2017年9月17日日曜日

ドイツ連邦議会選挙の行方(6)~最終回~

1 テレビ討論会の影響は?

  924()のドイツ連邦議会選挙まで残りあと1週間。
 勝負はもう決まったとの感もあるが、SPDのシュルツ候補はまだ諦めていない。
 93日のメルケル候補とのテレビ討論会は、議論が低調で、選挙後の大連立を視野に入れているのかと揶揄されるほどだったが、一方で「シュルツ氏もなかなかいいことを言うではないか。」とシュルツ氏への好感度が高まったことも事実である。
 実際にZDFの調査では、シュルツ候補のポイントがわずかではあるが上がっている。


 正確に言うと、次の2で見るように、8月下旬にEUが制裁対象としているロシア企業「ロスネフツ」の役員候補にシュレーダー元首相の名前があがったことが報道された影響があってシュルツ候補のポイントがガクッと下がったので、
「ロスネフツ」前の水準に戻っただけであるが、それでもテレビ討論の効果があったことは否定できない。

 テレビ討論の思いのほかの効果に味をしめたシュルツ候補は「もう一度テレビ討論をやろう。」とメルケル候補に呼びかけたが、メルケル候補は「アメリカやフランスの大統領選挙と違って、ドイツ連邦議会選挙は政党間の選挙なので、もうテレビ討論を行う必要はない。」と一蹴している。
  
2 ZDF調査「首相としてどちらが望ましいか」

     1月      シュルツ氏 40%  メルケル氏 44% シュルツ候補好スタート
     2月      シュルツ氏 49%  メルケル氏 38% シュルツ候補逆転
   3月     シュルツ氏 44%  メルケル氏 44% 両者譲らず
   47日  シュルツ氏 40%  メルケル氏 48% メルケル氏再びリード
428日    シュルツ氏 37%  メルケル氏 50% メルケル氏リードを広げる
519日    シュルツ氏  33%    メルケル氏 57% メルケル氏さらにリード
62日    シュルツ氏 31%  メルケル氏 59% あやうくダブルスコア
623日     シュルツ氏 31%  メルケル氏 58% メルケル氏堅調
77日    シュルツ氏 30%  メルケル氏 59% メルケル氏堅調
721日     シュルツ氏 30%  メルケル氏 59% メルケル氏堅調
811日     シュルツ氏 30%  メルケル氏 60% メルケル氏ダブルスコア
825日     シュルツ氏 34%  メルケル氏 55% シュルツ氏少し持ち直す
91日     シュルツ氏 28%  メルケル氏 57% シュルツ氏ガクッと落ちる
                   (露企業ロスネフツ問題が影響か?)
98    シュルツ氏 33%  メルケル氏 57% シュルツ氏少し持ち直す
915日    シュルツ氏  32%  メルケル氏 56% シュルツ氏少し持ち直す
                      (テレビ討論会で好感がもたれたか?) 
 
 テレビ討論の効果があったといっても、劣勢を挽回したわけでなく、シュルツ候補はメルケル候補に大きく水をあけられ、依然として苦しい戦いを強いられている。
 メルケル候補は勝利をほぼ手中に収めたことは間違いないが、あとは、どのような連立の組合せになるかが大きな焦点となっている。

3 有権者の関心は「誰が首相になるか」でなく「どの連立の組合せになるか」か?

  915日付ZDF調査による政党支持率
   CDU/CSU 36%(-2%)SPD 23%(+1%)、左派党 9%(±0%)
緑の党 8%(±0%)FDP 10%(+1%)AfD 10%(+1%)、その他 4%(-1%)
(カッコ内は98日調査時との増減比較)


連立の組合せ
政党支持率
の合計
望ましい
望ましく
ない
CDU/CSUSPD
(大連立)
59%
40%
42%
CDU/CSUFDP
(黒黄連立)
46%
39%
40%
CDU/CSU+緑の党
(キウイ連立)
44%
30%
44%
CDU/CSU+緑の党+FDP
(ジャマイカ連立)
54%
25%
52%
SPD+緑の党+FDP
(信号連立)
41%
22%
53%
SPD+左派党+緑の党
(赤赤緑連立)
40%
24%
63%
  
