2024年2月19日月曜日

大倉集古館 企画展「大倉集古館の春ー新春を寿ぎ、春を待つ」

東京・虎ノ門の大倉集古館では、企画展「大倉集古館の春ー新春を寿ぎ、春を待つ」が開催されています。

大倉集古館外観

今回の企画展は、大倉集古館の所蔵品の中から春や今年の干支の「辰」にちなんだ絵画、工芸品などが展示されていて、春らしいとても華やいだ雰囲気の展覧会です。

展覧会開催概要


会 期  2024年1月23日(火)~3月24日(日)
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
入館料  一般 1,000円、大学生・高校生 800円、中学生以下無料
休館日  毎週月曜日(休日の場合は翌火曜日)
展覧会の詳細等は同館公式サイトをご覧ください⇒https://www.shukokan.org

※展示されている作品はすべて大倉集古館所蔵です。
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は主催者より広報用にお借りしたものです。

展示構成
 第1章 寿ぎの造形~扇
 第2章 辰年の造形~龍
 第3章 季節の造形~雪・梅・桜の絵画
 第4章 めでたさの造形~工芸品 


第1章 寿ぎの造形~扇では、おめでたい「末広がり」の扇が舞う作品がお出迎えしてくれます。



《扇面流図屏風》宗達派、江戸時代・17世紀(右隻)



《扇面流図屏風》宗達派、江戸時代・17世紀(左隻)


浪の間を流れるように舞うのは、金色に輝くいくつもの扇。
扇面には蓮、菊、竹、梅など、さまざまな草花が描かれていて、とても華やいだ雰囲気です。

俵屋宗達の工房で制作されたことを表す「伊年」印が捺されている宗達派の名品《扇面流図屏風》は、当初一双のうち片方だけが大倉家に所蔵されていましたが、不思議なご縁で左右そろって大倉集古館に所蔵されることになりました。

同じく第1章の《古屏風奇遇乃記》(福地源一郎書、荒木探令画)に記されている奇跡の再会のいきさつはとても興味深いです。

次に、扇面に花や山水が描かれた明~清朝時代の作品《清朝名人便面集珍》16図の中から4面の扇面が続きます。
ご紹介するのは、清朝・康熙帝時代(在位1661-1722)に活躍した満州人で、宮廷画家・赫奕(かくえき)の「青緑山水図」。



「青緑山水図」(《清朝名人便面集珍》のうち)赫奕(1655-1731)筆
中国・清時代・17~18世紀

水墨で描かれたモノトーンの山水画も趣きがありますが、濃厚な群青や緑青を用いた「青緑山水」は、山の緑が映えてとても鮮やかです。

清朝初期の6人の代表的な文人画家「四王呉惲」(※)の一人、王原郝とともに「南王北赫」と並び称された赫奕の《青緑山水図》は、王原郝とも交流があったからでしょうか、中国・江南地方ののびのびとした景色を描いているように感じられました。
(※)王原郝、王鑑、王時敏、王翬、呉歴、惲寿平の6人


第2章 辰年の造形~龍 には、今年の干支「龍」にちなんだ作品が展示されています。

今年は多くの美術館・博物館で龍が描かれた絵画や工芸品を見ることができますが、日本では珍しい中国・清〜中華民国時代の衣装が見られるのは、中国美術の保護に努め、中国の古典劇のひとつ「京劇」を日本に紹介した大倉喜八郎氏が創設した大倉集古館ならではの展示ではないでしょうか。

この衣装は《蟒袍(ホウホウ、まんぱお)》と呼ばれ、官吏の衣装のことを指すのですが、これは中国の古典劇のひとつ「京劇」で使われていた衣装と考えられています。


《蟒袍》清時代末~中華民国時代・20世紀

虹色の部分は海水を表し、波間の中央には立石、その上には国家統一を意味するハート形の祥雲が浮かび、天下泰平を象徴する龍が天を舞う鮮やかなデザインに目を惹かれます。


鷹を描くのを得意とした曽我二直庵が珍しく描いた龍の作品も展示されています。



  



