
 それはザールラント州の選挙結果の分析で述べるが、今まで投票に行かなかったが、左に舵が切られるのを望まない、いわゆる「無党派層」(※)の存在である。
 (※)ドイツ語では"Nichtwähler"で、直訳すると「選挙に行かない人」だが、ここでは
  今までは選挙に行かず特定の支持政党もない有権者という意味で便宜的に「無党派
  層」と訳す。
   

 4月7日のZDF調査では多くの有権者が左派連立でなく大連立を望むという結果が出ている。

 質問 どの連立が望ましいか?

連立の形態
望ましい
望まない
   CDU/CSU,SPD
49%
31%
   SPDFDP
23%
52%
   CDU/CSUFDP
21%
53%
   SPD左派
24%
62%


(参考)連立の名称
 ①は二大政党が連立するので「大連立」、②は政党のカラーがそれぞれ赤、緑、黄なので「信号連立」、③は政党のカラーが黒、緑、黄なのでジャマイカの国旗にちなんで「ジャマイカ連立」、④は政党のカラーそのもので「赤赤緑連立」。ちなみに、バーデン=ビュルテンベルク州の緑の党とCDUの連立は、果物のキウイを切ると緑の実の中に黒いつぶつぶがあるのでそれになぞらえて「キウイ連立」と呼ばれている。

4 ザールラント州議会選挙の結果

 各政党の得票率と議席獲得数は次のとおり、シュルツ効果は及ばず、CDUの勝利に終わった
  
政党名
得票率
獲得議席数
コメント
CDU
40.7%(5.5%)
24(5)
単独過半数にあと一歩の勢い
SPD
29.6%(1.0%)
17(±0)
シュルツ効果及ばず横ばい
左派党
12.9%(3.2%)
7(2)
ラフォンテーヌの地元ながら微減
海賊党
0.7%(6.7%)
0(4)
5%を大きく割り議席を失う
緑の党
4.0%(1.0%)
0(2)
5%をわずかに割り議席を失う
FDP
3.3%(2.1%)
0(±0)
得票率は伸びたが5%に及ばず
AfD
6.2%(6.2%)
3(3)
同州で初の議席獲得
その他
2.6%(1.9%)

合計議席数
51議席(過半数は26議席)


  今回選挙の投票率は69.7%201261.6%)と高く、Welt紙は、現政権(CDU主導
 の大連立)の政策に不満はなく、赤赤連立に取って代わられるのをおそれた無党派層が
 CDUに投票し、現政権に批判的な無党派層がAfDに投票したと分析している。
  それを裏付けるデータが、選挙一週間前にザールラント州の有権者を対象にZDFが
 実施した調査の結果である。
  なお、党員数ではSPDがCDUを上回ったとの発表は、皮肉にも、固定票ではSPDに分
 があるが、無党派層の浮動票が流れてCDUが勝利したとの分析が正しかったことの裏付
 けになってしまった。

連立の形態
望ましい
望ましくない
CDU主導の大連立
46%
28%
SPD主導の大連立
41%
32%
赤赤連立
28%
57%
赤赤緑連立
23%
62%
CDU、緑の党、FDP連立
21%
56%
(Quelle:ZDF Politbarometer17.3.2017)

  ザールラント州の有権者は、選挙前と同じくCDU主導の大連立が一番、次にSPD主導の大連立(どちらも、望ましい>望ましくない)、ただし、針が左に振れるのは「ナイン ダンケ」(望ましい<望ましくない)との意識である
  針を左に振れさせて(=「アジェンダ2010」の修正を主張して)、旧SPD左派を呼び戻そうとするシュルツ氏にとって、ザールラント州の選挙結果は厳しい現実をつきつけられるものとなった。
  シュルツ候補が左を向けば向くほど、それを望まない無党派層はSPDが大きくなって左派党と連立を組むのをおそれてCDUに投票する。
  このような状況を、私はひそかにシュルツ効果((独)Schulz-Effekt)ならぬシュルツ・ジレンマ((独)Schulz-Dilemma)と呼んでいる。

(次回はシュレスヴィヒ=ホルシュタイン州議会選挙の結果をレポートします。)

ドイツ連邦議会選挙の行方(1)はこちらです。


2017年4月29日土曜日

山種美術館「企画展 花*Flower*華-琳派から現代へー」

山種美術館で開催中の「企画展 花*Flower*華 -琳派から現代へー」特別内覧会に参加してきました。

会場内は四季折々の花でいっぱい。鳥を描いた作品もあって、とてもにぎやか。
春らしい、華やいだ雰囲気の展覧会です。
みなさんもぜひこの機会に山種美術館を訪れて、春を満喫してみてはいかがでしょうか。

さて、どれだけ楽しい展覧会かは、ご覧になってのお楽しみですが、ここで少しだけ展覧会の様子を紹介させていただきます。

特別内覧会では、はじめに山種美術館の山崎館長から歓迎のご挨拶がありました。

○ 昨年度の1年間は開館50周年特別展を開催して、今回の企画展が51年目の新しいス
 タート。今回は春らしく鈴木其一《四季花鳥図》や奥村土牛《醍醐》はじめ花をテーマ
 にした企画展です。
○ 昨年秋からの試みですが、写真撮影可の作品もあります。今回は酒井抱一《月梅図》
 です。

酒井抱一《月梅図》
○ 1階の「Cafe椿」では、作品をイメージした和菓子を販売しています。5月4日、5日
 には端午の節句限定の和菓子も販売しています。
 (鈴木其一《牡丹図》をモチーフにした「華の王」(下の写真右上)をいただきました。
 ピンク色が春らしくてとても上品な甘さです。)



