東京墨田区のすみだ北斎美術館では、企画展「北斎花らんまん」が開催されています。
3階ホワイエのフォトスポット |
春の訪れを知らせる梅や桜、春夏秋冬の四季折々の花、江戸時代の人たちが身に付けていた着物や煙管、刀の鍔のデザインになった花など、会場内は北斎や門人たちが描いた浮世絵の花でいっぱい。とても華やいだ雰囲気の展覧会です。
それでは先日、展覧会におうかがいしたので、さっそく会場内の様子をご案内したいと思います。
展覧会概要
企画展 北斎花らんまん
会 期 2022年3月15日(火)~5月22日(日)
前期:3月15日~4月17日
後期:4月19日~5月22日
開館時間 9:30~17:30(入館は17:00まで)
休館日 毎週月曜日
観覧料 一般 1,000円ほか ※観覧日当日に限り、AURORA(常設展示室)、常設展プラスも
ご覧になれます。
※展覧会の詳細、関連イベント、新型コロナウイルス感染症対策等は同館公式HPをご覧ください
展覧会構成
1章 春の到来 早春の花々
2章 桜 春爛漫
1節 お花見と名所
2節 桜と物語
3章 色とりどり四季の花
1節 春の花々(3月~5月)
2節 夏の花々(6月~8月)
3節 秋の花々(9月~11月)
4節 冬の花々(12月~2月)
4章 暮らしを彩る花の意匠
1節 着物を彩る
2節 道具を飾る
※3階企画展示室及び4階企画展プラス展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は、美術館よりお借りした広報用画像です。
※3階ホワイエのフォトスポット、高精細複製画は撮影可。4階AURORA(常設展示室)内は一部を除き撮影可です(いずれもフラッシュ・三脚(一脚)の使用は不可)。
現在3階ホワイエに展示されている高精細複製画は、今回の企画展のテーマにぴったりの葛飾北斎《十二ヶ月花鳥図》。
ベンチが置いてあるのがいいですね。企画展を見たあと一休みしながら四季の移ろいを楽しむことができます。
まだまだ寒い日が続く2月の初め頃、紅白のつぼみがちらほらと出てくる梅の木を見に近くの公園に行って、「もうすぐ春が来るんだな。」と実感するのが毎年の習慣になっています。
このように春の訪れを告げる花ですぐに思い浮かぶのは、やはり梅。
最初に紹介する作品、存斎光一「花咲か爺さん」では桜の花でなく、梅の花が描かれていますが、寒いうちから咲く梅に春を待つ気持ちを込めた当時の人たちの気持ちがよくわかるような気がしました。
お爺さんの表情もとても楽しそう。それに画面右上には鶯が描かれているので、早春から夏にかけて「ホーホケキョ」と鳴く鶯の鳴き声まで聞こえてきそうな明るい感じの作品です。
存斎光一「花咲か爺さん」すみだ北斎美術館蔵(前期) |
存斎光一は、北斎風の画風ですが、北斎の門人かどうかは明らかになっていないとのことです。
花解説のパネルにも注目!
今回の展覧会では、展示作品の解説とあわせて、開花時期や花の特徴、『万葉集』ほかの古典に出てくることなど、一つひとつの花ごとに詳しい花解説のパネルが掲示されています。
当時は身近な花でも今は絶滅危惧類となっているものなど、それぞれの花についての背景がよく分かるので、描かれた作品をより深く味わうことができました。
2章 桜 春爛漫 1節 お花見と名所
梅の咲き始めからもう少し暖かくなると咲いてくるのが桜の花。
今と変わらず多くの人でにぎわうお花見の名所を描いたのが「冨嶽三十六景 東海道品川御殿山ノ不二」。
まるでドローンを飛ばしたような上から眺めた景色で、遠くの富士山、近くの満開の桜の花、思い思いに花見をする人々など、一つの画面にいくつもの要素が盛り込まれたにぎやかな作品です。
ここでの注目は、薄い紅をぼかして摺ったあとに、たくさんの丸い点を絵具を付けずに凹凸を付ける「空摺(からずり)」で表現している桜の花です。
このように、摺師の技の妙が楽しめるのも版画の浮世絵の醍醐味のひとつだと思います。
葛飾北斎「冨嶽三十六景 東海道品川御殿山ノ不二」 すみだ北斎美術館蔵(前期) |
北斎の人気シリーズ「冨嶽三十六景」のうち、人気ベストスリーの「凱風快晴」「神奈川沖浪裏」「山下白雨」(下の写真右から。いずれも実物大高精細レプリカ)は4階AURORA(常設展示室)で見ることができますので、ぜひこちらもご覧ください。
AURORA(常設展示室)展示風景 |
