2024年6月27日木曜日

【7月2日開幕!】三井記念美術館 美術の遊びとこころⅧ 五感であじわう日本の美術

東京・日本橋の三井記念美術館では、7月2日(火)から「五感であじわう日本の美術」が開催されます。

展覧会チラシ


今回の展覧会は、日本の古美術や、日本で受容された東洋の古美術に親しんでもらうことを目的に、同館が夏休みに合わせて企画している「美術の遊びとこころ」シリーズの第8弾。

今回は分かりにくいと思われがちな日本や東洋の古美術を、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚などの感覚を研ぎ澄ませて見るという企画。どんな発見や驚きがあるのか今から楽しみです。

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2024年7月2日(火)~9月1日(日)
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日  月曜日(ただし7月15日、8月12日は開館)、7月16日(火)
入館料  一般1,200円、大学・高校生700円、中学生以下無料
展覧会の詳細、関連イベント等は同館ホームページをご覧ください⇒三井記念美術館 

※掲載した作品はすべて三井記念美術館蔵です。


気持ちを想像してみる


はじめに作品の中の人物に注目してみましょう。

中央に座っている人物は中国・唐時代の武将、郭子儀(697-781)。安史の乱を平定して功成り名を遂げた名将で、長生きをして、子供や孫に恵まれたので、立身出世、長寿、子孫繁栄などをあらわすおめでたい画題として好んで描かれました。

郭子儀の長寿の祝いに集まった子や孫たちの晴れやかな表情にこちらも心が和んできます。

「郭子儀祝賀図」円山応挙筆 江戸時代・安永4年(1775)


お花見で盛り上がるのは昔も今も同じ。
いい気分になって踊っている男女はとても楽しそう。でも、お酒を飲んでもあまりはめをはずさないようにという戒めのようにも見えてきました。

「花見の図」河鍋暁斎筆 江戸時代・19世紀


無表情な顔の人を「あの人は能面のような顔をしている。」と言いますが、能面には表情がないどころか激しい表情をあらわすものがあります。
重要文化財「能面 蛇(じゃ)」は、女性の激しい恨みや怒りの感情を表現したもので、般若よりされに獣性が増しているという怖い能面なのです。

重要文化財「能面 蛇(じゃ)」
室町時代・14-16世紀



音を聴いてみる


耳を澄ましてみると、動物や鳥、虫の鳴き声、雨や風、滝の音が聴こえてくる作品があります。

江戸中期に来日して長崎で活躍した中国の画家で、日本絵画に大きな影響を与えた沈南蘋の筆による「花鳥動物図(松樹双鶴図)」からは、波の音や鶴の鳴き声が聴こえてきそうです。
水平線の彼方に見える朝日と思われる赤色、松、そして鶴の親子。これもおめでたい作品ですね。


「花鳥動物図(松樹双鶴図)」沈南蘋筆
清時代・18世紀


画面左から右に強い風が吹いて、ゴーゴーという風の音が聴こえてきそうなこの作品は、襖の板を斜めに貼って、板目を強風に見立てるところがすごいです。
秋草だけでなく、飛び出してきた白兎も風に飛ばされているように見えてきます。

「秋草に兎図襖」酒井抱一筆 江戸時代・19世紀


香りを嗅いでみる


ある特定の香りからそれにまつわる過去の記憶が呼び覚まされる心理現象のことを「プルースト効果」というそうです。
これは、フランスの作家マルセル・プルーストの自伝的長編小説『失われた時を求めて』で、主人公が紅茶に浸したマドレーヌの香りに触れた瞬間、過去の記憶がよみがえってきたことからつけられたもので、五感の中でも嗅覚は直接、記憶を刺激するとされています。

菊の花がびっしりと描き込まれた蒔絵の高圷(「たかつき」 食物を盛る脚付きの台)が発する香りを想像してみると、どのような記憶がよみがえってくるでしょうか。

「菊尽蒔絵高圷」象彦(八代西村彦兵衛)製 大正時代・20世紀


「菊尽蒔絵高圷」象彦(八代西村彦兵衛)製 大正時代・20世紀


触った感触を想像してみる


美術館では実際に作品に触れることはできませんが、触った感触を想像してみると新たな発見があるかもしれません。

見るからにごつごつとした感触の花入の銘は業平。
業平とは平安前期の歌人で、美男子で知られ伊勢物語の主人公とされる在原業平のことですが、形にとらわれない姿が、放縦な人生を送った業平の生き方を連想させてくれます。


「伊賀耳付花入 銘 業平」桃山時代・16-17世紀

金属の質感が伝わってくるのが「姥口霰釜」。
姥口とは老婆の口のことで、口がすぼまっている形からこのように呼ばれています。表面には霰(あられ)のような小さな突起が並んでいるので、手に持ってもすべりにくくて、手触りもよさそうです。


「姥口霰釜」 与次郎作 桃山時代・16世紀

味を想像してみる


作品の味を想像してみるのも美術品を見る楽しみのひとつかもしれません。

「超絶技巧」で知られるようになった安藤緑山の作品は、近くで見ても本物のように見えますが、柿やナス、イチジクなどは象牙を彫って彩色したものなのです。


「染象牙果菜置物」 安藤緑山作 大正~昭和時代初期・20世紀



美術品として美術館に収蔵されている飲食器も、もとは普段の食事に使用されていたものです。雪中の笹が描かれた尾形乾山作の器には「私なら野菜の煮物を乗せて食べたいな」といったふうに想像してみると楽しいかもしれません。

「銹絵染付笹図蓋物」 尾形乾山作 江戸時代・18世紀


「銹絵染付笹図蓋物」 尾形乾山作 江戸時代・18世紀



温度を感じてみる


絵の中に描かれたモチーフを手がかりに、場所や季節、時間を読み解いていくと何が感じられてくるでしょうか。

右隻には日本風の海辺の松林、左隻には険しい山がそびえる中国風の山水画描かれた円山応挙筆の「山水図屏風」の前に立つと、心地よい潮風にあたっている気分になってきます。


「山水図屏風」(右隻) 円山応挙筆 江戸時代・安永2年(1773)


「山水図屏風」(左隻) 円山応挙筆 江戸時代・安永2年(1773)



日本美術を見るのに、フランスのマルセル・プルーストが出てるとは夢にも思いませんでした。これは全く異色の組み合わせですが、途中まで読んだ『失われた時を求めて』を最後まで読みたくなったから不思議です。

ぜひ五感を働かせて作品の新たな魅力や楽しみ方を発見してみませんか。
おすすめの展覧会です。