2021年8月6日金曜日

京都国立博物館 日本博/紡ぐプロジェクト 特別展「京(みやこ)の国宝-守り伝える日本のたから-」

待ちに待った展覧会、日本博/紡ぐプロジェクト 特別展「(みやこ)の国宝-守り伝える日本のたから-」が、京都国立博物館で7月24日(土)に開幕しました。


平成知新館エントランスホールの展覧会パネル



今回の展覧会では、総計120件のうち国宝が72件(※)。
国宝率なんと6割という豪華な展覧会なのですが、今回の展覧会の見どころは、京都ゆかりの文化財を多数ご覧いただけるだけでなく、文化財保護の様々な取組みとその歴史が見られることにあります。

(※)作品番号23 国宝《三十帖冊子 第十五・十六・二十六・二十九帖》と作品番号24 国宝《宝相華迦陵頻伽蒔絵𡑮冊子箱》(いずれも京都・仁和寺蔵)はセットで1件、作品番号87 国宝《春日権現験記絵 巻二・七》(絵:高階隆兼筆 詞書:鷹司基忠ほか筆)(東京・宮内庁三の丸尚蔵館蔵)は、7月16日、文化審議会が国宝に指定するよう文部科学省に答申したので国宝1件とカウントしています。


さて、すでにSNS等でも話題沸騰の展覧会ですが、開幕に先立って開催された報道内覧会に参加しましたので、さっそく会場内の様子をご紹介したいと思います。

※主な展示作品については、今年3月に開催された報道発表会の記事で紹介しています。こちらもぜひあわせてご覧ください→【7月24日開幕!】京都国立博物館 特別展「京(みやこ)の国宝-守り伝える日本のたから-」


展覧会概要


会 場  京都国立博物館 平成知新館(京都市東山区茶屋町527)
会 期  2021年7月24日(土)~9月12日(日)
 前期展示 7月24日(土)~8月22日(日)
 後期展示 8月24日(火)~9月12日(日)
 ※一部の作品は上記以外にも展示替を行います。
開館時間 午前9時~午後5時30分(入館は午後5時まで)
     ※夜間開館は実施しません。
休館日  月曜日 ※ただし8月9日(月・休)は開館、10日(火)休館
観覧料(税込)  一般 1,600円、大学生 1,200円、高校生 700円
主 催  文化庁、京都国立博物館、独立行政法人日本芸術文化振興会、読売新聞社
特別協賛 キヤノン、JR東日本、日本たばこ産業、三井不動産、三菱地所、
     明治ホールディングス
協 賛  清水建設、髙島屋、竹中工務店、三井住友銀行、三菱商事
特別協力 宮内庁(宮内庁三の丸尚蔵館) 
※本展は、政府が推進する「日本博」及び「日本美を守り伝える『紡ぐプロジェクト』の一環として開催するものです。
※本展は、新型コロナウイルス感染症の感染予防・拡大防止のため、事前予約優先制を導入します。
※「日時指定観覧券」の購入方法、新型コロナウイルス感染予防・拡大防止、展覧会の見どころなど詳細は展覧会公式サイトでご確認ください⇒特別展 京の国宝-守り伝える日本のたから-

展覧会チラシ


※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は、報道内覧会で特別に主催者の許可をいただいて撮影したものです。

展覧会は次の4章構成になっています。
 第1章 京都ー文化財の都市
 第2章 京の国宝
 第3章 皇室の至宝
 第4章 今日の文化財保護


それでははじめに平成知新館3階「第1章 京都ー文化財の都市」から見ていくことにしましょう。


第1章 京都ー文化財の都市

《1》文化財指定のあゆみと京都

千年の都・京都。長きにわたり天皇の御所が置かれ、神社仏閣も数多く、豊かな財力をもった町衆もいて、所蔵する貴重な宝物もさぞかし多く残されているのでは、と思いがちですが、明治維新以降、実は大きな苦難が待ち受けていたのです。

よく知られているのが廃仏毀釈。

1868年の神仏分離令を機に廃仏運動が激化し、全国的に寺院・仏像などの破壊、寺領の没収が続出し、貴重な文化財が失われ、多くの寺が廃寺になりました。

そしてかろうじて残った寺院も幕府の庇護を失ったことなどから財政状況が厳しくなり、大切な宝物を手放さなくてはなりませんでした。海外に流出した文化財も多くありました。

