2024年9月8日日曜日

【9月29日(日)開幕!】山種美術館【特別展】没後50年記念 福田平八郎✖琳派

東京・広尾の山種美術館では、9月29日(日)から【特別展】没後50年記念 福田平八郎✖琳派が開催されます。

今回の特別展は、福田平八郎(1892-1974)の没後50年を記念して、初期の写実的な作品から晩年の単純な色彩と大胆な構図の作品まで、平八郎の画業の変遷をたどる、山種美術館では12年ぶりに開催される展覧会です。
今年(2024年)は大阪と平八郎の生まれ故郷の大分で回顧展が開催されましたが、東京には巡回しなかったので、都内で開催されるのを心待ちにしていました。

展覧会チラシ


それではさっそく展覧会の見どころをご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2024年9月29日(日)~12月8日(日)
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日  月曜日[10/14(月・祝)、11/4(月・振休)は開館、10/15(火)、11/5(火)は休館]
入館料  一般1400円(1200円)、大学生・高校生1100円(1000円)*( )内は前売り料金
     ※前売券は、9月28日まで。
               中学生以下無料(付添者の同伴が必要です) 
各種割引、展覧会の詳細、関連イベント等は山種美術館公式サイトをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/



見どころ1 福田平八郎の初期から晩年までの名品が集結!


画面中央にはボリューム感のある淡いピンク色の牡丹、画面左には寄り添うようにすらっとした枝に咲く濃い赤色の牡丹が配置されたこの《牡丹》(山種美術館)を初めて見た時に受けた強い印象は今でも鮮明に覚えています。


 
福田平八郎《牡丹》1924(大正13)年 山種美術館

一つひとつの花の花びらが陰影をつけて細かく描かれているのでひらひらと動くように見えて、全体的に暗いトーンの色調が妖艶的な雰囲気を醸し出しているように感じられたこの作品は、後から知ったのですが、徹底した細密表現で対象を写実的に描いた大正期の代表作だったのです。

一方で私たちがよく知っている平八郎は、メインビジュアルにある《筍》(山種美術館)のように対象の特徴をとらえて単純化して表現した作品を描く画家というイメージがありますが、全く画風の違う作品を見比べることができるのが、今回の特別展の楽しみのひとつです。

福田平八郎《筍》1947(昭和22)年 山種美術館

単純化といってもけっして描いている情報量が少なくなったわけではありません。
2本の筍の皮の質感や皮の間から出てくる緑色の芽の息吹がよく伝わってきますし、画面一面には竹の葉がリズミカルに描かれています。
本物の竹の葉は緑色で、枯れた部分は茶色に変色しますが、あえて色をつけていないので、主題の筍がより一層引き立ちます。

《牡丹》と同じく花を描いている《芥子花》(山種美術館)ですが、絵の印象は全く異なります。
花もつぼみも可愛らしく、くねっと曲がった何本もの茎がリズミカル。画面右から出てくるつぼみは「私も入れて」と言っているようです。

福田平八郎《芥子花》1940(昭和15)年頃 山種美術館


《牡丹》、《筍》、《芥子花》と続きましたが、平八郎の作品はタイトルもシンプルです。
川の中を元気よく泳ぐ鮎を描いた作品はそのものずばり《鮎》(山種美術館)。


福田平八郎《鮎》1940(昭和15)年 山種美術館

多くを語らず、秋の彩りを色づく葉とススキだけで描き切ってしまうところが平八郎のすごいところではないでしょうか。タイトルも《彩秋》(山種美術館)。


福田平八郎《彩秋》1943(昭和18)年 山種美術館


大正期から戦後すぐまでの作品を見てきましたが、《紅白餅三鶴》(山種美術館)は晩年の作。おめでたい紅白餅のふっくらとした丸みと、色違いの折り鶴の直線の対比が見どころです。

福田平八郎《紅白餅三鶴》1960(昭和35)年頃 個人蔵


見どころ2 琳派も登場!一度で二度楽しめる展覧会!



