2024年6月12日水曜日

根津美術館 企画展「古美術かぞえうたー名前に数字がある作品ー」

東京・南青山の根津美術館では、企画展「古美術かぞえうたー名前に数字がある作品ー」が開催されています。

展覧会チラシ


今回の企画展は、古美術の見どころを分かりやすく解説する「はじめての古美術鑑賞」シリーズの一環として開催される展覧会で、タイトルに数字が含まれる古美術を、「かぞえうた」になぞらえて一、二、三から百万までたどっていきながら、古美術のすばらしさを体感できるというユニークな内容なので、とても楽しみにしていました。

開幕に先立って開催された記者内覧会に参加してきましたので、さっそく展示の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2024年6月1日(土)~7月15日(月・祝)
開館時間 午前10時~午後5時(入館は閉館30分前まで)
休館日  毎週月曜日 ※ただし、7月15日(月・祝)は開館 
入場料  オンライン日時指定予約
     一般1300円、学生1000円
     *障害者手帳提示者及び同伴者は200円引き、中学生以下は無料
会 場  根津美術館 展示室1・2

展覧会の詳細、オンライン日時指定予約、スライドレクチャー等の情報は同館公式サイトをご覧ください⇒根津美術館

※展示室内及びミュージアムショップは撮影禁止です。掲載した写真は記者内覧会で美術館より特別に許可を得て撮影したものです。

展示構成
 1 姿や技法を示す数字
 2 書(描)かれた内容をあらわす数字
 3 仏教美術にあふれる数字

1 姿や技法を示す数字

「数字」とひとくちに言っても、その姿かたちだったり、技法だったりと、数字がもつ意味合いはさまざま。

最初に登場するのは、その名のとおり1枚の木の葉をかたどった青磁の香合。
安政2年(1855)刊の「形物香合相撲」という番付では、西方前頭七枚目とのことでしたので、相当の実力者。番付というと大相撲でなじみがあるので、当時どれだけの価値が認められていたのかが実感として伝わってきます。
香合に(香を入れる蓋つきのうつわ)との説明があるのもうれしいです。

《青磁一葉香合》中国・明時代 17世紀
根津美術館

続いては、タイトルの数字が形を表す六角形、八角形、十角形のうつわ類。
うつわ類で一般的だったのは丸型や四角形でしたが、五角形や七角形といった奇数のものは作りにくかったようです。

右から 《染付山水文六角水注》景徳鎮窯 中国・明時代
 16世紀 根津美術館
《色絵鳳凰丸文八角鉢》、《色絵椿菊牡丹文十角鉢》
どちらも日本・江戸時代 17~18世紀
山本正之氏寄贈 根津美術館


数字が形だけでなく、そこに何が表されているのかが想像できるのが八角形の形をした《八角尾垂釜 芦屋》。八つの側面に表されているのは中国の名勝・瀟湘八景です。

《八角尾垂釜 芦屋》日本・室町~桃山時代
16世紀 根津美術館

数字が技法を表すものもあります。
《三彩壺》の三彩とは、陶器に2色以上の釉(うわぐすり)を用いて低火度で焼いたやきもののことで、中国・唐時代の唐三彩がよく知られています。

《三彩壺》中国・唐時代 7~8世紀
根津美術館


2 書(描)かれた内容をあらわす数字

今回の企画展は「数字」がキーワードの展覧会ですので、陶磁器などの工芸品や、書、絵画などさまざまなジャンルの古美術作品が見られるのも大きな楽しみのひとつです。

「2 書(描)かれた内容をあらわす数字」展示風景


下の写真右は作品のタイトルどおり「夢」という文字が一文字絵書かれた《夢一字》。
しかしながらよく見てみると、画面上の方には2頭の蝶が描かれているのに気がつきます。
「夢」というと書初めで書きそうな題材かと思いましたが、この作品は『荘子』に出てくる故事で、人生のはかなさをたとえた「胡蝶の夢」をあらわしたものだったのです。

右 一溪宗什筆(絵 狩野常信筆)《夢一字》
日本・江戸時代 17世紀 
左 頼山陽筆《蔵鋒二大字》日本・江戸時代 文政7年(1824)
どちらも小林中氏寄贈 根津美術館


上の写真左《蔵鋒二大字》の「蔵鋒」とは聞きなれない言葉ですが、筆先を中に入れて書く筆法のことで、才能をひけらかさないことを意味しているのです。
わずか一、二文字の書ですが、どちらも深い意味合いがあることがわかりました。


