2024年1月9日火曜日

大阪中之島美術館 決定版! 女性画家たちの大阪

大阪中之島美術館では一足早い春の訪れを告げる展覧会、決定版! 女性たちの大阪が開催されています。


展示室前フォトスポット


昨年(2023年)に大阪中之島美術館と東京ステーションギャラリーで開催された特別展「大阪の日本画」で多くの女性日本画家たちの活躍ぶりがクローズアップされましたが、今回は、生き生きとした女性像や、古き良き大阪の街のにぎわいなどを描いた大阪の女性画家たちの作品にフォーカスを当てた展覧会です。

50名を超える近代大阪の女性日本画家の作品約150点が展示され(会期中展示替えあり)、期待通り充実の内容の展覧会でしたので、さっそく展示の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


会 期  2023年12月23日(土)~2024年2月25日(日)
     前期:2023年12月23日(土)~2024年1月21日(日)
     後期:2024年1月23日(火)~2月25日(日)
     *会期中展示替えあり
休館日  月曜日(1/8、2/12は開館)
開場時間 10:00-17:00(入場は16:30まで)
     *2月10日~2月25日の期間は10:00-18:00(入場は17:30まで)
会 場  大阪中之島美術館 4階展示室
観覧料  一般 1800円、高大生 1000円、中学生以下無料
展覧会の詳細、関連イベント等は同館公式サイトをご覧ください⇒大阪中之島美術館 


展示構成
 第1章 先駆者、島成園
 第2章 女四人の会ー島成園、岡本更園、木谷千種、松本華羊
 第3章 伝統的な絵画ー南画、花鳥画など
 第4章 生田花朝と郷土芸術
 第5章 新たな時代を拓く女性たち


※会場内は第5章を除き撮影不可です。掲載した写真はプレス内覧会で美術館より許可を得て撮影したものです。


見どころ1 先駆者、島成園の画業の流れがよくわかる!


今回の展示の見どころのひとつは近代大阪における女性日本画家の先駆者、島成園(1892-1970)の画業の流れがよくわかる構成になっていることです。

第1章展示風景


ここで最初に注目したいのは、《宗右衛門町之夕》(個人蔵 通期展示)。

島成園《宗右衛門町之夕》大正元年頃
個人蔵 通期展示 

この作品は、大正元年(1912)、当時はまだ無名の画家だった20歳の島成園が第6回文部省美術展覧会(文展)に入選した《宗右衛門町の夕》の姉妹作。
舞妓さんの晴れやかな着物の柄、温かみが感じられる表情に心がなごみます。
第6回文展受賞作《宗右衛門町の夕》は現在、所在不明ですが、この《宗右衛門町之夕》からも受賞作の華やいだ雰囲気が伝わってくるように感じられます。

次に注目したいのは、文展の後身・帝国美術院展覧会(帝展)の第2回展(大正9年(1920))の入選作で、賛否両論があり、世間の注目を集めた成園の代表作《伽羅の薫》(大阪市立美術館 通期展示 下の写真右)。

第1章展示風景

イギリスの世紀末を代表する画家ビアズリーの代表作《サロメ》を彷彿させる大胆な構図、ビアズリーが黒と白の対比で描いたのに対して赤、黒、白、金で描かれたこの作品は「不快」とまで批判されましたが、仮に100年後の現在、新作として展覧会に出品されても強烈なインパクトを放ち、話題の作品になったのではないかと思えるほど斬新な作品です。

《無題》《自画像》(どちらも大阪市立美術館 通期展示)のように先駆者ならではの苦悩が感じられる作品も展示されています。
特に《自画像》からは、思うように描けないという焦燥感が伝わってきて、作品の前に釘付けになってしまいました。


島成園《自画像》大正13年(1924)
大阪市立美術館 通期展示


28歳で結婚した成園は、銀行員の夫とともに上海に滞在しますが、スランプの時期だったとはいえ、上海で描いた作品は、上海のエキゾチックな雰囲気が感じらてとても好きな作品です。

左から 島成園《上海にて》大正14年頃 《上海娘》大正13年
どちらも大阪市立美術館 前期展示(12/23-1/21)
後期(1/23-2/25)には《上海婦人》大正13年 大阪市立美術館、
《燈籠祭之夜》大正14年頃 福富太郎コレクション資料室
が展示されます。


見どころ2 島成園と同時代の女性日本画家がそろい踏み!


