東京・広尾の山種美術館では、【特別展】小林古径 生誕140年記念 小林古径と速水御舟 ー画壇を揺るがした二人の天才ー が開催されています。
展覧会チラシ |
今回の特別展は、小林古径(1883-1957)の生誕140年を記念して、山種美術館が所蔵する古径作品すべて(本画44点[37件])に加え、古径の代表作《極楽井》(東京国立近代美術館 展示期間5/20-6/18)、《出湯》(東京国立博物館 展示期間6/27-7/17)、そして古径が若いころから親しく交流してお互いに刺激を受け合った速水御舟(1894-1935)の最高傑作《炎舞》(重要文化財)、《翠苔緑芝》(どちらも山種美術館)はじめ二人の名作の数々が展示される豪華な内容の展覧会です。
それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。
展覧会開催概要
会 期 2023年5月20日(土)~7月17日(月・祝)
※会期中、一部展示替えあり。
前期 5月20日(土)~6月18日(日)
後期 6月20日(火)~7月17日(月・祝)
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日 月曜日(但し、7/17(月・祝)は開館)
入館料 一般1400円、大学生・高校生1100円、中学生以下無料(付添者の同伴が必要)
※入館日時のオンライン予約も可能です。チケット購入方法、各種割引等は山種
美術館公式サイトをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/
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1 年間パスポート「山種メンバーズ」
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展示構成
第1章 歴史人物画からの出発、写実・古典への挑戦
第2章 渡欧体験を経て
第3章 二人の交流、御舟亡き後の古径
※展示室内は小林古径《弥勒》(山種美術館)を除き撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。
※掲載した作品のうち、展示替えがあるものはその旨を記載しました。
第1章 歴史人物画からの出発、写実・古典への挑戦
第1章では、歴史人物画から出発して、1914(大正3)年に再興された院展で活躍したという共通点をもつ二人の作品が、お互いに対話するかのように並んで展示されています。
第1章展示風景 |
左側には、『平家物語』に取材した《小督》をはじめとした古径の初期の作品と、昔、奥州地方には、男が女の家の門に錦木を立て、女がそれを取り込めば男の思いがかなった証(あかし)とする風習があったという伝説を題材とした《錦木》などの歴史人物画が展示されています。
第1章展示風景 |
『宇治拾遺物語』にも登場する瘤取爺さんの説話に取材した《瘤取之巻》は御舟が松本楓湖の画塾に入門して3年目の17歳の時に描いたもので、若い頃から平安時代の絵巻をしっかり勉強していることがうかがえ、その後の才能の開花を予感させられる作品です。
歴史人物画の向かい側には、二人の風景画と静物画が展示されていますが、ここで特に注目したいのは二人の静物画。
大正時代半ば以降、古径も御舟も他の日本画家と同様に洋画家・岸田劉生や中国・宋代の院体花鳥画(11~13世紀)に触発されて静物画や花鳥画を描きました。
速水御舟の《桃花》は、院体花鳥画を意識して枝の一部をクローズアップして小画面に描く「折枝画」の様式に倣って描かれた作品。
日本画の画材にこだわった御舟に対して、古径は油絵具で描いた作品を残しています。
小林古径《静物》1922(大正11)年 山種美術館 |
そして落款にも注目です。
どちらの作品も、北宋の徽宗皇帝が創作した、細く強い線と金属的な尖ったはねが特徴の「痩金体」風の書体で書かれています。
政治にあまり関心がなく芸術に力を入れたばかりに民衆を苦しめ、結局は北宋滅亡の原因をつくった「風流天子」徽宗は、当時の人たちにとってはとんでもない皇帝でしたが、後世の芸術に与えた影響は絶大なものがあり、古径や御舟もこのような作品を残したのですから、あらためて徽宗おそるべし、と感じました。
第1章で二人の画業の歩みをたどっているうちに、今回の展覧会のクライマックスの一つともいえる古径の《清姫》(第2章)、そして琳派の影響が色濃くうかがえる御舟の《翠苔緑芝》(どちらも山種美術館)にたどり着きました。
第2章 渡欧体験を経て
二人の才能は渡欧体験を経てさらに開花していきますが、日本的な題材である道成寺伝説に取材した小林古径《清姫》がなぜ「第2章 渡欧体験を経て」に分類されているのでしょうか。
小林古径《清姫》1930(昭和5)年 山種美術館 |
それは、1922(大正11)年、前田青邨とともに日本美術院の留学生として渡欧した古径が、イギリスの大英博物館での中国・東晋時代の画家・顧愷之の作と伝わる《女史箴図》の模写を通じて「高古遊絲描」と呼ばれる「蚕から絹糸をひくような線」に感銘を受け、線描の美に目覚め、それが《清姫》で結実したからなのでした。
《清姫》全8面が会期を通じて一挙公開されるのは5年ぶりのこと。古径が渡欧して見た中国絵画の模写によって生み出された「インターナショナル」な《清姫》をこの機会にお見逃しなく!
