2019年11月15日金曜日

青い日記帳×印象派からその先へ展 in 三菱一号館美術館 -世界に誇る 吉野石膏コレクション-

東京丸の内の三菱一号館美術館では、豊富な近代フランス絵画のレパートリーを誇る吉野石膏コレクションの中から、シスレー、ルノワール、ピカソ、シャガールといったおなじみの画家たちの名品が展示されている展覧会が開催されています。

展覧会ごとに趣向を凝らした外壁のデコレーションもすっかり冬景色。
素敵な少女の微笑みがお出迎えしてくれます。

【展覧会概要】
会 期 2019年10月30日(水)~2020年1月20日(月)
開館時間 10:00~18:00 ※入館は閉館の30分前まで
(1/3を除く金曜、第2水曜、会期最終週平日は21:00まで)
休館日 月曜日
(但し、祝日・振替休日の場合、1/20、トークフリーデーの11/25と12/30は開館)
年末年始休館 12/31、1/1
入館料 一般 1,700円ほか
展覧会の詳細はこちらをご覧ください→三菱一号館美術館
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館から特別の許可をいただいて撮影したものです。

会場に入ってすぐの部屋には、コロー、ミレー、ブータンの自然の景色を描いた作品が展示されていて、
第1章「印象派、誕生~革新へと向かう絵画~」
展示風景
ピサロのコーナー、
第1章「印象派、誕生~革新へと向かう絵画~」
展示風景
シスレーのコーナーと、心がなごむ風景画が続き、
第1章「印象派、誕生~革新へと向かう絵画~」
展示風景
ルノワールやモネの展示されている広い部屋に入ります。

先日開催された内覧会では、今回の展覧会を担当された同館学芸員の岩瀬さんと青い日記帳のTakさんの楽しいギャラリートークをおうかがいしました。
ここからはお二人のご案内で展覧会の見どころを紹介していくことにしましょう。

右が岩瀬さん、左がTakさん
Takさん「はじめに紹介していただくのは、ルノワールの《庭で犬を膝にのせて読書する少女》ですね。」
岩瀬さん「この作品は1874年に制作されたものです。1874年といえば第1回印象派展が開催された年。右ひじの白い絵の具に注目です。これはハイライト的に光が当たっているところを表現したもので、当時ルノワールは木漏れ日をカンバスにどう描くか追及していました。この作品は、2年後に制作されるルノワールの代表作《ブランコ》《ムーラン・ド・ギャレットの舞踏会》(いずれもオルセー美術館)を思わせるものがあります。」

ルノワール《庭で犬を膝にのせて読書する少女》
Takさん「筆跡を残さない=完成品という当時のアカデミックな風潮とは異なる描き方ですね。」
岩瀬さん「筆の跡一つ一つを残すことによって画面全体が明るくなるという効果があります。通常は100ルクスのところ、70~80ルクスで十分明るいのです。」
Takさん「照明を落としているのですね。」
岩瀬さん「そうです。戸外で描くことを始めた印象派の画家たちがまさにねらっていたことなのです。」

Takさん「続いて、ポスターやチラシにもなっているルノワールの《シュザンヌ・アダン嬢の肖像》。」

ルノワール《シュザンヌ・アダン嬢の肖像》
Takさん「この作品は依頼されて描いたものなのですか。」
岩瀬さん「シュザンヌは、ブローニュの銀行家アダン氏のお嬢さん。ルノワールとアダン家は家族ぐるみの付き合いをしていて、北フランスにあるアダン氏の別荘をよく訪れていました。プロのモデルでなく一般の人を描いたルノワールにとっては、注文というより交流の証だったのでしょう。」
Takさん「この作品は先ほどの《庭で犬を膝にのせて読書する少女》と見比べると印象が違いますね。」
岩瀬さん「この作品は1887年に描かれたもので、今回展示している4点のパステル画のうちの1点です。」
「少し硬めの表情はルノワールの古典回帰の表れなのでしょう。一方、長い髪はパステルの黄、青、赤を塗ってつやを出して光が当たっている様子を表したり、ドレスも柔らかさを出して、全体的なバランスをとっています。」

Takさん「岩瀬さんがお嬢さんを描いてもらうとしたらどの画家に描いてもらいますか。」
岩瀬さん「そうですね。ドガではないですね(笑)。やっぱりルノワールですかね(笑)。」

