2024年9月19日木曜日

静嘉堂@丸の内 特別展「眼福ー大名家旧蔵、静嘉堂茶道具の粋」

東京駅すぐ近くの明治生命館1階にある静嘉堂@丸の内では、特別展「眼福ー大名家旧蔵、静嘉堂茶道具の粋」が開催されています。

展覧会チラシ


今回の特別展は、三菱第2代社長・岩﨑彌之助氏(1851-1908)と三菱第4代社長・岩﨑小彌太氏(1879-1945)の父子によって蒐集された約1,400件にものぼる静嘉堂の茶道具コレクションの中から、将軍家や大名家が旧蔵していた茶道具の名品をはじめ選りすぐりの79件が展示される超豪華な内容の展覧会です。
そのうえ、静嘉堂が丸の内のギャラリーに移転してからは初めて、静嘉堂としても8年ぶりとなる茶道具展ですので、開幕を心待ちにしていました。

特別展のタイトルは「眼福」。
貴重なものや珍しいもの、美しいものなどを見ることができた幸福感に浸ることができる展覧会ですので、さっそく展示の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


会 期  2024年9月10日(火)~11月4日(月・振休)
  ※会期中一部展示替えあり 前期:9/10-10/6 後期:10/8-11/4
会 場  静嘉堂@丸の内(明治生命館1階)
休館日  毎週月曜日(ただし、9/16、9/23、10/14、11/4は開館し翌火曜休館予定)
開館時間 午前10時~午後5時
  ※土曜日は午後6時まで/第4水曜日は午後8時まで(入館は閉館の30分前まで)
入館料  一般1,500円※お着物の方は一般料金の200円引。他の割引との併用不可。
     大高生1,000円 中学生以下無料
※展覧会の詳細、関連イベント等は同館公式ホームページをご覧ください⇒https://www.seikado.or.jp/ 

展示構成
 Gallery1:”眼福”をー岩﨑彌之助・小彌太父子蒐集の名碗から
 Gallery2:憧れの茶入ー”大名物”、”中興名物”の賞玩
 Gallery3:静嘉堂茶道具の粋ー大名家の名宝、”眼福”の逸品
 Gallery4:名宝を伝えゆく”茶の湯”ー淀藩主 稲葉家から岩﨑家へ

※国宝《曜変天目》(Gallery4)以外は携帯電話、スマホ、タブレットで撮影OKです。ただし、カメラでの撮影、動画撮影、フラッシュ撮影はできません。館内で撮影の注意事項をご確認ください。
※記事内では国宝《曜変天目》の写真も掲載していますが、報道内覧会で主催者より特別に許可を得て撮影したものです。
※展示されている作品はすべて静嘉堂所蔵です。
※前期展示の作品はその旨記載しました。無印の作品は全期間展示です。


Gallery1 ”眼福”をー岩﨑彌之助・小彌太父子蒐集の名碗から



Gallery1に展示されているのは、中国から伝来した天目茶碗、朝鮮半島でつくられた高麗茶碗、千利休が創始したとされる樂茶碗の優品の数々。
そして。ホワイエには和物(国焼)茶碗が展示されていて、まさに東アジアの名碗オールスター勢ぞろいの感があります。


Gallery1 展示風景 

冒頭に展示されているのは中国福建省にあった建窯で焼かれた重要文化財《油滴天目》。
「油滴」は「曜変」に次いで評価の高かった天目茶碗で、油の滴(しずく)が水面に細かく散ったような斑紋は、まるで夜空に煌めく星のよう。幻想的な光景が広がっています。

※天目茶碗とは、もとは中国浙江省天目山等に留学した僧侶たちが日本に持ち帰ったことからこのように呼ばれたもので、現在では広い口に窄まった高台をもつ「天目形」の碗で黒釉のかかった茶碗の総称として用いられています。

重要文化財「油滴天目」南宋時代(12-13世紀)
(付属)「堆朱花卉天目台」明時代(15世紀初期)

