東京・南青山の根津美術館では、仏の教えと仏具の造形美の関わりを探る企画展「仏具の世界ー信仰と美のかたち」が開催されています。
展覧会チラシ |
仏教美術というと、真っ先に仏像や仏画、経典などが思い浮かんできますが、今回は主に仏教で用いられる仏具に焦点をあてた展覧会。
細部まで丁寧に作り込まれた仏教工芸の美をぜひお楽しみいただきたいです。
展覧会開催概要
会 期 2023年2月18日(土)~3月31日(金)
会期中に前期(2/18-3/12)、後期(3/14-3/31)で展示替があります。
休館日 毎週月曜日
開館時間 午前10時~午後5時(入館はいずれも閉館30分前まで)
入場料 オンライン日時指定予約
一般 1300円、学生 1000円
*障害者手帳提示者および同伴者は200円引き、中学生以下は無料
会 場 根津美術館 展示室1・2
展覧会の詳細、入館の日時指定予約等は同館公式サイトをご覧ください⇒根津美術館
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は記者内覧会で美術館より特別に許可を得て撮影したものです。
展示構成
・仏を荘厳する
・仏を供養する
・仏道を修める
・仏性を呼び覚ます
・コラム 茶の湯と仏具
・仏教美術と女性の信仰
それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。
仏を荘厳する
建物の中や儀式などでおごそかで立派な様を「荘厳(そうごん)な」と表現することがありますが、仏教の世界で「荘厳(しょうごん)する」とは仏像や仏堂をおごそかに飾ることを指します。
「仏を荘厳する」展示風景 |
最初にご紹介するのは、藤原仲麻呂(恵美押勝)が道鏡を除こうとして起こした恵美押勝の乱(764年)の平定後に称徳天皇によって発願された100万塔の小塔のうちの3基。
塔芯に納められた無垢浄光経(陀羅尼)(下の写真左)は最古の印刷物としても知られる貴重なものなのです。
百万塔 日本・奈良時代 8世紀 右2基 根津美術館蔵 左1基 根津美術館蔵(植村和堂氏寄贈) いずれも通期展示 |
続いては、寺院の境内や仏殿に立てる飾り布「幡(ばん)」の一部であったと考えらえる「赤地格子連珠花文錦(蜀江錦)」。
赤地格子連珠花文錦(蜀江錦) 中国・隋~唐時代 7世紀 根津美術館蔵 前期展示(後期には同じ名称で別のものが展示されます) |
7世紀の隋~唐時代のものですが、長い年月を経ても当時の鮮やかな文様が残されています。
壁面のパネルには幡の概略図が示されていますが、このような大きな幡が立ち並ぶ、まさに荘厳な場面を想像してみたくなってきます。
今回は仏具の展覧会ですが、仏画の名品も展示されています。
当麻曼荼羅 日本・室町時代 15世紀 根津美術館蔵 通期展示 |
「当麻曼荼羅」は中将姫の物語で知られる奈良・当麻寺の当麻曼荼羅を4分の1に縮小した室町時代の模本で、原本は織物ですが、こちらは絹本に着色したものです。
多くの仏さまや大伽藍が描かれた極楽浄土の様子はまさに壮観。縮小版といっても大画面の迫力が感じられます。
仏を供養する
仏・法・僧や恩人・故人などに対して供物を捧げる供養具には、制作した人たちや、供養した人たちの念(おも)いや技が込められています。
「仏を供養する」展示風景 |
仏に供養する散華のための花びらを盛る器「黒彩絵華籠」は、一見したところ陶器のように見えましたが、実は紙でできているもので、木型に10枚ほどの紙を貼って形を整えたあと全面に黒漆を塗り、胡粉で下地を整え緑青、朱、金箔で彩色するといういくつもの工程を経たものなのです。
黒彩絵華籠 日本・鎌倉時代 14世紀 根津美術館蔵 通期展示 |
高麗時代の朝鮮半島で作られた高い脚つきの香炉も、薄い銀板を梵字の形に切り抜いて炉身側面4か所と口縁6か所に象嵌して、その周りに唐草文を銀の線象嵌であらわすという、精巧なつくりです。
どちらも携わった職人さんたちのものづくりへの思いや技が込められていると感じました。
