山梨県立美術館では11月3日(火・祝)まで特別展「クールベと海 フランス近代 自然へのまなざし」が開催されています。
今回の特別展は、全国各地の美術館のコレクションを中心に30点近くのクールベ作品、さらにターナーやブーダン、モネはじめ日本でもよく知られた画家たちが描いた海や海岸など、全部でおよそ70点の作品が一度に見られる、とても内容の充実した展覧会です。
展覧会概要
会 場 山梨県立美術館(山梨県甲府市)
会 期 9月11日(金)~11月3日(火・祝)
開館時間 午前9:00~午後5:00(入館は午後4:30まで)
休館日 月曜日(11月2日は開館)
観覧料 一般 1,000円ほか
新型コロナウィルス感染症予防対策、展覧会の詳細は同館公式サイトでご確認ください⇒https://www.art-museum.pref.yamanashi.jp/
「クールベと海」チラシ(表と裏)
それではさっそく展示室内をご案内していきましょう。
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は同館から提供いただいた広報用画像です。
甲府に国内のクールベ作品が大集結!
展示を見てはじめに驚いたのは、国内の美術館が所蔵するクールベ作品が質・量ともに充実していること。
地元・山梨県立美術館はもちろん、北は山形県の山寺後藤美術館から、国立西洋美術館、千葉県立美術館、茨城県近代美術館、西は島根県立美術館、ひろしま美術館、愛媛県美術館まで、国内各館のクールベ作品が大集結しているのです。
コロナ禍の影響で、今では海外作品中心の展覧会の開催は難しく、国内の美術館といっても、アートを巡る旅というのも時にはいいのですが、さすがに全部の美術館を回っている時間はありません。
今回の特別展「クールベと海」のように、一人の画家、あるいは一つのテーマで、国内の美術館が所蔵する作品を集めた展覧会を開催してもらえるのは本当にありがたいことです。
岩のようにごつごつした波
クールベ(1819-1877)といえば「海」、うねるような「波」というイメージがあって、特別展のタイトルも「クールベと海」なのですが、実はクールベが生まれたのは、スイス国境に近いフランス西部の山や森に囲まれたフランシュ=コンテ地方の小さな町オルナン。
裕福な地主の家に生まれたクールベは、1840年に画家をめざしてパリに出て、その後、フランス北部のノルマンディーで初めて海を見たのです。
広々とした海原、ひゅーと吹き続ける風の音、絶え間なく続く波の音、そして潮の香り。
波は海岸に打ち寄せて消えてしまうものなのですが、クールベの波はモニュメントのようにがっちりして、岩のようにごつごつしています。クールベが初めて海を見た時の驚きや感動が作品から伝わってくるようです。
ギュスターヴ・クールベ《波》 1869年 ふくやま美術館蔵 |
エトルタの海岸を描いた作品では、夕日に映える海は穏やかですが、象の鼻のような岩ががっちりと描かれています。
ギュスターヴ・クールベ《エトルタ海岸、夕日》 1869年 新潟県立近代美術館・万代島美術館蔵 |
以前、モネが同じエトルタの景色を描いた作品を見たのですが、やはりモネらしく、おだやかな海岸の印象をもちました。
モネの描いた海の作品も2点展示されています。
社交の場としての海岸を、多くの人物を入れて描いたブーダンの作品などとあわせて、少し後の世代の画家たちが描いた海と比べられるのも今回の特別展の楽しみの一つです。
森や山、岩に囲まれたクールベの故郷
波や海だけでなく、クールベが故郷を描いた作品も多く展示されています。
中でも印象的だったのは、見る人を圧倒するような岩山、その下にひっそりとたたずむ集落、穏やか流れの小川。
《フランシュ=コンテの谷、オルナン付近》
1865年頃 茨城県近代美術館蔵
水車小屋や農場の景色、那智の滝を思わず想像してしまうような滝を描いた作品も展示されています。
まるでオルナンの町や周囲の自然の中を歩いているような気分が味わえる空間です。
クールベが描く雪景色、狩猟
「海」や「波」と並んでクールベ作品のイメージは「雪景色」と「狩猟」。
自分でも森の中で狩猟をして、獲物や厳しい自然と対峙したクールベならではの作品といえるでしょう。
ギュスターヴ・クールベ《雪の中の鹿のたたかい》 1868年頃 ひろしま美術館蔵 |
1855年に開催されたパリ万国博覧会に作品を送りつけたのに審査員によって出展を拒否され、それに怒ってわざわざ万博会場の向かいの建物を借りて個展を開いたクールベ。
1871年のパリ・コミューンに参加して、投獄されたのちにスイスに亡命してそこで客死したクールベ。
時代に反逆したクールベですが、描いた作品には自然に対する畏怖、尊敬のまなざしが感じられます。
特別展のキャッチコピーも「山国育ちの反逆児が出会った海」。
まさに山に囲まれた甲府の地で開催されるのにふさわしい展覧会。
残りの会期もわずかになってきましたが、11月3日(火・祝)の文化の日まで開催されていますので、ぜひご覧ください。
ミレー館はじめコレクション展も見逃せない!
山梨県立美術館といえば、《種をまく人》はじめジャン=フランソワ・ミレーのコレクションでよく知られています。
ミレーやバルビゾン派の作品が展示されているミレー館はじめコレクション展も充実の内容。
コレクション展のみの料金は一般520円ですが、特別展とセットになったお得なチケットがあります。
⇒ パスポート(コレクション展+特別展) 一般1,260円ほか
そしてテーマ展示室は、秋にちなんだ絵画が展示されていて、日本画のコーナーは「野口家コレクション」の後期展示(10/20-12/6)。
野口家とは、幕末から明治大正期に活躍した日本画家で、1904年に女性として初めて帝室技芸員を拝命した野口小蘋が嫁いだ先。
野口小蘋や師の日根対山はじめ、さすがに逸品ぞろいです。
コレクション展の作品リストは同館公式サイトからダウンロードできます⇒https://www.art-museum.pref.yamanashi.jp/
ミレーの《種をまく人》と《落ち穂拾い、夏》は海外での展示を好評のうちに終えて無事に帰国したところ。
せっかくの機会なのでぜひコレクション展もあわせてご覧ください。