2020年12月6日日曜日

MANGAのルーツをたどってみませんか? すみだ北斎美術館「GIGA・MANGA 江戸戯画から近代漫画へ」 

いつも楽しい展覧会を企画してくれるすみだ北斎美術館の今回の企画展は、笑って楽しめて、諷刺のスパイスもきいた展覧会。それもそのはず、近代漫画(MANGA)のルーツを江戸戯画(GIGA)に求める、とてもユニークな展覧会なのです。

3階ホワイエの撮影スポット

そして、歌川国芳河鍋暁斎小林清親といった一筋縄ではいかないクセ者や、明治期に来日したチャールズ・ワーグマンジョルジュ・ビゴーといった世相に鋭く切り込む外国勢も、人気者「のらくろ」の田河水泡や「フクちゃん」の横山隆一も登場して、会場内は百花繚乱、多士済々。もちろんすみだ北斎美術館の主(ぬし)、葛飾北斎も登場します。

4階AURORA(常設展示室)の北斎と娘の阿栄(おえい)


今回展示されるのは全部で約270点。同館始まって以来の3つの会期に分けて展示される豪華版。会期は来年の1月24日(日)までです。
ぜひMANGAのルーツをたどる旅をお楽しみください。

展覧会概要


会 期 2020年11月25日(水)~2021年1月24日(日)
  前期 2020年11月25日(水)~12月13日(日)
  中期 2020年12月15日(火)~2021年1月3日(日)
  後期 2021年1月5日(火)~1月24日(日)
  ※前中後期で一部展示替えあり
休館日 毎週月曜日、年末年始(12/29(火)-1/1(金))
    1月11日(月・祝)開館、1月12日(火)休館
開館時間 9:30~17:30(入館は17:00まで)
観覧料 一般 1,200円ほか
※本展のチケットは、会期中観覧日当日に限り、AURORA(常設展示室)をはじめ全ての展示をご覧になれます。
展覧会の詳細、新型コロナウィルス感染症の拡大防止策等については同館公式HPをご覧ください⇒https://hokusai-museum.jp/

※展示室内は撮影不可です。掲載した写真は、内覧会で美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。AURORA(常設展示室)内は一部を除き撮影可。

展示は3章構成になっています。

第1章 商品としての量産漫画の誕生 江戸中期から戯画の大衆化~戯画本・戯画浮世絵~
第2章 職業漫画家の誕生 ~ポンチ・漫画の時代へ~
第3章 ストーリー漫画の台頭 ~昭和初期から終戦まで~

さて、さっそく3階展示室からご案内していくことにしましょう。


第1章 商品としての量産漫画の誕生 江戸中期から戯画の大衆化~戯画本・戯画浮世絵~



「鳥羽絵」本と鳥羽絵スタイル

やたら手足が細くて長い二人の若者が力くらべの腕相撲。

作者不詳《鳥羽絵風戯画 腕相撲》
前期展示


期待にたがわず最初から笑いを誘う絵が出てきたので、さてこれは何だろうと思い解説パネルを見ると、「鳥羽絵」本に影響された「鳥羽絵」風の戯画とのこと。

そして、鳥羽絵スタイルの画がユーモアあふれる「遊び絵」として発展したもののひとつが、漢字やひらがな、カタカナを使った「文字絵」
こちらは、丸っこいひらがなで武士や町人、馬や猫が描かれていて、狐はひらがなの「きつね」三文字。

有楽斎長秀《後篇 大新板文字画姿》
前期展示

もう一つの「遊び絵」は、「影絵」

歌川国利《有が多気御代の蔭絵》
前期展示
何やら楽し気な影絵遊び。
とは言っても演じている人は大変そう。
こうもりも、かたつむりも、富士山も、よく見るとかなり難しい姿勢を取っています。
橋の欄干の人は左足をちょこんと上げてお茶目なポーズ。

