2023年4月25日火曜日

根津美術館 特別展「国宝・燕子花図屏風 光琳の生きた時代 1658-1716 」

東京・南青山の根津美術館では、特別展「国宝・燕子花図屏風 光琳の生きた時代 1658-1716」が開催されています。

展覧会チラシ



今回の特別展では、毎年この時期恒例の尾形光琳筆、国宝《燕子花図屏風》を中心に、光琳が生きた元禄時代(1688-1704)に花開いた華麗な元禄文化の雰囲気が味わえる作品が展示されています。

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期   2023年4月15日(土)~5月14日(日)
開館時間  午前10時~午後5時。ただし、5月9日(火)から5月14日(日)は午後7時まで開館
      (入館はいずれも閉館30分前まで)
休館日   毎週月曜日(ただし5月1日(月)は開館)
入館料   オンライン日時指定予約 一般 1500円、学生1200円
      *障害者手帳提示者及び同伴者は200円引、中学生以下は無料
会 場   根津美術館 展示室1・2

展覧会の詳細、オンラインによる日時指定予約、イベント情報等は同館公式サイトをご覧ください⇒根津美術館

※展示室内及びミュージアムショップは撮影禁止です。掲載した写真は記者内覧会で美術館より特別に許可を得て撮影したものです。

展示構成
 第1部 伝統画派の活躍
 第2部 光琳芸術の誕生
 第3部 元禄美術の多面性


第1部 伝統画派の活躍


冒頭に展示されているのは、狩野常信(1636-1713)の《瀟湘八景図巻》。

常信は、狩野探幽の弟・尚信の子で、探幽没後に江戸狩野派を率い、光琳とほぼ同時期に活躍した絵師でした。

《瀟湘八景図巻》狩野常信筆 日本・江戸時代 18世紀
植村和堂氏寄贈


《瀟湘八景図巻》は、墨の濃淡で風光明媚な中国・洞庭湖周辺の八つの景勝を表現した作品です。
「瀟湘八景図」というと中国南宋末の画僧・牧谿の空気感あふれる作品を思い浮かべますが(八図に裁断されて現存する七図のうちの一図が根津美術館所蔵の国宝《漁村夕照図》)、この作品は南宋末から元初にかけて活躍した画僧・玉澗の《瀟湘八景図》(現存三図を徳川美術館ほかが所蔵)のように、画面に墨をそそいで描く溌墨という技法で描かれています。


続いては、江戸時代初期の狩野派の総帥・狩野探幽(1602-1674)の《両帝図屏風》。

《両帝図屏風》狩野探幽筆 日本・江戸時代
寛文元年(1661)

光琳が生まれて間もない頃に描かれた探幽の作品と光琳作品との接点はあまりないようにも思えますが、実は光琳が最初に絵を学んだのは狩野派の流れを汲む山本素軒で、素軒が学んだのが探幽であったというご縁があったのです。

光琳が影響を受けた土佐派の絵師で、土佐派を再興して京都で活躍した土佐光起とその後継者・光成や、土佐派から独立して江戸で幕府の御用絵師を務めた住吉派の優雅なやまと絵も展示されています。


右 《源氏物語朝顔図》土佐光起筆 日本・江戸時代 17世紀
左 《栗鶉図》土佐光成筆 日本・江戸時代 17-18世紀



第2部 光琳芸術の誕生


尾形光琳の「琳」の字をとった琳派の流れが、俵屋宗達ー光琳ー酒井抱一と、それぞれほぼ百年の間を経て私淑の関係でつながっていたことはよく知られています。
ここでは俵屋宗達の後継者・喜多川相説(生没年不詳)の代表作《四季草花図屏風》と、光琳の国宝《燕子花図屏風》が並んで展示されているので、宗達から光琳へとつながっていく2つの作品を見比べることができます。

右 《四季草花図屏風》喜多川相説筆 日本・江戸時代 17世紀
左 国宝《燕子花図屏風》尾形光琳筆 日本・江戸時代 18世紀

こうやって両方を見てみると、草花のリズミカルな配置など、共通点があるように見えないでしょうか。


京都の裕福な呉服商・雁金屋に生まれた光琳の父、尾形宗謙の書は初めて見ました。

宗謙は、俵屋宗達とコンビを組んで数々の名作を生み出した本阿弥光悦流の書を得意としましたが、墨の濃淡をつけた文字がまるで音符のように見えて、軽快なリズムが聞こえてくるように感じられました。

光琳の芸術家としての才能は父・宗謙から受け継いだのかもしれません。

《新古今和歌集抄》尾形宗謙筆 日本・江戸時代 寛文12年(1672)