明時代の堆朱の天目台は水戸徳川家に伝来したもの。
厚く塗り重ねた朱漆の層にいくつもの種類の花卉が彫り表されている優品ですので、こちらもあわせてご覧いただきたいです。


ホワイエに展示されている和物茶碗は、美濃焼の一種で茶人・古田織部(1544-1615)の好みを受けた陶器とみなされることからその名がついた「黒織部茶碗 銘 うたたね」。茶道具の銘にはさまざまな由来がありますが、「うたたね」の銘の由来は不明とのこと。
それにしても、この茶碗の前に立つと気持ちが落ち着いて、うとうとしてしまいそうになるから不思議です。

「黒織部茶碗 銘 うたたね」江戸時代(17世紀)
前期展示(9/10-10/6)


Gallery2 憧れの茶入ー”大名物”、”中興名物”の賞玩


Gallery2には茶入の名品が並んでいるのですが、いつもと様子が違います。
茶入の展示ではたいていは茶入だけがぽつんと展示されているのですが、今回はご覧のとおり茶入を包む仕覆(しふく)や箱など付属品も所狭しと並んで展示されているのです。

Gallery2展示風景

古くから由緒のある、すぐれた茶道具のことを「名物」といいますが、特に千利休(1522-91)以前に選定されたものを「大名物(おおめいぶつ)」、江戸初期の茶人・造園家として知られる小堀遠州(1579-1647)の時代に評価されたものを「中興名物(ちゅうこうめいぶつ)」といいます。
今回の特別展では、静嘉堂が所蔵する「大名物」の茶入7点、「中興名物」の茶入5点すべてが展示されています。こんな贅沢な空間は二度と再現されないかもしれないので、必見です!

大名物の中でも特に注目したいのは、大名物「唐物茄子茶入 付藻茄子」と、室町末期の豪商・茶人で千利休の師、竹野紹鴎(1502-55)が所有していたことから「紹鴎茄子」とも呼ばれる大名物「唐物茄子茶入 松本茄子(紹鴎茄子)」。

右 大名物「唐物茄子茶入 付藻茄子」
左 大名物「唐物茄子茶入 松本茄子(紹鴎茄子)」
どちらも南宋~元時代(13-14世紀)

足利将軍家からの伝来を誇る「付藻茄子」は、戦国時代に所持した松永久秀が織田信長に献上して大和国一円の領地を安堵されたというエピソードでも知られています。掌に乗るくらいの小さな茶入ですが、当時の戦国武将にとっては一つの国に匹敵するぐらいの価値があったのです。
「付藻茄子」も、「松本茄子」も、信長、秀吉が所有し、どちらも大坂夏の陣で大坂城が落城したあと家康が焼け跡を捜索させ、見つかった破片を集めて修復させて家康の手に渡ったという激動の時代を生き抜いた茶入ですが、明治17年(1884)にこれらの茶入を入手できる話が持ち込まれた時、当時若かった彌之助氏はあまりに高価だったため、会社から年末の給与を前借りして購入したというエピソードも残されています。
この小さな茶入の中には多くのドラマがぎっしりと詰め込まれていることがわかりました。


元時代の「内赤外青漆四方盆(若狭盆)」の上に乗っているのは大名物「唐物肩衝茶入 瘤肩衝(佐々肩衝)」。
茶入を収納する「挽家(ひきや)」と呼ばれる硬い木材を用いた筒型の容器、明時代やインドなど国際色豊かな名物裂で作られる、箱を包む風呂敷や茶入を包む仕覆(しふく)、そして茶入を何重にも保護するいくつもの木箱。
このような展示を見ていると、茶入だけでなく、名品の茶入を保護する「次第(しだい)」と呼ばれる付属品を含めたすべてが一つの美術作品であるように思えてきました。


大名物「唐物肩衝茶入 瘤肩衝(佐々肩衝)」
南宋~元時代(13-14世紀)