 9月15日付の調査では、どの連立の組合せも、「望ましくない」が「望ましい」を上回っている。
 それでも大連立や黒黄連立は「望ましくない」が「望ましい」をわずかに上回っているだけであるが、信号連立や赤赤緑連立に対する拒否感は依然として強い。
 「ドイツ連邦議会選挙の行方(3)」で見たように、ザールラント州の州議会選挙ではSPDと左派党が連立して左に舵が切られることを望まない「無党派層」の「浮動票」がCDU/CSUに流れたが、同じようなことは連邦レベルでも起こる可能性は十分考えられる。

 さて、ここでメルケル候補とシュルツ候補に対する有権者の期待に戻ってみよう。


4 有権者の期待



47
98
メルケル
シュルツ
わからない
メルケル
シュルツ
わからない
どちらが信頼できるか(glaubwürdiger)
34%
13%
44%
34%
15%
47%
どちらが好感がもてるか
(sympathischer)
31%
27%
35%
39%
23%
35%
どちらが専門知識をもっているか
(Sachverstand)
46%
10%
31%
53%
7%
33%




91
どちらが社会的公正に配慮しているか
22%
33%
36%
不確実な時代にドイツを導くことができるか
60%
8%
24%


9月8日に実施された3つの質問項目については、4月7日に実施したときの結果と傾向はほぼ同じで、有権者の意識はあまり変化がないことがわかるが、9月1日に実施された項目については、現在の世界情勢を反映して興味深い結果が出ている。

 社会的公正への配慮についてはシュルツ候補が上回っているが、「不確実な時代にドイツを導くことができるか」という質問に対しては、メルケル候補がシュルツ候補を大きく引き離している。

 難民の流入、アメリカ・トランプ大統領の登場、イギリスのEU離脱、トルコの専制化、クリミア問題などなど、不安定な状況の中では、やはり連邦首相としての実績があるメルケル候補に次の4年間を任せたいという有権者の心理がここに反映されている。

 選挙まであと1週間。
 不確実な時代にはメルケルさんに首相を任せて、大連立か黒黄連立で安定的に連邦議会を運営していってほしい、というのが多くの有権者の望みであるようだが、結果はどうなるか。
同じくZDFの調査では「投票先を決めたか。」という問いに、「はい」と答えた人が61%、「いいえ」と答えた人が39%。
シュルツ候補もインタビューの機会などで「まだ4割の有権者が投票先を決めていない。」と強調している。

選挙は終わるまでどうなるかわからない。



「ドイツ連邦議会選挙の行方」の連載は以上ですが、ここで私なりの予想を披露します。

 CDU/CSUとしては、長らく連立を組んで気心も知れているFDPと連立を組みたいだろう。それに小さな政党と連立を組めば、明け渡す大臣ポストも少なくて済む。
 しかしながら、FDPは前回の選挙で失った連邦議会の議席を回復するのはほぼ確実であるが、政党支持率はほぼ横ばいでこれ以上の伸びは期待できず、CDU/CSUと合わせて過半数を獲得するのは難しいのではないか。

 一方で、不気味なのはAfD。さらに右寄りの傾向を強め、有権者から「極右政党」とみなされて支持率を失いつつあったが、最近になって回復傾向にある。
 各党の要職にある政治家が1名ずつ参加して9月5日に行われたテレビのトークショーで、AfDのアリス・ヴァイデル共同首相候補が難民受け入れ反対の発言をして他党の政治家から総スカンをくらい、さらに「極右政党」と言われて途中退席するという一幕があった。
 良識ある有権者であれば嫌悪感しか感じられないアリス・ヴァイデルのパフォーマンスであっても、難民の流入に反対し現状に不満を持つ有権者には、AfDは既存の政党とは違うんだ、という強いメッセージになったであろう
 