女四人の会

第2章で紹介されるのは、島成園の文展入選に勇気づけられて、その後の文展に入選した同時代の女性日本画家、岡本更園(1895-不詳)、木谷(旧姓・吉岡)千種(1895-1947)、松本華羊(1893-1961)。

第2章展示風景


4人は伊原西鶴の『好色五人女』を研究し、物語に登場した人物の美人画を制作して「女四人の会」展で発表しましたが、今回の展覧会ではそのうち2点が展示されています。


左 島成園《西鶴のおまん》 右 岡本更園《西鶴のお夏》
どちらも大正5年(1916) 個人蔵 通期展示

島成園が描く侍姿の娘おまんの流し目には、目を合わせたらスーッと吸い込まれそうな凄味が感じられます。

ほかにも岡本更園の第8回文展入選作《秋のうた》(大正3年(1914) 個人蔵 通期展示)、木谷千種の第12回文展入選作《をんごく》(大正7年(1918) 大阪中之島美術館 前期展示)、第12回文展に落選したとはいえ、棄教を拒否して処刑を待つ若い遊女の凛とした姿が描かれた松本華羊の《殉教(伴天連お春)》(大正7年(1918)頃 福富太郎コレクション資料室 通期展示)をはじめ、「女四人の会」のそれぞれ個性豊かな逸品が展示されています。

第2章展示風景


花鳥画、山水画も優品ぞろい


「大阪の日本画」展で見る機会があった2人の女性日本画家、水墨で描く山水画を得意とした橋本青江(1828-1905頃)と、青江の弟子で青緑山水の優品を残した川邊青蘭(1868-1931)をはじめとした山水画の作品にふたたびめぐり会えるのも今回の展覧会の楽しみの一つでした。


第3章展示風景

特に筆者は、「西の青江、東の晴湖」と並び称された奥原晴湖の明清絵画の影響を受けた山水画の大ファンなので、同じく中国文人文化に憧れた橋本青江の山水画はじわっと心に沁みてくるのです。

第3章展示風景


古き良き大阪の雰囲気を伝える生田花朝

「大阪の日本画」展で見て特に印象的だった生田花朝(1889-1978)が描く大阪の祭礼や寺社の風景は、見たことがないのになぜか懐かしさを感じさせてくれる作品ばかりです。

第4章展示風景

三歳年下の島成園が二十歳で文展に入選して、その後若い女性画家が文展で入選する一方で、文展での落選が続いた生田花朝が初めて官展に入選したのは遅く、大正14年(1925)に開催された第6回帝展、花朝35歳の時でした。
それでも翌年の第7回帝展では《浪花天神祭》が特選を受けるという栄誉に浴し、それからも生涯にわたり大阪の風物を描きました。
特選を受賞した大作《浪花天神祭》は現在、所在不明ですが、天神祭を描いた作品は人気を博したので、その後も描き続け、今回の展覧会で展示されている《天神祭》(上の写真右 昭和10年(1935)頃 大阪府立中之島図書館 通期展示)もそのうちの1点です。


見どころ3 次の世代も百花繚乱、多士済々!


第5章には、大正から昭和初期にかけて、「成」の字を雅号に授かった島成園の門下生や、木谷千種の画塾・八千草会、大阪画壇を代表する日本画家の一人、北野恒富の画塾・白耀社をはじめとした画塾で腕を磨いた、島成園たちの次の世代の女性画家の作品が展示されています。


第5章展示風景



第5章展示風景


下の写真《淀殿》(大正後期-昭和前期 個人蔵 通期展示)は、「喜代子」と記された落款以外に作者の情報がなく、第2章に展示されている木谷千種の《化粧(原題・不老の願い)》(昭和2年(1927) 個人蔵 前期展示)と作風や画題が似ていることから、八千草会出品作家の中に「喜代子」という名前の作者が確認できたので、この屏風が「西口喜代子」の作品と判定されたものです。

西口喜代子《淀殿》大正後期-昭和前期
個人蔵 通期展示


作者もミステリアスなら、描かれた人物もミステリアス。
《淀殿》は仮のタイトル。着物の柄の「太閤桐」の文様などからこの女性が豊臣秀吉の側室、淀殿ではないかと思われているものなのです。

先ほどご紹介した生田花朝の画室は昭和20年3月の大空襲で焼失してしまったように、きっと多くの作品が戦災で失われたことでしょう。それでもすそ野が広かった大阪の女性画家たちの隠れた名作が見つかる可能性があるのもこれからの楽しみの一つかもしれません。



第5章展示風景



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お帰りにはぜひ特設ショップにお立ち寄りください。




巡回展はありません。
地元・大阪でぜひ大阪の女性画家たちの競演をご覧ください!