端午の節句限定の和菓子


続いて山種美術館顧問・明治学院大学教授の山下裕二さんから、スライドで各章ごとに作品の解説をしていただきながら、今回の展覧会の見どころをご紹介いただきました。

第1章 春ー芽吹き

 
左から渡辺省亭《桜に雀》、横山大観《山桜》、千住博《夜桜》
この章は春らしく桜を描いた作品が並んでいます。
はじめに渡辺省亭《桜に雀》。
「日本画家で初めて渡欧したのが渡辺省亭。最近注目度が上がってきて、つい先日も京橋の加島美術や東京国立博物館、松岡美術館、山種美術館などで一斉に省亭の作品が展示されました。何年か後には省亭展を開催したいと考えていてますがどこの美術館とはまだ言えません(笑)。」と山下さん。

第2章 夏ー輝く生命

「速水御舟《和蘭陀菊図》は幾何学的に描いています。結城素明《躑躅百合》は素明らしく精緻に丁寧に描いています。」
「小林古径《白華小禽》は花のまわりに陰影をつけています。これは大正時代に流行したものですが、この作品は昭和10年に描かれているのが興味深いところです。」

左から速水御舟《和蘭陀菊図》、結城素明《躑躅百合》、小林古径《蓮》《白華小禽》 

第3章 秋ー移ろう季節

「抱一の《菊小禽図》には文人・亀田綾瀬(かめだりょうらい)の賛があります。他にも同じ亀田綾瀬の賛のある抱一の作品が細見美術館やファインバーグコレクションにありますが、もともとは12か月花鳥図か、六曲一双の屏風に貼り付けたものだったのかもしれません。」
「木村武山は院展の実力者でしたが、横山大観、菱田春草、下村観山の陰に隠れて目立たない存在です。画廊でもかわいそうなくらい安い価格で売りに出されてます(笑)。」
「速水御舟《桔梗》は、根元の方がたらしこみを使った水墨、根元から上が着色というおもしろい取り合わせになっています。」
左から酒井抱一《秋草図》《菊小禽図》、木村武山《秋色》、速水御舟《桔梗》
第4章 冬ー厳寒から再び春へ

「横山大観《寒椿》は金地の上に描かれていますが、画面右上の竹が下書きと違うところに描かれています。体調でも悪かったのでしょうか。大観というと巨匠というイメージがありますが、これは「情けない大観」です(笑)。ただこういう大観も人間味があって好きですが。」
「小茂田青樹《水仙》は大正時代に描かれたもので、水仙には小林古径《白華小禽》のところでお話しした陰影がほどこされています。陰影をつけることはもともと京都から来たものです。」
横山大観《寒椿》(左)、小茂田青樹《水仙》
「酒井抱一《月梅図》は修復してきれいになりました。この複雑な枝ぶりを見てください。私は伊藤若冲の影響があったのでないかと思っています。抱一と若冲の関係はこれからの研究課題ではないでしょうか。」
「作者不詳《竹垣紅白梅椿図》は今回の展示作品では最も古く、17世紀にさかのぼるものです。右隻は水平を意識した構図、左隻は斜めを意識した構図で、リズミカルで画面を大きくトリミングしているところなど尾形光琳《燕子花図屏風》(根津美術館蔵)を思い浮べますが、もちろん光琳の方が後なのでこの作品が光琳に影響を与えたのでしょう。」
作者不詳《竹垣紅白梅椿図(部分)》[重要美術品](左)、酒井抱一《月梅図》(右)
続いて特集の「花のユートピア」と「百花の王・牡丹」へ。

「花のユートピア」
「酒井鶯蒲《紅白蓮・白藤・夕もみぢ図》は今回の修復で裏打ちをはずしたとき、紅葉を描いた左幅の左下に鶯蒲の落款を消した痕跡があることがわかりました。
この作品は本阿弥光悦の孫、本阿弥光甫の作品を模写したものなので、あえて落款を消したのではないでしょうか。」

酒井鶯蒲《白藤・紅白蓮・夕もみぢ図》(左の三幅)、山元春挙《春秋草花》(右の二幅)

続いて「魅惑の華・牡丹」。第2会場は牡丹の部屋です。

「鈴木其一《牡丹図》は一見中国絵画のようですが、伝趙昌《牡丹図》(宮内庁三の丸尚蔵館)に倣ったものではと考えられることが本展の担当学芸員の方により指摘されました。日本と中国の絵画でここまで構図が同じ作品が見つかるのはそうはないことで、研究論文ものの発見だと思います。」
「渡辺省亭《牡丹に蝶図》は咲いている牡丹との対比で左上に枯れかけた牡丹も描かれていて、花びらが散っているところが見られます。右の落款も散らし書きになっていてとても粋です。」
鈴木其一《牡丹図》(左)、渡辺省亭《牡丹に蝶図》(右)


このあと展示会場に移り山崎館長のギャラリートークをおうかがいしました。

会場入口に飾られているのは小林古径《菖蒲》。
「この作品は古径が院展に出した最後の作品で、愛蔵の古伊万里の壺との取り合わせで描いています。」と山崎館長。

小林古径《菖蒲》
「奥村土牛は小林古径の内弟子で、古径の七回忌を営んだ奈良・薬師寺に行ったあと醍醐寺に寄って、その時に見た桜を描いたのが《醍醐》です。薄い色を何回も重ねる土牛らしく、桜の花は薄いピンク色で何度も塗り重ねているので、近くでご覧になってください。」