今回の特別展のもう一つの見どころは、平八郎に影響を与えた琳派の作品が見られることです。

琳派は、江戸前期の俵屋宗達に始まり、江戸中期の尾形光琳、江戸後期の酒井抱一、鈴木其一に受け継がれてきた装飾的でデザイン性に優れた画風を特徴とした流派で、狩野派のように世襲ではなく、私淑によって江戸時代を通じて受け継がれてきました。

今回の特別展では、琳派の祖・俵屋宗達や、酒井抱一、鈴木其一の作品によって琳派の流れをたどることができます。

最初にご紹介するのは、俵屋宗達(絵)と本阿弥光悦(書)のコラボ作品《四季草花下絵和歌短冊帖》(山種美術館)。
金銀泥が使われたきらびやかな下絵と、太い文字と細い文字の差をつけた光悦流のリズム感あふれる書体で書かれた和歌がみごとに調和した、うっとりするような超豪華な作品です。

俵屋宗達(絵)・本阿弥光悦(書)《四季草花下絵和歌短冊帖》
(18枚のうち)17世紀(江戸時代) 山種美術館

うねるような幹が迫力を感じさせてくれるのが、伝 俵屋宗達《槙楓図》(山種美術館)。

伝 俵屋宗達《槙楓図》17世紀(江戸時代) 山種美術館

光琳に私淑した酒井抱一が江戸で発展させた江戸琳派の優れた作品も展示されます。

背景に浮かぶ月、細い線で描かれた秋草や色付いた葉、餌をついばむ鶉の群れ。
秋の気配を感じさせるおしゃれな作品は、酒井抱一《秋草鶉図》【重要美術品】(山種美術館)。


酒井抱一《秋草鶉図》【重要美術品】19世紀(江戸時代) 
山種美術館

酒井抱一の作品は、ほかにも《飛雪白鷺図》、《菊小禽図》(どちらも山種美術館)が展示されるので、繊細で洒脱な抱一作品がまとまって見られるのもうれしいです。

酒井抱一《飛雪白鷺図》19世紀(江戸時代)
山種美術館


酒井抱一《菊小禽図》19世紀(江戸時代)
山種美術館

抱一の内弟子として修業して、抱一没後はその跡を継いで独創的な境地を切り開いた鈴木其一の作品も展示されます。

右隻には春夏の草花と鶏の親子(ヒヨコが可愛い!)、左隻には秋冬の草花と鴛鴦(おしどり)のつがいが描かれた《四季花鳥図》(山種美術館)は、写実を超えたシュールな雰囲気が感じられる大好きな作品です。


鈴木其一《四季花鳥図》19世紀(江戸時代) 山種美術館

多くの美術ファンに愛されている近代日本画家、福田平八郎と、同じく日本で人気の高い琳派の作品が同時に楽しめる展覧会です。ぜひご覧ください!

2024年9月3日火曜日

泉屋博古館東京 特別展「昭和モダーン モザイクのいろどり 板谷梅樹の世界」 

東京・六本木の泉屋博古館東京では特別展 昭和モダーン モザイクのいろどり 板谷梅樹の世界が開催されています。

泉屋博古館東京エントランス

板谷梅樹(いたや・うめき 1907-1963)と聞いてピンとくる方はあまり多くないかもしれません。実は筆者は今回初めて名前をおうかがいしたのですが、「板谷」という名字から、もしかしたら日本を代表する陶芸家・板谷波山のご親族の方ではと思ったところ、波山の五男とのことで、息子さんも芸術家として活躍されていたことを初めて知り驚いてしまいました。
さらに梅樹は、完璧主義者の波山が失敗した陶芸作品を世に出ないようにと自らの手で割った陶片の美しさに魅了されて、その陶片をモザイク作品に使ったというのですから驚きも2倍。
事前にメインビジュアルにある《鳥》を見ていたので、この作品のほかにも陶片を使ってどんなにカラフルな作品が展示されているのかワクワクしながら会場に向かいました。

