2024年9月26日木曜日

根津美術館 企画展「夏と秋の美学 鈴木其一と伊年印の優品とともに」

東京・南青山の根津美術館では企画展「夏と秋の美学 鈴木其一と伊年印の優品とともに」が開催されています。


展覧会チラシ

今回の企画展は、今の季節にあわせて同館が所蔵する【重要文化財】鈴木其一《夏秋渓流図屏風》と、俵屋宗達の工房で制作されたことを表す伊年印が捺された《夏秋草図屏風》を中心に、色とりどりの草花や風物詩など夏から秋にかけての風情が感じられる作品が展示される展覧会です。

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


開催期間  2024年9月14日(土)~10月20日(日)
開催時間  午前10時~午後5時(入館は閉館30分前まで)
休館日   毎週月曜日
      ※ただし9月19日(月・祝)、9月23日(月・振替休)、10月14日(月・祝)は
       開館、それぞれ翌火曜日休館
入館料   オンライン日時指定予約
      一般 1300円、学生 1000円
      *障害者手帳提示者および同伴者は200円引き、中学生以下は無料
      *当日券(一般1400円、学生1100も販売しています。同館受付でお尋ね
       ください。)
会 場   根津美術館 展示室1・2

展覧会の詳細、オンライン日時指定予約、スライドレクチャー等の情報は同館公式サイトをご覧ください⇒根津美術館

*展示室内及びミュージアムショップは撮影禁止です。掲載した写真は記者内覧会で美術館より特別に許可を得て撮影したものです。
*企画展の展示作品は、すべて根津美術館所蔵です。


展示は夏から秋にかけて移り行く季節とともに進んで行きます。
はじめに「夏のおとずれ」から。



夏のおとずれ


「夏のおとずれ」展示風景

上の写真右の作品は、幕末に活躍した復古やまと絵の絵師・冷泉為恭の筆による《時鳥(ほととぎす)図》ですが、夏を告げるほととぎすの姿は描かれていません。

冷泉為恭《時鳥図》日本・江戸時代 19世紀
植村和堂師寄贈

夏が近づく頃、ほととぎすのきれいな鳴き声が聞こえて振り返ってもその姿は木の葉の蔭に隠れて見えない、ということがよくありますが、これはまさに平安後期の公卿、歌人の徳大寺実定の和歌「ほととぎす鳴きつる方を眺むれば ただ有明の月ぞ残れる」の情景を描いたものだったのです。
烏帽子を被った公卿が眺める視線の先には月が浮かんでいるだけで、その前の「ほとゝぎすなきつるかたを」の文字は残された鳴き声を表しているように思えました。


真夏の情趣


「真夏の情趣」展示風景

上の写真中央の屏風は、尾形光琳《夏草図屏風》。

尾形光琳《夏草図屏風》日本・江戸時代 18世紀


夏を中心に30種近い草花が下からモクモクと湧き上がるように対角線に配置されているこの構図は「さすが光琳!」というセンスの良さを感じます。

今回の企画展では、次の「夏から秋へ」のコーナーで弟・乾山の色絵角皿も展示されていて、兄弟のコラボが実現しているのもうれしいです。

右から 尾形乾山《色絵桔梗図角皿》《色絵桐図角皿》(5枚のうち1枚)
《色絵紫陽花図角皿》いずれも日本・江戸時代 18世紀


光琳の弟子・立林何帛の作と伝わる掛軸は、現代の私たちにとっては少し意外な題材ですが、コウモリが描かれています。

伝 立林何帛《橋蝙蝠図》日本・江戸時代18世紀
小林中氏寄贈

ドラキュラのモチーフになったり、イソップ物語では鳥とけもののどっちつかずで「ずるい」というイメージがあったりで、西洋ではあまり良くないイメージがありますが、中国では「蝙蝠」の「蝠」の字が「福」に通じることから幸福を招く縁起物とされているのです。
コウモリが飛んでいるあたりに夏の夕暮れをあらわす金泥の帯がうっすらと描かれています。


夏から秋へ


「夏から秋へ」展示風景

桜と紅葉のように春と秋の情景の組み合わせは古くから描かれていましたが、夏と秋の組み合わせが目立つようになったのは江戸時代に入ってからのことでした。
そのルーツともいえるのが伊年印《夏秋草図屏風》。

伊年印《夏秋草図屏風》日本・江戸時代 17世紀

画風から、俵屋宗達の2世代後の後継者・喜多川相説周辺で制作されたとみられるこの屏風には、夏から秋にかけての草花が高さを変えてまるで音符のようにリズミカルに配置されているので、目の前で見ていると優雅な音楽が聞こえてくるように感じられます。