 熾烈な第三党争いの中、AfDが抜きん出れば、FDP、左派党、緑の党は票を食われてしまい、他の連立の組合せも過半数は獲得できなくなる。また、CDU/CSUと緑の党の連立は、ディーゼル車をはじめとした環境政策で大きな隔たりがあるので、連立は考えにくい。

 こういったことを考え合わせると、私の予想は「選挙に勝ったCDU/CSUも選挙に負けたSPDもお互いに連立は組みたくないが、AfDの台頭に危機感を抱いた二大政党が政治の混乱を避けるためにやむをえず連立を組む。」。

以上です。
 


2017年9月3日日曜日

山種美術館「企画展 上村松園 ー美人画の精華ー」

山種美術館で開催中の「企画展 上村松園 -美人画の精華ー」に行ってきました。

今回の展覧会は、上村松園の作品を中心に、近代日本画家の美人画や江戸後期の浮世絵、さらには現代の画家の女性を描いた作品まで、よりすぐりの美人画を見ることができる素晴らしい展覧会です。
描かれた女性たちの表情もしぐさも髪型も、着物も柄も、小道具も背景も優しげで、とても心地の良い美人画ワールドにひたることができました。

会期は、前期が9月24日(日)まで、後期は9月26日(火)から10月22日(日)までです。
前期と後期で展示替えがあります。

展覧会の詳細はこちらをご覧ください。
http://www.yamatane-museum.jp/

※掲載した写真は、山種美術館の許可を得て撮影したものです。


それでは先日参加した特別内覧会の進行に沿って展覧会の様子をご紹介したいと思います。

はじめに山種美術館の山﨑妙子館長からご挨拶がありました。

〇 上村松園は、生涯にわたりさまざまな女性像を描きました。今回は山種美術館の松園
 コレクション18点すべてをお見せします。
〇 他にも鈴木春信や喜多川歌麿の江戸時代の女性、明治に入ってからの鏑木清方や伊東
 深水の清楚な女性、さらには小倉遊亀や片岡球子の凛とした女性などさまざまな女性像
 を見ることができます。
〇 また、月岡芳年《風俗三十二相》も展示しています。お貸しいただいた所有者の方に
 感謝申し上げます。
〇 今回の展覧会で撮影可能な一点は上村松園《砧》です。


上村松園《砧》(山種美術館)


〇 Cafe椿では、出品作から5点をイメージして和菓子をご用意しています。
  

左上から時計回りに、《よみびと》《双鶴》
《初ほたる》《舞妓》《道成寺》。
私の一押しは淡雪羹が口の中でとろける《双鶴》ですが、
他の和菓子も美味しくてどれにしようか迷ってしまいます。

〇 ショップでは、小冊子『山種美術館の上村松園』(本体価格 500円)を販売していま
す。
  また、関連イベントもあります。
  9月9日(土)には芥川賞受賞作家 朝吹真理子さんのトークイベント、10月28日(土)か
 らは川合玉堂展が開催されて、その関連イベントとして11月12日(日)にはミュージアム
 コンサート「~故郷~ 箏とフルートの調べ」が開催されます。
  これらの情報は山種美術館ホームページに掲載されていますので、ご覧になってく
 ださい。
    

続いて明治学院大学教授で山種美術館顧問の山下裕二さんから見どころをスライドでご紹介いただきました。

第1章 上村松園-香り高き珠玉の美

「山種美術館の創立者で初代館長の山﨑種二さんご夫妻が松園と親しく交流された縁で松園の作品18点が山種美術館に所蔵されています。」
「上村松園(1875-1949)は、生涯、もっぱら和服姿の美人画を描いてきました。」
「展覧会の冒頭に展示されている《蛍》は大正2年に描かれたもので、松園の初期の作品です。女性のスタイルは喜多川歌麿『絵本四季花(上)』の《雷雨と蚊帳の女》(作品右の解説パネルに写真が掲示されています)から借用していると思われます。そして足の指が長いのが不思議ですが、これは曽我蕭白《美人図》からの影響がうかがえます。この作品は、現在では奈良県立美術館蔵ですが、以前は京都の鳩居堂が所蔵していたので、松園は見る機会があったのでしょう。」


