2026年10月29日木曜日

山種美術館 開館60周年記念特別展3 ザ・ベスト・オブ・山種コレクションⅠ-横山大観、竹内栖鳳から上村松園、速水御舟へ―

東京・広尾の山種美術館では、開館60周年記念特別展3 ザ・ベスト・オブ・山種コレクション Ⅰ—横山大観、竹内栖鳳から上村松園、速水御舟へ―が開催されています。

山種美術館外観(夜景)

1966(昭和41)年、東京・日本橋兜町に日本初の日本画専門美術館として開館してから今年で開館60周年を迎えた山種美術館では、現在、およそ1年をかけて開館60周年記念特別展が開催されています。今回の特別展は、第1弾「川合玉堂-なつかしい日本の情景-」、第2弾「奥村土牛-名作でたどる100年のあゆみ—」に続く第3弾。
「ザ・ベスト・オブ・山種コレクションⅠ」では、山種美術館の創立者で初代館長・山﨑種二氏との交流のあった画家たちの作品を中心に、まさに「ベスト」の作品が展示されています。

展覧会開催概要


会 期  2026年10月10日(土)~12月6日(日)
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日  月曜日(11/23(月・祝)は開館、11/24(火)は休館)
入館料  一般1500円、大学生・高校生1200円、中学生以下無料(付添人の同伴が必要です)

各種割引、展覧会の詳細、関連イベント等は山種美術館公式サイトをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/  

展示構成
 第1章 ザ・ベスト・オブ・山種コレクション
 第2章 山﨑種二と日本画家

※今回展示されている作品はすべて山種美術館所蔵です。
※展示室内は次の1点を除き撮影禁止です。掲載した写真はプレス内覧会で美術館より許可を得て撮影したものです。


今回撮影可の作品は、竹内栖鳳の重要文化財《班猫》です。
 スマートフォン・タブレット・携帯電話限定で写真撮影OKです。展示室内で撮影の注意事項をご確認ください。

竹内栖鳳《班猫》【重要文化財】1924(大正13)年 絹本・彩色 

10/14(水)から11/25(水)まで、竹内栖鳳《班猫》にそっくりな猫さんの写真をXとInstagramに投稿する[SNS企画]班猫チャレンジ2026が開催されています。
詳しくはこちらをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/news/2026/10/sns202610141125.html


いつも第1展示室の冒頭にはその時の展覧会を代表する作品が展示されていますが、今回は雲の上に浮かぶ富士山が描かれた横山大観の《心神》でした。

横山大観《心神》1952(昭和27)年 絹本・墨画淡彩

《心神》は、 山種美術館の設立に際し、美術館をつくることを条件として、大観から特別に購入を許された作品。まさに開館60周年記念特別展3の冒頭を飾るのにふさわしい作品ではないでしょうか。

「ベスト」の作品が展示されているので、どの作品も紹介したいのですが、それではきりがないので、筆者が気になった作品をいくつか紹介したいと思います。

まずは近代日本画界の重鎮・橋本雅邦の《日本武尊像》。

橋本雅邦《日本武尊像》1893(明治26)年頃 絹本・彩色


日本武尊(ヤマトタケルノミコト)は記紀などに伝えらえる英雄伝説の主人公で(『古事記』では「倭建命」)、九州の熊襲征伐や東国の蝦夷の討伐などに遣わされたのち、都への帰途、力尽きて斃れるという悲劇的のヒーローでしたが、ここでは左手に矛を持ち、右手をぐっと握りしめて敵をにらみつける凛々しい姿で描かれています。
そして注目したいのは背景の岩の表現。
雅邦は江戸幕府の御用絵師集団・狩野派の出身で、狩野派の代名詞ともいえる、斧で割ったような断面の岩(斧劈皴)を描いているのです。
明治に入って御用絵師としての地位を失い没落した狩野派ですが、芳崖は狩野派出身であることをいつまでも誇りにもち、さりげなくそのことを表現しているように思えました。


日本美術院の創設に参加し、岡倉天心とともに日本画の近代化に取り組んだ雅邦の門下からは横山大観をはじめ優れた画家が出てきました。
今回の特別展では、大観作品はさきほどご紹介した《心神》のほか中国の景観を描いた絵巻物《楚水の巻》(11/10より巻替)、京都の宇治市にある山で、六歌仙の一人・喜撰法師が隠棲していたことで知られる山を描いた《喜撰山》が展示されています。


横山大観《楚水の巻》(部分)1910(明治43)年 紙本・墨画(11/10より巻替)



日本美術院の北茨城・五浦移転に伴い、岡倉天心に従い、大観とともに五浦に移り制作に専念した菱田春草、下村観山の名作も展示されています。

わずか37歳の若さで亡くなった天才画家・菱田春草の作品は、春夏秋冬それぞれの月の様子を描いた《月四題》。
落款の特徴から最晩年に近い頃の制作と考えられ、病を患いながらも最後の力を振り絞って筆を執ったことを想像すると涙なしでは見られない作品です。

