2019年11月23日土曜日

山種美術館 広尾開館10周年記念特別展「東山魁夷の青 奥田元宋の赤-色で読み解く日本画-」

山種美術館では、東京・広尾に開館して10周年を記念した特別展「東山魁夷の青 奥田元宋の赤-色で読み解く日本画-」が開催されています。

展覧会チラシ


【展覧会概要】
会 期  11月2日(土)~12月22日(日)
開館時間 午前10時から午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日  月曜日(11/4(月)は開館、11/5(火)は休館)
入館料  一般 1200円ほか
展覧会の詳細はこちら→山種美術館公式ホームページ

※今回展示されている作品はすべて山種美術館所蔵です。
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。
※展示室内では同館特別研究員の三戸さんのギャラリートークをおうかがいしました。

今回の展覧会は、サブタイトルにあるとおり、色を手がかりに日本画を読み解いていく展覧会。東山魁夷の青、奥田元宋の赤をはじめ、緑、黄、黒、白、銀、金、まさに色とりどりの作品が展示されている、とてもカラフルで楽しい展覧会です。

「青」

「青」といえば、はずせないのが展覧会のチラシにもなっている東山魁夷《年暮る》。
こちらは、京都の四季を通じて日本の美を表現した連作「京洛四季」の締めくくりを飾る作品。
親交のあった川端康成に「京都は今描いといていただかないとなくなります。京都のあるうちに描いておいて下さい。」と言われたことが後押しとなって描いた連作ですが、開発が進んでマンションやオフィスビルの合間に町屋がぽつりぽつりと残っている現在ではとても信じられないほどの古風な景色が昭和40年代まではあったのです。

東山魁夷《年暮る》(1968(昭和43)年)

橋本明治《月庭》は不思議な雰囲気をもった作品。
《月庭》というタイトルですが月は描かれていません。この作品の主人公は舞妓さんたちをほのかに照らす青白い月の光なのです。
鮮やかな発色の人造岩絵具を使い、マチスやピカソの影響を受けた橋本明治。
「舞妓さんたちの無機質な表情にはピカソの影響が見られます。これは明治のオリジナルです。」と三戸さん。

橋本明治《月庭》(1959(昭和34)年)

「緑」

新緑の山の景色を連想させる「緑」。やはりこのコーナーには緑いっぱいの山の景色がありました。
石井林響の《総南の旅から のうち「仁右衛門島の朝」》です。
朝の景色だからなのでしょうか。全体的に靄のかかった感じ。緑だけでなく青く描かれた葉もあります。青緑山水の伝統を継承しつつも、大正時代に流行した南画風の、ゆるくてあたたか味のある作品です。

石井林響《総南の旅から のうち「仁右衛門島の朝」》
1921(大正10)年
画面いっぱいにひろがる草花と、蜜を求めてひらひらと舞う蝶。
色合いからして小林古径の《芥子》(東京国立博物館)を思い出しましたが、こちら戦後すぐの作品。
「このように画面のいっぱいに描く画法は戦後期に流行しました。」と三戸さん。

佐藤太清《清韻》(1947(昭和22)年)

「赤」

大作に取り組むのも80歳までが限度と考え、日展出品作とは別に、年1点、大作を描こうと決めた奥田元宋が70歳をすぎて描いた大作シリーズの第1弾がこの《奥入瀬(秋)》。
手前のケースには奥田元宋が使ったいろいろな種類の赤が展示されています。
絵の具といっしょに元宋の赤を楽しんでいただきたい作品です。
床まで「紅葉」しています!

