東京・上野公園の東京都美術館では、特別展「スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち」が開催されています。
展示室入口前の撮影スポット |
絵画、水彩画、彫刻などおよそ12万点の所蔵を誇るスコットランド国立美術館から、ルネサンス期~19世紀後半の西洋絵画の名作約90点が来日しています。
さらに同館を特徴づけるゲインズバラ、レノルズ、ターナー、ミレイといったイングランド出身の画家に加え、日本ではなかなか見ることのできないレイバーン、ラムジー、グラントなどスコットランド出身の代表的な画家たちの名品も多数出品されており、ヨーロッパ大陸と英国の文化交流から、英国美術がはぐくまれた様子も紹介しています。
展覧会概要
会 期 2022年4月22日(金)~7月3日(日)
東京会場 東京都美術館 企画展示室
休室日 月曜日(6月27日(月)は臨時開室!)
開室時間 9:30~17:30 金曜日は9:30~20:00
(入室は閉室の30分前まで)
※夜間開室については展覧会公式サイトでご確認ください。
観覧料(税込) 一般 1,900円 大学生・専門学校生 1,300円 65歳以上 1,400円
※高校生以下無料(日時指定券必要)
※本展は日時指定予約制です。
※チケット購入・日時指定、展覧会の詳細等は展覧会公式サイトをご覧ください⇒スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち
音声ガイド
会場レンタル版 貸出料金:お一人様1台 600円(税込)
アプリ配信版(iOS/Android)「聴く美術」:販売価格 730円(税込)
配信期間:2022年4月22日~11月末予定
音声ガイドナビゲーターは女優の天海祐希さん。
名画の見どころや、巨匠たちの知られざるエピソードなどを案内していただけるので、とても聴きやすいです。
展示構成
プロローグ-スコットランド国立美術館
1 ルネサンス
2 バロック
3 グランド・ツアーの時代
4 19世紀の開拓者たち
エピローグ
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は報道内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。
【巡回展情報】
北九州会場 会 期 2022年10月4日(火)~11月20日(日)
会 場 北九州市立美術館 本館
展示室に入ってまず感じたのは、まるでヨーロッパのミュージアムにいるような心地よい雰囲気。
こんな素晴らしい空間の中で名作の数々を見るだけでも満足なのですが、スコットランド国立美術館のコレクションが地元出身の篤志家たちの祖国愛に支えられて充実してきたということを知って、さらに作品やスコットランド国立美術館への愛着が湧いてきました。
祖国愛に支えられたスコットランド国立美術館コレクション
スコットランド出身の篤志家たちのエピソードは展示室最後の映像コーナーで放映されています(放映時間 約5分)。
それがとても興味深い内容でしたので、今回はそのエピソードに沿って展示室内の様子をお伝えしたいと思います。
「プロローグ」 アーサー・エルウェル・モファット 《スコットランド国立美術館の内部》1885年 |
「プロローグ」に展示されている上の作品では、絵画が壁一面に架けられ、フロアには人が通るのがやっとというほどいくつもの彫刻が展示され、コレクションの多さを物語っているように見えますが、中には借り物の作品もあったようです。
1859年に開館したスコットランド国立美術館ですが、当初は順風満帆な船出ではありませんでした。
スコットランド国立美術館は、ヨーロッパの多くの美術館と違い、王侯貴族のコレクションがベースになっていたわけではなく、当初は作品購入のための予算はなんとゼロだったのです。
そのような苦しい状況を救ったのが、地元出身の篤志家たちでした。
その一人が、スコットランド出身の実業家、カウアン・スミス。
彼は、1919年、作品購入のための資金としてスコットランド国立美術館に当時の金額で5.5万ポンド、現在の価値に換算するとおよそ200万ポンド(日本円でおよそ3.2億円)を寄付したのです。
同館はその資金を運用して、レノルズやターナーの作品を購入できるようになりました。
こちらは、展覧会のメインビジュアルになっているジョシュア・レノルズの《ウォルドグレイヴ家の貴婦人たち》。
作者のレノルズは、18世紀を代表する英国の肖像画家。
ロイヤル・アカデミーの創立者の一人でのちに初代会長に就任するほどまでになった英国美術界の巨匠でしたが、当時、肖像画より格上とされた神話を主題とした神話画を描かせてもらえなかったため、この作品にギリシャ神話の三美神の主題を暗示したとのことです。
一見、優雅に手芸にいそしんでいる三姉妹のように見えますが、実はレノルズの反骨精神が垣間見える作品でもあったのです(詳しくはオーディオガイドでお聴きください!)。
こちらは19世紀英国を代表する風景画家で、お互いにライバルでもあった、ターナーとコンスタブルの作品。
国内外を旅行して多くのスケッチを描いたターナーに対して、自らが慣れ親しんだ土地を描いたコンスタブルのそれぞれの持ち味が出ている作品で、こうやって並んで展示されると画風の違いもよくわかります。
続いては、弁護士で、美術収集家のアレクサンダー・メイトランド。
メイトランドは、スコットランド国立美術館への寄贈を前提に美術品を収集していたことがわかっていて、彼が同館に寄贈した印象派、ポスト印象派の作品26点のうち代表的なものは、ゴーガンの《三人のタヒチ人》。
この作品をスコットランド国立美術館が収蔵したことによって、その名を世に知らしめたという記念碑的な作品なのです。
なお、ゴーガン《三人のタヒチ人》は東京会場だけの展示です!
日本でも人気の高い印象派、ポスト印象派。
今回の展覧会でも、モネ、ルノワール、ドガ、ゴーガンはじめ巨匠たち名作が展示されているのでご安心を(モネ、ドガ、ゴーガンは東京会場のみ)。
そして、三人目の篤志家は、ジョン・スチュワート・ケネディ。
故郷スコットランドの貧しい家庭で育ったケネディはアメリカに渡り、実業家として大成功を収めます。
実業家としての活動のかたわら、慈善活動も積極的に行い、母国への愛と感謝を込めてスコットランド国立美術館に寄贈したのが、エピローグに展示されているこの作品。
「エピローグ」 フレデリック・エドウィン・チャーチ 《アメリカ側から見たナイアガラの滝》1867年 |
チャーチは、19世紀に活動したアメリカの風景画で、描いている場面もアメリカ側から見たナイアガラの滝。
はじめは、なぜこの作品がアメリカでなくスコットランドに、なぜこの作品がこの展覧会のエピローグに、と不思議に思いましたが、その背景にはこんな素晴らしいエピソードがあったのです。
お帰りの際には雄大なナイアガラ滝の前でぜひ記念撮影を!
お気に入りの逸品を探そう!
展示作品はどれも名作ばかりなのですが、そのなかでも自分のお気に入りの画家、お気に入りの作品を見つけるとうれしくなってきます。
今回の展覧会の私のお気に入りの逸品(一品)はこちら。
ラファエロ・サンツィオの《「魚の聖母」のための習作》です。
この作品はプラド美術館が所蔵する《魚の聖母》の習作ですが、習作といっても決してあなどってはいけません。
これは、すべてラファエロ自身の手で描いたという、きわめてレアな素描なのです。
ぜひ間近でご覧いただき、ラファエロ独特の柔らかいタッチを感じ取っていただきたいです。
みなさまもぜひ「お気に入りの逸品」を探してみてはいかがでしょうか。