2018年2月12日月曜日

三菱一号館美術館「ルドン-秘密の花園」展

東京丸の内の三菱一号館美術館では「ルドン-秘密の花園」展が開催されてます。

ライトアップされてオシャレな外観


ルドンというとやはり思い浮かべるのは、幾種類もの草花が花瓶からあふれんばかりに描かれている《グラン・ブーケ》(三菱一号館美術館蔵)。

こちらは撮影可のコーナーです。
正面の《グラン・ブーケ》のパネルの前でぜひ記念写真を!

今回開催された「ルドン-秘密の花園」展は、この《グラン・ブーケ》に象徴されるように、ルドンの描いた草花でいっぱいのとても華やいだ雰囲気の展覧会です。
さらに、《グラン・ブーケ》が飾られていたフランス・ブルゴーニュ地方にあるドムシー男爵の城館の食堂を再現した空間もあって、ヨーロッパの古城を訪れたようなゴージャスな気分にひたることもできます。
会期は5月20日(日)までです。

展覧会の詳細は三菱一号館美術館の公式サイトをご覧ください。

http://mimt.jp/

それでは先日開催されたブロガー内覧会の流れに沿って展覧会の様子を紹介したいと思います。
※掲載した写真は美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。なお、掲載した作品はすべてルドン作です。

はじめにドムシー男爵の城館の食堂を再現した部屋で髙橋館長からご挨拶がありました。

髙橋館長


「今回のルドン展は10年間温めていた企画で、個人的にとても思い入れのある展覧会です。」と高橋館長。
ルドンの《グラン・ブーケ》の購入をパリの老画商の御曹司から持ちかけられたのが2008年の春。その年の秋に《グラン・ブーケ》のあるブルゴーニュ地方のドムシー城を訪れ、城館の食堂に飾られた《グラン・ブーケ》が薄明かりの中、大聖堂のステンドグラスにも似た光を放っているように感じ、「この空間を再現した展覧会を開く。」と決意されたとのこと。
そして、《グラン・ブーケ》が人前で初めて公開されたのが日本でなくパリのグラン・パレで2011年3月に開催されたルドンの回顧展。髙橋館長がその開会式に日本から出席しようとした矢先、東日本大震災が発生しました。
「その後、この作品は日本に運ばれ、震災後1年にも満たない2012年1月に公開された《グラン・ブーケ》の前では、まるで雷に打たれたようにひたすら画面を見つめる人、頭を垂れて祈るように佇む人、さまざまな思いでこの絵と向き合う人々の姿が忘れられません。私にとって、震災の記憶と人々の再生の姿が重なり合うのがこの作品なのです。」

続いて、同じくドムシー男爵の城館の食堂を再現した部屋で、今回の展覧会を担当された学芸員の安井さんと「青い日記帳」のTakさんのギャラリートークがありました。

Takさん ルドンとはどんな画家なのでしょか。
安井さん 定義に困る画家ですね。フランス象徴主義の画家と言われますが、位置づけが
    非常に難しいです。不思議な画家です。
Takさん 技法も油彩だったり、パステル画だったりしますね。
安井さん 時系列的に説明すると、はじめは短期間ですがフランス・アカデミズムのジェ
    ロームのもとでは木炭でデッサン、続いてエッチング、パステル画、油彩、39歳
    の時に出した最初の画集『夢のなかで』はリトグラフでした。
Takさん ドムシー男爵の城館の食堂壁画が勢揃いしました。  
安井さん 《黄色い花咲く枝》(下の写真右)はルドンらしい作品です。
    断片化したものを散りばめていながら妙な統一感があります。

右《黄色い花咲く枝》、左《黄色い背景の樹》(作品番号53)
(いずれもオルセー美術館蔵)

安井さん ドムシー男爵の食堂では、《黄色い花咲く枝》の右側は窓でした。画面右端の
    中央に描かれた半円形のものは何だかわかりにくいですが、おそらく窓の外の
    木々か何かと連続しているものではないでしょうか。
     ルドンはこういった絵画空間の連続性も計算して描いています。