上村松園《蛍》(山種美術館)
「次の《新蛍》は1930年に開催されたローマ日本美術展覧会に出品されたもので、江戸時代末期の風俗画を意識しています。」



上村松園《新蛍》(山種美術館)
「《春風》(昭和15年)は後期の作品です。松園はどの作品も手を抜かずきちんと描く画家で、もっとも安定感のある画家といえるでしょう。この作品の朱色は独特で、重要文化財の《序の舞》(東京芸術大学蔵)と共通点があります。」

上村松園《春風》(山種美術館)
第2章 文学と歴史を彩った女性たち

「森村宜永《夕顔》は源氏物語に題材をとったもので、いかにも大和絵らしいですが、驚くのはこの作品が昭和40年代以降に描かれたことです。今では忘れられた存在になってしまいましたが、素晴らしい画家です。」
「松岡映丘は、大正から昭和にかけて重要な画家の一人で、最後の大和絵師と言われています。」

松岡映丘《斎宮の女御》(山種美術館)
第3章 舞妓と芸妓

「小倉遊亀《舞う(舞妓)》《舞う(芸者)》には実際のモデルがいました。小倉遊亀と並んで撮影した写真を比較してみてください。」(作品の横に掲示されています。)
「山川秀峰は雑誌の挿絵で活躍した画家で、雑誌の縁で講談社の野間記念館に多くの作品が所蔵されています。」

山川秀峰《芸者の図》(山種美術館)
第4章 古今の美人ー和装の粋・洋装の美

「《桜下美人図》は菱田春草20歳の時の作品で、当時は春草も美人画を描いていました。左の女性のポーズは、菱川師宣の《見返り美人図》(東京国立博物館蔵)からとったものでしょう。画面の右端にとぼけた表情をした犬がいますが(笑)、近くでよくご覧になってください。」

菱田春草《桜下美人図》(山種美術館)

「《ゆめうつつ》は、『Seed山種美術館 日本画アワード2016』で大賞を受賞した京都絵美(みやこえみ)さんの作品です。髪の毛の細かい描写までよくご覧になってください。」
「今回の展覧会では、それぞれの作品のディテールまでじっくり見て楽しんでいただければと思います。」(拍手)
京都絵美《ゆめうつつ》(山種美術館)



展示室内に移り、山﨑館長のギャラリートークをおうかがいしました。

「上村松園はとてもまじめな方で、水面下の努力をしていた方でした。松園が描いたのは美人画でしたが、山水画や風景画など、古い作品の模写をした縮図帳が何冊も残されています。」

「《蛍》は、蚊帳越しに描く女性の姿が松園ならでは、と感じさせる作品ですが、着物の柄は大正時代に流行したアールヌーボー様式で、松園の独創的な面を見ることができます。」

「松園作品は表装具も美しいので、ぜひ注目していただきたい。《春のよそをひ》の中廻し(本紙を取り囲む部分)の意匠は片輪車です。《春芳》の一文字(本紙の上下の細長い部分)には松園が自分で選んだ辻が花風の裂が使われています(「辻が花」は着物の模様染めの一種)。」
「京都の『岡墨光堂』には今でも松園作品の表装に使われた裂地が残っています。」

上村松園《春のよそをひ》(山種美術館)


上村松園《春芳》(山種美術館)
「戦争画を描いていない松園ですが、昭和19年には芸術院会員陸軍献納画展に《牡丹雪》を出展しています。モデルは女性ですが、雪の重みに耐えるところを描いたのでこの時代に描くことが許されたのでしょうか。はらはらと舞う牡丹雪を一つ一つ丁寧に描き分けているのでご覧になってください。」