ドガ《踊り子たち(ピンクと緑)》

Takさん「この大きな部屋は壁の色を変えていますが、何か意味があるのでしょうか。」
岩瀬さん「そうです。この部屋のどこかに同じ色を使った作品があるのです。ヒントは・・・言わない方がいいですね(笑)。」
第1章展示風景 壁の色が違っています
Takさん「この《箒をもつ女》には涙なしには語れない物語があります。」

ルノワール《箒をもつ女》

岩瀬さん「ルノワールは、モネやシスレーとは画塾仲間でした。その中でシスレーは他の2人と違って、経済的に恵まれず貧しいまま1899年に60歳で亡くなりましたが、その時、モネの呼びかけで開催された展覧会とオークションでルノワールが描いたのがこの作品です。」
「そこではシスレーがアトリエに残した27点の絵画と6点のパステル画も売りに出され、売り上げはシスレーの遺族に渡されました。」
「シスレー作品のうちの1点が今回の展覧会で展示されている《ロワン川沿いの小屋、夕べ》で、モネやシスレーの作品が4000フランだったのに対して、この作品は9000フランの値がつきました。」
「この2つの作品、ルノワール《箒をもつ女》と、シスレー《ロワン川沿いの小屋、夕べ》は、パリの画廊で開催された展覧会とオークションからおよそ120年ぶりに再び同じ場所で展示されることになったのです。」
シスレー《ロワン川沿いの小屋、夕べ》
Takさん「マネは印象派展には参加していませんが、印象派の画家たちにとっては尊敬すべき存在でした。」
岩瀬さん「マネはサロン(官展)で活動していましたが、どのあたりが印象派の画家たちから尊敬されたのかというと、顔は立体的に描かれているのですが、ドレスなどは早い筆さばきで平面的に描いたところなどが革新的だったことです。」

マネ《イザベル・ルモニエ嬢の肖像》

Takさん「この作品はゴッホの若いころの作品ですが、注文を受けて制作した作品ですね。」

ゴッホ《雪原で薪を運ぶ人々》

岩瀬さん「ダ・ヴィンチの《最後の晩餐》のように教会の食堂に飾るような作品との注文でしたが、ゴッホは、宗教的なものでなく、農民、四季をモチーフにした作品にします、と注文主を説得して描いたのがこの作品です。ゴッホが描きたいように描いたと言える作品ですね。」

岩瀬さん「こちらはゴッホが1886年に描いた静物画。ブルーの壁の前に補色のオレンジ色を使うあたりは印象派の影響が見てとれます。近くで見るとさまざまな色を使っているのがわかります。」
ゴッホ《静物、白い花瓶のバラ》
Takさん「他におススメの作品、見どころはありますか。」
岩瀬さん「暖炉と窓を多用したマティスの作品は暖炉と窓のある部屋に展示していますが、ここの展示は特に工夫しました。この配置は玄人(くろうと)的には結構受けているのです(笑)。」
「マティスが1920年代に古典に回帰した時代の作品や、マルクの風景画を展示している部屋はぜひご覧いただきたいです。マティスもマルクも、モローの弟子という共通点があります。」(拍手)

第2章「フォーヴから抽象へ~モダン・アートの諸相~」展示風景
右 マティス《静物、花とコーヒーカップ》
左 マルケ《コンフラン=サントノリーヌの川船》
展示はまだまだ続きます。
こちらはナチスに2回追われたカンディンスキーの作品。
第2章「フォーヴから抽象へ~モダン・アートの諸相~」展示風景
右からカンディンスキー《結びつける緑》《適度なヴァリエーション》 

カンディンスキーについては以前、いまトピのコラムで書きました。

杜の都で再会した二人の芸術家~カンディンスキーとパウル・クレー


三菱一号館美術館が誇るルドンの《グラン・ブーケ》が展示されている部屋もあります。



ルドン《グラン・ブーケ》
撮影可のコーナーもあります。



続いて、第3章「エコール・ド・パリ~前衛と伝統のはざまで~」。

ユトリロのコーナー
第3章「エコール・ド・パリ~前衛と伝統のはざまで~」展示風景
右から、ユトリロ《サン=ベルナール(アン県)の家並》、
《モンマルトルのミュレ通り》

ローランサンとキスリングのコーナー
第3章「エコール・ド・パリ~前衛と伝統のはざまで~」展示風景
右から、ローランサン《五人の奏者》《羽扇をもつ女》
キスリング《背中を向けた裸婦》 

そして、最後はシャガールの部屋で華やかにフィナーレ。

全部で72点が展示されている充実のラインナップ。さすが世界に誇る吉野石膏コレクションです。

少し早いですが、この冬にピッタリの心あたたまる展覧会をお楽しみください。