2020年10月28日水曜日

京都市京セラ美術館開館記念展「京都の美術 250年の夢(第1部~第3部 総集編-江戸から現代へ-)」

京都市京セラ美術館では、開館記念展「京都の美術 250年の夢 第1部~第3部 総集編-江戸から現代へ-」が開催さています。

本来であれば第1部から第3部まで3回に分けて開催される予定でしたが、コロナ禍の影響で第1部から第3部までを1回にまとめて総集編として開催されることになったリニューアルオープン記念展。
江戸時代後期の京都画壇に始まって、明治の日本画、書、洋画、工芸、大正・昭和の京都画壇、戦後から現代アートまでバラエティーに富んで、ボリュームもあって、京都美術の250年の粋がギュッと詰まった見ごたえのある展覧会です。

京都市京セラ美術館



【展覧会概要】

会 場  京都市京セラ美術館 本館北回廊 1階・2階
会 期  10月10日(土)~12月6日(日)
   前期 10月10日(土)~11月8日(日) 後期 11月10日(火)~12月6日(日)
   ※前期・後期で作品が大幅に入れ替わります。また、出展会期が限られた作品が
    複数あります。
開館時間 10:00~18:00
休館日  月曜日 ※ただし、11月23日は開館
観覧料  一般 1,600円ほか
※ 展覧会は予約優先制ですが、定員に達していない時間帯は予約なしでの当日観覧受付が可能です。入館方法、展覧会の詳細は公式サイトでご確認ください⇒https://kyotocity-kyocera.museum/



展覧会公式図録は、3部に分けて展覧会が開催される予定でしたので各部ごとに図録が作られていて、出品予定の作品も掲載されています。
もっともっとスケールが大きかった展覧会の全体像が実感できます!

第1部 第2部 2,300円+税
第3部 1,800円+税



それではさっそく展示室内をご案内したいと思います。
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真はプレス内覧会で主催者の許可を得て撮影したものです。

展示は3部構成になっています。

第1部 江戸から明治へ:近代への飛躍
第2部 明治から昭和へ:京都画壇の隆盛
第3部 戦後から現代へ:未来への挑戦



第1部 江戸から明治へ:近代への飛躍


江戸後期の絵画・書・工芸


今から約250年前の京都画壇は、百花繚乱、多士済々。
円山応挙や伊藤若冲はじめ、今でも人気の絵師たちが綺羅星のごとく輝いていました。

冒頭に登場するのは、やはりこの人。当代人気ナンバーワン(※)、円山応挙

円山応挙 重要文化財《藤花図屏風》
(根津美術館) 前期展示

円山応挙《藤花図屏風》は前期展示ですが、後期には応挙の奔放な弟子・長沢芦雪の重要文化財《龍図襖》《虎図襖》(無量寺 串本応挙芦雪館)が展示されるのでこちらも楽しみ。

そして、円山応挙と人気を二分した伊藤若冲も(※)。
10/10-10/25には《雪中雄鶏図》(細見美術館)、11/23-12/6には《糸瓜群虫図》(細見美術館)が展示されます。

第1部展示風景



※京都在住文化人の番付ともいえる『平安人物志』安永4年版と天明2年版の画家部門では、1位 円山応挙、2位 伊藤若冲でした。

そして、応挙の円山派に対して、与謝蕪村に俳諧、絵を学び、応挙と交流した四条派の祖・呉春の重要文化財《白梅図屏風》(公益財団法人 阪急文化財団 逸翁美術館 前期展示)が続きます。
夜明けの様子を表現した緑色の地が何ともいえないロマンチックな雰囲気を醸し出しています。
その隣は呉春の師・与謝蕪村の重要文化財《鳶・鴉図》(北村美術館 前期展示)。
絶妙の配置です。

第1部展示風景

11/10-11/15には、写生を重んじた応挙にライバル心を燃やし、「画を望むなら我に乞え、絵図を求めるのなら応挙がよい」と言い放った曽我蕭白の派手な重要文化財《群仙図屏風》(文化庁)が6日間限定で展示されるのですから、まさに会場入ってすぐの空間は江戸後期の京都画壇そのもの。
冒頭から最高潮に盛り上がっている展示です。

