東京墨田区のすみだ北斎美術館では特別展「THE 北斎ー冨嶽三十六景と幻の絵巻ー」が開催されています。
こちらは、4階展望ラウンジの撮影スポット。
遠くに「冨嶽三十六景」の赤富士(「凱風快晴」)と、手前には大波(「神奈川沖浪裏」)、波に揺られているのは、幻の絵巻「隅田川両岸景色図巻」の新吉原での遊興の場面。
そしてキャッチコピーは、極上の北斎、揃えました。
今回の見どころの一つは、北斎の三大錦絵シリーズ「冨嶽三十六景」「諸国名橋奇覧」「諸国瀧廻り」が前期後期ですべて見られること。そして、約100年のあいだ行方不明だった幻の絵巻「隅田川両岸景色図巻」が約5年ぶりに展示されること。
まさに極上の北斎が楽しめる展覧会なのです。
のちほど紹介しますが、「サプライズ」もありますので、ぜひ前期後期ともお越しいただいて、お楽しみください。
展覧会概要
会 期 2021年7月20日(火)~9月26日(日)
前期 7月20日(火)~8月22日(日)
後期 8月24日(火)~9月26日(日)
※前後期で一部展示替えを実施
休館日 毎週月曜日
※開館:8月9日(月・振休)、9月20日(月・祝)、休館:8月10日(火)、9月21日(火)
開館時間 9:30~17:30(入館は17:00まで)
観覧料 一般 1,200円ほか
※展覧会の詳細、新型コロナウイルス感染症拡大防止策等については同館公式サイトをご覧ください⇒すみだ北斎美術館
※展示作品は、〈葛飾北斎「桜に鷹」ほか四面版木火鉢〉(個人蔵 すみだ北斎美術館寄託)以外は、すべてすみだ北斎美術館所蔵品です。
展示は4章構成になっています。
第1章 冨嶽三十六景のすべて
第2章 橋と滝の絶景
第3章 花と鳥、虫たちの楽園
第4章 幻の絵巻 隅田川両岸景色図巻
※特別展の展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は、プレス内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。
第1章 冨嶽三十六景のすべて
今回は前後期で《冨嶽三十六景》の46図すべてをご覧いただくことができますが、特に注目したいのは、テーマごとに6つの節に分類された展示方法です。
1 空間を構成する
第1章展示風景 |
多くの人が往来する日本橋から、遠くに行くにしたがって狭まっていく川の向こうに江戸城の櫓と富士山を臨んだ場面が描かれてます。
北斎は西洋絵画に用いられる遠近法も研究していたのです。作品の左のパネル解説もぜひご覧ください。
2 〇×△で作られた世界
あらためて〇や△を意識して北斎作品を見てみると、意外と見つかるものです。
こちらは、浅草本願寺の大屋根と富士山の二つの三角形が並んでいます。
こちらは丸い桶の中から見える三角の富士山。
葛飾北斎「冨嶽三十六景 尾州不二見原」 前期展示 |
西洋の遠近法を意識したり、〇や△を探したりする面白さもありますが、細部まで見ていろいろな人やものを発見するのも北斎作品の楽しみの一つ。
今回は、作品を見ながら答を探すクイズ「THE北斎 探してみよう🔍」が用意されているので、ぜひトライしてみてください。
意外と簡単に答は見つからないかもしれません。
答は展示室出口付近にあります。
版ごとの違いが見比べられますが、中でも注目は今回が初公開の「冨嶽三十六景 山下白雨(変わり図)」。山裾に浮かんでいるように松林が描かれています。
葛飾北斎「冨嶽三十六景 山下白雨(変わり図)」 前期展示 |
4 形のないものを捉える
形のないものというと、思い浮かぶのが声や音。
「冨嶽三十六景 駿州大野新田」に描かれているのは、牛や農夫・農婦たちと背景の富士山。どれも形のあるものばかりですが、よく見ると画面中央から左に5羽の白鷺が飛び立っているのに気が付きます。
鳥たちが羽ばたくバタバタバタッという響きが聞こえてきそうな作品です。
葛飾北斎「冨嶽三十六景 駿州大野新田」 前期展示 |
5 イリュージョンを仕掛ける
よく見てみると「あれっ」と思うのが「冨嶽三十六景 甲州三坂水面」。
実際の富士山は夏の姿なのに、湖面に映る逆さ富士は雪化粧。