左が安井さん、右がTakさん。安井さんの後ろの黒いパネルが、
ドムシー城食堂装飾画配置図です。

Takさん 花と植物をメインにしていますが、ブリューゲルのように花がずらりという感じ
    ではないですね。
安井さん ルドンは複数のイメージを一つの画面に重ね合わせるのが特徴です。
     ドムシー男爵の食堂では絵はもっと高い位置に飾られていました。ちょうど絵
    の下の位置が頭の高さと思っていただけますでしょうか。
     そうすると、この《人物(黄色い花)》のように、下の方はよく見えるので対象
    は詳しく描かれ、上の方はあまりよく見えないので対象は記号のように描かれて
    います。

《人物(黄色い花)》(オルセー美術館蔵)


Takさん 花瓶にいけられた花の作品を集めた部屋がありますね。
    (「第7章 再現と想起という二つの岸の合流点にやってきた花ばな」です。写真
     は最後の各章紹介のコーナーで掲載しています。)
安井さん 20歳代中ごろの暗い背景のカチッとした作品から、パステル画、そして、にじ
    みの効果を出すため下地が塗られていないカンバスに描かれた作品まで、制作年
    の異なる花の作品を一つの部屋に集めました。

Takさん 他にこの展覧会の見どころは。
安井さん 実はこの部屋にも他に見どころがあります。
    《ドムシー男爵夫人の肖像》です。

右《ドムシー男爵夫人の肖像》(オルセー美術館蔵)
左《神秘的な対話》(岐阜県美術館蔵)


 
安井さん 肖像画では通常ここまで広い余白はとりません。
     この作品ではモデルと背景は画面の半分ずつでなく、余白の方が広く描かれて
    いますが、赤い服と黒っぽい上着を着た夫人の存在感の重さとバランスをとるた
    めこれだけ広い余白が必要になるのです。
     余白には何が描かれているかわかりません。ルドン本人も何も語りません。で
    も注文主は「これでいい。」と言う。作者と注文主の奇妙な関係がここにありま
    す。
     その隣の作品《神秘的な対話》では、若い女性が赤い木の枝を持っています。
    《黄色い背景の樹》(作品番号51の方)や《二人の踊女》にも赤い木の枝が描かれ
    ていて、何かを暗示しているのでしょうが、これについて本人は何も語らないの
    で、何を暗示しているかはわかりません。

《黄色い背景の樹》(作品番号51)(オルセー美術館蔵)
右の暖炉の上の作品が《二人の踊女》(横浜美術館蔵)
「第2章 人間と樹木」の部屋に展示されています。

安井さん 作品全体の雰囲気としてあいまいなままにしておく、それがルドンの特徴と言
    えるのではないでしょうか。(拍手)

そして最後に会場内をご案内しましょう。
展覧会は8章構成になっていますので、各章ごとに紹介していきます。

第1章 コローの教え、ブレスダンの指導

第1章には、画家としてのデビューが遅かったルドンの長い修行の初期にコローの助言をもらい、版画家ブレスダンからエッチングの指導を受けて制作した作品が並んでいます。



第2章 人間と樹木

ルドンの夢想世界に登場する生きものたちは樹木のかたわらにいます。



第3章 植物学者 アルマン・クラヴォ―

ルドンは10代の頃に出会ったアルマン・クラヴォ―からフローベールやエドガー・アラン・ポー、ボードレールを教えてもらいました。





第4章 ドムシー男爵の食堂装飾

トークショーでも紹介されたドムシー男爵の食堂装飾が再現された部屋です。


上の写真は3階ですが、2階にもドムシー男爵の食堂装飾が再現された部屋があります。


第5章 「黒」に棲まう動植物

最初の画集『夢のなかで』からの作品も、ボードレール『悪の華』を題材にした作品もここにあります。



第6章 蝶の夢、草花の無意識、水の眠り
展覧会チラシの表紙を飾った《眼をとじて》(岐阜県美術館蔵)が展示されているのがこの部屋です。こんな素晴らしい作品が日本にあるなんてうれしいですね。





