東京・南青山の根津美術館では、企画展「甲冑・刀・刀装具ー光村コレクション・ダイジェストー」が開催されています。
展覧会チラシ |
今回の企画展は、根津美術館が所蔵する約1200点の甲冑・刀・刀装具コレクションの中から選りすぐりの作品が見られる展覧会。
甲冑、刀剣ファンはもちろんのこと、刀の鐔(つば)に施されたユニークなキャラクターの金工細工など、誰にでも楽しめる展覧会ですのでぜひ多くの方にご覧いただきたいです。
それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。
展覧会開催概要
会 期 2023年9月2日(土)~10月15日(日)
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日 毎週月曜日
ただし9月18日(月・祝)、10月9日(月・祝)は開館、9月19日(火)、10月10日(火)は休館
入場料 オンライン日時指定予約
一般 1300円、学生 1000円
*当日券(一般1400円、学生1100円)も販売しています。同館受付でお尋ねください。
*障害者手帳提示者および同伴者は200円引き、中学生以下は無料。
会 場 根津美術館 展示室1・2
展覧会の詳細、オンラインによる日時指定予約、スライドレクチャー等の情報は同館公式サイトをご覧ください⇒根津美術館
※展示室内及びミュージアムショップは撮影禁止です。掲載した写真は記者内覧会で美術館より特別に許可を得て撮影したものです。
展示構成
1 光村コレクションとは
2 甲冑 ー蒐集のはじまり
3 刀 ー蒐集と公開
4 刀装具 ー記録・技術保存
1 光村コレクションとは
光村コレクションとは、明治~昭和前期の実業家・光村利藻氏(号 龍獅堂)が蒐集した3000点以上におよぶ甲冑や刀剣、刀装具のコレクションのことですが、その数の多さもさることながら、蒐集のきっかけとなったエピソードにも驚かされました。
利藻氏のコレクションの発端は、長男の初節句のために本物の緋威(ひおどし)の甲冑と陣太刀を購入したことだったのですが、今でも子どもの初節句に五月人形を買う親はいるでしょうが、本物の甲冑と刀を子どもに買ってあげる親はそうはいないのではないでしょうか。
それからわずか10年ほどの間に蒐集の対象は甲冑から刀剣、刀装具にまでおよび、量だけでなく質も非常に高いコレクションが形成されたのです。
さらに光村コレクションが初代 根津嘉一郎氏の手に渡った時のエピソードにも驚かされました。
利藻氏の事業が行き詰まり、コレクションを手放さなくてはならなかったとき、渡米実業団の一員として明治42年(1909)に横浜を出港しようとしていた嘉一郎氏は、実物を全く見ることなく一括購入したのです。
のちに嘉一郎氏は、自身に刀剣の趣味はないものの、苦心の大蒐集だから買っておいたと語っていますが、優れた日本美術が海外に流出することを防ぐ意図もあったとも思われています。
2 甲冑 ー蒐集のはじまり
今回展示されている「当世具足」とは、弓矢や太刀などが戦いの主力であった時代の重い甲冑から、槍や鉄砲の普及で戦いの様相も変わり、戦国時代以降に広まったより頑丈で活動しやすい甲冑のことで、当時としてはいわば最新式の武具。
その「当世具足」をはじめ、兜や面具など28件が含まれる現在の根津美術館の光村コレクションの中から、選りすぐりの武具が展示されいてる様は、今にも大河ドラマの合戦シーンが始まりそうでまさに「壮観!」の一言です。
「2甲冑 -蒐集のはじまり」展示風景 |
そして今回特にうれしかったのが、甲冑横のパネル(下の写真左)に鍬形、吹返、草摺など各部位の名称が記載されていることでした。
甲冑のことはあまり詳しく知らなかったので勉強になりました。
《紅糸威二枚胴具足》日本・江戸時代 19世紀 根津美術館 |
利藻氏が長男の初節句のために最初に購入した緋威(ひおどし=緋色の糸でつづり合わされた)の甲冑は、この紅糸でつづり合わされた具足のように、ひときわ鮮やかな色彩を放っていたことでしょう。
3 刀 ー蒐集と公開
古くから刀剣の制作がさかんだった備前国(岡山県東南部)で制作された「備前」の古刀から、江戸時代の新刀、さらには明治に入り廃刀令により窮地に立たされていた刀鍛冶に注文製作の機会を与えて製作された刀まで、刀剣女子ならずともこのラインナップは見逃すわけにはいきません。
利藻氏は、自邸で甲冑や刀剣、刀装具を積極的に公開したとのことですが、今ならきっと多くの刀剣女子たちが訪れたことでしょう。
上の写真後方の展示ケースに見られるようにパネルを半分ほど下げて、刃に光が集中するように工夫されたライティングも絶妙です。
重要美術品《太刀 銘 長光》日本・鎌倉時代 13世紀 根津美術館 |
《太刀 銘 長光》の刃文は直線的なのが特徴ですが、ここにも刀剣の各部位の名称や刀文の特徴などの解説パネルがあるので、刀剣にあまり詳しくなくてもすぐに刀剣の見方がわかるので助かります。
次の刀装具の展示でも、さすがに鐔(つば)はわかりますが、小柄(こづか)、笄(こうがい)となると刀のどの部位になるのだろうとあやしくなるので、「刀装具の部位と名称」の解説パネルはとても参考になります。
4 刀装具 ー記録・技術保存
利藻氏は刀装具などを蒐集しただけでなく、それらを調査し、刀装具の大型名品図録『鏨廼花(たがねのはな)』を編纂するという大きな業績を残しています。
今回展示されているのはその復刻版。
『鏨廼花(復刻版)』6冊のうち 日本・昭和時代 昭和46年(1971) 根津美術館 |
ここでは鐔などに施された細かな超絶技巧をぜひじっくりご覧いただきたいです。
単眼鏡お持ちの方はぜひご持参ください。
目を凝らして小さな鐔を見てみると、右には怖い顔で鬼をにらみつける鍾馗さん、左には鬼が見えてきますが、鬼の怖がりようがなんとユーモラスなこと。
《鍾馗鬼図大小鐔》松尾月山作 日本・江戸~明治時代 19世紀 根津美術館 |
最初は何がかたどられているのか分かりませんでしたが、くりぬかれた部分が茶釜から頭やしっぽ、足をはやした「ぶんぶく茶釜」でした。(下の写真左《茂林寺茶図透鐔》)
ほかにもまだまだ小さな刀装具に広がる世界が楽しめるので、細部までぜひご覧ください!
展示室5 二月堂焼経ー焼けてもなお煌めく
寛文7年(1667)2月に東大寺で行われた修二会(お水取り)の際、二月堂からの出火で下の部分が焼損した「二月堂焼経」4件。2017年から2022年にかけて行われた修理後初公開の重要美術品も含まれています。
修理の際、カビと考えられていた白い部分が蛍光X線調査で消火の際に水をかぶったため銀がイオン化して水中に溶け出し、それが本紙に広がったものと推定されたとのこと。
銀の文字の煌めきをぜひご覧いただきたいです。
展示室6 月見の茶
まだまだ厳しい残暑が続いていますが、暦の上ではもう秋。
秋といえば月見ですが、一足早くお月見が楽しめるのが重要美術品《色絵武蔵野図茶碗》。
右の白抜きの満月と、月の光に照らされた秋草が優雅な雰囲気を醸し出しています。
ミュージアムショップ
展覧会の記念に刀装具のA4クリアファイルやハガキなどはいかがでしょうか。
ぜひミュージアムショップにもお立ち寄りください!
会期は10月15日(日)まで。
この秋おすすめの展覧会です!