東京・日本橋の三井記念美術館では、 平安王朝から現代まで、漆と金銀で彩られた雅やかな蒔絵の美の世界が見られる特別展「大蒔絵展-漆と金の千年物語」が開催されています。
展覧会チラシ |
今回の特別展は、静岡のMOA美術館、三井記念美術館、愛知の徳川美術館の3館共同で開催されるもので、3館が所蔵する国宝、重要文化財を含む名品に加え、東京国立博物館やサントリー美術館ほかの逸品も展示されるという、まさに蒔絵の名品が大集結した「大蒔絵展」の名にふさわしい豪華版の展覧会です。
さらに、蒔絵の作品が年代順に並べられるだけでなく、関連する書跡、経典、屏風なども展示され、蒔絵が作られた時代の雰囲気も感じ取ることができる展示になっているのです。
それはさっそく展示室内の様子をご紹介したいと思います。
展覧会開催概要
会 期 2022年10月1日(土)~11月13日(日)
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
※会期中、展示替えを行います。
休館日 10月24日(月)のみ
観覧料 一般 1,300円 大学・高校生 800円 中学生以下 無料
展覧会の詳細、各種割引等は展覧会公式サイトをご覧ください⇒大蒔絵展-漆と金の千年物語
巡回展情報
静岡会場 2022年4月1日(金)~5月8日(日) MOA美術館 終了しました。
愛知会場 2023年4月15日(土)~5月28日(日) 徳川美術館
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。
美術館ロビーのこのケース内の作品は撮影可です。
今回は特別展に合わせて蒔絵道具が展示されています。
展示構成
第1章 源氏物語絵巻と王朝の美
第2章 神々と仏の荘厳
第3章 鎌倉の手箱
第4章 東山文化-蒔絵と文学意匠
第5章 桃山期の蒔絵-黄金と南蛮
第6章 江戸蒔絵の諸相
第7章 近代の蒔絵-伝統様式
第8章 現代の蒔絵-人間国宝
※解説パネルにQRコードがある作品は、スマホなどでQRコードを読み取ると展示では見えない作品の内部などを見ることができます。
今回の新しい取組みですので、ぜひトライしてみてください!
国宝、重要文化財の蒔絵の逸品が大集合!
重厚な洋風建築の内装に囲まれて個別展示ケースが置かれているこのゴージャスな雰囲気の展示室1には、国宝や重要文化財をはじめとした平安から鎌倉、南北朝時代までの逸品が展示されています。
中でも注目は、現存最古の絵巻、国宝「源氏物語絵巻」(徳川美術館)。
「源氏物語絵巻」は大規模修理後初めて「大蒔絵展」で公開されるもので、三井記念美術館が今回のリニューアルでLED照明に全面改修されたのと相まって、絵の中の調度品に描かれた「画中画」ならぬ「画中蒔絵」もくっきり見ることができるので、ぜひ近くでじっくりご覧いただきたいです(もしお持ちでしたら単眼鏡ご持参で)。
徳川美術館 (10/1~9展示)
※国宝「源氏物語絵巻」(徳川美術館蔵)は期間限定展示です。
国宝「源氏物語絵巻 宿木一」 10/1-9
国宝「源氏物語絵巻 柏木一」 10/25-30
上記以外の期間は、日本画家・田中親美の模本が展示されます。
「源氏物語絵巻」の昭和10年当時の状態を現状模写したもので、本物と見間違えるくらい
の素晴らしい出来の作品です。
田中親美「源氏物語絵巻(模本)」上巻・下巻(徳川美術館蔵)
下巻 10/10-23 上巻 10/31-11/13
空海が開いた高野山金剛峰寺が所蔵する国宝「澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃」には、燕子花(かきつばた)や沢瀉(おもだか)が咲く水辺に無数の千鳥が舞っていて、極楽浄土を思わせる幻想的な世界が描かれています。
貴重な国宝ですが、ありがたいことに通期展示です!