奥村土牛《醍醐》の前で気さくに撮影に応じていただいた山崎館長



「鈴木其一《四季花鳥図》は、正方形に近い二隻の屏風で、右隻に春夏の花、左隻に秋冬の花を描いています。抱一や其一はとても素晴らしい高価な絵の具を使っているので、色がとても鮮やかに残っています。」
(「六曲でなく二曲の屏風は琳派ならでは。抒情的な抱一に対して、其一は冷徹で人工的、まるでCGのよう。右隻の朝顔も単一の色でべたっと描いています。」と山下さん)

鈴木其一《四季花鳥図》


「今回の展覧会のポスターになったのが田能村直入《百花》。この作品は明治2年に描かれ
 たもので、描かれた花の種類を当館で調べたのですが、本当に百種類ありました。」
田能村直入《百花》

「《竹垣紅白梅椿図》には多くの種類の鳥が描かれていますが、鳴くところ、食べるところなど鳥の生態がよく描かれているところが興味深いです。」
作者不詳《竹垣紅白梅椿図(部分)》[重要美術品](左)、酒井抱一《月梅図》(右)(再掲)


5月13日(土)に開催される武蔵野美術大学教授・玉蟲敏子さんの講演会はすでに定員に達したため募集締切とのことですが、別の日には学芸員の方のギャラリートークもありますので、こちらに参加してみてはいかがでしょうか。
やはり専門の方の解説をおうかがいすると、作品の味わいも深まりまります。

ギャラリートークの日程は山種美術館公式サイトをご覧ください。

山種美術館ギャラリートーク

展覧会の概要についてはこちらをご参照ください。6月18日(日)までです。

山種美術館「花*Flower*華ー琳派から現代へー」

また、ミュージアムショップでは展覧会に合わせて、図録『山種コレクション 花の絵画名品集』が発売されています。

※掲載した作品は渡辺省亭《牡丹に蝶図》を除き山種美術館蔵で、掲載した写真は山種美術館の特別の許可を得て撮影したものです。

次回の展覧会は「【特別展】没後50年記念 川端龍子ー超ド級の日本画ー」です。
7月8日(土)には山下裕二さんの講演会も予定されています。
「今では忘れられかけた画家の一人。名前は「タツコ」と読まれるといけないのでポスターには大きく「RYUSHI」と書きました(笑)。」と山下さん。

こちらの展覧会も今から楽しみです。
詳細は山種美術館公式サイトをご覧ください。

【特別展】没後50年記念 川端龍子ー超ド級の日本画ー



2017年4月19日水曜日

静嘉堂文庫美術館「挿絵本の楽しみ~響き合う文字と絵の世界~」トークショー&ブロガー内覧会

4月16日(日)の午後、静嘉堂文庫美術館「挿絵本の楽しみ~響き合う文字と絵の世界~」トークショー&ブロガー内覧会に参加してきました。



「挿絵」とは「文章の間にはさみこまれた絵」。
主体は文章で、挿絵はそれに付随するもの。
はじめはそう思っていましたが、会場内の展示作品を見て考えが変わりました。
「挿絵」そのものがしっかりと自己主張しているのです。

さっそく展示作品の紹介に入りたいところですが、その前に「挿絵本の楽しみ」について、とても参考になるお話をおうかがいできたトークショーから紹介したいと思います。

「挿絵本の楽しみ」トークショー
  ゲスト:永青文庫 副館長  橋本麻里さん
  出演:静嘉堂文庫美術館館長 河野元昭さん
     静嘉堂文庫 司書   成澤麻子さん
  ナビゲーター:青い日記帳  Takさん(中村剛士さん)

はじめに、今回の展覧会を担当された司書の成澤さんから。
 ○ 今回の展覧会を企画するきっかけは、ある作家がインタビューで「(連載小説で)
  挿絵を見てストーリーを変えることがある」と発言されていたのを読んで、「挿絵
  とは何か」と興味をもったこと。
  
続いて橋本さん。
 ○ 現在サントリー美術館で開催中の「絵巻マニア列伝」と比較して展示作品を拝見し
  た。挿絵本と絵巻は、その形態も、目的も、対象とする読者も違う。
   絵巻は個人が楽しむもので、作品は手書きなので一点しかないが、挿絵本は実用的
   で、木版刷りなので多くの人を対象としている。

さらに成澤さん。
 ○ 絵巻物は見て楽しいもの。今回の展覧会では第Ⅴ章がそれに近い。
 ○ 挿絵本の歴史を振り返ってみると、中国では明の時代から物語に絵が入ってきた。
  中国は文字の国なので、それ以前は文字に絵を入れるのに抵抗感があったのかもし
  れない。
 ○ それが変わるきっかけは、宋代に本格化した科挙。貴族だけでなく庶民の若者も
  受験できるようになったが、宮廷での礼儀作法など、庶民では文字だけでは理解で
  きないので、科挙の受験参考書に挿絵を入れるようになった。
 ○ そういった科挙受験者の切実な需要があったから、明代に入って爆発的に絵入りの
  参考書が広まり、それと同時に文字に絵を入れる抵抗感も薄れてきたのではないか。
 ○ さらに明代は経済的にも発展したので、木版を作るための版代、木版を彫る職人
  や摺る職人への手間賃を払えるだけの財力をもった人が出てきたことも挿絵本の発
  展の背景にある。

受験参考書に関連してTakさん。
 ○ 最近では、萌え系のイラストが入っている受験参考書が書店にずらりと並んでい
  て驚かさせれる。(受験生をひき付けるには萌え系も必要かも)

