2022年3月17日木曜日

東京藝術大学大学美術館「藝大コレクション展 2022 春の名品探訪 天平の誘惑」

毎年楽しみにしている藝コレ(藝大コレクション展)が今年も4月2日(土)から始まります。

今年のテーマは「春の名品探訪 天平の誘惑」

奈良時代・聖武天皇の天平年間(729-749)を中心に花開いた天平文化。
そこには盛唐文化の影響が強く国際色豊かで、仏教的色彩が濃く、律令国家の力を背景とした壮大華麗さが特徴の天平美術が花開きました。

今回は、約3万件のコレクションを所蔵する藝大と天平美術のつながりに焦点をあてた展覧会。
どのような展示に誘惑されるのか今から期待がふくらみます。

展覧会概要


展覧会名 藝大コレクション展 2022 春の名品探訪 天平の誘惑
会 場  東京藝術大学大学美術館 本館 展示室1
会 期  2022年4月2日(土)~5月8日(日)
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日  月曜日 ※ただし、5月2日(月)は開館 
観覧料  一般440円(330円)、大学生110円(60円)、高校生以下及び18歳未満は無料
※( )は20名以上の団体料金 ※団体観覧者20名につき1名の引率者は無料
※障がい者手帳をお持ちの方(介護者1名を含む)は無料
主 催 東京藝術大学  

※本展は事前予約制ではありませんが、今後の状況により、変更及び入場制限等を実施する可能性がございます。


近未来的な外観の東京藝術大学大学美術館


それではさっそく展覧会の見どころをご紹介したいと思います。


まず初めにご紹介するのは《月光菩薩坐像》。

《月光菩薩坐像》(奈良時代)
東京藝術大学蔵

この《月光菩薩坐像》は胴の部分が損傷していますが、気品を感じさせる表情や姿勢、残された金箔から当時の優美さをうかがうことができます。
そして何より、損傷部から当時の造像美術を観察することができるという、研究機関である藝大にとって貴重な資料でもあったのです。

さらに今回の展覧会では、乾漆仏像や東大寺法華堂天蓋の残欠といった天平彫刻の断片資料に光を当てた最新の研究成果も紹介されるので、学術的に迫る天平の魅力を見られる楽しみもあります。

続いては今回の展覧会のメインビジュアルにもなっている《浄瑠璃寺吉祥天厨子絵》(重要文化財)のうち「弁財天及び四眷属像」。

《浄瑠璃寺吉祥天立像厨子絵》「弁財天及び四眷属像」
建暦2年(1212)頃 重要文化財
東京藝術大学蔵


もとは京都・浄瑠璃寺の木像吉祥天立像を収めた厨子の扉及び背面板に描かれたもので、当初はめられていた厨子(模造)、吉祥天立像(模刻)とあわせ、全7面が一挙公開されます。


《浄瑠璃寺吉祥天厨子》天井(模造)
大正13年(1914) 東京藝術大学蔵 


京都といっても、平城京とはさほど遠くない奈良県境近くの山あいにあって、極楽浄土を表現した庭園や国宝《九体阿弥陀如来像》で知られる浄瑠璃寺に思いをはせながら、ぜひ展示を楽しんでみたいです。


そして、藝コレのもう一つの大きな楽しみは、東京藝術大学が所蔵する同学(及び前身の東京美術学校)ゆかりの画家たちの西洋画や日本画の逸品が見られること。

今回も、やはり注目したいのは狩野芳崖の絶筆《悲母観音》(重要文化財)。

芳崖は東京美術学校の設立に尽力しましたが、開校直前に惜しくも亡くなりました。映画『天心』で、最後の力を振り絞って《悲母観音》を描く芳崖の姿が印象的でした。


狩野芳崖《悲母観音》明治21年(1888)
重要文化財 東京藝術大学蔵



今回は、フェノロサや岡倉天心らの奈良古社寺調査に同行した芳崖が描いた寺社の所蔵品や建築物などのスケッチを12巻の巻子装にした《奈良官遊地取》が出品されますが、芳崖の弟子たちの証言によると、この時の古美術研究が《悲母観音》の面貌表現につながったとのことですので、ぜひ見比べてみたいです。

芳崖と同じく東京美術学校の設立に尽力た橋本雅邦の《白雲紅樹》(重要文化財)はじめ近代日本画の名作や、明治38年に東京美術学校が監造した、当時の日本美術の粋を集めた屛風《綵観》、近代洋画では約10年ぶりの出品となる長原孝太郎《入道雲》など、東京美術学校の教授を務めた画家たちの作品が展示されます。

東京美術学校監造《綵観》
明治38年(1905) 東京藝術大学蔵

《綵観》のうち荒木寛畝「錦輪」。

東京美術学校監造《綵観》荒木寛畝「錦輪」
明治38年(1905) 東京藝術大学蔵

長原孝太郎《入道雲》。

長原孝太郎《入道雲》
明治42年(1909) 東京藝術大学蔵


皇室とゆかりの深い東京藝術大学ならではの作品も展示されます。

こちらは、明治21年に竣工して、昭和20年5月の戦火で焼失した明治宮殿にあった「千種之間」の格天井を飾った柴田是真の天井画下図。
完成作品が残っていないだけに、往時の名作をうかがうことができる貴重な資料です。

柴田是真《千種之間天井綴織下図》「紅梅」部分
明治20年(1887) 東京藝術大学蔵


天平文化の舞台となった平城京で思い浮かぶのが、2008年の平城遷都1300年祭の公式マスコットキャラクター「せんとくん」。
その「せんとくん」を制作された籔内佐斗司氏のかわいらしい面も展示されます。

2020年には、長年、東京藝術大学の保存修復彫刻研究室教授の職に就かれていた籔内氏の退任記念展におうかがいして作品を拝見しましたが、今回もこのお顔と対面したら、また奈良に行ってみたくなるかもしれません。

籔内佐斗司《鹿坊 面》
平成22年(2010) 東京藝術大学蔵



天平美術とともに、《小野雪見御幸絵巻》(重要文化財)などの古美術から、現代美術まで、藝大ならではのさまざまな分野のコレクションを楽しむことができるのも今回の展覧会の大きな魅力です。

いろいろな楽しみのある展覧会なので、開幕が待ち遠しいです。