Gallery3 静嘉堂茶道具の粋ー大名家の名宝、”眼福”の逸品


仙台藩主伊達家、加賀藩主前田家、丸亀藩主京極家はじめ、大名家ゆかりの名宝を数多く所蔵するのが静嘉堂の茶道具コレクションの特徴です。

Gallery3展示風景


今回の見どころのひとつは、展示スペースが広くなった丸の内のギャラリーだからこそ実現した、静嘉堂が所蔵する猿曳棚4点そろい踏み。


Gallery3展示風景


床に接した部分に袋棚(地袋)があるこの棚は、引戸に猿曳の絵が描かれていることから「猿曳棚」と呼ばれ(竹野紹鴎が好んだとされることから「紹鴎棚」とも呼ばれています)、伊達政宗に茶道役として仕えることになった清水道閑(どうかん 1579-1648)が京都から仙台に下るとき、師・古田織部から選別に贈られたもので、その後、清水家ではこの「本歌」(オリジナル)を大切に伝えるとともに、猿曳の絵を狩野派絵師に描かせた写しを複数製作しました。
今回は、静嘉堂が所蔵する「本歌」と、写し3点(板絵が①江戸時代、狩野派(筆者不詳)のもの、②明治18年(1885)、狩野永悳筆のもの、③明治時代、橋本雅邦の筆と伝えるもの)の全4点を一挙公開しています。
特に最後の1点は、木挽町狩野派出身で、静嘉堂が所蔵する重要文化財《龍虎図屏風》の作者でもある橋本雅邦の筆の可能性があるものなので、ぜひ近くでご覧いただきたいです。

江戸時代初期の陶工、野々村仁清の華やいだ雰囲気のある作品が見られるのもうれしいです。

Gallery3展示風景

景徳鎮窯や七宝の特徴ある水指も展示されています。前期後期で展示替えがあるので、後期も来なくては!

Gallery3展示風景


Gallery4 名宝を伝えゆく”茶の湯”ー淀藩主 稲葉家から岩﨑家へ


静嘉堂所蔵の茶道具のなかでもっともよく知られているのが、「完全な形で残っているのは世界に3碗しかなく、それもすべて日本にあって、どれも国宝」のうちの貴重な1碗、国宝「曜変天目(稲葉天目)」。
(ほかの2碗は、京都・大徳寺塔頭の龍光院、大阪・藤田美術館が所蔵)



国宝「曜変天目(稲葉天目)」南宋時代(12-13世紀)


Gallery4では、国宝「曜変天目(稲葉天目)」と、同じく稲葉家伝来の大名物「唐物瓢箪茶入 稲葉瓢箪」が展示されています。

Gallery4展示風景

どちらも高く評価されているもので、彌之助氏が「唐物瓢箪茶入 稲葉瓢箪」を購入したのが明治30年(1897)、一方の「曜変天目(稲葉天目)」は大正7年(1918)に稲葉家から親戚の小野家に渡り、昭和9年(1934)に小彌太氏の所有になりました。
「曜変天目(稲葉天目)」には当主の譲り状が添えられていたとのことですが、そこには、譲るなら「唐物瓢箪茶入 稲葉瓢箪」を所蔵している岩﨑家に、との思いが込められていたように感じられました。
Gallery4では稲葉家旧蔵の名宝2品を同じスペースの中で見ることができます。


ミュージアムショップに移ります。

今ではすっかりおなじみとなったのが「ほぼ実寸の曜変天目ぬいぐるみ」(税込5800円)。




特別展「眼福ー大名家旧蔵、静嘉堂茶道具の粋」の展示作品全てのカラー写真と詳しい解説、茶道具の専門家によるコラムが掲載された図録は永久保存版です。(税込2,200円)



静嘉堂の質量ともに充実した茶道具コレクションの粋を見て幸せな気分になってみませんか。この秋おすすめの展覧会です。