横浜美術館で開催されている企画展「モネ それからの100年」は連日の大賑わい。
三連休が終わってもモネを見に来るお客さんの勢いはとどまることなく続いています。
今回の展覧会は、モネとモネの影響を受けた現代アートがテーマ。
そのため全部がモネの絵でなく、展示されている約90点のうちモネの作品は25点。そのうち2点は前期と後期で展示替えがあるので、一度に見ることができるのは24点。
それでも、国内で24点まとめて見る機会はそう多くはないし、年代によって作風の違いはありますが、どの作品も「やっぱりモネっていいよね」と安心できる作品ばかりなので、猛暑の中、横浜まで来てよかった、と思っていただけること間違いなしです。
それに今回のモネの作品は、ほとんどが国内の美術館や個人蔵。あらためて日本のモネ・コレクションの充実ぶりを実感しました。
そして、もう一つの注目は、モネの息吹が感じられるモダンアートの作品群。
モネの作品と同じ空間に展示されているので、モネとモダンアートの接点を見つけるのも楽しみの一つ。
会期は9月24日(月・祝)までです。
展覧会の概要やイベント情報は横浜美術館の公式サイトをご参照ください。
さて、今回は、開催初日(7/14)に開催された夜間特別鑑賞会に参加しましたので、そのときの様子をお伝えしながら、展覧会の見どころなどを紹介したいと思います。
はじめに担当学芸員の坂本さんのミニレクチャーがありました。
「パリ・オランジュリー美術館の《睡蓮》大装飾画の制作に着手してから約100年。この機会に現在の視点からモネを見る意味、おもしろみがあるのでは。」と坂本さん。
「モネ(1840-1926)の作品は、海外からの作品2点を含めて、ほぼ時系列に展示されています。『プチ・モネ回顧展+現代アートの展覧会』と言えます。」
展覧会は4章構成になっていて、各章ごとの見どころをスライドを使って解説いただきました。
それでは坂本さんの解説に沿って、展示室内を周りながら展覧会の見どころを紹介したいと思います。
※掲載した写真は、夜間特別鑑賞会のため特別に撮影許可されたものです。
第1章 新しい絵画へ-立ちあがる色彩と筆触
会場入口でお出迎えしてくれるのはモネの《睡蓮》。
モネ《睡蓮》1914-17年 群馬県立近代美術館 (群馬県企業局寄託作品) |
「この作品は本来は第4章に展示すべき作品ですが、モネといえば睡蓮なので、展覧会の冒頭に展示しました。」と坂本さん。
続いて第1章の展示室には、はじめにモネの初期からの作品がずらりと並んでいて、まずはモネファンをホッとさせてくれます。
左から モネ《モンソー公園》1876年 泉屋博古館分館 《サン=タドレスの断崖》1867年 松岡美術館 ※《モンソー公園》は8月17日までの展示で、8月18日からは《サン= シメオン農場の道》(1864年 泉屋博古館分館)が展示されます。 |
こちらは現在でもフランス現代美術の第一線で活動するルイ・カーヌ(1943年生まれ)の作品。
中央の大きな作品《彩られた空気》は、紙やキャンバスでなくなんと金網の上に樹脂絵具が塗られています。後ろのスクリーンに色の影が映るようになっていて、色は「物質」であることが認識できるようになっているのです。まさに「立ちあがる色彩」です。
そして、モネをはじめ印象派の画家による、絵の具をパレットの上で混ぜずに細かいタッチで置いていく筆触分割の技法がとられています。
こちらはジョアン・ミッチェルの荒々しく力強い筆致の作品。
部分的に切り取ると何が描かれているのかわからないけれど、全体として形になっているというところがモネとの共通点。
モネの《ヴィレの風景》と見比べてみるといいでしょう。ちなみに《ヴィレの風景》は本邦初公開です!
続いて日本の現代作家 丸山直文(1964年生まれ)《puddle in the woods 5》。
学芸員の坂本さんは、モネの筆触分割の継承ということでこの作品を展示したのですが、作家の丸山さんご本人は意識されていなかったようで「モネと共通点ありますか?」とお話されたとのことです。
丸山直文《puddle in the woods 5》2010年 作家蔵 |
ブルーを基調とした落ち着いた雰囲気の展示室に、1880年代から1900年代の作品が展示されています。
左から二番目から《ジヴェルニー近くのリメツの草原》1888年 公益財団法人吉野石膏美術振興財団(山形美術館に寄託) 《ジヴェルニーの草原》1890年 福島県立美術館 《チャリング・クロス橋》1899年 メナード美術館 |
モネ《テムズ河のチャリング・クロス橋》1903年 吉野石膏株式会社(山形美術館に寄託) |
モネ《霧の中の太陽》1904年 個人蔵 |
そして、グラデーションの美しさを表現したのがモーリス・ルイス(1912-1962)でした。
解説パネルにあります、てっぺんに注目です!