第7章 再現と想起という二つの岸の合流点にやってきた花ばな

トークショーで紹介された部屋です。制作年の異なる花瓶にいけられた花の絵が並んでいます。



第8章 装飾プロジェクト

ルドンの下絵による椅子や衝立とルドンの下絵そのものが展示されています。



 
さて、みなさんいかがだったでしょうか。
春を先取りしたとても素晴らしい展覧会です。おススメです。










2018年1月29日月曜日

静嘉堂文庫美術館「歌川国貞」展

静嘉堂文庫美術館「歌川国貞」展に行ってきました。
先日開催されたブロガー内覧会に続いて2回目でした。
内覧会のトークショーやギャラリートークを思い出しつつ、とても詳しく丁寧な作品解説パネルを読みながら、一つ一つの作品をあらためてじっくり味わうことができました。

美術館入口の撮影スポットでパチリ

国貞作品は前後期ですべて入れ替わります。
会期は3月25日(日)までですが、両方見るなら前期展が終わる2月25日(日)までに一度行っておく必要があるので要注意です。
江戸の街にタイムスリップできるとても素敵な展覧会です。おすすめです。

展覧会の詳細は美術館の公式サイトをご覧ください。

http://www.seikado.or.jp/

それでは、展覧会の様子は先日参加したブロガー内覧会の進行に沿ってご紹介したいと思います。
※掲載した写真は美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。なお、掲載した作品はすべて静嘉堂文庫美術館蔵で、歌川広重との合作以外は歌川国貞(三代歌川豊国)作です。

はじめに楽しいトークショーがありました。
ゲストは太田記念美術館の主席学芸員で、浮世絵や出版文化がご専門の日野原健司さん、出演は、静嘉堂文庫の20万冊もの蔵書をひとりでカバーする「スーパー司書」静嘉堂文庫主任司書の成澤麻子さん、そしてナビゲーターは「美術関係の草分け的ブロガー」Takさんです。

Takさん   国貞というと、みなさんどういう浮世絵を思い浮べますでしょうか。
       日野原さん、国貞は何を得意としていた絵師だったのでしょうか。
日野原さん  今日の私の役割は、国貞が江戸後期いかに大人気だったか、みなさんに記
      憶していただくことだと思っています。       
       当時の人気ナンバーワンは北斎でも国芳でもなく国貞でした。
       作品数も多く、数えきれないほどで、最低でも1万、あるいは2~3万点も
      の作品があるのでは、と言われています。
       今回の展覧会で展示されいてる作品は、国貞作品のほんの一部です。
       また、活動期間も長く、ヒットを飛ばしてから亡くなるまで50年以上も第
      一線で活躍していました。広重や国芳は35年くらいだったのと比べると、と
      ても長かったのです。
       国貞が得意だったのは美人画と役者絵。これは浮世絵の王道中の王道で、
      これらを一手に引き受けていました。
Takさん   今回の展覧会ではどのようなジャンルの作品が展示されていますか。
成澤さん   多いのは女性の錦絵と役者絵です。当館では約4000点の国貞作品を所蔵し
      ていますが、所蔵作品でも女性の錦絵が多いです。
日野原さん  美人画では特に女性たちの着物を見ていただきたい。着物は季節や着る人
      の身分、年齢によって違うのですが、髪型を含めて、それを丁寧に描き分け
      ています。
成澤さん   静嘉堂では、作品をひとつずつ保存するのでなく、一枚一枚を貼りこんだ
      画帖仕立てになっていて、広げるととても長くなります。
       これはおそらく、岩崎家の女性たちが当時のファッションに興味をもって
      集めたものを、見やすくするためバラバラにならないようにしたのではと考
      えられています。
       展示がしづらいので、何度はがそうと思ったことか(笑)。
       前期後期ですべて展示替えをするのですが、展覧会の構成上、後期展示す
      るものは白い紙で隠してあるのでご了承ください。
日野原さん  当時は光に弱い絵の具を使っていたので、すぐに退色してしまうのです
      が、画帖仕立てにしていたおかげで、当時の色が鮮やかに残っているのでし
      ょう。紫や淡いピンク色といった残りにくい色が残っています。
       国貞は遊女だけでなく普通の女性、暮らしのワンシーンを描いています。
      江戸の女性の着物やくらしを知るには国貞ですね。
成澤さん   今回の展覧会のミニブックは『江戸の女性』と『江戸の役者』の2冊に分け
      ました。歌麿はキレイな女性を描きましたが、国貞はそれこそ隣のおばちゃ
      ん、あそこのお姉さん、長屋のおかみさんといった身近な女性たちを描いて
      いました。