そして河野館長。
 ○ 中国の美術と日本の美術を比較すると、中国の美術が日本に入ってきて、それが
  日本化するというパターンが挿絵本にもあてはまる。
   中国では「絵従文主(絵が従で文章が主)」であったが、日本では中国より早い動き
  で「絵主文従」になり、それが錦絵や浮世絵に発展していった。
   そういった意味で、会場に入ってすぐの作品が歌川国貞の錦絵(「新版錦絵当世美人
  合」)というのはとてもいい配置。

橋本さん
 ○ 展示を見て、「本草図譜」をはじめとした博物図譜の印象が強かった。江戸の博物
  学は素晴らしい。「本草図譜」は持って帰りたいくらい(笑)。

河野館長
 ○ 18世紀は実証主義の時代。日本では博物学や本草学が発展した。
  ちょうどそのころ出てきた伊藤若冲の絵は、もちろん彼のイマジネーションで描い
  ているが、博物学が背景にある。
   昨年、サントリー美術館で開催された秋田蘭画も、背景には博物学がある。
 ○ 今回の展覧会のサブタイトルは「響き合う文字と絵の世界」。江戸中期に流行した
  文人画は、当時、まず賛を読んでから絵を見るようにと言われていたが、現代人に
  は読みづらい。そこで、「おしゃべり館長による戯訳」を作ってみたので参照いた
  だきたい。
  (「おしゃべり館長による戯訳」は受付でいただくことができます。賛が現代語訳に 
   なっていて、とてもわかりやすいです。)
 ○ 静嘉堂文庫に所蔵されている古典籍は約20万冊で、内訳は漢籍が12万冊、和書が8
  万冊。その中から楽しい本が選ばれているので、一人でも多くの人に見ていただきた
  い。

約1時間の楽しいトークショーの後は、成澤さんの解説によるギャラリートーク。
展示は、会場入口の「錦絵の中の文字」に始まり5つの章に分かれています。

「新版錦絵当世美人合」の「粂三きどり」(右)と「杜若きどり」(左)

Ⅰ 神仏をめぐる挿絵
 『妙法蓮華経変相図』は「法華経」を絵解きしたもので、仏さんたちも人物もユルキャラ系のお顔でとても親しみがもてます。本邦初公開。ぜひアップで細部までじっくりご覧になってください。

Ⅱ 辞書・参考書をめぐる挿絵
 トークショーで成澤さんが解説されていた科挙の参考書がずらり。当時の科挙受験者たちの受験勉強の過酷さがしのばれます。



Ⅲ 解説する挿絵
この章は博物学のコーナー。
右が和時計やからくり人形の仕組みを図説した「機巧図彙」、左がトークショーで話題になった「本草図譜」。色が鮮やかです。


大ファンの賢江祥啓の「巣雪斎図」にも久しぶりにお目にかかることができました。
室町時代に流行した詩画軸(詩と山水画が描かれた掛軸)はこの作品を含めて3点。詩画軸の世界も「響き合う文字と絵の世界」の一部を構成しています。
掛軸に書かれた賛の意味は「おしゃべり館長による戯訳」をご参照ください。

賢江祥啓「巣雪斎図」(左)

重要文化財 渡辺崋山「芸妓図」

Ⅳ 記録する挿絵
こちらは、紀行文や、期せずして漂流した人たちの漂流記のコーナー、江戸時代後期に太平洋を渡ってメキシコまで漂流した人がいたとは。その上、綿密な記録を残していたとは。驚きです。

「環海異聞」

「亜墨新話(初太郎漂流記)」


Ⅴ 物語る挿絵
こちらのコーナーには、伊勢物語や御伽草子などを題材にした絵巻や絵本が並んでいます。



こちらは明代に製作された挿絵本。
「この時代一ミリの幅に5~6本の線を彫るという高度な技術をもった職人の技がいました。その技術が日本に渡って錦絵につながっています」と成澤さん。


そして伊勢物語にちなんだ工芸品も展示されています。
これ単なる印籠ではありません。よく見ると開かれた状態の伊勢物語の本が描かれていて、もちろんそこには挿絵が!。



一つ一つの作品を、細部までじっくり見れば見るほどその作品のすばらしさ、おもしろさがわかる、とても味わい深い展覧会です。
これからは講演会も、河野館長の「おしゃべりトーク」も、列品解説も予定されています。解説を聴けばより一層、作品の味わいが深まります。
詳細は公式サイトをご参照ください。

静嘉堂文庫美術館

売店では「挿絵本の楽しみ」の小冊子も販売しています。
文庫本サイズで、とてもコンパクトなので展覧会の思い出を持ち帰るのにちょうどいいです。




※掲載した写真は、美術館より特別に撮影の許可をいただいたものです。


2017年3月26日日曜日

ドイツ連邦議会選挙の行方(1)

1 シュルツ候補の勢いはどこまで続くか?

今年1月にSPD(社会民主党)の首相候補として擁立されたシュルツ候補の勢いが止まらない。現職の首相でCDU/CSU(キリスト教民主同盟/社会同盟)が擁立したメルケル候補を一時は追い抜くほどの接戦を繰り広げている。

  3月10日付ZDF(ドイツ第二放送)の調査
   質問「首相としてどちらが望ましいか」
    1月 シュルツ候補 40%  メルケル候補 44%
    2月 シュルツ候補 49%  メルケル候補 38%
    3月 シュルツ候補 44%  メルケル候補 44%

幸先のよいスタートを切ったシュルツ候補であるが、このままの勢いが続いて、9月24日に実施される連邦議会選挙のあと、「シュルツ首相」が誕生することになるのだろうか?