(所々に子供向けの解説パネルがあります。とても参考になります。)
こちらは、ゲルハルト・リヒター(1932年生まれ)。
ゲルハルト・リヒター《アブストラクトペインティングCR845-5、CR845-8》 1997年 金沢21世紀美術館 |
この作品はモネの《テムズ河のチャリング・クロス橋》と見比べてみてください。全体的にモヤモヤとして、画面がオーロラのように輝いています。
左から 松本陽子《振動する風景的画面Ⅲ》1993年 倉敷市立美術館 根岸芳郎《91-3-8》1991年 個人蔵(名古屋市美術館に寄託) |
この章には、モネの作品をどのように自分のものにしていったかというテーマで現代作家の作品が展示されています。
ロイ・リキテンシュタイン(1923-1997)の《積みわら》連作。
ロイ・リキテンシュタイン《積みわら#1 #2 #3 #4#6 #6(第1ステート)》 1969年 富士ゼロックス株式会社 |
この作品は、ステンレスの上にスクリーンプリントが塗られているのですが、何も塗られていない部分はステンレスなので、鑑賞者自身が写るしかけになっています。リキテンシュタインは「反射」にこだわったのです。
下の写真右は、ルイ・カーヌの《睡蓮》です。
左から ロイ・リキテンシュタイン《日本の橋のある睡蓮》1992年 国立国際美術館 ルイ・カーヌ《睡蓮》1993年 ギャラリーヤマキファインアート |
左から 福田美蘭《モネの睡蓮》2002年 大原美術館 湯浅克俊《Light garden #1)2009年 作家蔵 |
続いて児玉麻緒(1982年生まれ)《IKEMONET》。
「イケモネです。タイトルが軽やかですね。(笑)」と学芸員の坂本さん。
作者の児玉さんは「モネは庭を耕すように描いたのでは」「美術館でもギャラリーでもどんな場所でも自分の絵が生命を放ってくれたらうれしい」とお話されていたそうです。
第4章 フレームを越えて-拡張するイメージと空間
円形の展示スペースが睡蓮の展示にこんなにぴったりくるとは!
まるでパリ・オランジュリー美術館のモネの大作《睡蓮》の展示室にいるかのように、モネと現代アートの睡蓮に取り囲まれて心ゆくまで作品を楽むことができます。
左から モネ《睡蓮》1897-98年 個人蔵、《睡蓮》1897-98年頃 鹿児島市立美術館 《睡蓮》1906年 吉野石膏株式会社(山形美術館に寄託) 《睡蓮、水草の反映》1914-17年 ナーマッド・コレクション(モナコ) |
《睡蓮、水草の反映》を見ていると、どこまでが実像で、どこからが水面に反射した虚像なのか、その境目がわからなくなって、イメージが絵のフレームの外側に広がっていきます。
そして反対側は、写真家 鈴木理策(1963年生まれ)《水鏡14、WM-77、WM-79》。
こちらも、水面に浮かぶ蓮の葉と水面に写る雲が交わっています。
鈴木理策《水鏡14 WM-77、WM-79》2014年 作家蔵 |
そしていよいよフィニッシュ。最後の展示室です。
福田美蘭(1963年生まれ)《睡蓮の池》(写真左)、そして新作《睡蓮の池、朝》。
タイトルは《睡蓮の池》ですが、睡蓮の葉に見えるのは高層ビルのレストランのガラスに写るテーブルと椅子。背景は都心のビル群です。
左から 福田美蘭《睡蓮の池》《睡蓮の池 朝》 いずれも2018年 作家蔵 |
床面の大きな作品は小野耕石(1979生まれ)《波絵》。
解説パネルにあるように、小さなつぶつぶに注目です!
小野耕石《波絵》2017年 作家蔵 |
そして最後はアンディ・ウォーホール(1928-1987)《花》。
正方形の作品なのでいくつでも重ねることができてイメージがどこまでも拡張していきます。
アンディ・ウォーホール《花》1970年 富士ゼロックス株式会社 |
さて、「モネ それからの100年」はいかがだったでしょうか。
モネの初期から晩年までの作品、そしてモネの息吹が感じられる現代アートの作品。
それぞれ見比べてみるのも一つの楽しみかもしれません。
最後に担当学芸員の坂本さんはこう締めくくられました。
「サブタイトルは『わたしがみつける新しいモネ。』。ぜひみなさんご自身のモネをみつけていただければと思います。」(拍手)
暑い夏が続きますが、ヨコハマは他にもみどころがいっぱいあります。ぜひこの機会に夏のヨコハマにお越しになってください!