ミニブック 各350円(税込)

今回の展覧会のサブタイトルは「錦絵に見る江戸の粋な仲間たち」です。
       芸術というのを脇において、江戸の町に遊びに行って市井の人たちに会い
      に行く気分でご覧になっていただければと思います。
Takさん   今回の展覧会でこれはという作品は。
日野原さん  《今風化粧鏡》です。鏡に向かって化粧をしている女性を描いているの
      で、画面が丸くなっています。会場には江戸時代の鏡を置いているので、
      見比べることができますね。


《今風化粧鏡》

成澤さん   ポーラ文化研究所から江戸時代の化粧道具をお借りして展示しています。
      化粧台の引き出しが手前でなく横についていますが、手前だと引き出しをあ
      けたときに鏡から離れてしまいます。女性はお化粧をするとき自然と顔を鏡
      に近づけるので、引き出しは横についています。なるほど女性の考えること
      は江戸時代も今も変わらないのだなと思いました。
日野原さん  《今風化粧鏡》は6点揃っています。眉毛を書いたり、お歯黒を塗ったり
      年齢や身分による化粧の仕方の違いがよく描かれています。
成澤さん   化粧はきれいに見せるものですが、お化粧に失敗している絵もあります。
      歯だけを黒く染めるのは難しかったと思います。国貞はリアルな等身大の女
      の人たちの姿を描いていました。
Takさん   作品番号44の《蚊やき》というのはおもしろい題ですね。

左から《星の霜当世風俗(外出)(蚊やき)(水くみ)》

日野原さん  蚊帳の中に入ってきた蚊を焼く場面です。季節感があります。
成澤さん   それぞれの絵が何をしている場面か、一点一点解説を見ていただくとよく
      わかります。この絵では、炎の上に巨大な蚊が描かれています。
日野原さん  この作品でもう一つ見ていただきたいのは、蚊帳の彫りです。細かいとこ
      ろまで手を抜いていません。
成澤さん   錦絵は、絵師、彫り師、摺り師の見事な技量で出来上がっています。女性
      の髪の生えぎわ、細い鼻、きれいな目、多色摺りの木版で細かく表現してい
      ます。
Takさん   今回の展覧会の見るべきポイントは。
日野原さん  ここでしか見られない肉筆画ですね。

右から《芝居町 新吉原 風俗絵鑑(幕間)(車引き)(舞台裏)(浅間ヶ嶽)》

これは歌舞伎の場面で、一人ひとりの表情が生き生きと描かれいています。
      上から役者を見ている女性、下では食事している人、舞台の裏には舞台が見
      えなくて不満そうな人。舞台裏も見せています。楽器を演奏している人、自
      分の出番を前に準備をしている人。
       成澤さん、国貞の肉筆画はあまりないですか。
成澤さん   他には扇子でしょうか。
日野原さん  この作品は特殊な絵の具で緻密に描いているので、身分の高い人の特注品
      でしょう。
       国貞は、私たちが江戸の世界に一番入っていける作品を描いた人。
      今回の展覧会をきっかけに一人でも多くの人に知っていただきたいです。
      (拍手)

