東京・六本木の泉屋博古館東京では特別展 昭和モダーン モザイクのいろどり 板谷梅樹の世界が開催されています。
泉屋博古館東京エントランス |
板谷梅樹(いたや・うめき 1907-1963)と聞いてピンとくる方はあまり多くないかもしれません。実は筆者は今回初めて名前をおうかがいしたのですが、「板谷」という名字から、もしかしたら日本を代表する陶芸家・板谷波山のご親族の方ではと思ったところ、波山の五男とのことで、息子さんも芸術家として活躍されていたことを初めて知り驚いてしまいました。
さらに梅樹は、完璧主義者の波山が失敗した陶芸作品を世に出ないようにと自らの手で割った陶片の美しさに魅了されて、その陶片をモザイク作品に使ったというのですから驚きも2倍。
事前にメインビジュアルにある《鳥》を見ていたので、この作品のほかにも陶片を使ってどんなにカラフルな作品が展示されているのかワクワクしながら会場に向かいました。
展覧会開催概要
会 期 2024年8月31日(土)~9月29日(日)
開館時間 11:00~18:00(金曜日は19:00まで開館 ※入館は閉館の30分前まで)
休館日 月曜日、9月17日・24日(火) ※9/16・23(月・祝休)は開館
入館料 一般1,200円、高大生800円、中学生以下無料
※展覧会の詳細、関連イベント等は同館公式サイトをご覧ください⇒泉屋博古館東京
展示構成
〈展示室1〉第Ⅰ章 モザイクの世界で
〈展示室2〉第Ⅱ章 日常にいろどりを
〈展示室3〉第Ⅲ章 住友コレクションと板谷家
〈展示室4〉特集展示 住友コレクションの茶道具
※撮影はホール内のみ可能です。掲載した写真はプレス内覧会で主催者の許可を得て撮影したものです。
第Ⅰ章 モザイクの世界で
色とりどりの花、可愛らしい動物たち、オシャレな飾箱や飾皿。
今回の特別展の大きな見どころは、なんといってもカラフルな梅樹作品がまとまってみられるまたとないチャンスということです。
第Ⅰ章展示風景 |
第1展示室の奥に向かうと見えてきました!今回の特別展のメインビジュアルになっている《鳥》、そして鮮やかな色彩の花の作品が。
下の写真中央が、昭和34(1959)年に梅樹が第2回日展に出品した《鳥》(個人蔵)です。
第Ⅰ章展示風景 |
作品の色鮮やかさにも目を奪われますが、それ以外に気が付いたのは構図の見事さ。
今回展示されている作品だけを見た印象なのですが、背景を大きくとらずに花や動物が画面いっぱいにきちっと収まるように配置されているのです。
いくつもの花は茎を曲線で描くことによって大きな画面全体に配置されていて、きりんは首を伸ばしているのでなく、この楕円の画面に収めるにはこのポーズしかないという、地面の草を食んでいる姿で描かれています。
建物の解体とともに壊される運命にあるモザイク壁画の常として、昭和56年(1981)に日本劇場の解体とともに、このモザイク壁画も遺族が引き取った一部を除き失われましたが、今回の特別展では写真やパネル作品で往時を偲ぶことができます。
下の写真左下は、川島理一郎《日劇壁画下絵(「天」、「地」、「動物と植物」)》(栃木県立美術館蔵)です。
第Ⅰ章展示風景 |
梅樹が実際に使用した陶片・ステンドグラス用のガラス片(板谷波山記念館)や道具類も展示されています。
梅樹のモザイク作品は、波山の陶片だけで制作されたのではなく、白磁や青磁などの波山の陶片に加え、梅樹自身が集めた多くの陶片や専用のタイルで制作されたのでした。
第Ⅰ章展示風景 |
梅樹の最大のモザイク壁画は失われましたが、現存最大の梅樹作品は今回の特別展に展示されています。
ホールに展示されているこの作品は撮影可です。
(SNSで発信するときのハッシュタグは「#板谷梅樹の世界」です。)
板谷梅樹《三井用水取入所風景》板谷波山記念館蔵 |
高さ約3.7m、重さ約400kgもあるこの作品は、近代水道発祥の地・横浜市からの依頼で制作されたもので、第10回日展に出品後、横浜市水道局に納められ、昭和62(1987)年からは近代水道100周年を記念して開館した「横浜市水道記念館」1階ロビーに展覧されていましたが、令和3(2021)年の同館閉館に伴い板谷波山記念館に寄贈されたものです。
生まれてこのかたずっと横浜市水道局の水を飲み続けている筆者ですが、この作品の存在は全く知らなかったので、ご縁があってこの場でじっくり拝見することができて感慨深いものがありました。
第Ⅱ章 日常にいろどりを
モザイクというと、イタリアのポンペイ遺跡で発見された「アレクサンドロス大王のモザイク」に代表されるように大きな作品が思い浮かんでくるので、旧日本劇場のモザイク壁画はそのイメージにぴったりでしたが、梅樹は、戦時中は疎開していて大きな作品が作れなかったことや、銀座・和光から和装用の帯留や洋装用のペンダントの制作を依頼されたことなどから、莨(たばこ)箱や灰皿、ベルトのバックルやカフスボタン、ネックレスやブローチなど、生活に身近な小さな装飾品も制作していました。
第Ⅱ章展示風景 |
小さなアイテムの中に小さな陶片を嵌め込んで作られた装飾品はとてもオシャレで、今でも人気が出そうです。
第Ⅱ章展示風景 |
梅樹はモザイク画だけでなく、父・波山と東京美術学校の同期の小川三知のもとでアメリカ式(ティファニー式)ステンドグラスを学び、ステンドグラスの作品も残しています。
こちらは珍しい板谷波山、梅樹親子のコラボ作品のランプシェード。
波山が制作した陶器に穴が開いてしまったため、梅樹が台座として活用したもので、大正末期から昭和初期にかけて生活が洋装化する中、洋室の室内に合った、まさに「昭和モダーン」の雰囲気が出ています。
第Ⅲ章 住友コレクションと板谷家
第Ⅲ章には、波山の代表作の一つ【重要文化財】板谷波山《葆光彩磁珍果文花瓶》はじめ住友コレクションの波山作品の名品が展示されています。
特集展示 住友コレクションの茶道具
多くは住友家15代当主・住友春翠氏(1864-1926)が収集した住友コレクションの茶道具の中でも、今回の注目はなんと言っても京焼の名工・野々村仁清の《唐物写十九種茶入》。
特集展示 展示風景 |
もとは近衛家に伝来した仁清の茶入十九種が仕覆も揃って一堂に展示されるのは東京館では初めてとのことです。
十九種の茶入は、その形によってそれぞれ名称が付いているのですが、肩衝や茄子といったよく知られているものだけでなく、首が長いので鶴首、丸っこい形をしているので南瓜(かぼちゃ)などそのものずばりの名称のものや、両側に把手がついた水滴という茶入もあり、金襴をはじめ高級感あふれる名物裂の仕覆とともに一つひとつじっくり見ていたくなります。
来館の記念には今回の特別展に展示されている板谷梅樹作品が紹介されている図録がおすすめです。ハンディサイズなので持ち運びにも便利です。
ミュージアムショップで販売中(税込1,800円)!