東京・南青山の根津美術館では、企画展「救いのみほとけーお地蔵さまの美術ー」が開催されています。
展覧会チラシ |
「お地蔵さん」と親しまれ、道端にたたずんで私たちの心をなごませてくれる地蔵菩薩。
子育て地蔵、延命地蔵、とげぬき地蔵など、私たちの身近にあって願い事を叶えてくれる地蔵菩薩。
地蔵菩薩は、おそらく私たちにとって一番親しまれている仏さまではないでしょうか。
ところが意外にも、日本ではいつごろから地蔵信仰が広まったのかはっきりしないところがあります。
今回の企画展は、根津美術館所蔵の仏画や仏像を中心に日本における地蔵信仰の歴史とその広がりをひも解いてくとても興味深い内容の展覧会です。普段見慣れているお地蔵さんも、珍しいお地蔵さんも見られて、お地蔵さんがより身近に感じられますので、ぜひ多くの方にご覧いただきたい展覧会です。
展覧会開催概要
会 期 2023年5月27日(土)~7月2日(日)
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日 毎週月曜日
入場料 オンライン日時指定予約
一般 1300円、学生 1000円
*当日券(一般1400円)も販売しています。同館受付でお尋ねください。
*障害者手帳提示者および同伴者は200円引き、中学生以下は無料。
会 場 根津美術館 展示室1・2
展覧会の詳細、オンラインによる日時指定予約、スライドレクチャー等の情報は同館公式サイトをご覧ください⇒根津美術館
※展示室内及びミュージアムショップは撮影禁止です。掲載した写真は記者内覧会で美術館より特別に許可を得て撮影したものです。
はじめに
冒頭には地蔵菩薩像と虚空蔵菩薩像が並んで展示されています。
大地のように広大な恵みを与え、人々の苦しみを引き受ける地蔵菩薩は、古くから虚空のように広い徳や知恵を備えた虚空蔵菩薩と対になる存在として崇められてきました。
右 《地蔵菩薩像》日本・鎌倉時代 14世紀 左 《求聞持虚空蔵菩薩并明星天子像》日本・南北朝時代 14世紀 どちらも根津美術館 |
地蔵信仰のはじまり
東大寺大仏を鋳造した聖武天皇(701-756)の皇后・光明皇后(701-760)が亡き両親の追福のために発願した一切経約七千巻のうちの一巻《大方広十輪経 巻第四(五月一日経)》が展示されています。
《大方広十輪経 巻第四(五月一日経)》日本・奈良時代 8世紀 根津美術館 |
写真パネル展示されている《東大寺要録 巻第四》(国立公文書館)には、かつてあった東大寺講堂に光明皇后が発願して造り始めた虚空蔵菩薩像と地蔵菩薩像が安置されていたことが記載されているので、奈良時代には地蔵信仰があったことがうかがえます。
地蔵への祈り
重要美術品《矢田地蔵縁起絵巻》には、毎月決まった日に奈良・金剛山寺(通称矢田寺)に参詣し地蔵菩薩に祈願すると、地獄での責め苦から救済されるという霊験が描かれています。
9月分の半ばから12月までの3ヶ月半分が現存していますが、12月の月詣での場面では来迎する阿弥陀如来をはじめとした仏さまの一員として地蔵菩薩が登場します。
それぞれの場面には日付が記載されていますが、最後の場面はなんとクリスマスイブの12月24日。絵巻の最初の方には怖い地獄の場面が描かれていますが、年の瀬になっていい場面出てきて、ホッとした気分になってきました。
南北朝時代に成立した《地蔵菩薩霊験記絵巻》は、地蔵にまつわる日本各地の説話が描かれていて、地蔵信仰が全国的に広まったことがうかがえます。
《地蔵菩薩霊験記絵巻》日本・南北朝時代 14世紀 根津美術館 |
