2020年11月17日火曜日

SOMPO美術館「東郷青児 蔵出しコレクション~異国の旅と記憶~」

今ではすっかり西新宿のランドマークとして定着した巨大な白亜のオブジェ「SOMPO美術館」。

SOMPO美術館外観

今年7月に新装オープンしたSOMPO美術館の開館記念展「珠玉のコレクション-いのちの輝き・つくる喜び-」に続く第2弾は「東郷青児 蔵出しコレクション~異国の旅と記憶~」

もとは安田火災とゆかりの深かった東郷青児のコレクションを常設する美術館として1976年に安田火災海上(現在の損保ジャパン)本社ビル42階に「東郷青児美術館」として誕生した同館にとって、今回はまさに出発点に立ち返った展覧会。

今まで開催された展覧会でも同館所蔵の東郷青児作品は見ているのですが、今回は普段あまり公開されることのない作品が多く出てくる「蔵出しコレクション」。
さて、どんな作品が蔵から出てくるのか楽しみです。

【展覧会概要】

会 期  2020年11月11日(水)~2021年1月24日(日)
休館日  月曜日(ただし11月23日、1月11日は開館)
     年末年始(12月28日(月)~2021年1月4日(月))
開館時間 午前10時~午後6時(入館は閉館30分前まで)
観覧料
 一般 1,000円、大学生 700円、高校生以下 無料 障がい者手帳をお持ちの方 無料
※本展は日時指定入場制です。事前に日時指定のオンラインチケットをご購入ください。入場無料の方もオンラインによる日時指定をお願いします。

展覧会の詳細、チケット購入方法、新型コロナウィルス感染拡大防止対策等については美術館の公式サイトでご確認ください⇒SOMPO美術館


展覧会チラシ


館内は、ゴッホ《ひまわり》ほか9作品は撮影可(フラッシュ不可)ですが、その他は撮影不可です。掲載した写真は内覧会で美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。
(撮影可の作品の写真には「撮影可」とキャプションに記載しました。)

さて、今回の展覧会は6章構成になっていて、アトリエの再現に始まり、初期の前衛的な作品から、フランス滞在時の人物画や風景画、「青児美人」と言われたモダンな美人画、青児には珍しい男性の肖像画、晩年の彫刻や厚塗りの試みなど、作品や写真、関連資料などを通じて東郷青児の画風の変遷をたどりながら、いつの間にか青児ワールドに入ることができる展示構成になっています。

東郷青児になじみのない方でもスーッと入ることができる展示構成です!


展覧会の構成
 第1章 1920年代のフランス(1921-28)
 第2章 モダンボーイの帰国(1928-35)
 第3章 イメージの中の西洋(1935-59)
 第4章 戦後のフランス(1960-78) (1)リアルなフランス体験 (2)二科の交換展と受章
 第5章 異国の旅と蒐集品(1960-78)
 第6章 当館の設立と新たなる旅(1976-78)


そして、年代順に青児の画風の変遷をたどりながら、20歳代に留学したフランスに始まり、ヨーロッパ各地、中東、北アフリカ、南米など、世界各地を旅して、そこで青児が見た人物や風景の作品を見ながら、エキゾチックな旅の追体験ができるのも今回の展覧会の魅力の一つ。

世界各地の人物や風景を見て海外旅行気分が味わえる!


5階展示室に入ってすぐは導入ゾーン
入口左には東郷青児のアトリエが再現されています。
展示されているトランク、イーゼル、パレット、絵筆などは実際に青児が使っていたものなので、まるで本物のアトリエにいるような気分。

東郷青児のアトリエ再現
撮影可


続いて正面を見ると、18歳の時に描いた作品《コントラバスを弾く》(1915年)と、翌年の二科展に出品していきなり二科賞を受賞したこの作品を前にポーズを決める東郷青児(下の写真左から)。
「僕の作品どう?」

どちらも撮影可

東郷青児といえば、「東郷様式」と呼ばれたモダンな女性像が思い浮かびますが、初期の東郷青児の「未来派風」の前衛的な作品も実は魅力的なのです。
初めて見たのは「東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館」時代の2017年に開催された「生誕120年 東郷青児展」でした。この時は青児の生まれ故郷にある鹿児島市立美術館から多くの初期作品が出品されたのをよく覚えています。

《コントラバスを弾く》(1915年)
撮影可

第1章「1920年代のフランス(1921-28)」に展示されているのは、青児の最初のフランス留学時代に描いた風景画や女性たち。

第1章展示風景


《南仏風景》は、在仏中に体調を崩して1ヶ月ほど保養のためすごした南仏の町を描いた作品。
キュビズムやシュルレアリスムの影響と言ってしまえばそれまでですが、不自然にゆがんだ建物や木を見ていると、異郷の地で体調がよくないときに不安げに窓の外を見るとこのように見えるのかもしれません。