続いて展示室内で成澤さんのギャラリートーク。

成澤さん「錦絵は今でいうところの写真や広告、タレントのプロマイド。芸術作品ということは頭から離していただいて、近所のお姉さんたちに会い行きましょう。」

入口には錦絵の制作過程がわかる《今様見立士農工商》。
右の《職人》は、摺師と彫師に見立てた女性たちがそれぞれの作業をしたり、休息をとっているところを、左の《商人》は、版元の店先の様子を描いている。《商人》には店先に新刊の宣伝ポスターが下がっているのが見えます。

右が《今様見立士農工商 職人》左が《同 商人》

続いてトークショーでも話題になった、鏡枠の中にお化粧をしている女性を描いた《今風化粧鏡》シリーズ。
一番左の(鉄漿(かね)つけ)はお歯黒を塗っていて失敗した女性。口のまわりが黒くなっています。
「あっ、という声が聞こえてきそう。」と成澤さん。
「(房楊枝)は紅色の歯磨き粉で歯を磨いている女性、(眉毛抜き)は毛抜きで眉を整える遊女、(牡丹刷毛)はお化粧の仕上げをしている女性、この髪の毛の生えぎわやうねりの線、彫師の腕前をご覧になってください。(眉かくし)は今でいうと小学校高学年の女の子が手習い中に眉を隠して結婚したときの顔を思い描いているところ。(合わせ鏡)はもう一枚の鏡を合わせて後髪を確認しているところ。鏡の傍らには当時流行したブランド品のおしろいの包みが描かれています。この絵を見た人がこのおしろいを買いたくなるという広告にもなっています。」

左から《今風化粧鏡(鉄漿つけ)(房楊枝)(眉毛抜き)
(牡丹刷毛)(眉かくし)(合わせ鏡)》
「《江戸自慢》のシリーズは、初夏から秋にかけての江戸の風物詩を描いたもので、《江戸自慢 五百羅漢施餓鬼》の蚊帳の網目が見事です。こういった技をもった彫師や摺師に思いをはせていただきたいです。」

右から《江戸自慢 両国夕涼》《同 駒込富士参り》
《同 洲崎廿六夜》《同 五百羅漢施餓鬼》

「次は《星の霜当世風俗》のシリーズです。(行燈)の女性が行燈に入れた手の影や柔らかく体に沿っている着物の表現が見事です。画面右側の屏風には男性の着物がかかっていて、お盆の上の茶碗も2つあって、男性の存在がうかがえます。」
「このように細かいところまで描き込まれているので、すみからすみまでご覧になっていただくと、当時の江戸の様子がわかります。またとびぬけてきれいな人でなく、普通の女性を描いているのも国貞の特徴です。」

右から《星の霜当世風俗(行燈)(待合)》《江戸八景ノ内 上野》

「ここからは3枚つづりの作品が並びます。《蘭船 舶来鳥、ギヤマン燈籠》の船、オウム、ランタンはつくりものの見世物です。錦絵は今でいえばテレビ。最先端のものを描いて当時の人たちに見せたのです。前にいる女性たちが着ている服も当時の流行の最先端。後ろの異国のものも女性のファッションも楽しめるようになっています。」

手前から歌川国貞《蘭船 舶来鳥 ギヤマン燈籠》《娼家内証花見図》

「《歳暮乃深雪》は、冬の身支度をした女性二人と、前垂れを頭からかぶり、大徳利と提灯を手に持って酒を買いに急ぐ女性が行き合う場面。冬の夕暮れの一瞬を切り取った素晴らしい作品です。左の女性の持つ提灯には、この作品の版元の「河長」という文字が入っていて、さりげなく出版社の宣伝をしています。」
「今回の展示では、作品の解説パネルに版元の名前も入れたので、ぜひご覧になっていただきたいです。」
左が歌川国貞《歳暮乃深雪》右が《四季遊ノ内春 佃島白魚網ノ図》