一方の御舟は、1930(昭和5)年、大倉喜七郎男爵の支援によってローマで開催された日本美術展に《名樹散椿》を出品し、美術使節として横山大観らとともに渡欧しました。
御舟がヨーロッパやエジプト滞在時の印象をもとに制作した作品のうち、今回の展覧会では《埃及土人ノ灌漑》と《オリンピアス神殿遺址》が展示されていますが、南国の太陽のもと、現地の人たちや風景が明るくのびのびと描かれていて、おおらかな雰囲気が伝わってきます。
速水御舟《埃及土人ノ灌漑》1931(昭和6)年 山種美術館 |
一方で、渡欧後の御舟は墨の濃淡で花びらを描いた《牡丹花(墨牡丹)》(山種美術館)をはじめ、水墨を基調とした花鳥画へ新境地を切り開いていったのです。
中央が速水御舟《牡丹花(墨牡丹)》1934(昭和9)年、 左 小林古径《蓮》1932(昭和7)年、右 小林古径《牡丹》1951(昭和26)年頃 いずれも山種美術館 |
花も葉も茎もすべて水墨で描くのでなく、花だけを水墨で描くと花の存在感がより一層増すように感じられるから不思議です。
第3章 二人の交流、御舟亡き後の古径
古径と御舟は11歳の年齢差がありましたが、若い頃から親しく交流し、たびたび旅行にも出かけました。
古径の《弥勒》(山種美術館)は、古径が御舟とともに奈良や京都を訪ねた時の写生をもとに制作された二人の画家の思い出の作品です。
今回はこの作品1点のみ写真撮影OKです。
(撮影はスマートフォン・タブレット・携帯電話に限ります。撮影時の注意事項は作品横のパネルでご確認ください。)
古径が魅了されて模写したというエピソードが伝わる速水御舟《桔梗》(山種美術館)。
いつも第1展示室の冒頭にはその時の展覧会を象徴する作品が展示されるのですが、今回は古径にとって最後の院展出品作で、院展に発表した初めての静物画《菖蒲》(山種美術館)です。
古径が好んだ花菖蒲が、愛蔵の古伊万里の壺とともに描かれた、とても上品な作品です。
第2展示室にはもう一つのクライマックスが!
少し照明を落とした第2展示室には、実際には絵なのに、目の前にいると炎の熱気が感じられてきそうな速水御舟の《炎舞》(重要文化財 山種美術館)が展示されています。
いつものことながら絶妙なライティングです。
今回も山種美術館所蔵品を中心にデザインされたオリジナルグッズが充実しています。
いろいろあって目移りしてしまいますが、私のイチ押しは新製品のオリジナル猫トートバッグ(税込1,760円)(上の写真左奥)。
山種美術館が所蔵する小林古径の全39作品(46点)が、作者のことばや略年譜とともに掲載された『山種美術館所蔵 小林古径 作品集』(税込1,210円)も今回新たに出版されました。
既刊の『山種美術館所蔵 速水御舟 作品集』(税込1,430円)とあわせておすすめの作品集です。
展覧会鑑賞後のお楽しみはオリジナル和菓子がおすすめです!
展覧会をご覧いただいたあとは、小林古径や速水御舟の作品をモチーフにしたオリジナル和菓子がおすすめです。抹茶とオリジナル和菓子のセットは1,250円(税込)。美術館1階ロビーの「Cafe 椿」でぜひお召し上がりください。
どれも美味で、どれもおすすめなのですが、私の一押しを選ぶとすると、さっぱりした甘みが口の中に広がる「花涼やか」でしょうか。
さて、みなさまのおすすめはどれになりますでしょうか。
もうすぐ公募展の応募が始まります!
今年で3回目を迎えた「Seed 山種美術館 日本画アワード 2024 ー未来をになう日本画新世代ー」。
今回から関西エリア(京都近郊)での作品の搬入受付が決定しました。応募期間は2023年8月16日(水)から9月10日(日)まで。
詳細は本展特設ページをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/seed2024/
受賞・入選作品が展示公開される「Seed 山種美術館 日本画アワード 2024 ー未来をになう日本画新世代ー」[会期:2024年2月17日(土)~3月3日(日)]は毎回楽しみにしています。
撮影スポットにあの名作が!
山種美術館が所蔵する速水御舟のもう一つの重要文化財《名樹散椿》は今回は展示されていませんが、1階フォトスポットでは複製画とともに記念写真が撮れる撮影スポットがあります。
二人の天才画家の才能が共鳴しあって、固い友情も感じられるとても内容の濃い展示です。
この夏おすすめの展覧会です。