2024年6月7日金曜日

山種美術館 【特別展】犬派?猫派?ー俵屋宗達、竹内栖鳳、藤田嗣治から山口晃までー

東京・広尾の山種美術館では「【特別展】犬派?猫派?ー俵屋宗達、竹内栖鳳、藤田嗣治から山口晃までー」が開催されています。




今回の特別展は、江戸時代から現代までの犬や猫が描かれた可愛らしい作品が展示される展覧会なので楽しみにしていました。
遅ればせながら、先日、展覧会にお伺いしてきましたのでさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


会 期  2024年5月12日(日)~7月7日(日)
     *会期中、一部展示替えあり。
      前期5/12(日)~6/9(日)、後期6/11(火)~7/7(日)
     (展示替えのある作品には展示期間を記載しました。)
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
入館料  一般 1400円、大学生・高校生 1100円 
     中学生以下無料(付添者の同伴が必要) 
*各種割引、展覧会の詳細は山種美術館公式サイトをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/

※展示室内は、長沢芦雪《菊花子犬図》(個人蔵)、【重要文化財】竹内栖鳳《班猫》(山種美術館)に限りスマホ、タブレット、携帯電話でのみ撮影可です。
その他の作品は撮影禁止です。掲載した写真は美術館より広報用画像をお借りしたものです。


展示構成
 第1章 ワンダフルな犬
 第2章 にゃんともかわいい猫
 特集展示 トリ(最後)は花鳥画 


第1章 ワンダフルな犬

第1展示室の冒頭に展示されているのは、俵屋宗達《犬図》(個人蔵)。

江戸時代初期に京都で活躍した「琳派の祖」俵屋宗達は、国宝《風神雷神図》(京都・建仁寺)など金箔地の華やかな作品で知られていますが、《犬図》のように水墨のモノトーンな作品も落ち着いた雰囲気を醸し出していてとてもよい感じです。

何が気になったのでしょうか。振り向いた犬のしぐさがとってもキュート。
犬のブチ模様には、のちに琳派の代名詞ともなった、絵具の滲みを活かした「たらし込み」が見られます。

俵屋宗達《犬図》個人蔵 17世紀(江戸時代)


続いては江戸時代中期に京都で活躍した伊藤若冲《狗子図》(個人蔵)。
大胆なポーズの鶏を描いた若冲ですが、この子犬たちの姿もひとひねりきいているのが若冲らしいところといえるのではないでしょうか。少し首をもたげた手前の白い子犬はもちろん、後ろ姿しか見えない黒い子犬も前足や耳の様子から可愛さが伝わってくるようです。

伊藤若冲《狗子図》個人蔵 18世紀(江戸時代)


昨年末から今年初めにかけて山種美術館で開催された「【特別展】癒やしの日本美術ーほのぼの若冲・なごみの土牛ー」で展示されて大人気だった長沢芦雪《菊花子犬図》(個人蔵)にふたたびめぐり会えました。

今回は芦雪の師・円山応挙の《雪中狗子図》(個人蔵)も展示されているので、師弟の可愛さの表現の違いを見比べることができるのがうれしいです。

長沢芦雪《菊花子犬図》個人蔵
18世紀(江戸時代)

日本ではあまり見かけない洋犬が描かれた珍しい作品も展示されています。
左隻下のダックスフンド似の洋犬がいいアクセントになっていて、西洋人との交流が盛んに行われた桃山時代~江戸初期の雰囲気がよく伝わってくるように感じられました。

作者不詳《洋犬・遊女図屛風》個人蔵
17世紀(江戸時代)

描いた作品から近代日本画の大家たちが犬派か猫派かがわかるのもこの特別展の楽しみのひとつです。
川端龍子が描いたのは飼い犬のムク。
豪快な大作を描き、会場芸術を提唱した龍子が、飼い犬のノミ退治をしていたという愛犬家の一面を知って微笑ましく感じられました。

川端龍子《立秋》大田区立龍子記念館
1932(昭和7)年


神坂雪佳の描く犬は、明治~昭和前期にかけての工芸図案家の第一人者らしく単純明快。それでも子犬のモフモフとした毛並みや、好奇心いっぱいの子犬たちのひたむきさが伝わってくるから不思議です。