一見すると人の顔のように見えても、実は何人もの人間のかたまり。
これが歌川国芳が得意とした「寄せ絵」です。
でも、実際に人間がやるのはちょっと無理そう。

歌川国芳《人をばかにした人だ》
前期展示

ところで「鳥羽絵」本とは何なのでしょうか。

冒頭に展示されているのが江戸中期、1720(享保5)年に大坂で刊行された「鳥羽絵」本

右から、竹原春潮斎『鳥羽絵欠とめ』、通期展示
大岡春卜『鳥羽絵三国志』、前期展示
作者不詳『軽筆鳥羽車』、通期展示


ガラスケースの上には本の中の絵がパネル展示されていますが、これが、手足が長く、眼は黒丸か一文字に省略されたスタイルが特徴の鳥羽絵なのです。

パネル展示『鳥羽絵欠とめ』


平安時代にまでさかのぼれば、貴族など特権階級の人たちだけが楽しんでいた戯画も、江戸時代に入って木版摺が発達して、さらに人口が急増した江戸中期になると町人も戯画が印刷された本を読むようになって、まさに第1章のタイトルにあるように、戯画が大衆化した時代でした。

ところで、「鳥羽」とは平安時代に活躍した天台宗の高僧、鳥羽僧正覚猶(1053-1140)のこと。
画家としての力量も相当のものだったようで、あの《鳥獣戯画》の作者ではとの説もあったくらい「戯画」も得意だったようです。
当時の人たちにとって「鳥羽」といえば「戯画」。
「鳥羽絵」とは売れ筋を考えた絶妙のネーミングだったのです。
それにしても600年近くもたって自分の名前が勝手に使われた鳥羽僧正はさぞかし驚いたことでしょう。


『北斎漫画』

「漫画」といっても『北斎漫画』は現代の「マンガ」と違って、「漫然と描いた絵」とのことですが、けっして「漫然」ではなく、北斎の弟子たちにとっては絶好の教科書でした。

北斎漫画
一部展示替えあり

その中でも現在の四コマ漫画の源流ともいえるのが『北斎漫画』十編 芸競べ図

葛飾北斎『北斎漫画』十編 芸競べ図
前期展示(中期後期には明治版が展示されます)


歌川国芳の「諷刺画」

「江戸戯画」にはもう一つ、大きな側面がありました。
当時の世相を風刺する「諷刺画」です。

当時は幕府に不平不満があっても大っぴらに言うことはできなかった時代。少しひねりをきかせた諷刺が人気を呼びました。
中でも人気だったのが「江戸のヒットメーカー」歌川国芳

歌川国芳《浮世又平名画奇特》
前期展示


正面切って諷刺ができなかった当時は、幕府を諷刺していることをわからせないようにして検閲をかいくぐるのが腕の見せどころ。それでも絵師や版元は薄氷を踏む思いでした。

歌舞伎役者を大津絵のキャラクターに見立てたこの《浮世又平名画奇特》も幕府の重臣を諷刺したものという評判が立って売れに売れたのですが、後に発禁になり版木は没収されてしまいました。


私のお気に入りの一枚が、厳しい統制政策で庶民を苦しめた天保の改革を諷刺した《源頼光公館土蜘作妖怪図》


歌川国芳《源頼光公館土蜘作妖怪図》
前期展示


描かれているのは、右から大江山の酒呑童子退治の伝説で知られる源頼光、頼光四天王(卜部季武、渡辺綱、坂田金時、碓井貞光)の面々なのですが、当時の人が見れば誰を描いているのかは、すぐにわかったのでしょう。
頼光の後ろで衣をかけようとしている土蜘蛛は、厳しい取り締まりで「妖怪(耀甲斐)」と恐れられた南町奉行鳥居耀蔵、頼光は将軍徳川家慶、卜部季武は老中水野忠邦、背後の妖怪は庶民を苦しめた禁止令や倹約令だったのです。


こちらは、1868(慶応4)年の江戸開城を暗喩したものの可能性があるという《当時流好諸喰商人尽》。徳川慶喜は豚肉を好んだので「豚一殿」と呼ばれたとは知りませんでした。
手前の豚は慶喜を表しているのでしょうか。
ただし、この前年に徳川慶喜は京都・二条城で大政奉還して、その後、王政復古によって将軍職も罷免されたので、この時はすでに「元将軍」。幕府も消滅したので、作者はとがめられることもなかったのでは。

作者不詳《当時流好諸喰商人尽》
前期展示



河鍋暁斎「狂斎百図」

第1章最後のハイライトは、画鬼・河鍋暁斎「狂斎百図」

全104枚が発行されたというこのシリーズ、今回の展覧会では三期に分けて36枚が展示されます。

「ふぐハ喰いたし命はおしし」「地獄デ仏」「牛にひかれて善光寺まいり」など聞いたことのあることわざが戯画になった、暁斎らしいユーモアたっぷりで色鮮やかな絵ばかりの、まさに「暁斎ワールド」。