菱田春草《月四題》1909-10(明治42-43)年頃 絹本・墨画淡彩


岡倉天心とともに五浦に移った大観、春草、観山、木村武山の4人の中でも筆者が一番好きなのは、これでもかというくらい細部までこだわって描く観山の作品です。
今回は《不動明王》と《老松白藤》の2点が展示されているなか、大画面の屛風《老松白藤》をご紹介します。

下村観山《老松白藤》1921(大正10)年 紙本金地・彩色

松の樹皮の質感の表現、立体感のある藤花、巨木の幹を中央に据えた桃山障壁画を思わせる空間的な広がり。さすが観山とうなってしまいます。
さてここで質問です。
「この作品の中には熊蜂が描かれていますが、どこに描かれているでしょうか。」
答はその場でぜひ探してみてください。

近代日本画の歴史のなかで、「東の大観、西の栖鳳」と並び称された東京画壇と京都画壇の巨匠の作品が一つの会場内で見られるのが「ザ・ベスト」の見どころのひとつですが、戦前にたもとを分かった二人の巨匠の作品が同時に見られるのも「ザ・ベスト」ならではではないかと思いました。

川端龍子が院展(日本美術院展覧会)脱退後に立ち上げた青龍社第1回展で発表したのが《鳴門》でした。
会場芸術を唱えて豪放な作風をめざした龍子らしく、大迫力の画面に圧倒されます。


川端龍子《鳴門》1929(昭和4)年 絹本・彩色


近代日本画壇では「東の清方、西の松園」と称された美人画の双璧、鏑木清方、上村松園の競演も見られます。松園作品は《蛍》、《砧》、《新蛍》の3点、清方作品は《伽羅》が展示されているなか、今回ご紹介するのは、松園の古典学習の成果がみられる《蛍》。


上村松園《蛍》1913(大正2)年 絹本・彩色

蚊帳を吊る女性がふと見た先には蛍が飛んでいます。
松園は江戸時代の風俗画を熱心に学んでおり、女性のこのポーズは喜多川歌麿《絵本四季花(上)  雷雨と蚊帳の女》の浮世絵を参考にした可能性が指摘されています。

そして、女性がまとう衣裳や装飾からアジャンタ石窟(インド)の神仏や観音像を思わせ、女性と風景の組合せからレオナルド・ダ・ヴィンチの《モナ・リザ》(ルーブル美術館)をはじめとしたルネサンス期の絵画に通じるものと思われる作品が、村上華岳の重要文化財《裸婦図》です。

村上華岳《裸婦図》【重要文化財】1920(大正9)年 絹本・彩色



小林古径、安田靫彦、今村紫紅、速水御舟をはじめ、大観らの次の世代の画家たちの優品も展示されています。このなかからご紹介するのは、今村紫紅《大原の奥》です。

今村紫紅《大原の奥》1909(明治42)年 絹本・彩色

描かれているのは平清盛の次女で、安徳天皇の母・建礼門院(徳子)。
壇ノ浦の戦いで源氏に敗れ安徳天皇が入水し、建礼門院も続きましたが源氏軍に救われ、その後、出家して大原の寂光院で隠棲しました。
紫紅は明治末から大正初めにかけて琳派の影響が色濃い作品を制作していますが、背景の薄野は江戸琳派の装飾性に通じるところがあることが指摘されています。


最後にもう1点ご紹介したいのは、2025(令和7)年にバンク・オブ・アメリカの文化財保護プロジェクトから助成を受けて本格的な修復が行われて今回が初公開の作品、小室翠雲《海寧観潮》です。
中国浙江省の銭塘江は、旧暦8月18日前後の満潮時に海から河へと逆流し、高潮が遡る大海嘯(だいかいしょう)で知られています。
筆者も以前訪れたことがありますが、時期外れだったのでこのような迫力ある場面を見ることはできなかったので、いつかまた行ってみたいと思います。

小室翠雲《海寧観潮》1922(大正11)年 紙本・墨画淡彩



豪華ラインナップの展示ですので、ミュージアムグッズも盛りだくさん。
今回出展作品の竹内栖鳳《班猫》【重要文化財】をデザインした「オリジナルふきん」をはじめ新発売のグッズもお楽しみです。

ミュージアムグッズ



1階の「Cafe椿」では、出品作品をモチーフにしたオリジナル和菓子をいただきながら、美術鑑賞の余韻に浸ってみてはいかがでしょうか。


オリジナル和菓子のご案内



山種美術館開館60周年を記念して発行される名品選図録Ⅰ、ⅡのうちⅠにあたる『開館60周年記念 ザ・ベスト・オブ・山種コレクションⅠ』も好評発売中。
今回の特別展の出品作品だけでなく、開館60周年記念特別展1、2で紹介された川合玉堂や奥村土牛の作品、江戸絵画や浮世絵、論文や詳しい作品解説も収録されている充実した内容の図録なので、これは間違いなく永久保存版です。




「ザ・ベスト」という名にふさわしく、近代日本画の巨匠たちの名品が勢揃いした展覧会です。ぜひお楽しみください。