2019年3月26日火曜日

府中市美術館「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」

タイトルからして「へそまがり」、サブタイトルに至っては「ヘタウマ」、それにチラシのキャッチコピーは「どこまで本気なのか?」。

アートには真剣に向き合わなくてはならないという先入観にとらわれがちな私たちに、「そんなに肩ひじ張らなくてもいいんだよ。」という「ゆる~い」メッセージを投げかけてくれるのが、すっかり恒例となった府中市美術館「春の江戸絵画まつり」の今年の展覧会なのです。

こちらが美術館入口前の看板。
親子連れがこの看板を背景にして楽しそうに写真を撮っていました。



看板を見ただけでも気軽に入ってみたくなる展覧会ですが、どんな作品が展示されているのでしょうか。
さっそく会場に入って展覧会の見どころを紹介していきたいと思います。
※館内は撮影不可です。掲載した写真は美術館で特別の許可をいただいて撮影したものです。

展覧会は四章構成になっていて、第一章は禅画のコーナーです。

第一章 別世界への案内役 禅画

さて、最初の作品は何だろうと身構えて会場に入ると、いきなり緊張感がゆるむ屏風が目に入ってきます。作者は、最近ではユニークな禅画ですっかりおなじみになった江戸時代の臨済宗の僧・仙厓義梵。

仙厓義梵《豊干禅師・寒山拾得図屏風》(幻住庵(福岡市))
前期展示

右隻には、中国・唐時代の僧、寒山と拾得。
奇行で知られた二人なので、奇妙な風貌で描かれることが多いのに、仙厓の手にかかると、吹き出してしまうほどコミカルな顔立ちになってしまいます。

仙厓義梵《豊干禅師・寒山拾得図屏風》(幻住庵(福岡市))(右隻)
前期展示

そして、左隻には二人の師で、いつも虎に乗っていたという豊干禅師や虎たちの表情もコミカル。

仙厓義梵《豊干禅師・寒山拾得図屏風》(幻住庵(福岡市))(左隻)
前期展示

冒頭からゆるいキャラクターに肩の力がスーッと抜けてきたところで次に進みましょう。

次は何が出てくるかと思ったら、なんとあくびをする布袋さん。
作者は室町時代の曹洞宗の画僧・雪村周継。
春眠から目覚めて、いかにも気持ちがよさそう。
雪村周継《あくび布袋・紅梅・白梅図》(茨城県立歴史館)
前期展示
いつものことながら、府中市美術館ならではの「お楽しみ」もあります。
はじめは、絵を見ながらクイズに答える「へそまがりたんけんたい」。
字体やイラストからして「ゆる~い」です。


入口で用紙をいただき、絵を見ながら5つの質問の答えると1階のチケット売り場で記念に絵はがきをいただくことができます。
「間違えたらどうしよう?」
心配ご無用。答は会場を出たロビーにあるので、答え合わせをしてみましょう。

雪村に続いて、いまや禅画界一のビッグネーム・白隠慧鶴。
右の2点がご覧のとおり大胆な描き方の白隠、それに対して白隠の弟子・東嶺の描く茶柄杓は師を超えてかなりシュール!茶柄杓がこんなにゆがんでいいのか?

右から、白隠慧鶴《維摩像》(大阪中之島美術館)、白隠慧鶴《布袋図》(個人蔵)、
東嶺円慈《茶柄杓図》(早稲田大学會津八一記念博物館)
いずれも前期展示

第二章 何かを超える

背景の壁の色も白から黄色に変わって、第二章では俳人たちの描いた「俳画」や、文人たちの描いた「文人画」といった、テクニックや形式にこだわった既成の枠を超えようとした作品が並んでいます。


右から、遠藤日人《猫児図》《蛙の相撲図》(いずれも仙台市博物館)、
与謝蕪村《白箸翁図》(逸翁美術館)、岡田米山人《寿老人図》(個人蔵)、
円山応挙《寿老人図》(個人蔵) いずれも前期展示

会場の所々にある「比べてみる」という青い解説パネルにも注目です(下の写真の左の絵の下)。
こちらは同じ「山水画」。
右が文人画家 佐竹逢平が描いたもので、左が円山応挙が描いたもの。自由にのびのびと描いた佐竹逢平の山水画と、円山応挙の描いたカチッとした技巧に裏付けられた山水画。どちらが好みでしょうか?

右から、佐竹逢平《山水図》(個人蔵) 前期展示、
円山応挙《山水図》(個人蔵) 前期後期とも展示



この展覧会のタイトルは「へそまがり日本絵画」なのですが、会場を先に進むとなぜかアンリ・ルソーの絵が。
アンリ・ルソーといえば、パリの入市税を徴収する税官吏を長年務め、休日に絵を描いていた「日曜画家」。木の葉っぱ一枚一枚を丁寧に描くのに全体の構成がアンバランスだったりする「ヘタウマ画家」のフランス代表。
隣の絵を見てわかったのですが、ルソーに影響を受けた日本画家、三岸好太郎の作品がそれに続くという粋な構成だったのですね。

右から、アンリ・ルソー《フリュマンス・ビッシュの肖像》(世田谷美術館)、
三岸好太郎《友人ノ肖像》《二人人物》(いずれも北海道立三岸好太郎美術館)
いずれも前期後期とも展示

さて、いよいよお殿様の絵の登場です。

これがまた、何とも言えず可愛いのです。
詳しくは「いまトピ~すごい好奇心のサイト」の虹さんのコラムに書かれています。コラム冒頭のクイズにもぜひチャレンジしてみてください。

【衝撃の破壊力】「へそまがり日本美術」展を見逃すな!