続いては江戸琳派の異才・鈴木其一の重要文化財《夏秋渓流図屏風》。

【重要文化財】鈴木其一《夏秋渓流図屏風》
日本・江戸時代 19世紀


酒井抱一の内弟子時代を経て、抱一没後に独自の境地を切り開いた其一の代表作であるこの屏風は、現実の景色を描いているはずなのに、渓流はあまりに青く、緑苔はあざやかな緑一色。背景の金地と相まって現実とはかけ離れた空間にいるような雰囲気を醸し出しています。
右隻には檜にとまる蝉が描かれています。
画面全体に蝉の鳴き声が響いているようで、この作品のシュールがさらに増してくるように感じられました。


涼秋の候


「涼秋の候」展示風景

今回の企画展は絵画が中心ですが、独立ケースに展示されている焼物がおしゃれなアクセントになっています。
上の写真の手前は、江戸初期の京焼の陶工・野々村仁清作《御深井写菊花透文深鉢》。

秋の涼し気な空気感が墨の濃淡で表された水墨山水画を描いたのは、師・狩野山楽から京狩野を引き継ぎ、独創的な画風の作品を描いた狩野山雪。
水墨山水ファンにはたまらない逸品です。

狩野山雪《秋景山水図》日本・江戸時代 17世紀


秋の叢


「秋の叢」展示風景


和歌に詠われた武蔵野が描かれた屏風を見ると、ススキの影に隠れている月をつい探してしまいますが、《武蔵野図屏風》(下の写真)の左隻に描かれている月は大きくてすぐに気が付きました。そのうえ右隻には月と同じくらい大きな太陽まで描かれています。
この屏風は、中世やまと絵の日月山水図の伝統を受け継ぐものと思われている作品なのです。

《武蔵野図屏風》日本・江戸時代 17世紀


今回展示されている作品の中で一番驚いたのが《秋野蜘蛛巣蒔絵硯箱・料紙箱》でした。
箱一面に秋の草花が施された見事な蒔絵の箱のうち右の箱の蓋には繊細な蜘蛛の巣が張めぐされているので、そこにはどのような蜘蛛が描かれているのかと覗きこんでみると、蜘蛛の巣の中心には「蜘」という一文字が書かれていたのです。
蒔絵の箱には和歌の文字を「散らし書き」のように配置することはありますが、これだけ堂々とした説得力のある「散らし書き」の文字を見たのは初めてでした。

《秋野蜘蛛巣蒔絵硯箱・料紙箱》日本・江戸~明治時代 19世紀


【同時開催】

展示室5 やきものにみる白の彩り

展示室5では、白い陶磁器の数々が展示されているのですが、さまざまな色の「白」があって、どれもがそれぞれ特徴ある美しい輝きを持っていることに気が付かされます。

展示室5展示風景

どうすればこれだけ精巧で、白く滑らかな焼物を作れるのだろうと驚いたのが、中国・福建省の徳化窯で制作された《白磁千手観音坐像》。
獅子や猿、鳥などの動物を象った置物や観音像、神像に優れた徳化窯の白磁がヨーロッパで人気を博したことがよくわかりました。

《白磁千手観音坐像》徳化窯
中国・明時代 16世紀



展示室6 名残の茶

11月以降は新茶が出る季節なので、一年間楽しんだ前年の茶葉や、初夏から慣れ親しんだ風炉は10月で使い納め。展示室6には、その名残を惜しんだ茶道具が展示されています。

展示室6展示風景

「柿の蔕」とは茶碗を伏せた姿や色調が柿の蔕に似ていることによるもので、割れて繕われた姿が、分かれても合流する急流にたとえ「瀧川」という銘がつけられました。
近くでよく見ると繕われた跡がよくわかりますが、割れた茶碗に詩的なものを見出す昔の人たちの美意識に感銘を受けました。

《柿の蔕茶碗 銘 瀧川》朝鮮・朝鮮時代 16世紀




ミュージアムショップ

せっかくの機会ですので、【重要文化財】鈴木其一《夏秋渓流図屏風》の関連グッズをご自宅に飾ってみてはいかがでしょうか。

ミュージアムショップ


私は絵はがきを畳模様のシールを貼ったコレクションケースに入れて部屋に飾り、毎日眺めています。



企画展「夏と秋の美学 鈴木其一と伊年印の優品とともに」の会期は10月20日(日)まで。
夏から秋への季節の移ろいが感じられる、この秋おすすめの展覧会です。