毎年楽しみにしている藝大コレクション展が始まりました。
そのうえ今年はⅠ期とⅡ期に分かれて開催されるので、一年で二度おいしさを味わうことができるという、うれしい年。
どちらも見逃すわけにはいきません。
現在開催されているのは、Ⅰ期「雅楽特集を中心に」。
先日開催された報道内覧会に参加しましたので、さっそく展覧会の様子をご紹介したいと思います。
展覧会概要
会 場 東京藝術大学大学美術館 本館 展示室1
会 期 2021年7月22日(木・祝)~8月22日(日)
休館日 月曜日、8月10日(火) ※ただし、8月9日(月)は開館。
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
観覧料 一般 440円ほか
※本展は事前予約制ではありませんが、今後の状況により、変更及び入場制限等を実施する可能性がございます。
※展覧会の詳細等につきましては、同館公式サイトでご確認ください⇒東京藝術大学大学美術館
展示構成は次のとおりです。
名品Ⅰ (主に天人、天女の作品が展示されています。)
雅楽特集 舞楽
雅楽特集 奏楽する供養菩薩
雅楽特集 雅楽の楽器と絵画作品
名品Ⅱ 夏の名品 (小倉遊亀のほのぼのとした作品《径》ほかが展示されています。)
※展示室内は、入口すぐの撮影OKゾーンを除き撮影不可です。掲載した写真は内覧会で美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。
※ 写真を掲載した作品は、注記のあるもの以外は東京藝術大学所蔵です。
撮影OKゾーンから撮った写真はこちらです。
手前 竹内久一《伎芸天》明治26年(1893) 奥 巨勢小石《伎芸天女》明治23年(1890) |
展示室入口でお出迎えしてくれるのは、色彩豊かな衣装に身を包んだ「伎芸天」の彫刻と、「伎芸天女」の絵画。
伎芸天は、その名のとおり諸芸の神様なので、まさに今回のテーマにふさわしい展示です。
続いて、国宝《絵因果経》。
この《絵因果経》は天平時代(8世紀後半)のもので、下段には「過去現在因果経」の経文が記されていて、上段にはその内容が描かれているのですが、登場する仏様やお坊さんたちのゆるやかな表情を見ると気分がなごんできて、とても親しみのもてるお経なのです。
今回は雅楽特集にちなんで飛天が琵琶を演奏している場面が展示されているので、見ていると作品から厳かな音色が聞こえてくるような気がしてきます。
絵の中に描かれたさまざまな雅楽の楽器の調べに耳を傾けるのも今回の展覧会の楽しみの一つかもしれません。
絵の中に出てくる雅楽の楽器を探してみよう!
雅楽の楽器には、鞨鼓(かっこ)、太鼓、鉦鼓(しょうこ)などの打楽器、笙(しょう)、篳篥(ひちりき)、龍笛(りゅうてき)などの管楽器、琵琶(びわ)や箏(そう)などの弦楽器があります。
《當麻曼荼羅縁起 下巻》(模本)では、阿弥陀如来とともに現れた供養菩薩が、めいめい楽器を奏でながら現れる場面が描かれています。管楽器や太鼓など藝大コレクションにある楽器も描かれているので、ぜひ見比べてみてください。
雅楽の楽器の中でも琵琶は、特におなじみの楽器ではないでしょうか。
琵琶とともに琵琶を弾く人物を描いた作品も展示されています。
平経正は、平清盛の異母弟・平経盛の長男。琵琶の名手で知られ、和歌にもすぐれていましたが、一ノ谷の戦いで敗死しました。
この作品は、木曽義仲討伐の途上、戦勝祈願のために訪れた竹生島で琵琶に向かった場面を描いたものです。琵琶を弾く前に気持ちを落ち着かせながら調弦しているところなのでしょうか。
下の写真右は経政(平経正)が竹生島で琵琶を弾いていると、あまりの音色の良さにつられて龍が現れたという場面が描かれています。
作者は歴史画を得意とし、大和絵復興に力を注いだ小堀鞆音(1864~1931)。門下には安田靫彦、川崎小虎らがいました。
右 小堀鞆音《経政詣竹生島》明治29年(1896) 左 後藤浪吉《重衡》明治35年(1902) |
左は、平清盛の五男・重衡が琵琶を弾いている場面。
重衡は文武を兼ね備えた人物で、武将としても源平合戦で活躍しました。
南都の僧兵との戦いの中で興福寺・東大寺の伽藍を焼失させたことが原因となって南都の恨みを買い、一ノ谷の合戦で捕らえられたあと鎌倉に護送されたのですが、南都の要求で奈良に送られ斬首されました。
この場面は、千手の前(源頼朝の侍女)の箏の音色に惹かれ、その後の自分の運命を悟ったかのように、静かに琵琶を弾く姿が描かれています。
そして、こちらは鍋や釜、箏や琵琶が妖怪に化けて練り歩く《百鬼夜行絵巻》。
琵琶の妖怪が箏の妖怪をまるでペットのように引っ張っている場面が展示されています。
絵の中の舞楽「陵王」を探してみよう!
展示室中央には彩り鮮やかな舞楽の衣装と面が展示されています。
「陵王」は、中国・南北朝時代の北斉(550-577)の蘭陵王が、その美貌を隠すため仮面をつけて戦いに挑んだという故事に由来する舞楽で、そのひときわ目立つ衣装と面をご覧になられた方も多いのではないでしょうか。
そこで、作品の中の「陵王」に注目してみることにしました。
まずは、さきほど《経政詣竹生島》で紹介した小堀鞆音《蘭陵王》。
小堀鞆音《蘭陵王》明治時代(20世紀) |
こちらは彫刻と画帖。
そして圧巻が、土佐光信 伝原作《舞楽屛風》(模本 制作年・制作者不詳)。
12枚の紙面には「陵王」はじめ23種類の舞楽の舞人に加え、数多くの楽器が描かれています。修復が終わったばかりのもので、今回が初公開です。
土佐光信 伝原作《舞楽屛風》(模本)制作年・制作者不詳 |
今回も作品の詳しい解説付きのパンフレットが展示室入口に用意されていますので、ぜひパンフレットの解説を見ながら一つひとつの舞楽の場面をご覧ください。
(パンフレットは無料。在庫がなくなり次第終了。)
天人も衰えるという「天人の五衰」を題材にした作品ですが、水面に映し出された天人の顔は描かれていません。見る人の想像に任せたのでしょうか。
春草が、岡倉天心に従って、横山大観、下村観山らとともに東京美術学校(東京藝術大学の前身)を退任する前年の作品です。
そしてこちらは特別出品、昭和天皇立太子礼奉祝記念《御飾時計》。
最上部に雅楽の舞人をあしらった《御飾時計》は、大正5年(1916)の昭和天皇の立太子礼の際に東京美術学校、東京府立工藝学校、尚工舎時計製造所(シチズン時計株式会社の前身)などにより製作され、大正10年(1921)に東京市(当時)から献上されたもので、このたび藝大文化財保存学専攻保存修復工芸研究室とシチズン時計が行った3年がかりの修復が完了して、展示されることになりました。
3階展示室ではSDGs×ARTs展が同時開催中。観覧無料・予約不要です。
期間は8月31日(火)まで。
次回展「藝大コレクション展2021 Ⅱ期 東京美術学校の図案ー大戦前の卒業制作を中心に」も楽しみです。