展覧会開催概要


会 期  2024年8月31日(土)~9月29日(日)
開館時間 11:00~18:00(金曜日は19:00まで開館 ※入館は閉館の30分前まで)
休館日  月曜日、9月17日・24日(火) ※9/16・23(月・祝休)は開館
入館料  一般1,200円、高大生800円、中学生以下無料
※展覧会の詳細、関連イベント等は同館公式サイトをご覧ください⇒泉屋博古館東京

展示構成
 〈展示室1〉第Ⅰ章 モザイクの世界で
 〈展示室2〉第Ⅱ章 日常にいろどりを
 〈展示室3〉第Ⅲ章 住友コレクションと板谷家
 〈展示室4〉特集展示 住友コレクションの茶道具

※撮影はホール内のみ可能です。掲載した写真はプレス内覧会で主催者の許可を得て撮影したものです。

第Ⅰ章 モザイクの世界で


色とりどりの花、可愛らしい動物たち、オシャレな飾箱や飾皿。
今回の特別展の大きな見どころは、なんといってもカラフルな梅樹作品がまとまってみられるまたとないチャンスということです。

第Ⅰ章展示風景

第1展示室の奥に向かうと見えてきました!今回の特別展のメインビジュアルになっている《鳥》、そして鮮やかな色彩の花の作品が。
下の写真中央が、昭和34(1959)年に梅樹が第2回日展に出品した《鳥》(個人蔵)です。

第Ⅰ章展示風景

作品の色鮮やかさにも目を奪われますが、それ以外に気が付いたのは構図の見事さ。
今回展示されている作品だけを見た印象なのですが、背景を大きくとらずに花や動物が画面いっぱいにきちっと収まるように配置されているのです。

板谷梅樹《花》個人蔵


いくつもの花は茎を曲線で描くことによって大きな画面全体に配置されていて、きりんは首を伸ばしているのでなく、この楕円の画面に収めるにはこのポーズしかないという、地面の草を食んでいる姿で描かれています。

板谷梅樹《きりん》個人蔵

つぶらな瞳に作者の動物に対する愛が込められているように感じられるこの作品は、今回の特別展の筆者のお気に入りの一点です。

梅樹の代表作であり最大の作品は、有楽町駅前にあった旧日本劇場一階玄関ホールの巨大なモザイク壁画でした(昭和8年(1933)作、原画:川島理一郎)。
建物の解体とともに壊される運命にあるモザイク壁画の常として、昭和56年(1981)に日本劇場の解体とともに、このモザイク壁画も遺族が引き取った一部を除き失われましたが、今回の特別展では写真やパネル作品で往時を偲ぶことができます。
下の写真左下は、川島理一郎《日劇壁画下絵(「天」、「地」、「動物と植物」)》(栃木県立美術館蔵)です。
第Ⅰ章展示風景

梅樹が実際に使用した陶片・ステンドグラス用のガラス片(板谷波山記念館)や道具類も展示されています。
梅樹のモザイク作品は、波山の陶片だけで制作されたのではなく、白磁や青磁などの波山の陶片に加え、梅樹自身が集めた多くの陶片や専用のタイルで制作されたのでした。

第Ⅰ章展示風景

梅樹の最大のモザイク壁画は失われましたが、現存最大の梅樹作品は今回の特別展に展示されています。
ホールに展示されているこの作品は撮影可です。
(SNSで発信するときのハッシュタグは「#板谷梅樹の世界」です。)


板谷梅樹《三井用水取入所風景》板谷波山記念館蔵

高さ約3.7m、重さ約400kgもあるこの作品は、近代水道発祥の地・横浜市からの依頼で制作されたもので、第10回日展に出品後、横浜市水道局に納められ、昭和62(1987)年からは近代水道100周年を記念して開館した「横浜市水道記念館」1階ロビーに展覧されていましたが、令和3(2021)年の同館閉館に伴い板谷波山記念館に寄贈されたものです。
生まれてこのかたずっと横浜市水道局の水を飲み続けている筆者ですが、この作品の存在は全く知らなかったので、ご縁があってこの場でじっくり拝見することができて感慨深いものがありました。


