毎年楽しみにしている藝コレ(藝大コレクション展)が4月2日(土)から始まりました。
今年のテーマは「春の名品探訪 天平の誘惑」。
名品、天平といった魅力的なキーワードに誘惑されて見に行ってきましたので、さっそく展覧会の様子をご紹介したいと思います。
展覧会概要
展覧会名 藝大コレクション展 2022 春の名品探訪 天平の誘惑
会 場 東京藝術大学大学美術館 本館 展示室1
会 期 2022年4月2日(土)~5月8日(日)
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日 月曜日 ※ただし、5月2日(月)は開館
観覧料 一般440円(330円)、大学生110円(60円)、高校生以下及び18歳未満は無料
※( )は20名以上の団体料金 ※団体観覧者20名につき1名の引率者は無料
※障がい者手帳をお持ちの方(介護者1名を含む)は無料
主 催 東京藝術大学
美術館公式サイト ⇒ https://museum.geidai.ac.jp/
公式ツィッターもぜひフォローを! ⇒ https://twitter.com/geidai_museum
※本展は事前予約制ではありませんが、今後の状況により、変更及び入場制限等を実施する可能性がございます。
※本展では、一部を除き写真撮影が可能です(フラッシュや三脚等の使用は不可。動画撮影不可)。
さて、前回の記事では主な作品を手がかりに展覧会の見どころを紹介したので、今回は展示方法にもいろいろな工夫があって楽しむことができる会場内の雰囲気をお伝えしていきたいと思います。
前回の記事はこちらです⇒東京藝術大学大学美術館「藝大コレクション展2022 春の名品探訪 天平の誘惑」
展開図方式の展示なので厨子絵が見やすい!
会場に入ってすぐに目に入ってくるのは、天平美術の面影を残す《浄瑠璃寺吉祥天厨子絵》と《吉祥天立像(模造)》。
展示風景 中央が関野聖雲作《吉祥天立像(模造)》昭和6年(1931) 東京藝術大学蔵 |
今回の展覧会では京都・浄瑠璃寺の木像吉祥天立像を納めていた厨子の扉及び背面板に描かれた厨子絵が、《浄瑠璃寺吉祥天厨子(模造)》、《吉祥天立像(模造)》とあわせて展示されると聞いていたので、厨子に納められていると思っていたのですが、厨子には入っていませんでした!
これはどうしてだろうと思いながら中に入ってみると、《吉祥天立像(模造)》の手前にある両側の展示ケースに入っているのが厨子絵、そしてその後ろに展示されているのが、今回の展覧会のメインビジュアルになっている《浄瑠璃寺吉祥天厨子絵》「弁財天及び四眷属像」、《浄瑠璃寺吉祥天厨子(模造)》、《浄瑠璃寺吉祥天厨子》天井(模造)だったのです。
《浄瑠璃寺吉祥天厨子絵》「弁財天及び四眷属像」 建暦2年(1212)頃 重要文化財 東京藝術大学蔵 |
手前が吉田立斎作《浄瑠璃寺吉祥天厨子》(模造) 奥は《浄瑠璃寺吉祥天厨子》天井(模造) いずれも 大正3年(1914) 東京藝術大学蔵 |
上の写真は厨子を近くから見たところですが、この厨子の中に厨子絵がはめ込まれていると間近で全体を見ることは難しかったでしょう。
今回のように一つひとつ展示ケースに入っていると絵の全体を目の前でじっくり見ることができます。
まさにこれは、建築用語でいえば建物内の中心から東西南北を投影した展開図の考え方。
厨子の中に入り込んだような気分で厨子絵や吉祥天立像を拝見することができる展示になっていたのです。
※《浄瑠璃寺吉祥天厨子絵》のうち、四天王は展示替えがあるのでご注意ください。
4月2日~4月24日 「広目天」「多聞天」
4月26日~5月8日 「持国天」「増長天」
(「弁財天及び四眷属像」「梵天」「帝釈天」は通期展示です。)
仏像断片からかつての栄華が想像できる
前回の記事でもご紹介した《月光菩薩像》を目の前で拝見することができました。
胴の部分が損傷していますが、やはり期待どおり、表情や姿勢から気品が感じられ、残された金箔からは当時の優雅さをうかがうことができました。
《月光菩薩坐像》奈良時代 8世紀後半 東京藝術大学蔵 |
なお、対になっていた《日光菩薩坐像》は東京国立博物館が所蔵しているので、もしかしたら今まで拝見していたかもしれませんが、展示されたらあらためて見てみたいです。
そしてこちらが仏像断片の展示。
後ろの壁の解説パネルに記載されているように、今までの調査・研究の結果、元の所在が判明した仏像断片もありますが、所在の分からないものも多くあるのです。
この展示を見て、土器の破片を集めて一つに復元された縄文土器の展示を思い浮かべました。
難しいかもしれませんが、今回の展示を機会に新しい情報が入って、一つでも多くの仏像断片の元の所在がわかってほしいと思いました。
うっかりすると見落としてしまいそうですが、ふと上を見上げると、鏡が天井から吊り下げられているのに気が付きました。
展示風景 |
これは何かというと、その下に展示されている《東大寺法華堂天蓋(縮小模造)》を、天蓋に架かっているように見ることができる仕掛けだったのです。
中央 竹内久一作《東大寺法華堂天蓋》(縮小模造) 明治時代 19-20世紀 手前 《東大寺法華堂天蓋残欠》 奈良時代 8世紀 いずれも東京藝術大学蔵 |
《東大寺法華堂天蓋》(縮小模造)を背に自撮りすると、鏡に映った天蓋を背景にした写真が撮れますのでぜひトライしてみてください!
