2020年1月5日日曜日

ダ・ヴィンチ没後500年「夢の実現」展

神秘的な微笑みの《ラ・ジョコンダ(モナ・リザ)》、不朽の大作《最後の晩餐》、ダ・ヴィンチの実質的なデビュー作《受胎告知》、史上最高額(508億円)で落札されて一躍その存在が知られるようになった《サルヴァトール・ムンディ》

誰もが知っているレオナルド・ダ・ヴィンチの名作がヴァーチャルで復元される!

そんな夢のような展覧会が東京の代官山で開催されています。その名も「夢の実現展」




会 期  1月5日(日)~1月26日(日) 会期中無休 入場無料
開館時間 11:00~20:30 (1/5は12:00開館、1/8は15:00閉館)
場 所  代官山ヒルサイドフォーラム(代官山ヒルサイドテラスF棟)
     東横線代官山駅から徒歩約3分
主 催  学校法人桑沢学園 東京造形大学

※展示作品は一部を除き撮影可です。 
※関連イベントも多く開催されます。詳細は公式サイトでご確認ください→「夢の実現」展-ダ・ヴィンチ没後500年記念

開会初日の今日(1月5日)開催された内覧会では、この展覧会を監修された東京造形大学教授の池上英洋さんに見どころを解説していただきました。

《ラ・ジョコンダ(モナ・リザ)》を前に
解説する池上教授
展覧会の見どころポイント

〇 ダ・ヴィンチの現存作品16点をすべてヴァーチャル復元で展示。
〇 完成に至らなかったブロンズ製騎馬像、構想していた巨大建築、当時の技術では実
 現不可能だった工学系発明品なども縮小模型や3DCGなどで実現。
〇 世界初の試みもある!
〇 《最後の晩餐》の空間もVR体験できる。

 展示作品は東京造形大学の学生さんたちが、池上教授はじめ教授陣の監修の元、1年かけて作り上げた力作ぞろい。
 受付では詳細な解説付きの冊子までいただけます。


画家であり、建築家であり、彫刻家であり、科学者であったダ・ヴィンチが目指したものは何だったのか。
展示室はいくつかの部屋に分かれています。さっそく最初の「ジネヴラの部屋」からご案内することにしましょう。

ジネヴラの部屋

この部屋に展示されている作品は、《ジネヴラ・デ・ベンチ》とその裏面。

《ジネヴラ・デ・ベンチ》
裏面
この作品の最大のポイントは、ワシントン・ナショナル・ギャラリー所蔵の原画では下部が切断されてほぼ正方形になっているものを、オリジナルの形に復元したこと。
復元にあたっては、同じモデルの大理石像やデッサンを参考にしたことなどがパネルに記載されていますので、ぜひこちらもご参照ください。


「裏面の復元は世界で初めての試みです。」と池上さん。

エンジニアの部屋

ルネサンス期のイタリアは、いくつもの小国に分かれお互いに対立していた時代。
画家として売り出そうとしていたダ・ヴィンチでしたが、30歳の時、それまで全く軍事の経験がなかったにもかかわらず、フィレンツェを離れ軍事技師としてミラノ公国に雇われます。
この部屋には、ダ・ヴィンチが残したデッサンからおこした兵器ほかの縮小模型が展示されています。


しかしながら、ダ・ヴィンチの考案した兵器は、当時のミラノ公国一国の国家予算を必要とするほどの莫大な経費がかかるものであったり、装飾的なもの、つまり、見た目はいいが役に立たないものばかりだったそうです。

「それでも研究者として見習うべき点があります。」と池上さん。

まず一つは、ダ・ヴィンチの謙虚さ。
彼が残したノートには、自分はこの分野には詳しくないので誰々に聞いた方がいい、といった記述があり、のちに有名になってからでもそういった謙虚な姿勢を持ち続けたこと。

次に、なにごとも省力化、機械化、規格化できないか考えたこと。
その一例がヤスリ製造器。
当時は今と違って、工具もネジも自分で作らなくてはならない時代。
それを機械で作ってしまおうという発想です。

ヤスリ製造器


当時は、一度動かすと永久に止まらない夢の動力「永久機関」の研究が盛んで、ダ・ヴィンチも挑戦するのですが、当然のことながらうまくはいきません。
そこで終わらないのがダ・ヴィンチのすごいところ。

運動エネルギーが減じていくのは摩擦があるからだ、摩擦を最小化すれば運動エネルギーの減少を少しでも抑えることができる、という考えにたどりついたのが世界で初めてのボールベアリング。