河鍋暁斎「狂斎百図」
右 小坊主に天狗八人/ふぐハ喰いたし命は惜しし
左 地獄デ仏
前期展示

河鍋暁斎「狂斎百図」
右 書の大天狗/象の鼻引、左 すずめ踊り
前期展示


上の写真左の「すずめ踊り」は、『北斎漫画』三編の「雀踊り図」に倣ったものなので、ぜひ比べてみてください。

葛飾北斎『北斎漫画』三編(明治版)
雀踊り図 通期展示


続いて、4階の第2章に移ります。

4階企画展示室入口



第2章 職業漫画家の誕生 ~ポンチ・漫画の時代へ~


チャールズ・ワーグマン『THE JAPAN PUNCH』


さて、明治に入って文明開化の時代らしく外国勢が登場。
まずは、幕末から明治にかけて美術特派員として日本に滞在したチャールズ・ワーグマン

手前から、チャールズ・ワーグマン『THE JAPAN PUNCH』1883(明治16)年5月号、
仮名垣魯文『絵新聞日本地』第1号、第2号
いずれも通期展示


上の写真手前は、ワーグマンが横浜の居留地で創刊した『THE JAPAN PUNCH』
時局諷刺画のことを指す「ポンチ」という言葉が使われたのは、この雑誌がきっかけとのこと。
そして奥は、当時の日本のジャーナリスト代表、仮名垣魯文。新聞小説の草分けで、『安愚楽鍋』が有名です。

ところで、『THE JAPAN PUNCH』表紙のサムライ、どこかで見たことありませんか。
そうです、横浜・馬車道にある神奈川県立歴史博物館の営業部長、「パンチの守(かみ)」です。(地元民でないと知らないかも)
神奈川県立歴史博物館ツィッター⇒https://twitter.com/kanagawa_museum


雑誌ブームに火がついた!

「ギェーッ」という悲鳴が聞こえてきそうなこの絵の作者は誰だと思いますか。

「團團珍聞」第508号 眼を廻す器械
前期展示

なんと、明治の東京の風景を描いたあの光線画の小林清親なのです。清親は、1882(明治15)年から8年間、「團團珍聞」に諷刺画を寄稿していたのでした。

そして、二人目の外国勢は、日本美術研究のために来日したフランスの画家、ジョルジュ・ビゴー。学校の教科書でもビゴーの諷刺画を見たことがあるのでは。
居留フランス人向けに発行した諷刺雑誌『TÔBAÉ』の表紙を飾るのは道化師の扮装をしたビゴー自身。
もしかしたらビゴーさん、副題に"JOURNAL SATIRIQUE"(諷刺雑誌)と注釈をつけて「鳥羽絵」という言葉をフランス人にも流行させたかったのかも。

ジョルジュ・ビゴー『TÔBAÉ』10号/33号
通期展示 

筆禍事件で3年間投獄されたあとも時代諷刺を続けたのが気骨のジャーナリスト宮武外骨。外骨が創刊した『滑稽新聞』はヒットして、明治後期の漫画雑誌ブームに火をつけました。

『滑稽新聞』 右 第109号 通期展示 
左 第120号 前期展示

同じく漫画雑誌ブームに火をつけたのが、日本初の職業漫画家とされる北沢楽天らが創刊した『東京パック』。ユーモラスな似顔絵が目を引きます。

第1次東京パック第1巻第4号
通期展示


ビゴーは官憲の追及をおそれて帰国しましたが、大正時代に「鳥羽絵」が甦りました!
こちらの『トバヱ』は、石井柏亭、平福百穂、岡本一平、近藤浩一路らが美術としての漫画の創造をめざして創刊したものです。