《蜆子和尚・龍虎図》曽我二直庵筆 江戸時代・17世紀

いかにも獰猛そうな鷹を写実的に描く二直庵ですが、想像上の動物なので当然見たこともない龍はどことなくユーモラス。虎も実物は見たことがないのかもしれませんが、やはり可愛らしく描かれています。
中央の蜆子和尚は、蝦や蜆をとって食べ、夜は神祠の中に寝たといわれた中国・唐末の禅僧です。

《蜆子和尚・龍虎図》は、狩野探幽の《文殊菩薩・雲龍・竹虎図》と並んで展示されているので、龍の表情の違いを見比べることができます。


第3章 季節の造形~雪、梅、桜の絵画には、梅の香や春の気配を知らせる作品が展示されています。

こちらは狩野探幽の三兄弟、上から探幽、尚信、安信のうち真ん中の尚信の長男で、探幽亡きあと江戸狩野の中心人物として活躍した狩野常信の《梅鶯図》。





《梅鶯図》狩野常信筆、江戸時代・17世紀

右幅と左幅には中央の梅の老木に向かって鳴いている鶯が描かれていて、春の訪れを告げる「ホーホケキョ」というさえずりが聞こえてきそう。
梅の幹や枝の間にたなびく霞が幻想的な雰囲気を醸し出しています。

続いては、《扇面流図屏風》と並んで今回の企画展のメインビジュアルになっている横山大観の《夜桜》。


《夜桜》横山大観筆、昭和4年(1929) (右隻)


《夜桜》横山大観筆、昭和4年(1929) (左隻)

これは大倉喜七郎氏の全面支援により昭和5年(1930)にローマで開催された「日本美術展覧会(ローマ展)」に出品された作品で、大画面の屏風にかがり火に照らされた桜が全面に描かれた華やかで大迫力の《夜桜》は、ミケランジェロやラファエロの大作を見慣れているローマっ子たちも驚いたのではないでしょうか。

実際に横山大観をはじめ、竹内栖鳳、川合玉堂ほか当時の日本画界を代表する画家80名の177点の作品が展示された一大プロジェクト「ローマ展」は多くの観覧者を集め、大成功のうちに終わりました。
2020年に大倉集古館で開催された企画展「1930ローマ展開催90年 近代日本画の華」をご覧になられた方は当時の盛り上がりを感じ取られたのではないでしょうか。


第4章 めでたさの造形~工芸品には、めでたさや季節を感じさせる名工たちの工芸品が展示されています。

正倉院御物整理掛として正倉院宝物の修理を行った名工・木内半古による《四君子象嵌重硯箱》は、白玉(はくぎょく)やべっ甲などを嵌め込んだ象嵌で四君子を表した華やかな雰囲気の作品です。
「四君子」とは蘭、竹、菊、梅のことで、徳を備えた君子に見立てて中国や日本などで画題とされてきました。
この作品は独立ケースに入っているので、ぜひ四方をぐるりと回って象嵌で立体的になっている「四君子」を近くでご覧いただきたいです。


《四君子象嵌重硯箱》木内半古作、昭和6年(1931)

おめでたい図柄の焼き物の大皿も展示されています。



《色絵芙蓉手花鳥図大皿》伊万里、江戸時代・18世紀 

皿の見込み(中央の円形部)の周囲に蓮弁状の区画をつけているデザインが芙蓉の花を連想させることから「芙蓉手」とつけられたこの大皿はとてもカラフル。
見込みには赤、青、緑、黄で描かれたつがいの鳥や花々が描かれていて、この季節にふさわしい作品です。


地下1階の「見どころルーペ」ぜひお試しを!

地下1階の通路にある2台の大きなモニター画面が「見どころルーペ」
はじめに画面にある《扇面流図屛風》や《夜桜》ほかの作品から一つ選ぶと画面いっぱいにその作品が映し出され、指で触れるとその部分がルーペのように拡大されます。
さらに指を動かしていくと所々で、例えば《夜桜》では「金泥を背景に花と葉が光り輝きます」といった作品の見どころのワンポイント解説などが出てきます。


少しずつ近づいている春の気配が感じられて心が和む展覧会です。
おすすめです!