後期には、同じく北斎の人気シリーズ「諸国名橋奇覧」から「山城あらし山吐月橋」が展示されます。今も人気の観光地、京都・嵐山の桜の景色が見られるので、こちらも楽しみです。
2章 桜 春爛漫 2節 桜と物語
版画の浮世絵が摺師の技の妙が楽しめる一方、肉筆画ならではの繊細な表現が楽しめる作品も展示されています。
こちらは北斎の門人の一人で、肉筆画や版本挿絵を多く手がけた蹄斎北馬の「朝妻舟」。
この作品では、はらはらと散る山桜の花びらの様子が細かく描かれています。
そして不思議なのが水面に映る遊女の顔。
舟に乗る遊女の顔は白く化粧しているように見えるのですが、水面に映った遊女の顔を見ると、目のまわりを赤く化粧しているようです。
3章 色とりどり四季の花 1節 春の花々(3月~5月)
今回の展覧会では、「冨嶽三十六景」や「諸国瀧廻り」と同じ版元である西村屋与八から出版された北斎の大判花鳥図シリーズで、現在十図が確認されているうちの三図が展示されます。
その三図のうち前期に展示されるのが、強い風に揺られる牡丹と蝶が描かれた葛飾北斎「牡丹に胡蝶」。
中国が原産の牡丹は、中国では「花王」「花神」「富貴花」とも呼ばれ、富貴や栄誉の象徴でした。そして、中国語では70歳を意味するとされる耄(もう)は猫、80歳を意味するとされる耋(てつ)は蝶に発音が通じるので、「富貴耄耋」は長寿を願う題材として中国絵画で好まれて描かれました。
この作品には猫は描かれていませんが、強い風に負けずに堂々とした牡丹の姿や、風には弱いはずの蝶が頑張ってこらえている姿から、逆風にも負けない凛とした佇まいが感じられました。
葛飾北斎「牡丹に胡蝶」すみだ北斎美術館蔵(前期) |
3章 色とりどり四季の花 3節 秋の花々(9月~11月)
今回展示される北斎の大判花鳥図シリーズ三図のうち二図は後期展示で、「芙蓉に雀」は「2節 夏の花々(6月~8月)」、「桔梗にとんぼ」は「3節 秋の花々(9月~11月)」のコーナーに展示されます。
そのうち秋の七草の桔梗と、とんぼが描かれているのが「桔梗にとんぼ」。
先ほど紹介した「牡丹に胡蝶」とともにフォトスポットのパネルはじめメインビジュアルに使われている作品です。
とんぼの翅(はね)の脈や翅の先の黒い模様の縁紋まで細かに表現されているとのことなので、後期にも来てじっくり見てみたいです。
葛飾北斎「桔梗にとんぼ」すみだ北斎美術館蔵(後期) |
今気が付きましたが、フォトスポットのパネルや展覧会チラシ、展覧会パンフレットの「牡丹に胡蝶」は180度回転させているのですね。
展覧会の紹介リーフレットも1階ミュージアムショップで販売中です(税込300円)。
3章 色とりどり四季の花 4節 冬の花々(12月~2月)
こちらは後期展示の作品で、北斎の門人、柳々居辰斎の「五色之内 赤絵南京」。
「五色之内」のシリーズは、中国の古代思想である五行を色で表した五色(白、黒、赤、黄、青)を題材としたもので、赤で描かれているのは、雪が降り積もる中でもけなげに花を咲かせる椿。
葉の緑色と、白磁に描かれた赤絵と椿の赤色の色合いの鮮やかさをぜひその場で見てみたいです。
柳々居辰斎「五色之内 赤絵南京」すみだ北斎美術館蔵(後期) |
4章 暮らしを彩る花の意匠
ここで紹介するのは葛飾北斎『新形小紋帳』。
翼が花びらになっていたり、花を背負っていたりする鶴が描かれていますが、これは何なのでしょうか。
これは小紋といって、細かな模様が全体的に入っているカジュアルな着物のことで、このページには花で形作られた鶴のデザインが描かれているのです。
葛飾北斎『新形小紋帳』すみだ北斎美術館蔵(通期) |
4章にはほかにも北斎や門人が考案した、櫛やキセル、刀の鍔といった生活に身近な道具のデザインをまとめた版本が展示されています。
葛飾北斎は、当代随一の人気浮世絵師というだけでなく、最先端のファッションデザイナーでもあったのです。
4章の展示を見ていると、「北斎ブランド」を身に付けた当時の人たちの自慢気な顔が思い浮かんできそうです。
4階 常設展プラス
4階の企画展示室では「常設展プラス」(6月12日(日)まで)が開催中です。
全長約7mに及ぶ「隅田川両岸景色図巻(複製画)」と、『北斎漫画』などの北斎の絵手本の実物大高精細レプリカが展示されていて、『北斎漫画』ほかの立ち読みコーナーもあります。
4階AURORA(常設展示室)
4階AURORA(常設展示室)には、先ほど紹介した「冨嶽三十六景」はじめ北斎の年代ごとの代表作(実物大高精細レプリカ)や、「北斎のアトリエ」再現模型が展示されています。