北斎は何のためにこのような作品を描いたのでしょうか。当時の浮世絵ファンをあっと驚かせるためだったのでしょうか。
不思議な作品ですが、それだけに気になる作品です。
6 超絶表現
この節では、絵師、彫師、摺師の技術が一体となって生まれる木版画の超絶表現の醍醐味が味わえる作品が展示されています。
薄い紅のグラデーション(「ぼかし摺り」)に、空摺(からずり)の凹凸で丸点の花弁を表した桜の花のふわっとした感じがよく出ているのが、「冨嶽三十六景 東海道品川御殿山ノ不二」。
「冨嶽三十六景 東海道金谷ノ不二」では、「箱根八里は馬でも越すが越すに越されぬ大井川」と詠まれた東海道の難所、大井川の川越しの様子が描かれていますが、B4サイズほどの小さな画面の中に描かれた人数は、なんと120人以上。
細かな人物の描写も、うねるような川の流れの表現も見事に表現されています。
第2章 橋と滝の絶景
第2章では、「冨嶽三十六景」に続いて出版された「諸国瀧廻り」と「諸国名橋奇覧」の作品が紹介されています。
1 ふしぎな橋の構図
はじめに、現在のところ11図が確認されている「諸国名橋奇覧」から。
前期後期で11図すべて見ることができます。
『伊勢物語』で知られた八橋は、構図も不思議ですが、平安時代中頃には失われたはずの八橋の上を江戸時代の旅人たちが渡っているという、時空を超えたシチュエーションも不思議な作品。北斎の想像力のたくましさを感じます。
葛飾北斎「諸国名橋奇覧 三河の八つ橋の古図」 前期展示 |
2 水のかたちを捉える
続いて全8図からなると考えられている「諸国瀧廻り」。
こちらも前期後期で8図すべてを見ることができます。
「こんな景色はありえない!」という絵を描いてしまうのが北斎。
瀧の上の波紋は真上から、勢いよく流れ落ちる滝は正面から捉えたと考えられていますが、これはキュビスムの先駆けではないでしょうか。やはり北斎はすごい!
第3章 花と鳥、虫たちの楽園
黒い箱が展示されていました。
いったいこの箱は何なのでしょうか。
そう思いつつ近くに寄ってみると、何か鷹のようなものが彫られているのが見えてきます。
そうです。これはオリジナルの版木を使用した「葛飾北斎「桜に鷹」ほか四面版木火鉢」なのです。
版木は表面が削られて版木として再利用されたりするので現存しているものが少なく、その上、北斎のものはアメリカのボストン美術館に1点所蔵されているくらいで、国内では珍しいものなのです。
そして実物の公開は今回が初めて。
ぜひ近くでよくご覧ください。これが冒頭にふれた「サプライズ」です。
錦絵「桜に鷹」そのものも展示されていますので(前期展示)、ぜひ見比べてみてください。
第4章 幻の絵巻 隅田川両岸景色図巻
約100年ものあいだ行方不明でしたが、2015年に墨田区が取得して、現在はすみだ北斎美術館が所蔵している全長約7mの巻物「隅田川両岸景色図巻」は、今回の展覧会の大きな見どころの一つです。
2016年のすみだ北斎美術館開館記念展「北斎の帰還-幻の絵巻と名品コレクション-」で展示されていたので、ご覧になられた方もいらっしゃるかと思いますが、今回は隅田川両岸の名所を描いた作品も展示されているので、比較しながら名所のにぎわいを感じとることができます。
第4章展示風景 |
特別展の展示のご紹介は以上ですが、葛飾北斎の「冨嶽三十六景」をディテールまで映像化した作品が、本展期間中、3階ホワイエで上映されています。
私も見ましたが、「冨嶽三十六景」をより身近に感じるようになりました。こちらもあわせてぜひご覧ください。
タイトル 葛飾北斎~冨嶽三十六景~
上映時間 15分45秒
制作 NHKエンタープライズ
そして展覧会の思い出におススメなのが、こちら。
すみだ北斎美術館 編・著『THE北斎 冨嶽三十六景 ARTBOX』(2200円(税別))
今回の展覧会の構成にあわせて全46図が詳しい解説付きで紹介されています。
1階ミュージアムショップはじめ、全国書店で販売中。
おうちでもぜひ北斎をお楽しみください!
※4階AURORA(常設展示室)は、一部を除き写真撮影が可能です。
すみだ北斎美術館に来られたら、ぜひ北斎さんにご挨拶を!
それでは極上の北斎をぜひお楽しみください!