《南仏風景》(1922年)
撮影可


第2章 モダンボーイの帰国(1928-35)にはどこかで見たことのある絵が出てきます。


第2章展示風景

そうです、SOMPO美術館のロゴマークになっているのが上の写真中央の《超現実派の散歩》(1929年)に描かれた、宙に浮いて月を捉えようとする人物なのです。

美術館前の案内看板

まだこの頃は、フランス仕込みのシュールな雰囲気が残っていますが、第3章 イメージの中の西洋(1935-59)になるといよいよおなじみの「青児美人」が登場してきます。 


第3章展示風景

1950年代の女性ファッションを象徴するギュッと絞ったウェストの女性を描いた《赤いベルト》。

《赤いベルト》(1953年)
撮影可

戦後になって、まだ海外への渡航が制限されていた時代に、多くの人が憧れる「西洋」の明るいイメージを描いた青児ですが、それだけではありませんでした。
第4章 戦後のフランス(1)リアルなフランス体験では、植民地の独立戦争などで疲弊したフランスの、特に農村部の困窮に衝撃を受けた青児は、その悲惨な状況を作品に残しています。

第4章展示風景

寒さに凍える少女を描いた《子供》(1960年)や物思いにふける女性を描いた《慕秋》(1960年)、おそらく息絶えたであろう娘を力なく見つめる母親と、こちらに鋭い視線を向ける姉を描いた《貧しき子》(1963年)(上の写真右から)からは、インドシナ戦争(1946-54年)からアルジェリア独立戦争(1954-62年)まで長い間続いたフランスの植民地をめぐる戦争の悲惨さが痛いほど強く伝わってきます。


戦後、東郷青児は二科展の中心人物として、パリの美術団体サロン・ドートンヌで二科展を開催するなど海外の美術団体との交流を進めました。
第4章 戦後のフランス(1960-78)(2)二科の交流展と受章では青児が展覧会のためにパリに送った作品が展示されています。
この時期になるとおなじみの青児美人のオンパレード。見る人を安心させてくれます。

第4章展示風景

第5章 異国の旅と蒐集品(1960-78)に展示されているのは、今までの東郷青児展ではあまり見ることがなかった異国の地の風景を描いた作品群。コロナ禍で思うように海外に行かれる時期ではないからこそ、心にじわーっとしみ込んでくる作品ばかり。

砂漠に立つ孤高の男性や、世界各地で見かけた女性たち。

第5章展示風景

上の写真右の《赤い砂》(1967年)もそうですが、男性を描いてもこれが東郷青児の作品とすぐにわかる「青児様式」。

こちらも青児にしては珍しい男性の肖像画《タッシリの男》(1972年)。

《タッシリの男》(1972年)
撮影可

サハラ砂漠中央にある先史時代の壁画で知られた世界遺産タッシリ・ナジェール遺跡に青児が訪れたのは70歳代なかば。この旺盛な行動力を見習いたい!

晩年にも「青児美人」は健在です。

《女体礼賛》(1972年)
撮影可


新たな試みがブロンズ像《日蝕》(1976年)。

《日蝕》(1976年) 撮影可

1972年の二科展に彫刻を出品した青児がこの《日蝕》を制作したのは80歳近くになっていました。
そして、絵画でも新たな試みに挑戦しています。
第6章 当館の設立と新たなる旅(1976-78)に展示されている作品は、晩年に試みた厚塗りの《貴婦人》。


《貴婦人》(1976年) 撮影可

功成り名を遂げても満足することなく、いつまでも新たな表現方法を追求し、制作意欲旺盛な東郷青児の生きざまを見ていると、「こちらも頑張らなくては」と思い、元気をもらったような気分になりました。


収蔵品コーナーも健在です

最後はゴッホの《ひまわり》をはじめとした豪華な収蔵品のコーナー。
今回はうれしいことにこの《ひまわり》が撮影可!

ゴッホ《ひまわり》(1888年) 撮影可


今回の展覧会では撮影可の作品がこの《ひまわり》のほか9点ありますが、どれも鑑賞者優先でフラッシュ撮影や人物を入れての撮影は不可など注意事項があります。
そして《ひまわり》も自分を入れる記念撮影は禁止で、撮影する場所も決められています。
撮影マナーを守って楽しく作品を鑑賞したいですね。

《ひまわり》の前のフォトスポットの表示