神坂雪花『百々世草』巻2より「狗児」芸艸堂
1909(明治42)年


第2章 にゃんともかわいい猫

竹内栖鳳が旅先の沼津で猫を見かけ、「徽宗皇帝の猫がいるぞ」と言って飼い主から譲り受けて描いた【重要文化財】《班猫》(山種美術館)は、すっかり山種美術館のアイドル猫として定着して、今回の特別展でも大人気。
徽宗皇帝とは、中国・北宋第八代皇帝の徽宗(1082-1135 在位1100-1125)のことで、政治には関心がなく、豪奢な生活をするために人民に重税を課したり、北方の女真族が建国した金の侵入を招き、北宋滅亡の原因を招いたりしましたが、文化・芸術を保護して自らも筆をとり国宝《桃鳩図》(個人蔵)に代表される花鳥画の名品を描き、書では痩金体という独自の書体を創始するなど、芸術面では高く評価されている皇帝で、近代日本画の画家にも大きな影響を与えました。

猫を見てただ単に可愛いと思うのでなく、栖鳳の《班猫》にまで徽宗の影響が及んでいることを知り、あらためて「徽宗おそるべし」と感じました。


竹内栖鳳《班猫》【重要文化財】 山種美術館
1924(大正13)年

猫といえばはずせないのは、江戸時代後期の浮世絵師で、多くの猫を飼い猫好きで知られた歌川国芳。
《山海愛度図会(さんかいめでたいずえ)》は、タイトルをすべて「~たい」で統一して全国の名産品を紹介するシリーズで、「ヲゝいたい」はこのシリーズで猫が登場する3枚のうちの1枚です。
猫の両前足からは爪が出て痛そうなのですが、猫を抱いている女性はうれしそうな表情をしています。きっと大の猫好きなのでしょう。

歌川国芳《山海愛度図会 七 ヲゝいたい 越中滑川大蛸》
個人蔵 1852(嘉永5)年 前期展示(5/12-6/9)


こちらは後期(6/11-7/7)に展示される歌川国芳《猫の当字 たこ》(個人蔵)。
猫で文字を描くという発想は猫好きでなければ思いつかないかもしれません。それに体の柔らかい猫でないとこんなポーズはとれないですよね。

歌川国芳《猫の当字 たこ》個人蔵
1842(天保13)年頃 後期展示(6/11-7/7)


「ここにも猫が描かれている!」とあらためて気付かされたのが、速水御舟《翠苔緑芝》(山種美術館)。
ついつい左隻の飛び跳ねるウサギたちに目が行きがちですが、右隻には何かをじっと見つめている黒猫がいました。

速水御舟《翠苔緑芝》山種美術館
1928(昭和3)年

江戸時代から始まった犬や猫の系譜は、現代まで続きます。

今を時めく山口晃さんの《捕鶴圖》(山種美術館)は、鶴と猫のお題で即興で描いた席画(宴会や集会の席上で注文に応じて即席に描いた絵)とのこと。
猫たちは鶴を捕まえて鍋にしようと相談しているのか、はたして鶴は捕まえられるのか。顛末が知りたくなる作品です。

山口晃《捕鶴圖》山種美術館
2014(平成26)年
撮影:宮島径 ©︎YAMAGUCHI Akira, Courtesy of Mizuma Art Gallery


茨城県の霞ケ浦にアトリエを構えてから猫と出会い、猫をテーマとした作品を多く描くようになった國司華子さんの《シリトリと三角とぐるぐる。》(作家蔵)はタイトルからしてミステリアス。中央にデンと構える猫が印象的です。


國司華子《シリトリと三角とぐるぐる。》作家蔵
2016(平成28)年



特集展示 トリ(最後)は花鳥画 

「私は犬派でも、猫派でもない。トリ派だ!」という方、ご安心を。
第2展示室には、展覧会初公開の菱田春草《柏二小鳥》(個人蔵)や、透き通るような白い羽が見事な上村松篁《白孔雀》(山種美術館)をはじめ近現代の作家による花鳥画の優品も展示されています。


ご自宅で犬や猫を飼われている方も、飼っていなくても動物好きな方も、どなたでも楽しめるおすすめの展覧会です!