2 シュルツ候補は首相になることができるか?

しかしながら、話はそう簡単ではない。
シュルツ候補が首相になるためにはSPD主導の連立が前提条件となるが、SPDの支持率はまだそこまでのレベルには達していない。

ZDFの3月の調査による各政党の支持率をSPD主導の連立について考えられる三つのパターンにあてはめみると次のとおりになる。

  各政党の支持率(カッコ内は前月比)
   CDU/CSU 34%(±0%)、SPD 32%(+2%)、左派党 8%(+1%)、
   緑の党 7%(-2%)、FDP 5%(-1%)、AfD  9%(-1%)、その他 5%(+1%)

  パターン① SPD主導による大連立(SPDとCDU/CSU)
        ⇒ SPDの支持率32%対してCDU/CSUは34%なので、このまま
         では、現在と同じCDU/CSU主導の大連立になってしまう。
  パターン② 赤緑連立(SPDと緑の党)
        ⇒ 政策的には共通点が多く、2002年から二期続いたシュレーダー
         政権での連立の実績もあるのでもっとも自然な連立パターンでは
         あるが、両党合わせても支持率は39%にしかならない。
  パターン③ 赤赤緑連立(SPD、左派党、緑の党)
        ⇒ 前回2013年の選挙結果ではこの三党が連立を組めば過半数をとる
         ことがもできたが、ロシア寄りで、NATO反対、海外派兵反対を主張
         する左派党と他の二党では外交政策面での隔たりが大きく、両者が大
         きく妥協しないと実現性が乏しい。それに、現時点では三党合わせて
         も支持率は47%にとどまり、わずかに過半数に達しない。

このような状況の中、シュルツ候補は同じSPDのシュレーダー元首相が2003年から着手した経済構造改革「アジェンダ2010(Agenda2010)」の修正を主張しはじめている。

3 シュルツ候補は旧SPD左派を呼び戻すことができるか?

シュルツ候補は言う。
「私たちは過ちを犯した。それらは修正されなくてはならない。」

労働者の解雇手続きの簡略化や失業手当支給期間の短縮など経営者寄りの政策を打ち出した「アジェンダ2010(Agenda2010)」に反対したラフォンテーヌ蔵相(当時)は2005年にSPDを離党、旧東ドイツのSED(社会主義統一党)の後継政党PDS(社会民主党)と合流してDie Linke(左派党)を結成した。
同年の連邦議会選挙ではSPD左派の票が左派党に流れ、SPDは29議席を失い、連立相手の緑の党と組んでも過半数に達しなくなった。対するCDU/CSUも22議席失い、コール首相時代の連立相手のFDP(自由民主党)と組んでも過半数を獲得できなかったため、SPDとCDU/CSUはやむなく大連立を組むことになった。
しかしながらSPDは222議席、CDU/CSUは226議席で、CDU/CSUの方がわずか4議席だけ多かったため、SPDは首相の座をCDU/CSUに明け渡さなくてはならなかった。
そこで誕生したのがメルケル首相である。

2002年には失業者数が400万人を超え、「ヨーロッパの病人」と呼ばれていたドイツは、大胆な経済構造改革は避けられない状況であった。
改革のおかげでその後ドイツの経済は好転し、その恩恵をメルケル首相が受けることになったが、一方で、SPDはSPD左派の支持を失い凋落していくという皮肉な結果になった。

こういった背景を受けて出てきたのがシュルツ候補の発言である。

SPDのナーレス労働相はさっそくシュルツ候補を援護射撃している。
「新たな給付を始めなくてはならない。それは失業手当Q(Arbeitslosengeld Q)。Qは資格取得(Qualifizierung)を支援する。」
資格取得のために職業訓練などを行う失業者に1年間の失業手当に加えて最大で2年間手当を給付しようという考えだ。

雇用保険会計から支出される失業手当が増えれば雇用保険料の雇用主負担も増えるので経営側は反対するが、労働者側からは好意をもって受け入れられている。
同じくZDFの調査では、賛成が65%、反対が30%という結果になっている。

はたしてシュルツ候補は旧SPD左派を呼び戻すことはできるのだろうか。
そして、さらに支持率を伸ばすために次の一手を打ってくるのだろうか。

連邦議会選挙前には次の3州で州議会選挙が行われる。
これら各州の選挙結果や今後の政党支持率の動向から目が離せない。

 3月26日 ザールラント州(人口 99万人)
 5月7日  シュレスヴィッヒ-ホルスタイン州(人口 283万人)
 5月14日 ノルドライン-ヴェストファーレン州(人口 1764万人)

(次回はザールラント州の州議会選挙の結果と、ZDFの4月の世論調査の結果をレポートします。)

2017年2月26日日曜日

泉屋博古館分館「屏風にあそぶ春のしつらえ-茶道具とおもてなしのうつわ」ブロガー内覧会

2月22日(水)、泉屋博古館「屏風にあそぶ春のしつらえ-茶道具とおもてなしのうつわ」ブロガー内覧会に参加してきました。


展示室Ⅰ《二条城行幸図屏風》(左)、《誰ヶ袖図屏風》(右)
はじめに泉屋博古館分館の野地分館長から、歓迎のご挨拶に始まり、分館でのこれからの特別展のご案内がありました。

野地分館長(右)と学芸員の森下さん(左)

○ 2月25日(土)に始まって5月7日(日)まで開催されるのが今回紹介する「屏風にあそぶ春のしつらえ-茶道具とおもてなしのうつわ」。

○ 6月1日(木)~8月4日(金)は、兵庫県西宮市にある黒川古文化研究所の名刀コレクションを展示する「名刀礼賛-もののふ達の美学」。愛刀家には見逃せない企画です。
(上の写真で森下さんが手に持っているのがこの展覧会のパンフレットです。)

