東京・上野公園の東京国立博物館では、浄瑠璃寺九体阿弥陀修理完成記念 特別展「京都・南山城の仏像」が開催されています。
会場入口 |
今回の特別展は、京都府の最南部・南山城にある浄瑠璃寺の本堂に安置されている平安時代の阿弥陀如来坐像九体の修理が完成したことを記念して開催される展覧会。
2018年度から5年をかけて順々に修理が行われた九体のうち最後の一体の阿弥陀如来坐像がお寺に戻る前に東京にご出陳いただいています。
浄瑠璃寺九体阿弥陀の前回の修理がおよそ110年前の明治期に行われたので、今回のようにお寺の外で拝める機会が訪れるのは100年後かもしません。あわせて南山城の仏像の代表作が一堂に会した展覧会ですので、見逃すわけにはいきません。
それではさっそく展覧会の様子をご紹介したいと思います。
展覧会開催概要
会 期 令和5年(2023)9月16日(土)~11月12日(日)
※会期中、一部の作品は展示替えを行います。
開館時間 午前9時30分~午後5時 ※入場は開館の30分前まで
休館日 月曜日(ただし10月9日は開館)、10月10日(火)
会 場 東京国立博物館 本館特別5室
展覧会の詳細は公式サイトをご覧ください⇒特別展「京都・南山城の仏像」
※展示室内は撮影不可です。掲載した写真は、プレス内覧会で主催者から許可を得て撮影したものです。
見どころ1 極楽浄土の雰囲気が体験できます。
会場内の正面に鎮座するのは国宝《阿弥陀如来坐像(九体阿弥陀のうち)》。
そして、両脇を固めるのは同じく国宝の《広目天立像(四天王のうち)》《多聞天立像(四天王のうち)》。
中央《阿弥陀如来像(九体阿弥陀のうち)》平安時代・12世紀、 右《広目天立像(四天王のうち)》、左《多聞天立像(四天王のうち)》 どちらも平安時代・11~12世紀 いずれも国宝、京都・浄瑠璃寺 |
平安時代には、貴族たちが極楽往生を願い九体阿弥陀を阿弥陀堂に安置することが流行して京都を中心に30カ所ほど九体阿弥陀堂が作られたと伝わりますが、当時の彫像・堂宇が現存するのは、この浄瑠璃寺だけなのです。
9世紀の時を越えてなお黄金色に輝く阿弥陀如来像、そして西方を守る広目天立像、北方を守る多聞天立像が並ぶ様は、当時の貴族たちが夢見た極楽浄土の世界がこの場に現われたかのように感じられます。
会場入口の写真にあるように、九体の阿弥陀如来像が並ぶ浄瑠璃寺での本堂では台座は見えませんが、ここでは阿弥陀如来像を支える立派な台座まで見ることができます。
見どころ2 平安時代の仏像の変遷がたどれます。
794年に平安京に都が置かれてから12世紀後半まで続いた平安時代には唐風文化から国風文化への変化が見られましたが、平安時代の仏像の代表作がそろった今回の特別展では唐風から和様へと変化する仏像の変遷をたどることもできるのです。
9世紀 唐風の影響
会場入口でお出迎えしてくれるのは、唐風文化の影響を受けて自然な姿勢が特徴の重要文化財《十一面観音菩薩立像》(京都・海住山寺)。
優雅なたたずまいを拝見していると、自然と心がなごんでくるように感じられます。
10世紀 和様への歩み
奈良・東大寺の僧侶が創建した禅定寺の本尊《十一面観音菩薩立像》は、太い鼻筋や張りのあるの頬で穏やかな顔立ち、浅く緩やかな彫りによる柔らかな衣の表現が特徴で、和様彫刻へと歩みを始めた時代を代表する仏像です。
高さ3mにもおよぶ姿に圧倒されます。
11~12世紀 貴族文化の最盛
ふたたび登場いただくのは国宝《広目天像(四天王のうち)》。
動きが控えめで品のある立ち姿、華やかな彩色と金箔を細く切って貼り付ける截金文様が特徴で、貴族好みの大ぶりな植物の文様も描かれています。
制作当時の姿がよく残されている貴重な仏像ですので、ぜひ近くでご覧いただきたいです。
見どころ3 特徴ある仏像にもお会いできます。
今回の特別展で展示される仏像は、展示替えを含めて全部で18体。
ほかにもまだまだ特徴のある仏像にお会いできます。
平成11年(1999)の解体修理の際に像内から取り出された文書から、鎌倉時代の慶派仏師の棟梁・運慶とともに活躍した快慶の有力な弟子・行快が制作にあたったとされるのが重要文化財《阿弥陀如来立像》。
切れ長な目線、数多い衣の襞(ひだ)といった慶派の特徴をもつ鎌倉時代の仏像です。
像内納入品も展示されているので、《阿弥陀如来立像》とあわせてご覧いただきたいです。
右 重要文化財《阿弥陀如来立像》行快作 鎌倉時代・嘉禄3年(1227) 京都・極楽寺 左 《牛頭天王坐像》平安時代・12世紀 京都・松尾神社 |
鳥が羽ばたいているようにも見えるのは、重要文化財《千手観音菩薩立像》。
千手観音は千本の腕で人々を救う仏様ですが、42本に省略することが多い中、この千手観音菩薩様は千本に迫る多くの手をお持ちです。
両脇を固めるのは、向かって右から《金剛夜叉明王立像》《隆三世明王立像》。
三体とも京都・寿宝寺の所蔵ですが、動きのある二体の明王立像とともにこの一角は特に躍動感があるように感じられました。
たいていは忿怒の形相で悪をにらみつける不動明王ですが、この《不動明王立像》は丸い顔でくりっとした目をしていてまるでかわいらしい子どもように感じられます。
さらに不動明王の特徴ともいえる左胸に垂れる弁髪がなく、左肩から右脇に掛ける条帛(じょうはく)という衣も着けていませんが、これは天台宗の高僧・円珍が感得したという黄不動と共通しているのでした。