右 『トバヱ』第2巻第1号 通期展示
『トバヱ』第2巻第2号 前中期展示

大正時代にはアメリカ漫画の翻訳も出てきました。
ひょんなことから上流階級の仲間入りをしたジグスとマギー夫婦の日常生活を描いた漫画『親爺教育』。


ジョージ・マクマナス『親爺教育』第1集
通期展示

この頃になると、今の漫画と同じような体裁になってくるので読みやすそうです。

小星・東風人『お伽 正チャンの冒険』二の巻
通期展示




第3章 ストーリー漫画の台頭 ~昭和初期から終戦まで~



ナンセンス漫画の流行


下の写真右は、アメリカのナンセンス漫画を紹介したり、投稿欄には「フクちゃん」で知られる横山隆一の漫画も掲載した『月刊マンガ・マン』。


右から、『月刊マンガ・マン』第2年第3号、
『漫画の国』第1巻第3号、以上通期展示
『漫画の国』第1巻第5号 前期展示
 『漫画』第8巻第9号 通期展示


横山隆一といえば新聞4コマ漫画のフクちゃん。
1936(昭和11)年に朝日新聞東京版で「江戸っ子健ちゃん」の連載が始まったときは脇役だったフクちゃんは、のちに主役になって、戦後になって『毎日新聞』で連載が始まって、1971(昭和46)年まで5000回を超えて連載されたロングラン。私もかすかに覚えています。

横山隆一『江戸っ子健ちゃん』
通期展示

漫画界にも忍び寄る戦争の影

企画展の最後は、戦争の影が大きく映し出された戦前期の漫画。
多くの漫画家たちは、国家体制に組み込まれ、国威発揚、戦争推進のための漫画を描くことになります。

下の写真右は、平井房人が大阪朝日新聞に連載した漫画をまとめた単行本『家庭報国 思ひつき夫人』(1938(昭和13)年~1939(昭和14)年)。倹約をテーマにして人気を博した作品です。
下の写真左は、杉浦幸雄『ハナ子さん』(1942(昭和17)年。開いているページは戦地に赴いている兵士に送る慰問袋のお話。


右 平井房人『家庭報国 思ひつき夫人』全3集
杉浦幸雄『ハナ子さん』
いずれも通期展示

戦時下という厳しい状況の中でも日々、一生懸命生きようとする人たちの姿を見ていると、キュッと胸を締め付けられる思いがしました。
もしかしたら、この時代の漫画からは、今の平和な時代に向けて「二度と戦争を起こしてはならない」というメッセージが発信されているのかもしれません。


笑いに始まり、シリアスに締めた今回の特別展ですが、展示はこれだけではありません。
4階ラウンジに展示さている、すみだ北斎美術館・マンガ館 友好協力協定締結1周年記念「クラクフ ドラゴンとドラゴン」展もお見逃しなく!
※会期は特別展「GIGA・MANGA 江戸戯画から近代漫画へ」と同じです。
※「クラクフ ドラゴンとドラゴン」展も撮影不可です。


「クラクフ ドラゴンとドラゴン」展も見逃せない!



ポーランド南部の古都クラクフにある日本美術技術博物館マンガ(通称:マンガ博物館)とすみだ北斎美術館が友好協力協定を締結して一周年を記念指定開催されている「クラクフ ドラゴンとドラゴン」展
北斎へのオマージュ作品をはじめ、ポーランドの現代アーティストの作品は必見です!




建築家・磯崎新氏が地元クラクフの建築家と協力して設計したマンガ博物館も北斎の浮世絵風。


ダ・ヴィンチの貴婦人が抱いているのは白貂ではなく、お岩の霊。
非業の死を遂げたお岩の霊を優しく抱く貴婦人の姿が印象的です。



目を凝らせば富士山や神奈川沖浪裏も作品の中に見つけられるジャポニズムの版画。


冒頭に紹介した撮影スポットや、北斎さんに会えるAURORA(常設展示室)もあって盛りだくさんのすみだ北斎美術館。
今回紹介したのは前期展示ですが、中期後期も充実のラインナップ。
いつ来ても、三期全部来ても楽しい展覧会です。

2020年11月30日月曜日

【ピカソ、ミロ、ウォーホル】横浜ベイエリアで20世紀西洋美術を楽しんでみませんか~横浜美術館「トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション」

コロナ禍がまだまだ収まらない中ではありますが、この時期になると街じゅうがクリスマス気分で盛り上がる今日この頃。横浜みなとみらいにある横浜美術館では国内にある20世紀西洋美術の名品が集まった展覧会が開催されています。