奥田元宋《奥入瀬《秋》
(1983(昭和58)年)
こわい顔で睨みつけている鍾馗と、恐れをなして逃げる邪鬼。
こちらは幕末から明治にかけて漆芸家、画家として活躍した柴田是真の《円窓鍾馗》。
赤一色で塗られた地は表装、絵は円窓の部分を表現しているのですが、鍾馗の迫力に鬼が絵から飛び出して逃げていってしまいました。
「是真の遊び心が出ている作品です。」と三戸さん。


柴田是真《円窓鍾馗》(19世紀 江戸-明治時代)

「黄」

セザンヌなどの西洋絵画を積極的に学んだ小林古径の静物画《三宝柑》。
「黄色い三宝柑とガラスの紫色は反対色。質感の対比を際立たせています。」と三戸さん。

小林古径《三宝柑》(1939(昭和14)年)


「黒」

奥村土牛が描いた《舞妓》は、黒の質感にこだわった土牛らしい作品。
同じ黒でも着物は着物らしいなめらかな黒。
髪の毛はザラザラとした質感のある黒。これは岩絵具を焼いて黒くしたもので、髪の毛のきめの細やかさが表されています。

奥村土牛《舞妓》(1954(昭和29)年)

「白」

白といっても白色を塗ったのでなく、絹の白地をそのまま活かして雪を表現したのが森寛斎の《雪中嵐山図》。
雪を表現するのに絹の白地を活かすといえば、円山応挙《雪松図屏風》(三井記念美術館)。幕末から明治にかけて活躍した森寛斎は、応挙に学んだ森徹山の門下。
「応挙のDNAを継いでいるのです。」と三戸さん。

森寛斎《雪中嵐山図》(1890(明治23)年頃)

東山魁夷の《白い嶺》は北欧に取材旅行に行った2年後に描いた作品。
鮮やかな青の背景が針葉樹に積もった白いふわふわの雪を際立たせています。
「東山魁夷は北欧の雪景色から『青』に目覚めたのです。」と三戸さん。

東山魁夷《白い嶺》(1964(昭和39)年)

「銀」

一見のどかな初冬の農村風景のように見えますが、かつて水害と闘い続けてようやく手に入れた輪中の様子が描かれた田渕俊夫《輪中の村》。
この作品の背景の空に使われているのは、すぐに劣化する銀箔でなく、劣化しにくいアルミ箔。銀はやわらかいので、のりを付けるとすぐに平らになるのですが、糊付けすると、くしゃっとしたしわが残るアルミ箔の特性を利用してどんよりとした空を表現しています。

田渕俊夫《輪中の村》(1979(昭和54)年)

「金」

第2展示室にはきらびやかな金を使った作品が展示されています。
「金箔、金泥、金砂子など、金にはさまざなな表現方法があります。」と三戸さん。
下の写真右は全面に金箔を貼った森田曠平《出雲阿国》、左は色づいた葉を金泥で描いた小林古径《秌采》。

右 森田曠平《出雲阿国》(1974(昭和49)年)、
左 小林古径《秌采》(1934(昭和9)年)

展示室内には日本画の画材や岩絵具、箔の見本なども展示されています。

協力:谷中得応軒


協力:谷中得応軒




ミュージアムショップでは三戸さんの著書『色から読み解く日本画』が販売されています。今回の展覧会の図録ではありませんが、今回展示されている作品も多く収録されています。オールカラーで色別に日本画が紹介されていて、解説もコンパクトでわかりやすいので日本画の入門書としても最適。ぜひお手に取ってご覧になってください。

三戸信惠著『色から読み解く日本画』2018年
株式会社エクスナレッジ
定価 1,600円+税

展示作品にちなんだ和菓子も山種美術館の楽しみの一つ。
今回のラインナップは、中央が「除夜」(東山魁夷《年暮る》)、右上から時計回りに「秋の色」(奥田元宋《奥入瀬(秋)》)、「里の秋」(小林古径《秌采》)、「雪けしき」(森寛斎《雪中山水図》)、「鶴の舞」(奥村土牛《舞妓》)。(カッコ内はモチーフになった作品。いずれも山種美術館蔵)
どれも美味ですし、どれも形がよくできているので、どれか1つとなると困ってしまいますが、個人的には「秋の色」でしょうか。上に乗っている紅葉の葉がかわいいです。


ミュージアムグッズも充実。


新発売の可愛いマスキングテープやお年玉袋に使えるポチ袋などがおススメです。

マスキングテープ 400円+税
ポチ袋 380円+税

会場内は、色の表現方法や色へのこだわり、それぞれの日本画家たち個性が伝わってくる作品ばかり。
この冬おススメの展覧会です。