「数字」が人数をあらわす作品も展示されています。

小さな小さな刀の小柄に象嵌であらわされているのは、『古今和歌集』の序で取り上げられた6人の和歌の名人「六歌仙」。

下 大日釜調作《六歌仙図小柄》日本・江戸時代 18世紀
上 後藤高来作《四君子図大小縁頭》日本・江戸~明治時代 19世紀
どちらも根津美術館 


美男美女で知られた在原業平と小野小町の顔は銀で白く塗られていましたが、謡曲「草紙洗小町」では小野小町を陥れようとした悪役として描かれている大友黒主は顔も黒いままなところに注目したいです。
単眼鏡がないとよく見えないような細かい作品にはこのように拡大鏡があるので助かります。


江戸時代中期の文人画家・池大雅らしい豪快な書は、盛唐の詩人・杜甫が李白や張旭などの酒豪8人の酔態を詠んだ七言古詩「飲中八仙歌」。
第5扇(右から5枚目)には、酒を好み「詩仙」と称された李白らしい「李白は1斗の酒を飲む間に百篇もの詩を生んだ」という詩が綴られています。

池大雅筆《飲中八仙歌》日本・江戸時代 18世紀
秋山順一氏寄贈 根津美術館


《五十三次蒔絵鼻紙台》があらわす数字はもちろん東海道の宿場の数。
これは、蒔絵で東海道五十三次をデザインした、懐紙や楊枝などの手回り品を収める調度品で、下段右の日本橋からスタートして中段の違い棚、上段の引出を廻って天板の大津にたどりついて、天板の近江八景を臨むことができるので、ぜひ周囲を三周して東海道の旅をお楽しみいただきたいです。


《五十三次蒔絵鼻紙台》日本・江戸時代 18世紀
福島静子氏寄贈 根津美術館


3 仏教美術にあふれる数字

普段はあまり気にしていませんでしたが、「釈迦三尊像」はじめ仏教美術作品のタイトルは数字の宝庫。展示室2には仏教美術の名品の数々が展示されています。

「3 仏教美術にあふれる数字」 展示風景


黄金色に輝くのは、中国・北魏時代の【重要文化財】《釈迦多宝二仏並坐像》。
釈迦の説法を讃嘆するために多宝如来が宝塔に乗って出現して、釈迦を自席の隣に招き入れたという『法華経』の所説にもとづく場面なので、二仏の表情がとてもおだやかなのが印象的でした。

【重要文化財】《釈迦多宝二仏並坐像》
中国・北魏時代 太和13年(489) 根津美術館

《普賢十羅刹女像》に描かれているのは、『法華経』の信者を守護すると説かれている普賢菩薩と十羅刹女、そして毘沙門天、持国天。
十羅刹女はもとは人を食う怖い鬼でしたが、改心して信者を守るようになったとされていて、普賢菩薩と十羅刹女が描かれた仏画は特に女性に人気があったとのことです。
通常、十羅刹女の髪型や装束は中国風か日本風に統一されるのですが、この作品では一人だけ和風の髪型をしているので、ぜひ探してみてください。

《普賢十羅刹女像》日本・鎌倉~南北朝時代 14世紀
根津美術館

そして一から始まった「かぞえうた」は「百万塔」でフィナーレを迎えます。
「百万塔」は、恵美押勝(藤原仲麻呂)の乱(764年)平定後に称徳天皇によって発願され、奈良の東大寺、西大寺や大阪の四天王寺など10か寺に10万基ずつ納められたものすが、今では法隆寺だけのものが一部残されていて、この百万塔も法隆寺に伝来するものなのです。
手前には「百万塔」の塔身上部に納められていた『無垢浄光経』の陀羅尼もあわせて展示されています。

《百万塔》日本・奈良時代 8世紀
根津美術館


同時開催中! 展示室5 江戸→東京 ー駆け抜ける工芸ー

展示室5では、漆芸家・日本画家として知られる柴田是真をはじめ、幕末から明治にかけての激動の時代を生き抜き、東京を中心に活動した工芸家の漆工や金工などの作品が展示されています。

右 柴田是真《端午蒔絵印籠》日本・江戸時代 19世紀
左 柴田是真《鍾馗蒔絵印籠》日本・明治時代 明治19年(1886)
どちらも根津美術館 


同時開催中! 展示室6 季夏の茶の湯


季夏とは陰暦六月のこと。蒸し暑いこの時期にふさわしく、展示室6には涼しさを感じさせてくれる茶道具が展示されています。

茶室の天井から吊り下げられているように展示されている花入がとても涼しげでした。

《砂張釣舟花入》東南アジア 16-18世紀
根津美術館

会期は7月15日(月・祝)まで。
やさしく古美術が楽しめるこの夏おすすめの展覧会です。