上村松園《牡丹雪》(山種美術館)
「《砧》では、置物に金箔や銀箔が使われています。女性の指の先が少しピンク色になっているのがわかりますでしょうか。寒くなると指の先が赤くなりますが、寒さの中、夫を思いこれから砧を打とうとする場面を表しています。」
「モデルをほとんど使わなかった松園ですが、それでもこういう細やかなところに気がつくところが松園の素晴らしいところだと思います。」

「小林古径《清姫》は、古径が絵巻物にするため手元に大切に持っていた8枚の絵を、祖父の種二が美術館を建てるなら、ということでお譲りくださり、当館所蔵になったもので、今回は女性が描かれた2枚を展示しています。女性の髪から鬼気迫るものが感じられます。」

小林古径『清姫』のうち《寝所》(右)《清姫》(左)
(山種美術館)

「今村紫紅《大原の奥》と小林古径《小督》は平家物語に取材したもので、紫紅は現代的な女性、古径は古典的な女性を描いています。」

今村紫紅《大原の奥》(右)、小林古径《小督》(左)
(山種美術館)

「橋本明治の作品は太い輪郭線を用いて、色彩も発色のある色を使って独自性が感じられる作品を描いています。」

右から、橋本明治《月庭》《舞》《秋意》
一番左は片岡球子《むすめ》
(山種美術館)


「鳥居清長の《社頭の見合》は八頭身のスラリとした女性たちが特長です。喜多川歌麿の《青楼七小町 鶴屋内 篠原》は髪の毛の細かい線まで表現されています。歌麿は、出版業者・蔦屋重三郎のもとで美人画を描き、写楽は役者似顔絵を描きました。」
(浮世絵作品は前期(~9/24)と後期(9/26~10/22)で展示替えがあります。)

左から鈴木春信《柿の実とり》、鳥居清長《社頭の見合》、
喜多川歌麿《青楼七小町 鶴屋内 篠原》
(山種美術館)(9月24日までの展示)



「菱田春草は珍しく浮世絵の影響を受けた作品を描いています。桜の表現がとても素晴らしいです。」

右から菱田春草《桜下美人図》、小林古径《河風》、
伊藤小坡《虫売り》(山種美術館)

「他にも、松園の作品が気に入り『松園作品の裏まで見たい』と言った、同じく美人画の名手・鏑木清方の作品も展示しています。みなさまぜひゆっくりとご覧になってください。」(拍手)

山下さん、山﨑館長からはこのブログでは紹介しきれないほどの興味深いお話をおうかがいしました。
とても素晴らしい展覧会です。ぜひとも実際に会場に足を運んで美人画ワールドを体験してみてはいかがでしょうか。


2017年8月27日日曜日

映画「セザンヌと過ごした時間」東京新聞×青い日記帳試写会

8月24日(木)飯田橋の神楽座で開催された「映画『セザンヌと過ごした時間』東京新聞×青い日記帳試写会」に参加してきました。

映画パンフレット

全体に煤がかかったように暗く、絵の具を何回も厚塗りして、カチッとした構図。セザンヌの絵は以前から好きで、今回の映画はとても楽しみにしていました。

写真は、部屋に飾っているセザンヌの「レスタックから望むマルセイユ湾」です。以前、オルセー美術館に行ったときにミュージアムショップで購入した絵はがきです。


映画の原題は「セザンヌと私」。
ストーリーは、画家・セザンヌと小説家・ゾラ、二人の芸術家の少年時代から晩年までの友情を中心に進みます。
それにしても驚いたのはセザンヌのあまりにもハチャメチャな性格。
頑固で、怒りっぽくて、場所をわきまえない下品さ。
気の合った仲間どうしのパーティーはぶち壊しにするし、
気に入らなくて叩き壊した絵は何枚も(←もったいない!)。
そんなセザンヌに振り回される同時代の画家や小説家、そして女性たち。
でも最後にはさびしげなセザンヌの背中に思わず涙ぐんでしまうシーンが出てきて、感動のエンドロールで「Fin(終)」。