○ 9月9日(土)~10月13日(金)は、日本洋画壇の先覚者・浅井忠が教授を務めた京都高等工芸学校(現 京都工芸繊維大学)とのタイアップ企画「浅井忠の京都遺産ー京都工芸繊維大学 美術工芸コレクション」。

○ 11月3日(金・祝)~12月10日(日)は、泉屋博古館だけでなく東京国立博物館、京都国立博物館、大阪市立美術館所蔵の明末清初の中国名画を展示する「典雅と奇想-明末清初の中国名画展」。

どれも興味深い特別展ですが、中国絵画ファンの私としては、11月3日から始まる中国名画展は見逃せない展覧会です。

展示会場は展示室Ⅰと展示室Ⅱに分かれていて、展示室Ⅰは森下さんにご案内していただきました。

展示室Ⅰ 《扇面散・農村風俗図屏風》

入ってすぐ左に展示されている屏風が《扇面散・農村風俗図屏風》。
桜の花が咲く農村の風景。
森下さん「春の風物詩として定着してる花見ですが、昔は田植えの時期を神様が桜の花を咲かせて知らせてくれたと考えられていました。」

展示室Ⅰの右側には江戸前期流行のファッションの着物が描かれた《誰ヶ袖図屏風》と、今回注目の作品《二条城行幸図屏風》が展示されています。
時の将軍・徳川家光と父・秀忠の招きに応じて後水尾天皇と中宮和子の一行が二条城に行幸する様子を描いた《二条城行幸図屏風》には、一行の行列と見物人を合わせてなんと3,226人もの人物が描き込まれているとのことです。
一人ひとりのしぐさや表情がそれぞれ特徴があって、いくら眺めても飽きることのない素晴らしい屏風です。

上段は後水尾天皇と中宮和子の一行が堀川通りを二条城に向かう様子で、下段が将軍・家光の一行が天皇を奉迎するために中立売通りを御所に向かう様子が描かれています。
上段の行列の後方、鳳凰の飾りが付いているのが後水尾天皇が乗っている輿、中ほどの中宮和子の乗っている牛車は牛2頭立て、下段の行列の中ほどのやや後方、将軍・家光が乗っている牛車も牛2頭立てなので、みなさんもぜひ探してみてください。

この屏風は、江戸時代にはすでに住友家が所蔵していたのですが、天皇家と徳川家が描かれていたため、おそれ多くて飾ることができなかったそうです。そのおかげでとても保存状態がいいのです、と森下さん。

展示室Ⅰには《二条城行幸図屏風》が描かれた寛永年間にちなんだ茶道具が展示されています。


続いて展示室Ⅱへ。
こちらでは野地分館長の解説をおうかがいしました。

展示室Ⅱ

野地館長のお話
○ 今回は新収蔵品もまじえて、春にちなんだ作品を展示しています。
○ 正面の《桜図》は、上野の寛永寺が戊辰戦争で焼ける前、境内に咲いていた桜を描い
 たもので、作者の菊池容斎は幕臣で、38歳から本格的に絵を描きはじめた人です。
○ 菊池容斎は学者肌の人で、人体デッサンを初めて行ったり、狩野派や四条派など当時
 の作風を取り入れて、自分風の作風を確立した人です。
○ この作品は1年半ほど前に住友家の倉庫から発見されたもので、今回が初公開です。

菊池容斎《桜図》(左)、香田勝太 春秋草花図のうち《春》(左)
○ 《桜図》の左の屏風《春》は一見すると日本画ですが、実は油絵。近くで見ると絵の具
 の重なり具合がよくわかります。


畳が敷かれた茶室風のしつらえがとてもいい雰囲気です。
○ 右端の釜は《鳳凰模様日の丸釜》。よく見ると鳳凰が浮かび上がって見えます。

二代目川甚兵衛《猟犬図額》(左)、クロード・モネ《モンソー公園》(中)、《サン=シメオン農場の道》(右)

○ 《猟犬図額》は油絵のようですが、実は織物です。
○ モネの作品は、印象派になりきる前のバルビゾン風の作品《サン=シメオン農場の 
 道》と点描を使った印象派の作品《モンソー公園》の対比を楽しむことができます。

展示室内は春らしくてとても華やかな雰囲気でいっぱいです。
この春おすすめの展覧会です。

分館長の野地さんや学芸員の森下さんのお話は興味深く、とても参考になりました。
ご興味のある方は、ギャラリートークの日程に合わせてご覧になってはいかがでしょうか。

展示作品やギャラリートークの詳細は泉屋博古館の公式サイトをご覧ください。
  ↓
「屏風にあそぶ春のしつらえ」

※掲載した写真は美術館より特別に撮影の許可をいただいたものです。





2017年2月12日日曜日

青い日記帳×オルセーのナビ派展ブロガー特別内覧会

2月9日(木)に開催された「青い日記帳×オルセーのナビ派展ブロガー特別内覧会」に行ってきました。

「オルセーのナビ派展」は、現在、三菱一号館美術館で開催中の展覧会で、キャッチコピー「はじめまして、ナビ派です。」のとおり、日本で初めて開催される本格的なナビ派展です。

入口から第一室に入ると、ナビ派の画家たちに影響を与えたゴーガンの作品がお出迎え。
左から、ゴーガン「《黄色いキリスト》のある自画像」、「扇のある静物」、そしてベルナールの「炉器瓶とりんご」。