ランドマークプラザのクリスマスツリー



今回の展覧会は、国内有数の20世紀西洋美術コレクションを所蔵する横浜美術館、愛知県美術館、富山県美術館の3館のコラボ企画。
コロナ禍の前に企画されたとのことですが、海外どころか、国内の移動も安心してできる状況でない中、一カ所で国内美術館の西洋美術コレクションの名品が見られる、とてもうれしい展覧会です。

展覧会概要


トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション
会 期  2020年11月14日(土)~2021年2月28日(日)
開館時間 10:00~18:00(入館は17:30まで)
休館日  木曜日(2月11日は除く)、2020年12月29日(火)~2021年1月3日(日)、
     2月12日(金)   
観覧料(税込) 一般 1,500円ほか
       本展の観覧日に限り「横浜美術館コレクション展」も観覧可。
       コレクション展については後ほどご紹介します。
※本展は、インターネットでのオンライン日時指定予約が必要です。
※展覧会の詳細、新型コロナウィルス感染症拡大防止の取組み、日時指定予約方法等については同館公式HPをご覧ください⇒https://yokohama.art.museum/


本展覧会は、横浜美術館、愛知県美術館、富山県美術館の3館共同企画展で、以下のとおり巡回します。
愛知県美術館 2021年4月23日(金)~6月27日(日) ※予定
富山県美術館 2021年11月20日(土)~2022年1月16日(日) ※予定

※展示室内は撮影不可です。掲載した写真は内覧会で美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。

さて、今回の展覧会のタイトルは「トライアローグ」(以下、「トライアローグ展」)。
ダイアローグは二人の対話ならトライアローグは三人の鼎談。
国内の美術館3館がコラボするとどういった内容になるのか。
ヒントはどうやら数字の「3」と3の二乗の「9」にありそうです。

1 展示構成は20世紀の100年を30年ごとに分けた3章構成


20世紀の西洋美術は第二次世界大戦(1939-1945)前後を一つの区切りにすることが多い中、30年ごとに区切ると何が見えてくるのか?

SectionⅠ 1900s-アートの地殻変動
 フォーヴィスム、キュビスム、ドイツ表現主義、ダダ、秩序への回復、ロシア構成主義
SectionⅡ 1930s-アートの磁場転換
 シュルレアリスム、抽象表現主義、アール・アンフォルメル
SectionⅢ 1960s-アートの多元化
 ネオ・ダダ、ポップ・アート、ヌーヴォー・レアリスム、ミニマル・アート、コンセプチュアル・アート

2 3館の所蔵作品で9人のアーティストをフォーカス(Artist in Focus)


三館が所蔵する9人のアーティスト(ピカソレジェクレーハンス(ジャン)・アルプエルンストミロデルヴォージム・ダインウォーホル)の作品を並べてみると何が見えてくるのか?

3 3館の個性を引き出す展示内容


20世紀西洋美術の中でもそれぞれ特徴の異なる3館の作品を並べると何が見えてくるのか?



それではさっそく展示室内に入って見ることにしましょう。

SectionⅠ 1900s-アートの地殻変動

20世紀初頭で最初に名前が思い浮かんでくるのは、19世紀後半の印象派、ポスト印象派の「地殻」を破って出てきたピカソ

最初のArtist in Focusはピカソです。

SectionⅠ
「Artist in Focus #1 ピカソ」展示風景

上の写真奥から、
《青い肩かけの女》(愛知県美術館)1902年
《肘かけ椅子の女》(富山県美術館)1923年
《肘かけ椅子で眠る女》(横浜美術館)1927年
《座る女》(富山県美術館)1960年。

《青い肩かけの女》は初期の「青の時代」、《肘かけ椅子の女》はキュビスム後の「新古典主義の時代」、《肘かけ椅子で眠る女》はシュルレアリスムに接近した時期、そしてキュビスムに回帰した晩年の作品《座る女》。
このように、3館の所蔵作品を並べると見事にピカソの作風の変遷が見えてくるのです。