《1》文化財指定のあゆみと京都では、文化財保護の先進的な取組みを行った京都の足跡がうかがえる資料が展示されています。

第1章 京都ー文化財の都市
《1》文化財指定のあゆみと京都
展示風景

明治30年(1897)には、文化財のためのはじめての法律「古社寺保存法」が制定され、国宝の指定制度が始まりました。
その後、昭和4年(1929)には「国宝保存法」、そして昭和25年(1950)には「文化財保護法」が制定され、戦後初の国宝が昭和26年6月9日に指定されました。

その記念すべき最初の国宝が次の展示室に展示されています。

《2》最初の国宝ー昭和26年6月9日指定

ここには、前回の記事で紹介した国宝《御堂関白記 自筆本》(京都・公益財団法人陽明文庫蔵、通期展示〈前期後期で巻替えあり〉)、京都の粟田口を代表する名工、久国作の国宝《太刀 銘久国》(文化庁蔵、通期展示)はじめ全部で6件の国宝が展示されています。
国宝《御堂関白記 自筆本》は、現存する世界最古の自筆の日記です。
このような貴重な史料を今でも目の前で見ることができるのは、奇跡と言ってもいいかもしれません。

第1章 京都ー文化財の都市
《2》最初の国宝ー昭和26年6月9日指定
展示風景

下の写真左奥の国宝《山水屏風》(京都国立博物館蔵)は前期のみの展示で、後期には国宝《瓢鮎図》如拙筆、大岳周崇等三十一僧賛(京都・退蔵院蔵)が展示されます。


第1章 京都ー文化財の都市
《2》最初の国宝ー昭和26年6月9日指定
展示風景



第2章 京の国宝

《1》絵画

ものすごく豪華な光景が見えてきました。
下の写真右が狩野永徳が描いた国宝《琴棋書画図襖》(京都・聚光院蔵、前期展示)、左は長谷川等伯が描いた国宝《松に秋草図屏風》(京都・智積院蔵、前期展示)。

桃山の2人の巨匠、永徳と等伯の夢の直接対決です。


第2章 京の国宝《1》絵画
展示風景

「はせ川(等伯のこと)と申す者に内裏の対屋の襖絵を描かせることにしたのは迷惑である。」と勧修寺晴豊に申し出をして等伯を排除した永徳も、もちろん等伯も、まさか自分たちの描いた襖絵が仲良く並んで展示されるとは夢にも思わなかったことでしょう。

本人たちにとっては「迷惑」かもしれませんが、私たちアートファンにとってはたまらない組み合わせです。

しかし、この夢の対決も前期だけ。狩野永徳の方は、同じく京都・聚光院所蔵の国宝《花鳥図襖》が展示されますが、長谷川等伯の国宝《松に秋草図屏風》は前期のみの展示です。

このあと展示される俵屋宗達の国宝《風神雷神図屏風》(京都・建仁寺蔵)は、8月24日から9月5日までの期間限定展示ですのでご注意を!


《2》書跡・典籍・古文書

長い年月が経過してもその力強さを失わない水墨の神秘的な世界が広がっています。


第2章 京の国宝《2》書跡・典籍・古文書
展示風景

手前の作品は国宝《後醍醐天皇宸翰「天長印信」》後醍醐天皇筆(京都・醍醐寺蔵、前期展示)。
空海の書を後醍醐天皇が書写したというだけでもすごいですが、空海のオリジナルが失われた今となってはこの作品がより貴重な存在になっているのです。


《3》考古資料・歴史資料


下の写真右の国宝《線刻蔵王権現像》(東京・總持寺蔵、通期展示)は、ニコニコ美術館でも紹介されていましたが、廃仏毀釈の際、奈良の金剛峯寺から流出したものと考えれられ、日露戦争当時、潰し地金として持ち込まれたものを心ある銅鉄問屋の方がお寺に納めたというもの。
価値の分かる方に見つけられたという幸運も文化財保存には欠かせないことなのかもしれません。