この展覧会は6章構成になっていて、第一章は「ゴーガンの革命」です。
このコーナーにはゴーガンと、ブルターニュ地方のポン=タヴェンでゴーガンの影響を受けたベルナール、セリュジエの作品が展示されています。

ゴーガンはセリュジエにこう言いました。

「これらの木々がどのように見えるかね?これらは黄色だね。では、黄色で塗りたまえ。これらの影はむしろ青い。ここは純粋なウルトラマリンで塗りたまえ。これらの葉は赤い?それならヴァーミリオンで塗りたまえ。」
(会場では、壁に掛けられたアクリル板にこの言葉が書かれています。)

このようなゴーガンの助言を受けてできた作品がセリュジエ「タリスマン(護符)、愛の森を流れるアヴェン川」でした。


三菱一号館美術館に来ていつも思うことですが、展示室内の内装がとても素晴らしいです。暖炉の上の絵画を見ていると、美術館というより、まるで洋館の応接間で作品を鑑賞しているようなとても心地よい気分にさせてくれます。

第二章は「庭の女性たち」です。
このコーナーには庭の女性たちを好んで描いたドニやボナールの作品が展示されています。

重厚なドアを開けて居間に入ると、大きな絵が視界に入ってくる。
こういったくつろいだシチュエーションがたまらなくいいです。
作品はドニ「ミューズたち」です。

第三章は「親密さの詩情」です。
このコーナーには、ボナール、ヴァロットン、ヴュイヤールの室内情景を描いた作品が展示されています。

さてここで三菱一号館美術館の高橋館長と今回のブロガー特別内覧会のモデレーターTakさんの楽しいトークをおうかがいすることができました。

Takさんはこのたび『カフェのある美術館』(世界文化社)を出版されたので、そのことも紹介されていました。
左がTakさん、右が高橋館長
1986年に開館したパリ・オルセー美術館に1984年の準備室時代から係わっていた高橋館長。その当時のお話から始まりました。

「オルセー美術館は当時『印象派美術館』と呼ばれていたほど印象派が中心の美術館で、ナビ派で知られていたのはボナールくらいで、他の画家はほとんど知られていませんでした。オルセー美術館開館当時、ナビ派の作品は暗がりに置かれていました(笑)。ナビ派は今ようやく再評価の途上にあると言えるでしょう。」
「現在のオルセー美術館のギ・コジュヴァル館長は、もともとナビ派を研究している方でした。私もナビ派との付き合いは長く、1980年に国立西洋美術館に入って、ドニ展(1981年)を開催したのですが、そのときドニ家の人たちが来られて親交を温めました。」
「ギ・コジュヴァル館長は今年3月にオルセー美術館の館長を退任されるので、今回の展覧会はオルセーでの最後の仕事です。4月からはナビ派センターに行かれることが決まっていますが(笑)。今回の展覧会の開催にあたって、ギ・コジュヴァル館長には作品の選定からかかわっていただきました。そのため出展作品はどれもトップレベル、トップクラスのものばかりです。」
「ナビ派は二次元の絵の中に三次元のイリュージョンを描かずに平面的なものを描きました。その点で浮世絵になじんでいる日本人に合っているのかもしれません。それに西洋では隠ぺいされていた『やさしさ』『かわいさ』が前面に出ているのもナビ派の特徴です。これは対象を見る目線が低いところにあるということです。」

「一方で現代的な側面もあって、表面の『かわいさ』の裏にある不条理やボナールの作品に潜む『影』も見逃すことはできません。」
こう説明されてから、高橋館長は後ろに展示されているヴァロットンの「髪を整える女性」の不自然に曲がる椅子の脚、ありえないところにある影、ボナールやヴュイヤールの作品に潜む影の部分について解説されました。

左からヴァロットンの「髪を整える女性」「室内、戸棚を探る青い服の女性」「化粧台の前のミシア」。

第四章は「心のうちの言葉」です。
このコーナーには、ナビ派独特の色使いの肖像画や自画像が展示されています。
左からヴュイヤール「八角形の自画像」、「読書する男性」、ドニ「18歳の画家の肖像」。ここでも暖炉がいい雰囲気を出しています。



第五章は「子ども時代」です。
このコーナーには、ナビ派の画家たちの、子どもたちに対する慈しみに満ちた作品が展示されています。もちろん、子どもに忍び寄る影も見逃すことはできません。

ドアの横にさりげなく飾られるヴァロットンの「ボール」
こちらは高橋館長おすすめのヴュイヤール「公園」。
ナビ派のパトロンであったナタンソン家の応接間兼食堂の装飾画として制作されたもので、当初あった9枚のうち5枚がオルセー美術館に所蔵されています。



第六章は「裏側の世界」です。
このコーナーには、ナビ派が表現しようとした内的生活や夢や想像の世界を描いた作品が展示されています。
写真は、ロシアの近代美術コレクター、イヴァン・モロゾフの私邸の装飾壁画のためのドニの習作「プシュケの物語」。

高橋館長が言われていたように、本当に作品の質が高くて、とても見応えのある素晴らしい内容です。この春おすすめの展覧会です。
5月21日(日)までです。お見逃しなく。

詳細は展覧会の公式サイトをご覧ください。
 ↓
オルセーのナビ派展

※掲載した写真は、主催者の許可を得て特別に撮影したものです。




2017年1月5日木曜日

2016年 私が見た展覧会ベスト10

あけましておめでとうございます。
昨年一年間ご愛読いただきありがとうございました。
これからもドイツ関連の記事や美術展関係の記事を掲載していきたいと考えていますので、おつきあいのほどよろしくお願いいたします。