第一次世界大戦中(1914-1918)、亡命先のスイスのチューリッヒでダダを立ち上げたハンス(ジャン)・アルプもArtist in Focusの一人。


SectionⅠ
「Artist in Focus #4 ハンス(ジャン)・アルプ」展示風景


上の写真右から、
《森》(愛知県美術館)1917年頃
《瓶と巻き髭》(横浜美術館)1923-26年
《鳥の骨格》(富山県美術館)1947年。

右の解説パネルのタイトルは「ふたりのアルプ」。
テキスタイル・デザイナーで、のちにハンスの妻となるゾフィー・トイバーとの共同作業などを通じて生まれた《森》や《瓶と巻き髭》、そして、1943年に不慮の事故でトイバーを亡くし、悲しみを越えてふたたび彫刻に向き合った作品が《鳥の骨格》。
ここではアルプの波乱の人生と作品の変遷が浮かび上がってきます。

ちなみに、ここに出てくる数字は「2」ですが、この時期は女性作家が少ない中、今回の展覧会を担当された「9人」の学芸員の方が女性作家の位置づけを考えたとのこと。
やはり「3の二乗」が出てきました。

女性作家といえば、第一次世界大戦前にミュンヘンを中心に活躍したドイツ表現主義のグループ「青騎士」のメンバーの一人、ガブリエーレ・ミュンターの作品にめぐり会えたのもうれしかったです。

SectionⅠ 展示風景

上の写真左が、温かみが感じられるミュンターらしい作品《抽象的コンポジション》(横浜美術館 1917年)。ミュンターは、青騎士の画家たちの作品を地下室に隠してナチスの略奪を防いだ勇気の人。おかげで私たちは今でもミュンヘンのレンバッハハウス美術館で彼らの作品を見ることができるのです。(ミュンヘンにはいつかまた行きたい!)
右は同じく「青騎士」の主要メンバーだったカンディンスキーの《網の中の赤》(横浜美術館 1927年)。バウハウス時代の作品です。

ドイツ表現主義の先駆となった「ブリュッケ」結成の中心メンバーのひとりがキルヒナー
下の写真右は、ドイツ表現主義に強い愛知県美術館のキルヒナー《グラスのある静物》(1912年)。
SectionⅠ 展示風景

そして、キュビスムや未来派の影響を受けて1915年頃に興ったロシア構成主義に強いのが横浜美術館。下の写真手前がアレクサンドル・ロトチェンコ《非具象彫刻》(1918年(1994年再制作))、奥がウラジーミル・タトリン《コーナー・反レリーフ》(1915年(1979年再制作))(いずれも横浜美術館)。

SectionⅠ 展示風景

富山県美術館の強みは最後に紹介しますが、3館がそれぞれの個性を出すと、複雑な20世紀西洋美術のさまざまな動きが浮かび上がってきます。


SectionⅡ 1930s-アートの磁場転換

「地殻変動」の後は、第二次世界大戦を契機にアートの中心がパリからニューヨークに移った「磁場転換」。

中でもこの時代の苦難を体現したのがマックス・エルンスト
ドイツ人のエルンストは、第二次世界大戦開戦時にパリにいたのですが、「敵性外国人」ということで収容所に入れられ、収容所から出てドイツに戻ったらナチスに退廃芸術家としてゲシュタポに追われ、辛くもニューヨークに亡命するという波乱に満ちた人生を送った画家。

エルンストもArtist in Focusの一人。

SectionⅡ
「Artist in Focus #5 エルンスト」展示風景

上の写真は右から、
《森と太陽》(富山県美術館)1927年
《少女が見た湖の夢》(横浜美術館)1940年
《ポーランドの騎士》(愛知県美術館)1954年。

3館の所蔵作品を並べると、第二次世界大戦前、大戦中、そしてニューヨークで描いた作品と、ものの見事にエルンストの画風の変化が見て取ることができます。
そして20世紀が30年ごとに区切られているので、エルンストの作品が第二次世界大戦前後で流れが途切れることなくつながっています。

SectionⅡのハイライトは何といってもシュルレアリスム
エルンストはじめ、サルバドール・ダリマグリットデルヴォーミロ。
オールスターキャスト勢ぞろい!