明治の日本画・書・洋画・工芸


明治に入っても京都画壇の流れは続きます。
円山派、四条派両方の流れを汲み、1880年の京都府画学校(現 京都市立芸術大学)開設に尽力するなど明治初期に京都画壇の発展に力を注いだ幸野楳嶺と、その門下で四天王と言われた菊池芳文竹内栖鳳谷口香嶠都路華香の作品が勢ぞろい。


第1部展示風景



第1部展示風景


菊池芳文《孔雀》ほか、ここに紹介した作品はすべて前期展示ですが、後期には、大胆で奔放な画風の富岡鉄齋らしい屏風《妙義山図・瀞八丁図》(布施美術館)、11/17から12/6には、幸野楳嶺とともに京都府画学校開設に尽力した久保田米僊の屏風《漢江渡頭春光 青石関門秋色》が展示されます。

明治の洋画



京都洋画界は、やはりこの方、浅井忠抜きには語れません。

第1部展示風景


日本初の官立美術学校、工部美術学校でフォンタネージに学び、東京美術学校(現 東京藝術大学)教授に就任。フランス留学後は京都に転身し、京都高等工芸学校(現 京都工芸繊維大学)教授、初代関西美術院院長を務めた浅井忠。門下には梅原龍三郎安井曾太郎ら、その後一時代を築く洋画家たちがいました(梅原らの作品は第2部に展示)。

明治の工芸


明治の工芸も逸品ぞろい。
江戸時代まで受け継がれてきた工芸は、明治に入って危機を迎えますが、明治政府の輸出促進策によって振興されました。
今では「超絶技巧」としてすっかり固定ファンを獲得した明治工芸の逸品が並びます。

第1部展示風景
 


第2部 明治から昭和へ:京都画壇の隆盛


大正・昭和の日本画・書


明治から昭和にかけての京都画壇の重鎮といえば、やはりこの方、「東の大観、西の栖鳳」と並び称された竹内栖鳳ではないでしょうか。

第2部のタイトルにあるとおり、この時期の京都画壇も盛り上がり、「百花繚乱、多士済々」。
西村五雲土田麦僊上村松園小野竹喬村上華岳はじめ栖鳳門下の画家たちを中心に、新たな日本画表現に挑む画家たちの作品40点近くが前期後期で展示されます。


中でも特に目を引いたのは、小野竹喬《海島》(笠岡市立竹喬美術館 前期展示)や千草掃雲《上賀茂の初夏》(京都国立近代美術館 前期展示)といった、西洋絵画の影響を受けて、はっきりとした色合いで描かれた風景画。
まるでここに窓があって、部屋の中から外の景色を眺めているようです。

第2部展示風景

当時、日本画のジャンルの中でも人気を博した「美人画」の上村松園《娘》(松伯美術館)は10月25日までの展示。10/27-11/8には《夕暮》(京都府立鴨沂高等学校)が同じく期間限定で展示されます。


第2部展示風景


大正・昭和の洋画・彫刻


洋画界も盛り上がっています。
第1部で紹介した浅井忠の弟子たち、梅原龍三郎安井曾太郎らの作品が並びます。
日本史の教科書で必ず見る麗子像も。こちらは、岸田劉生が娘麗子をモデルにした連作のうちの一つ《童女図(麗子立像)》(神奈川県立近代美術館 通期展示)。
油彩画は第1部から第3部まで、できるだけ多くの作品を来館者にお見せしたいとの趣旨から、ほとんどが通期展示。ぎっしり詰まったこの密集感がいいです。

第2部展示風景

一方で、京都に住み、独自のシュルレアリスム世界を探求し続けたのが北脇昇
独活(ウド)が挨拶をするという不思議な光景の《独活》(東京国立近代美術館 通期展示)が展示されています。

