今年のはじめころ、今年開催される美術展を紹介する雑誌を自分の部屋でパラパラ見ていたら、やたらとふくらんでいる人たちが描かれた作品が目に入ってきました。
展覧会名は「ボテロ展-ふくよかな魔法」。
南米コロンビアの国民的芸術家で、90歳になった現在でも精力的に制作を続けているフェルナンド・ボテロの、日本では26年ぶりとなる展覧会の紹介記事でした。
南米だけでなくヨーロッパや北米、アジアでも人気のあるボテロで、日本でも展覧会が開催されていたにもかかわらず、実は私、彼のことは全く知りませんでした。
だからこそよけいに最初にボテロ作品を雑誌で見た時の衝撃は大きかったのです。
それ以来、ボテロ展の開催を楽しみにしていたのですが、のちにボテロ自身が登場して、自らの芸術家人生を語るドキュメンタリー映画「フェルナンド・ボテロ 豊満な人生」が展覧会と時を同じくして上映されることを知りました。
映画チラシ |
上の映画チラシの後ろ姿はボテロ本人です。
映画「フェルナンド・ボテロ 豊満な人生」は4月29日からBunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー。
詳しくは公式サイトをご覧ください⇒映画「フェルナンド・ボテロ 豊満な人生」公式サイト
映画を見た印象は、波乱に満ちた人生でも芸術に対する揺るぎない信念を持ち続けたボテロが、最後には芸術家としての名声や、家族愛にも恵まれて幸せな人生を送るという内容で、見ている側も幸せな気分になれる映画でした。
ここで少し内容をお話すると・・・
映画は、ボテロが自らのよき理解者であり、支援者でもある長男、長女、次男に、若い頃の厳しい境遇から、その後の芸術家人生について語る場面から始まります。
父親が若くして亡くなり生活が苦しかったこと、修業のためヨーロッパに渡ったのに手持ちのお金がなくなって帰国したこと、自分の画風が長い間認められなくても信念を曲げなかったことなど、暗くなりがちな話題ですが、ボテロ自身は明るい口調で話しているので、とても和やかな雰囲気のオープニングが印象的でした。
そのあとは、ボテロや子どもたちの証言、博物館のキュレーターや研究者たちによるボテロの芸術家人生や作品に対するコメントが続きます。
悲しい事件もありました。
幼い息子が自分の目の前で交通事故で亡くなるという痛ましい事故のあと、亡くなった息子を描いた作品がスクリーンに現れたときには思わず胸がジーンとしました。
地元市内に屋外展示されていたボテロ作の彫刻が爆破された事件もありましたが、爆破後にボテロは芸術家として毅然とした対応をとりました。
そして最後は、息子たちや孫たちボテロファミリーが集まってみんなで楽しそうに談笑する場面でエンディングを迎えます。
ネタバレになってしまうので映画のお話はここまでにしますが、この映画を見れば、ボテロの優しい人柄、芸術に対する信念が伝わってきて、ボテロ作品に対する親しみが湧いてくること間違いなしです。
続いて映画と同日にBunkamuraザ・ミュージアムで開幕したボテロ展にもさっそく行ってきましたので、その時の感想を少し。
ふくらんでいるのは人物だけではなかった!
会場内は予想どおりというか、期待どおり、大画面の中に鮮やかな色彩でボテロ独特のボテッとした人物が描かれた作品が会場全体に展示されているのですが、ふくらんでいるのは人物だけではありませんでした。
たとえば、静物画でも・・・
ワインがいくらでも入りそうな横幅の広い瓶
丸々とふくらんだオレンジ
太くて短いバナナ
刃が分厚くてとても切れそうもないナイフ
ボテロがふくよかな作品を描くきっかけとなったマンドリンも、ふっくらとした本体とは釣り合いがとれないほど小さな穴が開いています。
サーカスの場面を描いた作品では、全長十m以上もありそうな巨大な象が!
そして小さいはずの「小鳥」もこの大きさ!
フェルナンド・ボテロ《小さな鳥》 1988年 広島市現代美術館 |
ボテロは絵画だけでなく数多くの彫刻も手掛けています。
この「小鳥」は、日本にあるボテロの彫刻作品の一つ。
今回の展覧会に合わせて広島から「飛来」してきてくれました。
東京展開催中、Bunkamura地下1階テラスに展示されいます。この作品は写真撮影可です。
ふくよかな体は官能か、ユーモアか、アイロニーか?
ボテロが描くふくよかな体は、官能的で、しぐさもどことなくユーモラスな印象がありますが、ときには権威ある者に対する皮肉めいた視線や、祖国コロンビアの厳しい政治的・社会的状況に対する嘆きや悲しみを感じさせる作品もありました。
こちらは展覧会チラシの裏に掲載されている《コロンビアの聖母》。
聖母は涙を流し、天使は小さなコロンビア国旗を手にしています。
先人へのリスペクトが感じられる作品も見応えあり!
ボテロが一躍名を知られるようになったきっかけは、1963年、ニューヨーク・メトロポリタン美術館でレオナルド・ダ・ヴィンチの《モナ・リザ》が展示されたとき、ボテロの《12歳のモナ・リザ》(本展には展示されていません)がニューヨーク近代美術館で公開されたときのことでした。
今回の展覧会でも最後の章「6章 変容する名画(VERSIONS)」では、ベラスケス、ゴヤ、ラファエロ、ファン・エイク、クラーナハなど、西洋絵画の巨匠たちの名画をモチーフにした作品が展示されています。
名画をモチーフにしていても、ご覧のとおり、どの作品もボテロ風に解釈した、オリジナリティあふれるものばかり。
※会期中、6章の一部作品のみ撮影可。以下、掲載した作品は撮影可のものです。
《ピエロ・デラ・フランチェスカにならって(2点組)》は、小ぶりな原作《ウルビーノ公夫妻の肖像》と比べてこちらは巨大な画面に、なぜか夫婦が左右逆転して描かれています。
そして、夫婦が身に付ける衣服や装飾品は正確に描かれていますが、ウルビーノ公の特徴の鉤鼻はあまり高くありません。
各作品の解説パネルにはモチーフとした名画の写真も掲載されているので、ボテロが何を強調したのか、なぜこう描いたのか思いを巡らせてみるのも楽しいかもしれません。
展覧会開催概要
東京展
会 期 2022年4月29日(金・祝)~7月3日(日)
※5月17日(火)休館
開館時間 10:00~18:00(入館は17:30まで)
毎週金・土は21:00まで(入館は20:30まで)
※金・土の夜間開館については、状況により変更になる場合があります。
会 場 Bunkamuraザ・ミュージアム
入館料 一般 1,800円、大学・高校生 1,100円、中学・小学生 800円
展覧会公式サイト⇒ボテロ展 ふくよかな魔法
(巡回展情報)
名古屋展
会 場 名古屋市美術館
会 期 2022年7月16日(土)~9月25日(日)
京都展
会 場 京都市京セラ美術館
会 期 2022年10月8日(土)~12月11日(日)
今年は映画も展覧会も同時に来日しているので、26年間待ち焦がれたボテロファンの方にも、私のようなボテロ初心者でもボテロが二倍楽しめます。
映画も展覧会もご覧いただいて、ぜひ幸せいっぱいになってください!
映画「フェルナンド・ボテロ」 × 「ボテロ展」 = 幸せいっぱい