スラストベアリング
フィレンツェの部屋

続いて、ダ・ヴィンチのフィレンツェ時代の作品が並ぶ青が基調の部屋。



ヴァーチャル復元にあたって原画を補修する必要がなかった2点のうちの一つが、508億円の《サルヴァトール・ムンディ》。

《サルバトール・ムンディ》
反対に着色されずに放置された作品に彩色して復元したのが《聖ヒエロニムス》。

《聖ヒエロニムス》
続いて赤が基調のミラノの部屋へ。

ミラノの部屋


《ラ・ジョコンダ(モナ・リザ)》も、原画ではニスによって黄色に変色している背景の青があざやかによみがえり、表面のひび割れも修正されています。

《ラ・ジョコンダ(モナ・リザ)》
とは言っても、「ひび割れは人工的にはできないので贋作防止になる。」と池上さん。
だからというわけではないでしょうが、ひび割れもちゃんと残しています。
顔のあたりをぜひじっくりご覧になってください。

続いて建築家の部屋へ。

建築家の部屋

「ミラノ大聖堂の修繕にも係わったダ・ヴィンチですが、一人で建造した建物はなく、スケッチで彼の構想をうかがい知ることができます。」と池上さん。

こちらはビザンチン様式のモスクを意識した集中式聖堂。


ダ・ヴィンチは、キリスト教圏と対立していたイスラム教圏の強国・オスマン帝国のある東方へのあこがれを抱いていたのです。

実現すれば直径60mになろうかという大墳墓。
これも一国の国家予算に匹敵するほどの莫大な費用がかかるしろもの。
古代エジプトのファラオでなければできないような大事業でしょう。


後を振り向くと、かの有名な《最後の晩餐》の映像がバーンと映し出されているのに気がつきます。

《最後の晩餐》



メインホール

紹介が遅くなりましたが、受付で鑑賞ガイドのタブレットを貸出しています。こちらも無料です。

《最後の晩餐》は、ダ・ヴィンチが画面中央に釘を打ち、そこから紐をひっぱって収束線を引いたので、原画ではイエスのこめかみ部分に釘跡が残っているとのこと。

その収束線を再現したのが、この鑑賞ガイド。

メインホールに降りて、タブレットを《最後の晩餐》にかざすと収束線が現われてきます。



メインホールには他に《岩窟の聖母》と《東方三博士(マギ)の礼拝》が展示されています。

《岩窟の聖母》はヴァーチャル復元にあたって原画を補修しなかった2点のうちのもう1点。左のロンドン版の左右の辺には祭壇にはめられていた時の剥落が残されていますが、これがかえってリアリティを増しているように感じられます。
《岩窟の聖母》(右が第一ヴァージョン パリ版、
左が第二ヴァージョン ロンドン版)

《東方三博士(マギ)の礼拝》では、実物を見たことがなかったダ・ヴィンチが、かなり巨大に描いている動物がいます。ぜひ探してみてください。
この作品も鑑賞ガイドのタブレットをかざすとあるものが見えてきます。

《東方三博士(マギ)の礼拝》
伝統的な三脚接地の騎馬像に飽き足らず、後足だけの二脚接地の騎馬像にこだわったダ・ヴィンチ。
再現したこの騎馬像も左前脚はほとんど重さを支えていないので、実際には二脚接地。
これ以上大きいと後脚で体重を支えきれなくなるので、これがぎりぎりの大きさとのこと。
「両前脚をあげるポーズの再現は世界初の試み。」と池上さん。


完成すれば7mほどの巨大なブロンズ(青銅)の騎馬像になるはずだったのですが、ダ・ヴィンチの夢は実現することなく終わりました。
騎馬像制作のために集められた70t以上もの青銅は、鋳造の一歩手前でフランス軍がミラノに侵入したため、大砲の製造に回されてしまったのです。

第二会場

《最後の晩餐》の部屋をバーチャルで体験することができるVRコーナーもおススメです。
こちらは、実際にVRを体験している人が見ている場面。


実際に体験してみて、テーブルの上に魚が盛られた皿があるのに初めて気がついたので、メインホールの《最後の晩餐》を二度見してしまいました。


期間はわずか3週間。期間中無休で関連イベントも盛りだくさん。
15時に閉館する1月8日(水)を除き20:30まで開館しているので(入館は20:00まで)、仕事帰りに寄ることだってできます。
ダ・ヴィンチの夢が実現した空間をぜひ体験してみてください。