1月2日にはさっそく東京国立博物館に初もうでに行って、今年の干支の「鳥」をたくさん見てきました。

《梨に双鳩》菱田春草

さて、今年の第一号は恒例の「私が見た展覧会ベスト10」の2016年版です。

去年は、都内や地元神奈川の美術展はもちろん、京都国立博物館で「禅展」を見たり、奈良の大和文華館に行ったり、奈良国立博物館で「信貴山縁起絵巻」や「正倉院展」を見たり、少し足を伸ばして長沢蘆雪を見に和歌山県立博物館まで行ってきました。
さらには、中国絵画が見たくて台北の國立故宮博物院に2回も行ってきました。

こうやってあちこちを飛び回って見た展覧会はどれもいいものばかりでした。
その中からベストテンをセレクトするのは至難の業ですが、悩みながらも実際に作品を見ているときを思い浮べて楽しみながら選んでみました。
(今回も首都圏で開催の美術展に絞りました。)

第1位 「カラヴァッジョ展」 国立西洋美術館
 「エマオの晩餐」の神々しさに圧倒されました。2016年の一枚と聞かれたら、迷わず「この絵です。」と答えます。 

第2位 「美の祝典Ⅰ~Ⅲ」 出光美術館
 10年ぶりに公開の「伴大納言絵巻」堪能しました。それに、三期に分けて出光美術館所蔵の日本絵画総ざらえといった感じで、コレクションの分厚さに感動しました。初めて見た狩野元信の《西湖図屏風》、雰囲気出ていました。

第3位 「広重ビビッド」 サントリー美術館
 版画の初摺の色があまりに鮮やかなのに驚かされました。本当に「ビビッド」でした。

第4位 「禅展」 東京国立博物館
 東博と京博の両方に行ってきました。「禅展」とのコラボで10月21日、22日の2日間限定で開催された企画展「白隠さんと出会う」(世田谷・龍雲寺)で白隠さんの絵をお寺の座敷で拝見してからすっかり白隠ファンになった勢いで京都の花園大学まで白隠さんを見に行ってきました。
 数えてみたら、東京国立博物館の常設展は本館とアジアギャラリーを合わせて12回も行ってました。

第5位 「ポンペイの壁画展」 森アーツセンターギャラリー
 鮮やかな色づかい、ふっくらとした体つき。ルネッサンス(=古代の再生)がめざした芸術はこういったものだったのか、とポンペイ壁画の新鮮さにひたすら驚いていました。

第6位 「若冲展」 東京都美術館
 ものすごく混んでいたけど、釈迦三尊像と動植栽絵が一堂に会するまたとない機会。理屈抜きでよかったです。

第7位 「福井県立美術館所蔵~日本画の革新者たち展」 そごう美術館(横浜)
 日本各地の美術館の名品を紹介する新たなシリーズの第一弾。横浜で生まれ育った岡倉天心の故郷・福井にちなんで、天心ゆかりの横山大観、菱田春草、下村観山、木村武山、さらには福井に20年ほど住んだ岩佐又兵衛の名品の数々が横浜に来てくれるなんて、とてもうれしいです。第二弾、第三弾も期待しています。
 
第8位 「頴川美術館の名品展」 渋谷区立松濤美術館
 頴川家が蒐集した美術品のコレクションが西宮から渋谷に来てくれました。現地へ行ってもいつも展示しているわけではないので、こうやって一堂に集まったコレクションを見ることができるのはとてもありがたいです。前期後期とも行きました。
 

第9位 「若冲と蕪村展」 岡田美術館(箱根)
 「箱根で琳派、印象派」とひそかに提唱して岡田美術館とポーラ美術館に通っています。昨年も岡田美術館には「箱根で琳派 第二部 江戸・大坂編」とあわせて2回行ってきました。広々とした会場内に展示されていた若冲の孔雀と鳳凰、存在感ありました。

第10位 砂子の里資料館(川崎)
 豊富な浮世絵コレクションを展示して私たちを楽しませてくれた砂子の里資料館も9月17日をもって閉館しました。昨年は、「東海道五十三次之内 行書版全揃」と「隷書版全揃」、そして最後の展示「これぞ日本の宝・珠玉の浮世絵名品展」を見てきました。長い間ありがとうございました。斎藤文夫さんの浮世絵コレクションに再び出会えることを楽しみしています。
 
また、昨年はブロガー特別内覧会に4回参加させていただきました。

①「禅展」 東京国立博物館
②「メアリー・カサット展」 横浜美術館
  カサットの母子像は、「聖母子像」のようでした。
③DMM.PLANETS Art by teamLab 「お台場みんなの夢大陸2016」会場内
 ひざ下まで水に浸かって芸術鑑賞。面白い体験でした。
④「風景との対話」 損保ジャパン日本興亜美術館
 「フランスの風景 樹をめぐる物語」と合わせて2回、新宿副都心で風景画を楽しんできました。

「白隠展」と合わせ技の①の「禅展」以外はベストテンに入れませんでしたが、どれも甲乙つけがたいいい展覧会でした。主催者のみなさまどうもありがとうございました。
展覧会の様子はこのブログで紹介しています。

他にもいい展覧会ばかりだったのですが、とても紹介しきれませんでした。
見た展覧会の感想は私のツィッターにアップしています。

YAMA@SANのぶらり散歩道

台北の國立故宮博物院の様子はもう一つのブログで紹介しています。

ぶらり気ままな散歩道

こちらもぜひご覧になってください。