2023年6月13日火曜日

泉屋博古館東京 特別展「木島櫻谷-山水夢中」 

東京・六本木の泉屋博古館東京では、特別展「木島櫻谷-山水夢中」が開催されています。

泉屋博古館東京エントランス


今までにも同館では花鳥画や動物画を中心とした木島櫻谷(1877-1938)の展覧会が開催されましたが、今回は櫻谷の幽玄で壮大な山水画に焦点を当てた展覧会。
どことなく懐かしい日本の風景に心惹かれる作品の数々を見ていると、旅先のすがすがしい空気が感じられて心地よい気分になってくるので、ぜひ多くの方にご覧いただきたいです。

展覧会開催概要


会 期  6月3日(土)~7月23日(日)
     前期:6月3日(土)~6月25日(日)
     後期:6月27日(火)~7月23日(日)
     *《寒月》展示期間6月3日(土)~6月18日(日)
休館日  月曜日(7月17日は開館)、7月18日(火)
開館時間 午前11時~午後6時(入館は午後5時30分まで)
     *金曜日は午後7時まで開館(入館は午後6時30分まで)
入館料  一般 1,200円、高大生 800円、中学生以下無料
チケットの購入方法、割引料金等は同館公式サイトをご覧ください⇒泉屋博古館東京
     
展示構成
 第1章 写生帖よ!-海山川を描き尽くす
 第2章 光と風の水墨-写生から山水画へ
 第3章 色彩の天地-深化する写生
 第4章 胸中の山水を求めて
 エピローグ 写生にはじまり、写生におわる。 


※本展はホールのみ撮影可能です。撮影の注意事項等は館内でご確認ください。
※展示室内は撮影不可です。掲載した写真は内覧会で主催者の許可を得て撮影したものです。

展覧会を紹介する時のハッシュタグは #木島櫻谷 #山水夢中 です。

第1章 写生帖よ!-海山川を描き尽くす


今回の展覧会で最初に驚いたのは、いつもは広々としているロビーに長い展示ケースがどーんと置かれていることでした。

第1章展示風景


展示されているのは、櫻谷が写生旅行に出かけて描いた約600冊もの写生帖の一部。櫻谷が見た風景が、時を経て櫻谷の中で熟成されて山水画となる過程がわかる写生をまずはじっくりご覧ください。

木島櫻谷 写生帖《海濤集》若狭 明治38年(1905)
櫻谷文庫 通期展示


第2章 光と風の水墨-写生から山水画へ


第2章からはほぼ年代順に作品が展示されていますが、明治後期の特徴は、この章のタイトルにあるように「水墨の世界」。

この時期の櫻谷の代表作の一つが、京都・南禅寺の塔頭で、南禅寺派管長豊田毒湛の居所として明治43年に創建された南陽院本堂の櫻谷作《山水障壁画》。
普段は非公開の寺院のこの《山水障壁画》は、東京では初公開です。
さらにご覧のとおり、鴨居と敷居におさめられているので、お寺の中で見ているような気分になれて、それに反対側に回って襖の両面を見ることができるのです。

第2章展示風景
手前が木島櫻谷《南陽院本堂障壁画》明治43年(1910)
京都・南陽院 通期展示 

全部で5室50面(1面は損傷により欠失)描かれた《南陽院本堂障壁画》のうち、今回は前期後期で8面が展示されます。


幅11mにも及ぶ櫻谷の大作《万壑烟霧(ばんがくえんむ)》は迫力の大画面。
手前には耶馬渓の写生が展示されていて、切り立った山は耶馬渓の山から着想したことは想像できますが、画面全体にもやがかかっていて、現実の景色を超えた崇高な理想郷が描かれているように感じられました。