第2部展示風景

明治末から大正期の工芸


1900年(明治33年)に開催されたパリ万国博覧会に日本の美術界は総力を挙げて作品を出品しましたが、当時はアールヌーヴォーが隆盛していた時。日本の工芸は時代遅れとされて評価は芳しくありませんでした。
そこでパリから帰国後、アールヌーヴォーや琳派の影響を受けた浅井忠らが絵付や図案を手掛けた工芸作品が作られました。


第2部展示風景



続いて、琳派の影響を受けた京都の工芸図案家、神坂雪佳図案の工芸作品が並びます。

第2部展示風景



第2部の明治末から大正期の工芸作品は、第1部で紹介した明治の工芸と並んで、横に長い展示ケースにずらりと展示されているので(呉春《白梅図屏風》他が展示されている展示ケースの向かい側)、明治から始まって、大正期までの工芸の流れが一目でわかる展示になっています。

連続していませんが、上で紹介した3枚の写真を並べてみました。




昭和初期の工芸


昭和初期の京都の工芸界の大きな動きの一つは、明治40年(1907)に創設された最初の官展、文展(文部省美術展覧会)が大正8年(1919)に帝展(帝国美術院展覧会)に移行した後、昭和になって工芸部門が新たに設けられたこと。
京都からも陶芸をはじめ多くの作品が出品されました。

そしてもう一つの動きは、河井寛次郎らが進めた、民衆の日用品の中に美があるとする「民藝運動」。
明治から大正期までの工芸作品と同じく、昭和初期の工芸も横に長い展示ケースに逸品がずらりと展示されています。


第2部展示風景




第3部 戦後から現代へ:未来への挑戦



日本画


日本画のコーナーは、戦後、「日本画滅亡論」まで出てくる危機的な状況の中、新たな境地を切り開いた画家たちの作品が展示されています。

はじめに、福田平八郎堂本印象徳岡神泉ら、戦前から活躍した画家たち。
福田平八郎《新雪》(大分県立美術館 前期展示)、徳岡神泉《雨》(静岡県立美術館 通期展示)のように対象の抽象化が進んでいるのが特徴です。

第3部展示風景

そして、寺院の障壁画、ヨーロッパの風景画と大きく画風を変えて見る人を驚かせた堂本印象の抽象画の《交響》(京都府立堂本印象美術館 通期展示)も。

第3部展示風景



続いて、三上誠山崎隆ら京都の若手日本画家が日本画の可能性を求めて結成した「パンリアル美術協会」の画家たちの作品群。
大野俶嵩は、従来の岩絵具の殻を破り、麻袋用の布を使った作品《コラージュ No.21(コンポジション)》(京都市美術館 通期展示)を制作しています。

第3部展示風景



洋画・彫刻・版画


西洋絵画のコーナーで私たちを迎えてくれるのは、第2部でも紹介したシュルレアリスムの北脇昇が戦後に描いた《クォ・ヴァディス》(東京国立近代美術館 通期展示)。

荷物の入った袋を肩に立つ後ろ姿の男性。
「どこへ行くのか?」という作品のタイトルどおり、左右に分かれる標識を前に、大勢の人が向かっている青空の方に行こうか、誰も向かっていない嵐の方向に向かっていこうか迷っている様子。
昭和24年に描かれたこの作品は、戦後の混乱期に日本がどこに向かっていくのか、さまよっている姿を映し出しているようです。

第3部展示風景

戦前からの巨匠、梅原龍三郎安井曾太郎須田国太郎も健在です。

第3部展示風景


工芸


広々とした工芸の展示コーナーに入ると、1970-80年代に新たに出てきた、立体的な繊維造形(ファイバーワーク)の作品群。
素材が繊維なのでぬくもりを感じさせてくれます。

第3部展示風景


現代美術


最後は、1980年代以降の現代美術の作品が壁面や床、さらには壁の上の方まで展示されている展示室。


第3部展示風景


第3部展示風景

まるでタイムマシンに乗ったかのような、江戸後期から巡ってきた京都美術250年の旅もここまでですが、「この先に何があるのだろう」と、これからの京都美術の展開を期待させてくれる展示で終わります。

新たに出発した京都市京セラ美術館。
スタートとなった展覧会で、ぜひ京都の美術の夢をご覧ください!