「《誂織当世島(金花糖)》の女性が持っている皿に乗っているものは、金魚の形をした金花糖という砂糖菓子。当時は高価だった砂糖もこの頃には庶民の元にもやってきた証拠でしょう。」
「卯の花月は陰暦の四月。初もの好きだった江戸の人たちが特に好きだったのが初がつお。中央でかつおをさばくかつお売りに長屋のおかみさんたちがお皿を持って買いに来ている場面。初夏の庶民の長屋の明るい雰囲気が伝わってきます。こういった日常生活のワンシーンを見事に描くのが国貞の力量でしょう。」

右から《誂織当世島(金花糖)》《誂織当世島(くわえ楊枝)》
《嵯峨ノ開帳朝参りの図》《卯の花月》
《卯の花月》側から見たところ

こちらは役者絵のコーナー。
「こちらは、鼻高幸四郎といわれた五代目松本幸四郎。頭の前の部分は髪を一筋一筋彫り、後頭部のグレーの部分も細かく彫っています。服のグレーを出すために十版以上の板を使っていて、白い部分もかすかに凹凸の模様の入った透かし彫り。豪商からの依頼で作られたもので、とても高価な仕上がりになっています。」

手前が歌川国貞《仁木弾正左衛門直則 五代目松本幸四郎 秋野亭錦升 後 錦紅》
奥は《古今俳優似顔大全 松本家系譜》
「幕末のように世の中が安定していないときには、謀反人のような道からはずれた人をほめたたえる風潮がありました。」
「《豊国漫画図絵 袴垂保輔》は大盗賊を、《豊国漫画図絵 将軍太郎良門》は妖術を使う平将門の息子を描いたもので、《袴垂保輔》の毛皮の表現などがとても細かく描かれています。」

左のケースが《豊国漫画図絵 袴垂保輔》と《豊国漫画図絵 将軍太郎良門》

三代歌川豊国を名乗った国貞と歌川広重の合作もあります。
三代豊国が人物を描き、広重が背景を描いたとても豪華な競演。
「柳亭種彦『偐紫田舎源氏』は源氏物語のパロディーで、舞台を室町時代に移したもの。国貞のさし絵とともにものすごい人気で13年間もベストセラーを続けましたが、女性遍歴の多い主人公・光氏が、多くの側室をもった当時の十一代将軍徳川家斉を揶揄したものということで絶版になり、版木は没収されました。」
「しかし、その後も人気のあった光氏は独り歩きして描かれ続けました。それが『源氏絵』です。」

手前が《風流源氏夜の庭》奥が《見立源氏琴碁書画之内 彩色のいろくらべ》

そしてこちらは同じく三代豊国が人物を描き、広重が背景を描いた《双筆五十三次》のシリーズ。
富士山を眺めながらくつろぐ西行がいい味出してます。

手前から《双筆五十三次 吉原》《同 沼津》《同 大磯》《同 程かや》 

そして最後は、トークショーで紹介した肉筆画《芝居町 新吉原 風俗絵鑑》をじっくりご覧になってください。芝居小屋の賑やかな雰囲気が描かれています。それでも一番右の(浅間ヶ嶽)では、騒ぎすぎて係の人に注意されている人もいます。注目です。

さて、「歌川国貞展」はいかがだったでしょうか。
ぜひその場で江戸の雰囲気にひたってみてください。

後期も楽しみです。








  

2018年1月21日日曜日

損保ジャパン日本興亜美術館「クインテットⅣ-五つ星の作家たち」

損保ジャパン日本興亜美術館では「クインテットⅣ-五つ星の作家たち」が開催されています。
4回目を迎えた「クインテット」の今回のテーマは「具象と抽象の狭間」。
5人の中堅女性作家たちの個性が響きあうとても刺激的な展覧会です。