奥 木島櫻谷《万壑烟霧》明治43年(1910) 株式会社千總
手前 木島櫻谷 写生帖《渓山奇趣》耶馬渓 明治42年(1909)
櫻谷文庫 どちらも通期展示


第3章 色彩の天地ー深化する写生


大正期に入ると見事な色遣いの作品が多くなってきます。

夏目漱石に酷評されたことでも知られている《寒月》からは、冷たく張りつめた空気が伝わってくるようです。この作品は6月18日までの展示です!
(6月20日からは《暮雲》(大阪歴史博物館)が展示されます。)

木島櫻谷《寒月》大正元年(1912) 京都市美術館
展示期間:6月3日~18日

《寒月》とは対照的に明るい色調の《駅路之春(うまやじのはる)》は、春らしい明るさやにぎわいが感じられます。


木島櫻谷《駅路之春》大正2年(1913) 福田美術館
通期展示

秋の山の景色が描かれた《天高く山粧う》は、露出展示です!

木島櫻谷《天高く山粧う》大正7年(1918) 櫻谷文庫
前期展示


もとは京都・室町五条の呉服商が長男誕生の年に制作依頼した屏風ですが、今でも祇園祭の宵山の時などに室町通りなどの町屋が軒先を開けていて、家の中の座敷に飾られている屏風を見ることができますが、宵山の時の光景を思い出しました。
(後期には《蓬莱瑞色》(個人蔵)が展示されます。)


第4章 胸中の山水を求めて


大正末期から昭和初期の櫻谷は、公職から身を引き、京都・衣笠の自邸で、絵画制作のかたわら、古書画や古典籍を蒐集したり、漢詩を揮毫したりなど文人的な生活を送りました。

この作品を見た時、「なんであの元末四大家の一人、倪瓚の作品があるんだ!」と思わず声を出しそうになったくらい驚きました。


査士標《仿倪瓚水墨山水図》康熙14年(1675) 櫻谷文庫
通期展示

手前に土坡があって葉がまばらな木が生えていて、中央はたっぷりと空間をとり、奥には険しい山。いかにも倪瓚らしい作品ですが、実は明末清初の文人・査士標が倪瓚に仿って描いた作品だったのです。

ほかにも師・董源とともに「董・巨」と並び称された五代・宋初の画家・巨然に仿った作品も展示されています。

櫻谷文庫には、櫻谷が生前に蒐集した中国書画約400件(書約100件、絵画約300件)が所蔵されていますが、ぜひ櫻谷の中国書画コレクションも見てみたいです。


櫻谷が官展に出品した最後の作品、第14回帝展出品作《峡中の秋》が大下絵ともに展示されています。

右から 木島櫻谷《峡中の秋》昭和8年(1933)、《画三昧》昭和6年(1931)、
《峡中の秋》大下絵 昭和8年(1933) いずれも櫻谷文庫 通期展示


注目したいのは、大下絵では画面下の方に描かれた橋の先にある人家が本画ではなくなっていることです。現実を意味する人家を取り去ることによって現実から離れた理想郷を表わそうとしたのではないでしょうか。
本画と大下絵の間の《画三昧》では柿本人麻呂のようにリラックスした老人が描かれていますが、櫻谷本人がこれから描かれる山水画を眺めて悦に入っているように見えました。


エピローグ 写生にはじまり、写生におわる。


写生を重んじながらも、現実をそのまま描くのでなく、絵の中に実在感のあるモチーフを入れながら理想郷を描いた櫻谷の「リアルな山水画」の作品で今回の特別展はエピローグを迎えます。


エピローグ展示風景


さらにおうちでも櫻谷の写生が楽しめるように、公式図録(税込2,600円)にも写生帖が付いているのです。




専用アプリ(無料)をダウンロードして展覧会ごとの来館スタンプカードをゲットして、スタンプがたまれば絵はがきやオリジナルメモ帳がもらえます。
ぜひトライしてみてはいかがでしょうか。

ミュージアムショップ入口の案内ボード


前期展示は6月25日までです。前期後期で多くの展示替えがあるので、お早めに!
後期展示も楽しみです。