しかし、光琳は経営者としての才能は受け継がなかったようです。
30歳で父の莫大な遺産を得た光琳は放蕩三昧でそれを使い果たしてしまい、その後、画業に専念することになるのですが、もし、光琳が経営者として事業に成功していたら、国宝《燕子花図屏風》はじめ数々の名作も生まれなかったのかもしれないので、現代の私たちにとってはどちらがよかったのでしょうか。
光琳の屏風を眺めながらそのようなことが頭に浮かんできました。

光琳の屏風は他に2点展示されています。

右 《白楽天図屏風》 左 《夏草図屏風》
どちらも尾形光琳筆 日本・江戸時代 18世紀




第3部 元禄美術の多面性


第3部には、光琳の弟で、兄・光琳とのコラボ作品も多く残した陶工・尾形乾山(1663-1743)の焼き物が展示されています。

右から 《銹絵梅図角皿》尾形乾山作 尾形光琳画
《銹絵蘭図角皿》尾形乾山作 渡辺素信画・賛
《銹絵洞庭秋月図茶碗》尾形乾山作
いずれも日本・江戸時代 18世紀 



今回の特別展での私の「お気に入りのこの一品」は、尾形乾山作《銹絵洞庭秋月図茶碗》。瀟湘八景の一つ「洞庭秋月」の風景を愛でながらお茶を飲んだらきっと幸せな気分になれるだろうと思いました。

《銹絵洞庭秋月図茶碗》尾形乾山作
日本・江戸時代 18世紀

ここで冒頭になぜ狩野常信筆《瀟湘八景図巻》が展示されているのかがわかりました。
乾山の《銹絵洞庭秋月図茶碗》の前ぶれだったのですね。



たいていは一枚ずつ部屋に飾る大津絵が屏風に貼られていました。
この《大津絵貼交屏風》は、いわば大津絵ベストセレクション。大津絵ファンにはたまらない作品です。

《大津絵貼交屏風》 日本・江戸時代 18世紀


大津絵は東海道の大津宿で売られ、旅人のみやげ物として親しまれましたが、その様子が次の6曲1双の《伊勢参宮道中図屏風》に描かれています。(右隻の右から三扇目の中段付近)

《伊勢参宮道中図屏風》 日本・江戸時代 17-18世紀

元禄時代の京都から伊勢までの道中が描かれた《伊勢参宮道中図屏風》の名所と風俗は、出品目録に解説があるので、当時の人たちの気分で伊勢参りの旅を体験することができます。

出品目録


あとで気が付きましたが、大津絵を売る店と大津絵を買って嬉しそうに眺めている侍が描かれている場面は、根津美術館の2023年度展覧会スケジュールの表紙になっていました。
並んで歩いている同僚は「俺も買えばよかった。」と羨ましそうに見ているようです。




関連展示も見逃せません!


展示室3 仏教美術の魅力ー中国・朝鮮の小金銅仏ー

いつも仏像が展示される展示室3では、千年以上もの時を超えてなお黄金色に輝く銅造鍍金の仏像が展示されています。
初公開とのことですが、開館以来80年以上経っているのにいまだに初公開の作品があるというのですから、根津美術館のコレクションの奥行きの深さを改めて感じました。


「仏教美術の魅力ー中国・朝鮮の小金銅仏ー」展示風景



展示室5 西田コレクション受贈記念Ⅱ 唐物

根津美術館に長年勤務され、現在は同館の顧問を務められている西田宏子氏から東洋・西洋陶磁器を中心とした工芸品169件の寄贈を受けたことを記念して3回に分けて開催される受贈記念展の第2回は「唐物」。

落ち着いた雰囲気の中国の陶磁器と漆器が展示されています。

《緑釉瓶》景徳鎮窯 中国・清時代 17-18世紀
西田宏子寄贈

第3回 5月27日(土)~7月2日(日) 西田コレクション受贈記念Ⅲ 阿蘭陀・安南etc


展示室6 初夏の茶の湯


立夏(5月6日)を迎えると、暦の上では夏。
夏の始まりに合わせて茶室も涼し気な色合いの茶器に替わっています。

「初夏の茶の湯」展示風景



展覧会関連商品も充実してます!


大津絵を買って嬉しそうな侍を見たら、自分でも大津絵が買いたくなりませんでしょうか?
そういった方のためにミュージアムショップでは大津絵の絵はがき4種(各100円 税込)、付箋3集(各550円 税込)が新たに発売されています。
ほかにも図録や展覧会にちなんだグッズなどがありますので、ミュージアムショップにもぜひお立ち寄りください。

ミュージアムショップ


庭園のカキツバタも見ごろです!


庭園のカキツバタが今がちょうど見ごろです。(庭園内は撮影可です。)

庭園のカキツバタ(4月25日現在)
(庭園の様子は根津美術館公式サイトトップページにある
「いまの庭園」をクリックするとご覧いただくことができます。)


会期は5月14日(日)までです。
さわやかなこの季節に、国宝《燕子花図屏風》も庭園のカキツバタもぜひお楽しみください!