まさに超絶技巧。細部までじっくりご覧いただきたいです。
銀象嵌梵字宝相華文香炉 朝鮮・高麗時代 13~14世紀 根津美術館蔵 通期展示 |
「法華経」巻首の見返絵の右側の露台の上で説法する釈迦如来の前には同じような高い脚のついた香炉が置かれているので、こちらも注目です。
法華経(部分) 朝鮮・高麗時代 至正13年/恭愍王2年(1353) 根津美術館蔵 通期展示 |
仏道を修める
ここでは、自らの行いを正して悟りに達するという目的を果たすために修行者を助ける僧具が紹介されています。
「仏道を修める」展示風景 |
こちらは、僧侶が月に2回、一堂に集まり、戒律を確認し自省を行う布薩会(ふさつえ)で、手を清めるための浄水を容れる水瓶。
水瓶の下の朱漆塗の盥(たらい)は、見込みに水瓶を置いたような丸い跡が残っているので、布薩盥として用いられていたと考えられています。
密教法具の中には、独鈷、三鈷、五鈷といった「鈷」とついた法具がよく見られます。
これは、もとはインドの武器であった「鈷」が仏教に取り入れられて、煩悩を打ち砕き、仏性を現わす意味で用いられるようになったもので、ここでは真言宗の開祖・空海の像(重要文化財 弘法大師像 日本・鎌倉時代 13~14世紀 大師会蔵)を前に、密教の祭壇にならって五鈷杖や独鈷鈴などが配置されて厳かな雰囲気を醸し出しています。
コラム 茶の湯に取り入れられた仏具
茶の湯では、本来の目的とは違っても、茶人たちに風流さが好まれて茶の湯の道具に取り入れられたものがありますが、これには驚きました。
仏堂の軒下に吊るし、前に垂らした綱で打ち鳴らす鰐口に脚をつけて、お湯を沸かす風炉にしたものまであったのです。
「鰐口やつれ風炉」という名称ですが、茶人たちは「やつれ」ているところに風流さを感じたのでしょうか。
仏教美術と女性の信仰
ここでは、仏さまの衣の黒い部分に髪の毛を繍い込んだ来迎図や、小袖を仕立て直した、見事な色合いの刺繍の幡をはじめとした、女性の信仰への思いに着目した仏教美術の名品が展示されています。
「仏教美術と女性の信仰」展示風景 |
もとは女性用の小袖であったとみられ、明る色合いで、菊や籬(まがき)の配置がとてもリズミカルな打敷も展示されています。
(打敷とは、仏前の机上などに敷く直角三角形や正方形の荘厳具のことです。)
見どころいっぱいの展示も同時開催中です!
展示室5 西田コレクション受贈記念Ⅰ IMARI
2021年、根津美術館が、東洋陶磁を中心とする美術工芸の研究者で、同館に1981年から勤務され、現在は顧問を務められている西田宏子氏から東洋・西洋陶磁器を中心とした工芸品169件の寄贈を受けたことを記念して、今回から3回に分けて受贈記念展が開催されます。
現在開催されている第1回は、肥前国有田の伊万里焼の特集「IMARI」。
展示風景 |
オランダのビューレン家のイダ・マリアと、ブレデローデ家のヨアンの1702年の結婚を祝い、両家の家紋を中央に配した伊万里の大皿は、西田氏が子孫のビューレン氏より1枚もらい受けたというとても貴重な逸品です。
第2回以降のスケジュールは次のとおりです。
4月15日(土)~5月14日(日) 西田コレクション受贈記念Ⅱ 唐物
5月27日(土)~7月2日(日) 西田コレクション受贈記念Ⅲ 阿蘭陀・安南 etc.
ミュージアムショップでは、受贈を記念して制作された図録「海をこえて、今ここにー西田コレクションのうつわー」も販売中です。
カラーの図版や、研究者の方たちのコラムもあって全120頁(税込2,200円)。
ぜひミュージアムショップにお立ち寄りください。
展示室6 花どきの茶
花どきとは、花の盛りの時季、とりわけ桜の花が咲く春のひとときのこと。
桜を題として詠んだ和歌が書かれている紀貫之の家集『貫之集』の断簡、「貫之集切」(伝 藤原行成筆 日本・平安時代 11世紀 根津美術館蔵 通期展示)はじめ、春の訪れを楽しむ季節の茶道具が展示されています。
企画展をはじめ、さまざまな分野の美術の世界が楽しめます。
この春おすすめの展覧会です。