「私は印象派ではない。」と言い切るセザンヌのセリフが特に印象に残りました。
その言葉に、長い不遇の時代にあっても、当時脚光を浴び始めていた印象派に流されることなく、自分の芸術を追及する芸術家としての真骨頂があるように思えました。
頑固で変わり者だったからこそ、自分の信じた道を進み、独自の境地を切り開いて、さらには20世紀の絵画に大きな影響を与えることができたのではないでしょうか。

もっとお話ししたいことはあるのですが、ネタバレになってしまいますので、映画の感想はこれくらいにして、セザンヌが生きていた当時のフランスの時代背景について振り返ってみたいと思います。

セザンヌ(1839-1906)が活躍したのは19世紀後半から20世紀のはじめ。
日本でいえば、幕末期のペリー来航と開国、そして明治維新、日清戦争、日露戦争と続く激動の時代。
芸術の面では、セザンヌが生まれる少し前に葛飾北斎「富嶽三十六景」や歌川広重「東海道五十三次」が出て浮世絵の江戸時代最後の華が咲き、それがフランスに渡って「ジャポニズム」が流行したり、明治維新後は、フランス留学から帰国した黒田清輝が中心となって白馬会を結成して日本洋画の大きな流れをつくるなどフランスとのかかわりも深くありました。
その一方で、日本美術の復興をめざした岡倉天心が日本美術院を創設したり、大きな動きのある時代でした。

フランスも同じく、政治的にも芸術の面でも激動の時期でした。
1848年の二月革命でオルレアン朝が倒されて第二共和政が始まったと思ったら、1852年にはナポレオンの甥、ルイ=ナポレオン大統領がクーデターで即位して皇帝ナポレオン三世になって、それも束の間、1870年にはプロイセンに敗れて(普仏戦争)追放されて、その後の第三共和政の政府は列強の植民地拡張競争にひた走っていきます。

1894年にはユダヤ系のドレフュス大尉がドイツのスパイとして終身刑に処せられるという「ドレフュス事件」が発生しました。
1896年には真犯人が明らかになり、再審要求の運動がおこりましたが、これはフランス国内を再審支持派と再審反対派に二分する大きな対立になりました。
この対立は1898年にゾラが新聞に「私は弾劾する」を発表したことが契機となって再審支持派が勝利をおさめ、翌年、ドレフュスは釈放されました。

芸術面では、のちに印象派と呼ばれる画家たちが、アカデミーの主宰するサロンに出品しても落選ばかりしていたので、自分たちで「印象派展」を開催したら酷評の嵐だったのは有名な話(「印象派展」は1874年から1886年まで8回開催されました)。
その後、ようやく印象派の画家たちも評価され始め、セザンヌも1890年代からようやく評価が高まり、1895年に画商ヴォラールが企画した個展は好評を博しました。

こういった当時の時代背景を知っていると映画「セザンヌと過ごした時間」もより楽しめると思うのですが、事前の予習にピッタリの書籍があります。

『イラストで読む 印象派の画家たち』
(杉全美帆子著 河出書房新社 2013年)


映画のあとには東京新聞に毎月第二火曜日「おとなのための美探訪」を連載している作家でイラストレーターの杉全美帆子(すぎまたみほこ)さん(上記『イラストで読む 印象派の画家たち』の著者です!)と、日本一読まれているアートブログ「青い日記帳」を主宰するTakさんのトークがありました。