第2章 京の国宝《3》考古資料・歴史資料
展示風景



《4》彫刻

1階に移ります。
いつもの仏像コーナーには、京都にあるお寺の国宝の仏像が並び荘厳な光景が広がってます。
今回の展覧会のチラシの表紙を飾る「展覧会の顔」、国宝《梵天坐像》(京都・東寺(教王護国寺)蔵、通期展示)のお姿もこちらで拝むことができます。

第2章 京の国宝《4》彫刻
展示風景

《5》工芸品

京都に来た、と思えるのが、東寺(教王護国寺)の五重塔が見えてきたとき。
その東寺(教王護国寺)から出展されているもう1件の国宝が、空海が遣唐使の一員として唐に渡った時に将来した多くの仏画や経典、仏具の中のひとつ、国宝《金銅密教法具》(京都・東寺(教王護国寺)蔵、 前期展示)です(下の写真左)。
東シナ海の荒波を越えて日本にもたらされた異国風の仏具の輝きにぜひ注目していただきたいです。

第2章 京の国宝《5》工芸品
展示風景


第3章 皇室の至宝

冒頭でご紹介しましたが、このたび東京・宮内庁三の丸尚蔵館が保管する美術工芸品が国宝や重要文化財にはじめて指定されることになりました。
鎌倉時代の絵巻物《春日権現験記絵 巻二・七》(絵:高階隆兼筆 詞書:鷹司基忠ほか筆)(東京・宮内庁三の丸尚蔵館蔵、通期展示〈前期後期で巻替えあり〉)は、国宝指定を祝したはじめてのお披露目。絶妙のタイミングの展示です。


第3章 皇室の至宝 展示風景


第4章 今日の文化財保護

《1》調査と研究

文化財保護にとって大切なのは、専門家による調査と研究であることはもちろんなのですが、調査と研究によって実はものすごい価値のあるものだとわかった事例もあります。


第4章 今日の文化財保護《1》調査と研究
展示風景

上の写真左は、《白磁金彩鳥鈕蓋付馬上盃「金琺瑯」》(京都・公益財団法人陽明文庫蔵、通期展示)。調査の結果、清の雍正帝→琉球国王→薩摩藩主と渡ったことが確実視されるようになったものなのです。
清の雍正帝は、康熙帝(在位1661-1722)、雍正帝(在位1722-35)、乾隆帝(在位1735-95)と続いた清朝全盛期の三代の皇帝のひとり。
国宝にも重要文化財にも指定されていませんが、まさに「国宝級」の逸品です。



《2》防災と防犯

文化財保護にとって大きな難敵は経年劣化ですが、災害や盗難への対策も大きな課題なのです。
下の写真右は、昭和24年(1949)に焼損した法隆寺金堂壁画の模写(《法隆寺金堂壁画模本》桜井香雲筆 京都国立博物館蔵、通期展示)。
文化庁では法隆寺金堂で事故のあった1月26日を文化財防火デーに定めていますが、この日には、全国各地で文化財の建物に放水作業を行う場面をニュースなどでよく見かけます。

第4章 今日の文化財保護《2》防災と防犯
展示風景


《3》修理と模造

文化財を保護するためには、定期的な修理が必要ですが、修理をするための技術を持った人、修理に必要な素材の継承が欠かせません。
そして、精巧な模造を制作することが技術や素材の継承にとって大切なことだと、あらためて実感できる作品が展示されています。

第4章 今日の文化財保護《3》修理と模造
展示風景

技術や素材の継承の大切さがわかる映像が上映されていますので、ぜひこちらもご覧ください。

【シアター上映のお知らせ】
「伝統の紙」(約28分)、「伝統の技」(約25分)
場 所:平成知新館 講堂(地下1階)
※毎週金曜日10~17時に上映


展覧会関連グッズも充実しています。

1階ミュージアムショップ

私のおススメは、全展示作品がカラーで掲載されていて、詳細な解説もある『展覧会公式図録』(税込2,800円)。おうちで展覧会の続きをお楽しみいただけます。




新型コロナウイルス感染症の収束がまだまだ見えない状況ではありますが、密を避けてぜひご覧いただきたい展覧会です。