大阪中之島美術館では、英国・テート美術館のコレクションの中から「光」をテーマに、18世紀末から現代まで約200年間のアーティストたちの作品が見られる展覧会が開催されています。
会場入口前のフォトスポット |
タイトルは「テート美術館展 光 ー ターナー、印象派から現代へ」。
今回の展覧会は、イギリスを代表する風景画家ターナーや、モネをはじめとした印象派、ラファエル前派の油彩画、写真や映像作品から現代美術家オラファー・エリアソンのインスタレーションまで、ジャンルも年代も表現方法も異なる作品が見られる盛りだくさんの内容です。
「ターナー展」や「印象派展」といった一人のアーティストや、一つのテーマの展覧会も見応えがあっていいのですが、プリンアラモードのように一つの皿の中でいろいろなものが楽しめる展覧会の味わいもまた格別です。
それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。
展覧会開催概要
会 期 2023年10月26日(木)~2024年1月14日(日)
会 場 大阪中之島美術館 5階展示室
開場時間 10:00-17:00 ※入場は閉場の30分前まで
休館日 毎週月曜日(ただし1月8日は開館)、12月31日、1月1日
観覧料 一般 2,100円、高大生 1,500円、小中生 500円
チケットの購入方法、展覧会の詳細、イベント、キャンペーン等は展覧会公式サイトでご確認ください⇒https://tate2023.exhn.jp/
※撮影禁止マークがついている作品の写真撮影はできません。撮影禁止マークは作品リストでも確認できます⇒作品リスト
暗闇の中から見えてくるものは?
展覧会は聖書を題材にした油彩画から始まります。
『旧約聖書』創世記の冒頭にあるように、神は暗闇から始まった世界に光を与えました。
スコットランド出身の風景画家・ジェイコブ・モーアの《大洪水》に描かれた光は、岩山の向こうから出てきたぼんやりとした陽の光。
それは、神によって起こされた洪水のあと、まだ水が引かない大地に姿を現した人々を照らす希望の象徴のように感じられます。
静かな印象を与えるモーアの《大洪水》とは対照的に、ターナーの《光と色彩(ゲーテの理論)――大洪水の翌朝――創世記を書くモーセ》には、激しく渦巻く雲の中、後ろから光を受けたモーセの影が浮かび上がり、新たなことを予感させるドラマチックな場面が展開しています。(『旧約聖書』の最初の五書(創世記、出エジプト記、レビ記、民数記、申命記)はモーセの作とされ「モーセ五書」と呼ばれています。)
会場風景 |
ジョン・マーティンは、人間の力ではどうすることもできない天変地異など自然の偉大な力を描き、見る人に自然の崇高さを呼び起こした画家でした。
空一面を覆う噴煙と炎、荒れ狂う海となすすべもなく海岸に打ち上げられる船、自然の猛威に恐れおののき斃れる人たち、無造作に地面に置かれたぜいたくの象徴としての銀食器。
ポンペイと、ナポリ湾に面したヘルクラネウム(現在のエルコラーノ遺跡)がヴェスヴィオ火山の噴火に見舞われる場面が描かれたこの作品は、彼の出世作で『旧約聖書』ダニエル記のエピソードを描いた《ベルシャザルの饗宴》のように、見たことがない光景なのにあたかもその場にいたかのように細部までリアルに描かれていることに驚かされます。
画家は自然の光をどのようにとらえたか?
時の流れとともに移りゆく自然の光をどのように表現するかという難解なテーマに一つの答を示したのは、ターナーのライバル、ジョン・コンスタブルでした。
会場風景 |
コンスタブルは画面の大半に雲や大気の様子などを描き、自然の空気感をとらえようとしたのです。それが、光の加減で見えてくる景色が変化する睡蓮の池などを描いたモネをはじめ印象派の画家たちにも連なっていくのでした。
会場風景 |
モネの作品は《ポール=ヴィレのセーヌ川》《エプト川のポプラ並木》の2点展示されています。
モネのファンで、「大好きなモネの作品をもっと見たい!」という方もいらっしゃるかと思いますが、ご心配なく。
同じく大阪中之島美術館の5階展示室では、次回展として2024年2月10日(土)~5月6日(月・休)に100%モネの展覧会「モネ 連作の情景」が開催されるので、ぜひこちらもご覧ください。
大阪中之島美術館のサイト⇒「モネ 連作の情景」
さて、今回は光がテーマなので光の作品に戻ります。
空から燦燦と輝く太陽の光が放射状に描かれ、まばゆいばかりの空が表現されたジョン・ブレットの《ドーセットシャーの崖から見るイギリス海峡》は、これぞ「ザ・光」。光そのものを描いた作品なので、太陽の光が主役と言ってものよいこの作品が展覧会のメインビジュアルになっているのもうなずけます。
会場風景 |
自然の景色でなく室内というプライベートな空間を描き続けたアーティストがいました。
その名は「北欧のフェルメール」とも呼ばれたデンマークを代表する画家ヴィルヘルム・ハマスホイ。
最近特に人気が高まっているハマスホイの作品のポイントは窓から入ってくる光の効果。
冬が長く室内にいることが多い北欧の国デンマークらしく、室内のぬくもりが伝わってくるように感じられます。
色とりどりの光のインスタレーションが楽しめます。
冬になると全国各地でイルミネーションやクリスマスの飾りが街をいろどり、華やいだ雰囲気になりますが、会場内でも色とりどりの光のインスタレーションを楽しむことができます。
これは高層ビル群の夜景?繁華街のネオンサイン?
鑑賞者に都市を想起せることを試みた英国生まれのデイヴィット・バチェラーの作品からみなさんは何を思い浮かべるでしょうか。
デイヴィッド・バチェラー 左:《ブリック・レーンのスペクトル2》2007年、 右:《私が愛するキングス・クロス駅、私を愛するキングス・クロス駅 8》 2002-07年 ©David Batchelor |
光の展覧会のトリを務めるのはやはりこの方。
気候変動に関心をもち、アートを通じて私たちに地球環境問題を訴えかける現代の人気作家オラファー・エリアソンです。
この《星くずの素粒子》は照明の条件や鑑賞者の立つ位置によって表情を変える彫刻作品ですので、ぜひ場所を変えてじっくりご覧いただいて、この神秘的な空間を体験していただきたいです。
光とアートをめぐる200年の軌跡が体験できる展覧会です。
英国・テート美術館の7万7千点以上のコレクションから「光」をテーマに厳選された約120点が展示され、そのうちおよそ100点が日本初出品。
さらに中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドを巡回した展覧会の最終会場となる大阪では、ゲルハルト・リヒター《アブストラクト・ペインティング(726)》などが日本で初めて出品されています。