杉全さん 初めてこの映画を見たとき、サント・ヴィクトワール山を背景に流れるエンド
    ロールを見ていて涙が止まりませんでした。
Takさん あのエンドロールはずるいですよね(笑)。ダニエル・トンプソン監督は泣かせ
    どころを心得てますね。
     セザンヌは数えきれないほどサント・ヴィクトワール山を描いていますが、ポ
    スターに使われている絵は、フィラデルフィア美術館の所蔵のもので、監督が世
    界各地の美術館を回って、一番気に入ったものに決めたそうです。
     エンドロール以外に印象に残ったシーンは?
杉全さん マネやモリゾ、ルノアールといった印象派の画家たちが出てくるシーンです
    ね。
Takさん どの俳優が誰の役だかわかりにくいので、名札がほしいところですね(笑)。
杉全さん それに画商のヴォラールが、セザンヌの絵を個展のためにぐるぐる巻きにして
    何枚も持ち運ぶところ。今だったら何億円だろうと思ってしまいました(笑)。
Takさん 6月にトンプソン監督が来日したときにインタビューしたのですが、映画の中に
    絵画のワンシーンを盛り込んでいるとのことでしたので、宝さがしも楽しみの一
    つですね。
     みなさんのお手元に、来年、国立新美術館で開催される「至上の印象派展 ビ
    ュールレ・コレクション」のパンフレットがあるかと思いますが、これはスイス
    のコレクターの展覧会で、セザンヌの名作も来日するのですが、やはりパンフレ
    ットはモネ(写真上)とルノワール(写真下)です。




杉全さん モネやルノワールは第一印象が「きれい」です。印刷物になっても作品の良さ
    が伝わってきますが、セザンヌは近づいて見たり、離れて見たり、実物を見ない
    とその質感が伝わりにくいのです。
Takさん セザンヌの作品で印象に残る作品は?
杉全さん オルセー美術館蔵の「首吊りの家」です。初めてオルセー美術館に行ったと
    き、この絵を見て大きなショックを受けました。このマチエル(絵の質感)はどう
    やって作っているのだろうか、なぜ首吊りなのか、など考えながらずっと見てい
    ました。何がすごかったか説明するのは難しいのですが。
Takさん セザンヌの絵は、考えなくてはならない難しさがありますね。
杉全さん ピカソはセザンヌのことを「我々の父」と言っています。セザンヌから現代美
    術は始まったと言えます。当時の仲間たちがいろいろな方向に進む中、セザンヌ
    は頑固で、絵が変わりませんでした。
Takさん 一本筋を通すというセザンヌの人生に憧れますね。
杉全さん 周囲は大変でしょうが(笑)。
     最後にセザンヌの名誉のために言いますと、この映画では野獣のように描かれ
    ていますが、心がとてもジェントルマンだったという証言もあります。(拍手)

杉全さん、Takさん、とても興味深いお話ありがとうございました。

セザンヌファンの方も、そうでない方もぜひぜひご覧になってください。
セザンヌの生きざまを見ると、次にセザンヌの作品を見た時に印象が変わるかもしれません。

9月2日(土)からロードショーです。
詳しくはこちらをご覧ください。

映画『セザンヌと過ごした時間』公式サイト


2017年8月14日月曜日

ドイツ連邦議会選挙の行方(5)

(前回からの続き)
4 重要なのは選挙公約でなく誰が首相になるか
  SPDとCDU/CSUの選挙公約は出そろったが、有権者は選挙公約でなく首相候補への期
 待度によって投票するという興味深い世論調査結果が出ている。
  7月7日に行われた世論調査では、「何によって政党を選ぶか」という質問に対して、
 CDU/CSUを選ぶ有権者の4人のうち3人は「メルケルさんだから」と答えている
  一方、SPDを選ぶ有権者のうち「シュルツさんだから」と答えた人は1/3にすぎな
 い。
 
   7月7日付けPolitbarometer
    何によって政党を選ぶか?
     CDU/CSUを選ぶ有権者  選挙公約 20% メルケル氏だから 74%
     SPDを選ぶ有権者     選挙公約 59% シュルツ氏だから 34%