SectionⅡ
「Artist in Focus #6 ミロ」展示風景



パリで名声を得たダリも第二次世界大戦を機にアメリカに亡命して「アートの磁場転換」を体現した画家の一人。
下の写真右が《ガラの測地学的肖像》(横浜美術館)1936年、《アメリカのクリスマスのアレゴリー》(富山県美術館)1943年頃。


SectionⅡ 展示風景

アメリカの写真家で、パリとアメリカを行き来したマン・レイの写真《ガラスの涙》(1932年頃)、《メレット・オッペンハイム(ソラリゼーション)》(1933年)と、鉄と釘で制作したアイロンのオブジェ《贈物》(1921年(1970年再制作))(下の写真右から、いずれも横浜美術館)。
マン・レイといえば、ピンッととがった口ひげのダリの写真も思い浮かんできます。

そして、マン・レイのモデルとなったドイツ生まれでスイス人画家のメレット・オッペンハイムが制作した毛皮のふわふわしたオブジェ《りす》2点(横浜美術館、富山県美術館 いずれも1969年(1970年再制作))。(下の写真左、ガラスケースの中)

SectionⅡ 展示風景

マン・レイをはじめとしたシュルレアリスムの写真も横浜美術館の強みです。


SectionⅢ 1960s-アートの多元化

1960年代に入ると、大量生産・大量消費の時代を反映して、ネオ・ダダ、ポップ・アート、ヌーヴォー・レアリスムなどが出てきて、展示室内も「多元化」。
そして、今までアートのモデルは女性が多かったのですが、ここに展示されている作品は、手前に展示されているアルマン《バイオリンの怒り》(富山県美術館 1971年)を除き、すべてモデルが男性という珍しい空間。

SectionⅢ 展示風景

そしてニューヨークを中心に展開するアートシーンの中で真っ先に名前が思い浮かんでくるのが、アンディ・ウォーホル

SectionⅢ
「Artist in Focus #9 ウォーホル」展示風景

ウォーホルもArtist in Focusの一人。
上の写真右から、
《マリリン》(富山県美術館)1967年
《ムハメド・アリ》ほか(横浜美術館)1977年ほか
《レディース・アンド・ジェントルメン》(愛知県美術館)1975年。

既存の写真を使った1960年代の《マリリン》のシリーズに始まって、自らがスターを撮影するようになった《ムハメド・アリ》ほか、そして性的マイノリティをモデルとした《レディース・アンド・ジェントルメン》。
ここでも作者の制作手法や対象の変遷を見て取ることができます。

そして、締めくくりは、最近、作品が高額で落札されて一躍注目を浴びたゲルハルト・リヒター

SectionⅢ 展示風景


上の写真左は、1980年の開館当初から20世紀後半の作品収集に力を注いだ富山県美術館のリヒターの大作《オランジェリー》(1982年)。


ボリュームたっぷり、見どころいっぱいのトライアローグ展はここまでですが、展示はまだまだ続きます。
続いて横浜美術館のコレクション展です。


横浜美術館コレクション展 「ヨコハマ・ポリフォニー:1910年代から60年代の横浜と美術」

トライアローグ展とあわせて開催されるコレクション展のテーマは音楽用語で多声音楽を意味する「ポリフォニー」。

セザンヌから、藤田嗣治川瀬巴水、そして岡田謙三イサム・ノグチをはじめとしたアーティストまで、1910年代から1960年代に横浜で展開されたアートシーンをたどりながら、横浜にゆかりの作家や作品から聴こえてくる響きに耳を傾けたくなる展覧会です。

展覧会概要


横浜美術館コレクション展 「ヨコハマ・ポリフォニー:1910年代から60年代の横浜と美術」
会 期  2020年11月14日(土)~2021年2月28日(日)
開館時間 10:00~18:00(入館は17:30まで)
休館日  木曜日(2月11日は除く)、2020年12月29日(火)~2021年1月3日(日)、
     2月12日(金) 
(以上はトライアローグ展と同じです。)
観覧料(税込) 一般 500円ほか
  企画展ご観覧当日に限り、企画展の観覧券でコレクション展もご覧いただけます。
※本展は、インターネットでのオンライン日時指定予約が必要です。
※展覧会の詳細、新型コロナウィルス感染症拡大防止の取組み、日時指定予約方法等については同館公式HPをご覧ください⇒https://yokohama.art.museum/

※コレクション展は撮影可です。

展示構成
 序章 憧れの西洋美術
 第1章 横浜美術協会創設前後-川村信雄とその周辺
 第2章 フランスへの旅立ち
 第3章 関東大震災からの復興
 第4章 新版画の興隆-鏑木清方から石渡江逸まで
 第5章 横浜懐古-川上澄生の世界
 第6章 横展写真部創設
 第7章 ニューヨークでの活躍-岡田謙三とイサム・ノグチ
 第8章 前衛美術のパイオニア-斎藤義重
 第9章 ハマ展の洋画家と彫刻家
 第10章 「今日の作家展」
 [特集展示Ⅰ] 宮川香山
 [特集展示Ⅱ] 林 敬二


セザンヌが横浜に来た!