展覧会の詳細は公式サイトをご覧ください。

http://www.sjnk-museum.org/program/5165.html


それでは先日参加した内覧会に沿って展覧会の様子を紹介したいと思います。
(※「クインテットⅣ」の展示室内は撮影可能です。)

内覧会では、今回作品を出品された5人の中堅作家のみなさんからそれぞれお話をおうかがいすることができました。

最初の部屋は、船井美佐さん。

「この空間には線描と面で描く初期の作品から、『鏡』の作品、そして新作のドローイングまで今までの制作の流れに沿って作品が展示されています。こういった展示ははじめてのことです。」と船井さん。

初期の線描画。
日本画の伝統を守りながら、対象は動物だったり、植物だったり、人間の体だったり、体の中だったり、「見たこともない作品を描いた。」とのこと。


「これが線描時代の集大成。」と船井さん。
この作品は《womb-世界の内側と外側はどちらが内側で外側なのか》というミステリアスなタイトル。


この作品を見た人から、「これは楽園を描いているのですか。」と聞かれたという。
楽園は、誰もが行ったことがないのに、誰も知っている。それが不思議と思い、楽園を描くことを始めた船井さん。そこでできた作品が「鏡の作品」。


作品のタイトルは《Hole/桃源郷/境界/絵画/眼底》。
これは向こう側の理想の世界とこちら側の現実の世界を結ぶ「穴=hole」。
材料がアクリルミラーなので見ている人が入り込める不思議な感覚を覚える作品。
この作品は、船井さんが描いた原画を専門の工場で裁断したもの。線があまりに複雑なので工場では裁断するのをいやがられたと「現実」の苦労話もおうかがいしました。

この空間は「丸、三角、四角で構成されています。」と船井さん。
船井さんの後ろの作品はそのものずばり《まる、さんかく、しかく》ですが、四角はこの部屋そのものを指してませす。
だから、私たちはこの部屋に入った瞬間、作品の中に入り込む仕掛けになっています。

《まる、さんかく、しかく》と船井さん

あっ、うさぎが部屋から脱け出している!

展示会場入口

最近では2~3歳の子どもたちとのワークショップを開催しているという船井さん。
なぜかというと、生まれてまだ年数がたっていない2~3歳の子どもたちは生と死のはざまにいて、そこに原始的なパワーを感じるからとのこと。
そういったワークショップから生まれた作品。

《Strokes/猿》(左)、《Strokes/馬》(右)


次は室井公美子さんの部屋。



あの世とこの世の間のぼんやりとしたイメージを描いたという室井さんの作品は、大画面に絵の具を叩きつけるように描いたかのようなパワーを感じさせてくれます。

《Shadow》と室井さん


「描くときにはものすごいエネルギーが必要ではないですか。」とおうかがいしたところ、「絵を描く時は集中しますが、もともと絵を描くのが好きなので、自然とのめり込んでいます。」と室井さん。最初からはっきりとしたイメージをもつのでなく、絵の具をいじりながら体を使って考えていく、とのことです。

作品のタイトルは哲学的なもの、ギリシャ神話からとったものが多いです。

《Psyche(プシュケー)》(左)、《DoxaⅠ(ドクサⅠ)》(右)
こちらはあの世とこの世の門番《Gatekeeper(ゲートキーパー)》。


「見る人の心を揺さぶる作品を描きたい。」と室井さん。
作品の前に立つとその作品がもつパワーを感じます。

続いて竹中美幸さんの部屋。

最初見た時は素材が何だかわかりませんでしたが、竹中さんのお話を聴いてびっくり。なんとこれはかつて映画で使われた35mmのカラーフィルム。

「透明の素材は、それ自体に存在感がないからこそ見る者に気づきを与えてくれるのです。」と竹中さん。

竹中さんがモチーフにしてるのは光と闇。フィルムは純粋な光に反応するので、表現する素材に適しているとのこと。
「フィルムは暗室で感光させて現像します。」


上の写真の左3枚は《新たな物語》のシリーズで、そこに映し出されているのは取り壊される実家とともに捨てられるたんす、カーテン、電灯。
「物語を排除したところに新たな物語が立ち上がる気がします。」と竹中さん。
近くでよく見ると、たんすの木目やカーテンのレースの模様、電灯のあかりがよく見えます。