 同じく7月7日付の世論調査では、CDU/CSUに対する政策遂行能力への信頼度が
依然として高いことが示されている。

 政党の政策遂行能力(7月7日付Politbarometer)
  
項 目
CDU/CSU
SPD
治 安
43%
10%
移民・難民
40%
14%
年 金
31%
21%
社会的公正
24%
33%
経 済
47%
16%
雇 用
38%
20%
税 制
34%
23%
子育て
28%
32%

  SPDが信頼度で上回っているのは「社会的公生」という抽象的な項目と、具体的な項
 目では「子育て」だけで、他の項目はCDU/CSUが大きく上回っている。
  特に国民の関心が高い「治安」については最も差が大きく、7月7日~8日にG20サミ
 ットが開催されたハンブルクでは、SPDの治安対応能力の低さを印象付ける事件が起こ
 った。

5 有権者は大きな変化を求めない

  今回失態を演じたのはシュルツ(Schulz)氏でなく、ハンブルク州のショルツ(Scholz)第
 一市長(ハンブルクは16の連邦州のひとつであるが、都市州なのでトップは「首相」では
 なく「第一市長」)。
  
  G20サミットに抗議するデモ隊に対して、警察隊はG20に参加した首脳たちを守ること
 はできたものの、暴徒化したデモ隊を抑えることができず、多くの店舗や事務所が破壊
 され警察官にも多くの負傷者が出た。
  ハンブルクはもともと左翼過激派の拠点で、なぜそういった都市でわざわざG20サミ
 ットを開催したのか、と開催を決定したメルケル首相への批判は聞こえず、もっぱら
 SPDの政治家であるショルツ第一市長に批判が集中した。

  前回見たように、メルケル候補はNATO首脳会議とG7サミットへの対応で株を上げ
 たが、G20サミットでもSPDの敵失により得点をかせぐことができた。

  このようにメルケル候補は何もやらなくてもうまくいくが、一方のSPDは何をやって
 もうまくいかない。
  
  同性婚の合法化には慎重な立場だったメルケル首相が6月26日(月)に容認する発言をし
 たのを受けてSPDは、今まで用意していた法案を2日後の28日(水)に委員会に提出して可
 決、そしてその2日後の30日(金)には連邦議会で議決にかけ、賛成多数で可決するという
 奇襲攻撃をメルケル首相に仕掛けた。
  これについては、同性婚を選挙の争点にしたくないという思惑があったメルケル首相
 の作戦勝ちとの見方もあるが、CDUのカウダーCDU/CSU院内総務は「戦術的失敗だ。」
 と発言している。
  真相はどちらだかわからないが、確実に言えることは、この奇襲攻撃をもってしても
 SPDは劣勢を挽回できなかったいうこと。

  3月には多くの有権者がSPD主導の連立政権を望んでいたのに対して、7月には逆転
 し、SPDはCDU/CSUに大きく水をあけられている。

  どの政党主導の連立が望ましいか。(7月7日付Politbarometer)
7
3
CDU/CSU
SPD
わからない
CDU/CSU
SPD
わからない
52%
37%
11%
41%
47%
12%

 有権者が大きな変化を望んでいない大きな要因として、ドイツ経済が順調に推移して
いることがあげられる。

   ドイツの経済状況をどう思うか。(7月7日付Politbarometer)
    良い 64%、どちらとも言えない 32%、 悪い 4%

  ドイツ経済が悪いと思っている人はわずか4%にしかすぎない。

  メルケル候補が優位な状況は続くが、まだどちらが勝つかはわからない。

   現時点でどちらが勝つかはっきりしているか。(7月21日付Politbarometer)
    はい 43%、いいえ 55%、わからない 2%

  7月7日の世論調査と比較して「はい」が5ポイント増え、「いいえ」が6ポイント減っ
 ているが、まだまだ半分以上の人が決着がついたわけではないと答えている。 

  選挙まであと6週間弱。暑い夏はまだまだ続く。

(次回に続く)