ここでは、伯耆国(鳥取県)大山の僧が夢のお告げで下野国(栃木県)の山を訪ね、地蔵房という老法師に宿を借りたところ、実はその老法師の正体は地蔵で、山に登り、体が左右に分かれて生身の地蔵の姿を現すというドラマチックなシーンが描かれています。
《地蔵菩薩霊験記絵巻》(部分)日本・南北朝時代 14世紀 根津美術館 |
地蔵房が変身したのを見て僧は驚きましたが、人間の姿に戻った地蔵房から別れ際にはなむけとして白米を受け取る時の僧のうれしそうな表情に心が和みました。
救済へと向かう地蔵
一見するとどれも変わらぬお地蔵さんの像が並んでいるように見えますが、ところがよく見るとちょっと珍しいお地蔵さんたちのお姿が見られるのです。
展示風景 |
《壬生寺地蔵菩薩像》に描かれているのは、壬生狂言や幕末の新鮮組で知られる京都・壬生寺の旧本尊「延命地蔵菩薩」の木彫像。
原像は昭和37年(1962)に本堂が全焼した時に焼失したので、今となっては旧本尊の姿がわかるとても貴重な作品なのです。
地獄からの救い
地獄の苦しみから衆生を救ってくれる地蔵菩薩と、冥界で亡くなった人を裁く十王がそれぞれ1幅ごとに描かれた全11幅の大作で、現在10幅が伝わっている《地蔵十王図》も初公開の作品です。
《地蔵十王図》(10幅のうち2幅)日本・室町時代 15世紀 根津美術館 |
ここで注目したいのは、上の《地蔵十王図》のうち左の〈秦広王図〉の背後の衝立に描かれた見事な山水画。当代一流のやまと絵師が描いた可能性が高いと考えられています。
朝鮮半島の地蔵図
頭の上から肩までかかる布を被った地蔵菩薩が見えてきました。
頭部に布を被る地蔵菩薩は西域に源流を持ち、高麗時代に非常に流行したとのこと。
着衣の金泥の文様や彩色がよく残されているので、ぜひ近くでご覧いただきたいです。
地蔵の造像
いつもは展示ケースに掛け軸や屏風が展示されている展示室2は、お寺の本堂でお参りしているような静謐な空間が広がっていました。
《地蔵菩薩坐像》を見た時、真っ先に気が付いたのは手前にぐいっと出ている左足でした。これは左足を外して座る「安坐形式」の地蔵菩薩で、初期慶派の作例に多いとのこと。
やわらそうな左足からは、お地蔵さんのぬくもりが伝わってくるように感じられました。
《地蔵菩薩坐像》日本・鎌倉時代 13世紀 根津美術館 |
展示室5 「西田コレクション」受贈記念は最終回です!
根津美術館顧問・西田宏子氏から東洋・西洋陶磁器を中心とした工芸品169件の寄贈を受けたことを記念して3回に分けて開催されている受贈記念展は今回が最終回です。
第3弾は「阿蘭陀・安南etc.」。
フェルメールの《取り持ち女》(ドレスデン国立美術館 アルテ・マイスター絵画ギャラリー)にも同じような塩釉水注が描かれている《塩釉人物文水注》は必見です。
《塩釉人物文水注》ヴェスターヴァルト窯 ドイツ 17世紀 根津美術館(西田宏子寄贈) |
《取り持ち女》は、2018年10月から翌年2月にかけて上野の森美術館で開催されたフェルメール展で来日しているのでご覧になられた方もいらっしゃるのでは。
私も見ましたが、もう一度塩釉水注をじっくり見てみたいです。
(《取り持ち女》は展示ケース内にパネル展示されているのでぜひ見比べてみてください。)
掌に乗るくらいの小さな香合もとても可愛らしいです。
展示室6 涼一味の茶
蒸し暑い梅雨の季節が続いていますが、茶の湯の空間では涼しさが感じられる演出が見られます。
口が広くて浅めの茶碗は三島茶碗は、お茶が冷めやすいので今の季節向きです。
オリジナルグッズも充実してます!
前回の特別展から引き続いて大津絵も好評販売中!