狩野芳崖と天平美術の接点がよくわかる
橋本雅邦と並んで明治前期の近代日本画界の二大巨頭の一人、狩野芳崖の代表作といえば、やはり芳崖の絶筆となった《悲母観音》(重要文化財)。今回も拝見することができました。
(橋本雅邦の重要文化財《白雲紅樹》も展示されているので、ぜひこちらもご覧ください。)
今回の藝コレでは、フェノロサや岡倉天心らの奈良古社寺調査に同行した芳崖が描いた、寺社の所蔵品や建築物などのスケッチを12巻の巻子装飾にした《奈良官遊地取》も出品されていて、芳崖の弟子たちの証言によると、この時の古美術研究が《悲母観音》の面貌表現につながったとのことですので、両者を見比べるのを楽しみにしていました。
実際には次の写真のとおり、手前のケースに《奈良官遊地取》が展示されているので、まず《奈良官遊地取》を見てから視線を右上に向けて《悲母観音》を見て、もう一度《奈良官遊地取》を見て、といった具合に見比べやすくなっています。
狩野芳崖《奈良官遊地取》展示風景 |
先ほどご紹介した東京藝術大学美術館の公式ツィッターでは、藝コレの見どころが紹介されていますが、《悲母観音》を展示する場面の動画も紹介されています。
古田亮教授が扉を開けて《悲母観音》が現れる場面はとても感動的でした(3月28日のツィート)。
こちらは私の愛読書です。
昨年の7月から9月にかけて2期に分けて開催された藝大コレクション展2021のうち、Ⅰ期に展示された菱田春草《水鏡》に再会することができました。
菱田春草《水鏡》明治30年(1897) 東京藝術大学蔵 |
なぜ春草の《水鏡》が今回も展示されているのかは、作品のキャプションを見てわかりました。
この作品が描かれたあとに、東京美術学校とその後身である東京藝術大学で美術史の教鞭をとった脇本楽之軒が《浄瑠璃寺吉祥天厨子絵》や吉祥天立像との関連性を指摘しているのです。
《浄瑠璃寺吉祥天厨子絵》に始まり、仏像断片、狩野芳崖《悲母観音》、菱田春草《水鏡》と、会場内をぐるりとめぐってきましたが、《水鏡》で終わるのでなく、冒頭の《浄瑠璃寺吉祥天厨子絵》にもう一度立ち返るという展示になっています。
ぜひその場でも会場内をめぐって、藝大コレクションと天平美術のかかわりをお楽しみください。
春の名品も充実してます!
天平美術と並んで、今回の藝大コレクション展のもう一つのキーワードは春の名品探訪。
鎌倉時代の《小野雪見御幸絵巻》(重要文化財)や江戸時代の狩野派の狩野常信《鳳凰図屛風》、東京美術学校で教授を務めた画家たちの作品はじめ藝大コレクションの名品も充実しています。
その中で特に注目したいのは、明治38年に東京美術学校が監造して、橋本雅邦、高村光雲はじめ当時の名だたる芸術家たちの作品を集めた屛風《綵観》。
反対側にも作品があるので、裏に回れるようにゆったりとスペースをとって展示されています。