展示会場入口でお出迎えしてくれるのは、横浜生まれの画家・有島生馬、そしてセザンヌ
文芸誌『白樺』でセザンヌを日本でいち早く紹介たのが、1910年に欧州留学から帰国した有島生馬でした。
日本の美術界に大きな影響を与えたセザンヌですが、当時の人たちは、まさかセザンヌの原画が横浜で見られるとは思わなかったことでしょう。
下の写真左の有島生馬がフランス滞在中に描いた《背筋の女》(1909年)とあわせて、フランスの雰囲気を伝えるとても贅沢な空間です。

序章 憧れの西洋美術


アーティストは横浜港からフランスを目指した!

1859(安政6)年に横浜が開港して以来、横浜港は長らく海外への玄関口でした。
1913(大正2)年に横浜港からフランスに旅立った藤田嗣治、1918(大正7)年に渡仏した横浜生まれの長谷川潔はじめ、フランスに学んだ画家たちの作品が中心に展示されています。




第2章 フランスへの旅立ち 

ニューヨークで活躍した横浜生まれの岡田謙三も横浜港からフランスを目指した画家のひとり。岡田謙三の作品は、青春期を横浜で過ごしたイサム・ノグチの作品とともに「第7章 ニューヨークでの活躍-岡田謙三とイサム・ノグチ」に展示されています。

第7章 ニューヨークでの活躍-岡田謙三とイサム・ノグチ



新版画も横浜から始まった!?

新版画運動を推進した版元の渡辺庄三郎は、若いころ横浜の浮世絵店で外国向けに浮世絵を販売していました。そして、伊藤深水の木版画にひかれ、東京・京橋に版画店を開いた渡辺庄三郎のもとで木版画制作を始めたのが、情緒あふれる作品でおなじみの川瀬巴水

第4章 新版画の興隆-鏑木清方から石渡江逸まで

ハマの美術展の系譜がわかる!

横浜画壇の基礎を築いたのが、岸田劉生らとともに結成した個性的な美術家集団「フュウザン会」解散後、横浜に移り住んだ洋画家・川村信雄
川村信雄は、1919(大正8)年の横浜美術協会創立に携わり、1925(大正14)年、横浜・弘明寺に画塾を開設して多くの後進を育てました。

第1章 横浜美術協会創設前後-川村信雄とその周辺

横浜美術協会による横浜美術展は、主催や形式、会場などを変えながら、関東大震災、第二次世界大戦による中断を経て、「ハマ展」として現在でも続いている公募展です。

第9章 ハマ展の洋画家と彫刻家



今日の作家展は横浜市民ギャラリーで1964(昭和39)年から開催されてきた現代美術の展覧会。
今回展示されているのは1960年代の出品作家の作品。
「フット・ペインティング」で知られる白髪一雄の気迫のこもった作品も展示されています(下の写真左《梁山泊》1967(昭和42)年)。

第10章 「今日の作家展」


「トライアローグ展」とコラボした展示は、ロシア構成主義やドイツのダダイズムに傾倒した斎藤義重が1981年の「今日の作家81年展」のために制作した《内部》(1981(昭和56)年)。

第8章 前衛美術のパイオニア-斎藤義重


横浜の超絶技巧といえばこの人、初代宮川香山


明治期に輸出促進のために振興された工芸品は、今では明治の超絶技巧としてアートファンの間ではすっかりおなじみになっていますが、横浜の超絶技巧といえば、やはり何といっても明治に入って横浜に窯(かま)を開いた初代宮川香山の真葛焼。

[特集展示Ⅰ]宮川香山


休館前最後の展覧会をお楽しみください!


横浜美術館は、1989年の開館以来、初めての大規模改修工事のため2021年3月1日から長期休館に入ります(リニューアルオープンは2023年度中の予定)。

横浜赤レンガ倉庫では恒例のクリスマスマーケットも開催されることになり、この冬も横浜は見どころいっぱい。
休館前最後の展覧会をぜひお楽しみください。

横浜美術館前のイルミネーション