徳川家光《木兎図》(養源院(東京都文京区))
前期後期とも展示

お殿様のコーナーにも「比べてみる」の解説パネルがありました。
鳳凰が描かれた2枚の絵が並んでいます。
右は徳川家光の《鳳凰図》、左が伝 呂健の《百鳥図》。
可愛らしい家光の鳳凰と、退色しているとはいえ彩色鮮やかな鳳凰。
さてみなさんはどちらが好みでしょうか。
 
右から、徳川家光《鳳凰図》(徳川記念財団)、伝 呂健《百鳥図》(個人蔵)
いずれも前期展示

ここでも府中市美術館ならではの「お楽しみ」が役に立ちました。
出品されている画家一人ひとりについての解説です。
こちらは「展示予定表」(出品目録)と並んで入口に置いてあります。


苗字が「呂」、そして花鳥図とくれば、明時代に活躍した呂紀の関係者?
そう思ってこの「画家解説」を見ると、やはり呂紀の曽孫!
毎回これだけ詳細な解説をつくるのは大変なことだと思いますが、それぞれの画家の横顔がわかるので、いつも楽しみにしています。

第三章 突拍子もない造形

タイトルの解説は不要でしょう。さっそく作品を紹介していきます。

まずは伊藤若冲から。
顔がぬっと前に出てきている鯉、頭のやたら長い福禄寿。
右から、伊藤若冲《福禄寿図》《鯉図》
前期後期とも展示
続いて長沢蘆雪。
いくら郭子儀が子孫に恵まれたといってもここまでたくさん子どもたちを描かなくても・・・

長沢蘆雪《郭子儀図》(個人蔵(府中市美術館寄託))
前期のみ展示
近代洋画家の大胆な構図の作品もあります。

右から、村山槐多《スキと人》(府中市美術館)、児島善三郎《松》(個人蔵)
いずれも前期後期とも展示

第四章 苦みとおとぼけ

ここには綺麗とか、心地よさとの対極にある「苦み」と、立派なものとは正反対の「おとぼけ感覚」の作品が展示されています。

ようやく出てきました!これぞ寒山拾得!という奇妙な風貌の二人です。

右から、与謝蕪村《寒山拾得図》(個人蔵)、岸駒《寒山拾得図》(敦賀市立博物館)
いずれも前期展示

そしてこちらは「おとぼけ」の代表?
青木夙夜《南極老人図》(個人蔵)
前期展示

こんなにくつろいだ七福神見たことありません。
いつもは怖い顔をして睨んでいる毘沙門天も、後ろに手をついて地べたに座っています。

明誉古礀《七福神図》(奈良県立美術館)
前期展示

お持ち帰りできるお土産もあります。
掛軸模様のしおりにお好きなスタンプを押せば、オリジナルのしおりの出来上がり。


私は冒頭に展示されていた仙厓義梵の虎にしました。
(おひとり一枚限りです)

そしてもう一つお持ち帰りできるものがあります。
ロビーは撮影可なので、来館の思い出にお殿さまの絵との記念写真を撮ってぜひお持ち帰りください。



展覧会概要
会 期 3月16日(土)~5月12日(日)
 前期 3月16日(土)~4月14日(日) 後期 4月16日(火)~5月12日(日)
開館時間 10:00~17:00(入場は16:30まで)
休館日 月曜日(4/29、5/6は開館)、5月7日(火)
観覧料 一般700円(560円)、高校生・大学生350円(280円)、小・中学生150円(120円)
*カッコ内は20名以上の団体料金。
*未就学児および障害者手帳等をお持ちの方は無料。
*常設展もご覧頂けます。
*府中市内の小中学生は「府中っ子学びのパスポート」で無料。
作品の展示替えを行います。*全作品ではありませんが、大幅な展示替えを行います。
2度目は半額!観覧券をお求めいただくと、2度目は半額になる割引券が付いています(本展1回限り有効)。
関連イベントもあります。詳細はこちらをご覧ください→府中市美術館公式ホームページ

さて、「へそまがり日本美術」展はいかがだったでしょうか。
前期も「ゆる~い」感じなので、後期も期待できそうです。
「桜の便りが聞こえてきたら府中市美術館に行こう。」と誘っているのは、人気アートブロガーTakさんの青い日記帳。
ぜひこちらのブログもご覧ください→「へそまがり日本美術」

府中市美術館のある府中の森公園は桜の名所。
ぜひみなさんも桜に誘われて「へそまがり日本美術」展をご覧になってはいかがでしょうか。