第Ⅱ章 日常にいろどりを


モザイクというと、イタリアのポンペイ遺跡で発見された「アレクサンドロス大王のモザイク」に代表されるように大きな作品が思い浮かんでくるので、旧日本劇場のモザイク壁画はそのイメージにぴったりでしたが、梅樹は、戦時中は疎開していて大きな作品が作れなかったことや、銀座・和光から和装用の帯留や洋装用のペンダントの制作を依頼されたことなどから、莨(たばこ)箱や灰皿、ベルトのバックルやカフスボタン、ネックレスやブローチなど、生活に身近な小さな装飾品も制作していました。

第Ⅱ章展示風景

小さなアイテムの中に小さな陶片を嵌め込んで作られた装飾品はとてもオシャレで、今でも人気が出そうです。

第Ⅱ章展示風景

梅樹はモザイク画だけでなく、父・波山と東京美術学校の同期の小川三知のもとでアメリカ式(ティファニー式)ステンドグラスを学び、ステンドグラスの作品も残しています。

こちらは珍しい板谷波山、梅樹親子のコラボ作品のランプシェード。
波山が制作した陶器に穴が開いてしまったため、梅樹が台座として活用したもので、大正末期から昭和初期にかけて生活が洋装化する中、洋室の室内に合った、まさに「昭和モダーン」の雰囲気が出ています。

板谷梅樹《ランプシェード(台座:板谷波山)》(山)長谷川コレクション
*(山)は〇の中に山と記載し「まるやま」と読みます。


第Ⅲ章 住友コレクションと板谷家


第Ⅲ章には、波山の代表作の一つ【重要文化財】板谷波山《葆光彩磁珍果文花瓶》はじめ住友コレクションの波山作品の名品が展示されています。

第Ⅲ章展示風景

淡い色調が上品さを醸し出している【重要文化財】板谷波山《葆光彩磁珍果文花瓶》は、2022年に泉屋博古館東京で開催された「板谷波山の陶芸」展以来の再会です。

板谷波山【重要文化財】《葆光彩磁珍果文花瓶》 泉屋博古館東京蔵


波山作品とともに、妻・まる(号:玉蘭)や長男・菊男の陶芸作品など、板谷ファミリーの作品が展示されてますが、どれもさすがに板谷家スタンダードの見事な出来栄えです。

右 板谷まる(号:玉蘭)《彩磁山葡萄小禽模様花瓶》
左 板谷菊男《彩磁小禽模様花瓶》
どちらも泉屋博古館東京蔵 



特集展示 住友コレクションの茶道具 


多くは住友家15代当主・住友春翠氏(1864-1926)が収集した住友コレクションの茶道具の中でも、今回の注目はなんと言っても京焼の名工・野々村仁清の《唐物写十九種茶入》。



特集展示 展示風景

もとは近衛家に伝来した仁清の茶入十九種が仕覆も揃って一堂に展示されるのは東京館では初めてとのことです。

十九種の茶入は、その形によってそれぞれ名称が付いているのですが、肩衝や茄子といったよく知られているものだけでなく、首が長いので鶴首、丸っこい形をしているので南瓜(かぼちゃ)などそのものずばりの名称のものや、両側に把手がついた水滴という茶入もあり、金襴をはじめ高級感あふれる名物裂の仕覆とともに一つひとつじっくり見ていたくなります。

特集展示 展示風景


来館の記念には今回の特別展に展示されている板谷梅樹作品が紹介されている図録がおすすめです。ハンディサイズなので持ち運びにも便利です。
ミュージアムショップで販売中(税込1,800円)!



会期は9月29日(日)まで。
いろどり豊かな板谷梅樹の世界をぜひお楽しみください!