もう一つのブースに展示されているのは、東日本大震災をきっかけに、大きなものごとが起きる前の前兆を感じて表現したという作品。
小さい頃、たんすに囲まれた部屋の中にいて、たんすの木目が人の顔に見えたり、雲に見えたりした体験があるという竹中さん。
いろいろな色彩の水玉模様が浮かんでいるようなこれらの作品は、どう見えるかは、まさに見る人の想像力にゆだねられているのかもしれません。

作品の解説をする竹中さん
こちらは透明なアクリル板2枚を重ねた《何処でもないどこか》のシリーズ。
左が《巡る雫》、右が《境界に浮かぶ橋》。
どちらもアクリル板特有のみずみずしさが感じられます。





そして青木恵美子さんの部屋。
「見えるものの奥にある、見えない普遍的なものを描きたい。」と青木さん。

Epiphany(顕現)、Presence(現前)、Infinity(無限)の3つのシリーズから考えて制作しているという青木さんの最初のコーナーはEpiphany(顕現)。

画面の上から大半を占める部分が「理想」、そして下の部分が「現実」。これらが響きあって一つの作品を構成しています。
近くで見ると、赤や青がとても鮮やかです。遠くから見ても部屋全体に赤と青のリズムが感じられます。
「色彩は私にとって重要なテーマで、大切な要素です。」と青木さん。


次はPresence(現前)。線で時間や空間を区切り、その存在を引き出しています。


そして、最近の作品はInfinity(無限)。近寄って横から見ると、いくつもの花びらが盛り上がっているのがわかります。これはすべてパレットの上で絵筆で固めたアクリル絵具を画面に貼り付けたもの。
「画面から動きのあるものを出したいと思っていたら、筆跡が花びらに見えてきました。身体性をともなった絵画、遠近法でないイリュージョンを表現する新しい絵画を描きたいと考えています。」

「赤は動、青は静。どちらも一番身近にある色で、空間として響きあうので赤と青を対比させました。」

《Infinity》と青木さん


最後は田中みぎわさんの部屋。
田中さんが絵を描くようになった動機は、母の実家の熊本に里帰りした時の夕立の体験にありました。
「外で遊んでいると急に黒い雲が出てきて、大きな太鼓のような雷の音がして、雨が降ってきました。天にはもっと大きな存在があって、怒って嵐をおこしているのではないかと、とても怖かったのですが、同時に白いカーテンのような雨に美しさを感じました。もともと絵が好きだったので、こういった心にあふれてくるものを絵で表現したいと思いました。」

下の写真の正面は《神様の手のひら》。嵐の激しさが伝わってくるようです。


次はなぜモノトーンで描くのか。
石垣島に1年半住んでスケッチをしていた時のこと。
「東の空に出てきた太陽に照らされて真っ赤に燃えた雲を表現するのに、赤い絵の具で描こうとしましたが、限界を感じました。五感で感じた色は白黒の方が表現できるのことがわかったのです。」




作品の解説をする田中さん

そして田中さんが今こだわっているのが、絵を描く紙。
柔らかくてしなやか、長持ちのする島根県産の「石州半紙稀」。その漉きたての生紙(きがみ)は自然のしみ込み方をするそうです。
熊本の天草半島で満月の夜、一晩中外で月を写生していた時に月の音を聴いたという田中さん。「私は自然の一部であると感じています。」

下の写真は《波間の子守唄(4枚組)》のうちの1枚。
嵐を描いた作品とはうってかわって、月夜の静寂さを感じさせてくれる作品です。





いかがだったでしょうか。
冒頭でもふれたように、会場内には5人の作家たちの個性が響きあっています。
ぜひともその場でご覧になってください。
2月18日(日)までです。