東京・虎ノ門の大倉集古館では、企画展「人のすがた、人の思い」が開催されています。
大倉集古館外観 |
今回の企画展は、コロナの影響で人と人とのかかわり方が変化する中、人々が集う場面を描いた作品や、人の思いが込められた作品を通じて、人と人との交流の大切さを見直すことができる展覧会。
何かと不安定な今の時期にふさわしく、ホッとできる内容の展覧会ですので、さっそく展示の様子をご紹介したいと思います。
展覧会概要
展覧会名 企画展「人のすがた、人の思い-収蔵品にみる人々の物語」
会 期 2022年4月5日(火)~5月29日(日)
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日 毎週月曜日
入館料 一般 1,000円
大学生・高校生 800円 ※学生証をご提示ください
中学生以下無料
各種割引料金は、下記の同館ウェブサイトの「利用案内」をご覧ください。
主 催 公益財団法人 大倉文化財団・大倉集古館
※本展は事前予約不要です。
※イベント(ギャラリートーク)が開催されます。
※新型コロナウイルス感染症の拡大状況によって、展覧会およびイベントが中止、または変更となる場合がありますので、最新の情報は同館ウェブサイトをご覧ください⇒大倉集古館ウェブサイト。
※展示室内は撮影禁止です。掲載した作品の写真は主催者より特別にお借りしたものです。
※掲載した作品のうち、所蔵者記載のないものは大倉集古館所蔵です。
見どころ1 内に秘めた思いが伝わってくる
最初にご紹介するのは、老いて病気の父にかわり、男装して従軍する女性、木蘭が出征する場面を描いた衝立。
わずか5.5cm×6.2cm四方の象牙の板に、出征する木蘭、心配そうに見送る家族の表情が細やかに描かれています。
さらに注目は画面右上。まるで米粒にお経を書くような小さな文字で詩が書かれています。
繊細な技巧が光る作品です。
「木蘭詩図衝立」(部分) 中華民国・20世紀 |
続いては、安珍と清姫の物語で知られる「道成寺」を描いた作品。
安珍が隠れた鐘を前に描かれているのは、毒蛇に姿を変えた清姫ではなく、嫉妬に狂った女性の扮装に使われる文様の衣装を身にまとい、鐘に向かってゆっくりと歩みを進める清姫。
この異様な静けさが感じられる画面からは、かえって凄みのような迫力が感じられました。
大日如来が衆生を教化するため忿怒相で現れた不動明王も、円空の手にかかれば穏やかな表情に。
牙をむき出し、火炎を背負った迫力ある不動明王も好きですが、微笑んだ不動明王を見ていると、自然と心が癒されてきます。
江戸時代の御用絵師集団・狩野派の頭領、狩野探幽が弟子たちのために作った手本(縮図)が「探幽縮図(和漢古画図巻)」。
探幽が大名などから持ち込まれたものを鑑定したときに描いたものですが、今となっては所在が分からない絵画もあって、私たちにとっても貴重な資料になっています。
それにしても、「あまり良くない絵だ。」など、余白に書かれている探幽の率直なコメントがユニークなので、解説パネルとあわせてご覧いただくと楽しさ倍増です。
隅田川の両岸を描いた「両岸一覧」は2巻ものの大作。
川の流れに沿って両岸の賑わいを描くところは、中国の至宝、張択端の「清明上河図巻」を思わせます。
下の写真の部分は、まるで「清明上河図」のクライマックス、虹橋のようです。
「両岸一覧」(部分) 鶴岡蘆水 江戸時代・天明元年(1781) |
絵巻全体を通して見てみると、花火や紅葉、雪などが描かれていて、季節の移ろいも感じさせてくれます。
もう一つの巻には巨大な列柱がバーンッと描かれていますが、何だろうと思ったら、橋を下から見たところで、巨大な列柱は橋脚だったのです。大胆な構図に驚かされました。
今は美術館、博物館、パンダ人気の動物園をはじめとした上野公園になっていますが、この一帯は江戸時代には江戸城の鬼門を守る寛永寺の大伽藍がありました。
それでも昔も今も変わらないのが春の花見に来る多くの人たち。
誰もが明るい表情をしています。
宴会をする人たちの姿も見えますが、コロナ禍の今となっては懐かしい光景なのかもしれません。
以前、ゴールデンウイークに京都に行った時、その日は特に予定がなかったので、来たバスに乗って終点まで行ってみようと思い乗ったのが上賀茂神社行きのバス。
上賀茂神社では多くの人たちが集まっていて、その間を馬が走っているのが見えました。
さて標的はどこだろうと思って探しましたが、流鏑馬ではないので、もちろん標的はありませんでした。
この作品を見るといつも、このときの気ままな京都旅行のことを思い出します。
リニューアル後の初公開で、馬の躍動感や見物人たちの表情がよくわかります。
重要文化財「賀茂競馬・宇治茶摘図屏風」(賀茂競馬図部分) 久隅守景筆 江戸時代・17世紀 |
見どころ3 ユーモアのセンスが伝わってきます
まじめに描いていても、どこかユーモアのセンスが感じられる英一蝶は私の好きな江戸絵画の絵師のひとり。
今回は英一蝶の「雑画帖」36図のうちから6図が展示されています。
江戸時代に大衆の人気を集めた大道芸の様子を描いた《大神楽図》。
撥を投げる人や太鼓をたたく人の表情から、楽しい雰囲気が伝わってきます。