後期(10/25-11/13)には同じく高野山金剛峰寺が所蔵する重要文化財「花蝶蒔絵念珠箱」も展示されるので楽しみです。
時代とともに向上する蒔絵の技法
毎回メインの一品が展示される展示室2には、和歌山の熊野速玉大社所蔵の国宝「桐蒔絵手箱」(南北朝時代・14世紀)が展示されています。10月30日までの展示です。
シックな照明やカーテンを背景に、金粉を一面に蒔いた手箱が燦然と輝いています。
鎌倉時代に蒔絵粉を造る技術が向上して、丸くてきれいな「丸粉」を造れることができたので、一層鮮やかな輝きを放つようになったのです。
この手箱に収められていた内容品は手前の展示室1に展示されているのであわせてご覧ください。
蒔絵と螺鈿のコラボが見事な鎌倉時代の逸品、国宝「浮線綾螺鈿蒔絵手箱」は後期に展示されます。
室町時代の蒔絵は、和歌や能を題材にした意匠が多く見られるのが特徴です。
重要文化財 砧蒔絵硯箱 室町時代・15世紀 東京国立博物館 Image: TNM Image Archives (10/1~30展示) |
銀を嵌め込んだ満月に照らされる秋草と枕。
そして、枕に描かれているのは、悪い夢を食べるとされている獏(ばく)。
獏は髙蒔絵という、レリーフのように盛り上げた技法で表現されています。
秋草や岩には文字が隠され、蓋の裏側には砧を打つ人物が描かれていて、この図柄や歌文字から『千載和歌集』の俊盛法師の歌があらわされています。
展示では蓋の下に鏡があるので、蓋の図柄も見ることができます。
桃山時代には、戦乱後の復興建設ラッシュで室内の調度品の需要も大きく増え、研出蒔絵のように乾燥に時間がかかるものでなく、黒漆の表面に金粉を蒔く平蒔絵など、時間のかからない技法で蒔絵の作品が大量生産されました。
「高台寺蒔絵」といわれ、秋草などの大ぶりの柄が特徴で、表にも側面にもあちこちに蒔絵が描かれるものが流行しました。
京都における豊臣秀吉の居城・聚楽第を描いた「聚楽第図屏風」(三井記念美術館 通期展示)も展示されているので、聚楽第の中でも蒔絵の調度品が多く使われていたのではと想像しながら桃山時代の新しい息吹を感じることができました。
桃山時代のもう一つの特徴は、西洋から来日したキリスト教宣教師や商人に人気を博した、華やかな図柄の蒔絵が全体に描かれた祭礼具や家具で、「南蛮漆器」と呼ばれ多くが海外に輸出されました。
こちらも「南蛮人渡来図屏風(左隻)」(MOA美術館 通期展示)が並んで展示されているので、西洋と東洋の文化が邂逅する様子が伝わってくるようでした。
展示室4「第5章 桃山期の蒔絵-黄金と南蛮」展示風景 |
順番が前後しましたが、国宝の茶室「如庵」を再現した展示室3は、いつもの侘び寂びの世界とは様相が異なり、室町時代の蒔絵とコラボした華やかな能のしつらえ。
展示室3展示風景 |
二代将軍・徳川秀忠の娘・和子が後水尾天皇のもとに女御として入内(じゅだい)した時の行列が描かれた重要文化財「東福門院入内図屏風(左隻)」(三井記念美術館 通期展示 上の写真後方)も展示されているので、展示室4に展示されている江戸時代の御用蒔絵師・幸阿弥長重の婚礼調度の作品(下の写真)とあわせて華やかな雰囲気を感じとることができます。
続いて、琳派や江戸の名工たちの世界が広がる展示室5へ。
国宝 八橋図蒔絵螺鈿硯箱 尾形光琳作 江戸時代・17~18世紀 東京国立博物館(10/1~23展示) |
加賀・前田家の御用蒔絵師、五十嵐道甫作と伝わる江戸時代初期の名品、重要文化財「秋野蒔絵硯箱」も前期展示(10/1-23)です。
三日月に照らされる秋の草花を、金髙蒔絵、金銀の切金、螺鈿、珊瑚などを用いて描いた豪華な硯箱。
展示室では蓋の下に鏡を置いて展示されているので、蓋の裏に描かれた山水図も見ることができます。
人々の暮らしに広まる蒔絵の文化
18世紀以降には、高価だった蒔絵も印籠、櫛や簪(かんざし)、盃などの庶民の日々の暮らしに使う小品にも広まってきました。
浮世絵と並んで印籠や櫛などが展示されているのは展示室6。
浮世絵の女性は、髪に蒔絵で図柄が描かれた櫛をさしています。
この展示室6は、作品との距離が近く、印籠などに細かく描かれた図柄もよく見ることができるので、いつもありがたく思っています。
展示室6「第6章 江戸蒔絵の諸相」展示風景 |
江戸時代後期に流行したのが、蒔絵師・原羊遊斎と酒井抱一のコラボ作品。
酒井抱一の掛軸(「藤蓮楓図」MOA美術館 通期展示)が、今でいう「人気ブランド」の箱や盃に色を添えています。
近代から現代へ、脈々と生き続ける蒔絵の美の世界
明治に入ると、政府の殖産興業政策のもと、欧米への輸出用に蒔絵の制作が行われるようになり、帝室技芸員制度が美術工芸作家の保護と制作奨励を支えました。
幕末・明治期の漆の代表的な名工、柴田是真の作品も展示されています。
フィニッシュは、昭和30年代から平成にかけての蒔絵の作品。