東京・丸の内の静嘉堂@丸の内(明治生命館1階)では、特別展「たたかう仏像」が開催されています。
「仏像」というと、やさしいお顔をしていて、見ていると自然と心が和んで、思わず手を合わせたくなる、そんなイメージがありますが、今回の特別展は、鎧兜に身を固め、こわい顔をした「たたかう仏像」たちに会える展覧会です。
でも、こわいといってもたたかう相手は私たちではありません。私たちを護るためにたたかってくれる仏さまたちなのでご安心を。
それでは先日展覧会におうかがいしましたので、さっそく展示の様子をご紹介したいと思います。
展覧会開催概要
会 期 2026年1月2日(金)~3月22日(日)
前期 1月2日(金)~2月8日(日)
後期 2月10日(火)~3月22日(日)
※後期期間中に重文・十二神将像のみ一部展示替えがあります。
会 場 静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)
休館日 毎週月曜日(ただし、2月23日(月・祝)は開館)、2月1日(日・全館停電日)
2月24日(火)
開館時間 10:00~17:00※入館は閉館の30分前まで
*毎月第4水曜日は20時まで、3月20日(金・祝)・21日(土)は19時まで開館
*毎週木曜日はトークフリーデー
入館料 一般 1500円、大高生 1000円 中学生以下 無料
障がい者手帳をお持ちの方(同伴者1名無料) 700円
※展覧会の詳細、関連イベント等は静嘉堂文庫美術館公式サイトをご覧ください⇒https://www.seikado.or.jp
※出陳作品は全て公益財団法人 静嘉堂の所蔵です。
撮影条件 国宝《曜変天目》以外は撮影可。
*携帯電話・スマートフォン・タブレットのカメラは使用できます。
動画撮影・カメラでの撮影は不可。
展示構成
第1章 救済の最前線―たたかう仏像のさまざまな姿—
第2章 静嘉堂の仏像×俑
第3章 十二神将像と十二支の世界
ホワイエ 象徴から図像へ―刀に刻まれた仏―
展示室1の展示の冒頭でお出迎えしてくれるのは、目を大きく見開いて相手をにらみつける毘沙門天像と、六牙の白象に乗り、光条を発して前に進む普賢菩薩像でした。
| 右:毘沙門天像 左:重要文化財 普賢菩薩像 どちらも鎌倉時代 13世紀 前期展示 |
新年の恒例行事の一つに七福神巡りがありますが、七福神の中で唯一武装しているのが毘沙門天。それはなぜかというと、毘沙門天は四天王の一神としては多聞天と呼ばれ、須弥山中腹に住み、北方を守護しているので、甲冑を身に着け、怒った顔(忿怒の相)をしてにらみを利かせる役割を担っているからなのです。
そのお隣の普賢菩薩は穏やかな表情をしていますが、象の頭の上には、武器を持つ明王のような姿の「三化人」が描かれているのでお見逃しなく。
後期には、重要文化財《不動明王二童子像》と重要美術品《五大力菩薩像》が展示されます。下の写真でご覧のとおり、ごうごうと燃え盛る炎を背景に、倶利伽羅剣を持ち、眼光鋭い不動明王のものすごい迫力に圧倒されます。
今回の特別展では、「法華経」(『妙法蓮華経』)の内容を絵画化した《妙法蓮華経変相図》も大きな見どころのひとつです。
ゆるかわ系のかわいらしい仏さまたちが描かれたこの絵巻を見ていると、とてもなごんだ気分になってきますが、絵の中には熱心に布教する毘沙門天や普賢菩薩が描かれているので、ぜひ探してみてください。
展示室2でも、たたかう仏像たちの仏画が続きます。
ここで特に注目したいのは、初公開の《十一面観音菩薩坐像・春日厨子》です。
両手で持てるくらいの小さな厨子ですが、中には春日大社の景色とともに、武具を持ってにらみを利かす不動明王、愛染明王が詳細に描かれているので、その迫力が伝わってくるようです。
| 金胴十一面観音坐像・厨子のうち厨子 鎌倉時代 13世紀末~ 14世紀 通期展示 |
展示室2の仏画も前期後期で大幅な展示替えがあります。
後期に展示される作品のひとつは、狩野探幽の弟子、久隅守景が描いた重要美術品《釈迦十六善神像》。
画面の上方に太陽と月が描かれる例はあまりないとのことですが、おめでたさが感じられ、新年の床の間を飾るのにふさわしい作品ではないかと思えました。
中国・元時代の《十王図・二使者図》も、十二幅のうち前期に四幅、後期に四幅が展示されます。
昔の人たちは、亡くなった人たちが閻魔様らに裁かれる場面を見て、生きているうちに功徳を積まなくてと、現代の私たち以上に強く思ったのではないでしょうか。
| 重要美術品 十王図・二使者図のうち第五 閻魔王、第六 変成王、 監斎使者、直府使者(右から) 元時代 14世紀 前期展示 |
静嘉堂@丸の内の中で一番広い展示室3に移ります。
大きな展示ケースにずらりと展示されているのは、中国の後漢~西晋、北魏、唐、晩唐~五代の俑。これだけ中国の俑がならぶ壮観な光景は感動的でもあります。
| 「第2章 静嘉堂の仏像×俑」展示風景 |
俑とは、中国で死者とともに埋葬した人形(ひとがた)のことで、秦の始皇帝陵の兵馬俑や、唐代の三彩釉陶などがよく知られています。
展示をここまでご覧になって、「あれっ」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。「たたかう仏像」の展覧会なので、仏像彫刻を期待したのに、最初に出てきたのは仏画でした。仏画も仏像の絵画作品なのでまだわかりますが、ここでなぜ中国の俑なのでしょうか。
実はこれには理由がありました。
奈良時代以降、日本で作られた仏像の鎧は、唐時代の甲冑の影響を受けていたので、両者を見比べることができる展示になっているのです。
(詳しくは展示室内の解説パネルをご覧ください。)
確かに、鎧の形も、腰の獣面も、邪鬼が踏みつけられているところもよく似ています。
加彩鎮墓獣 唐時代 7世紀後半~8世紀 通期展示
展示室3の独立ケースに展示されている仏像はどれも個性的です。
如来坐像の両脇を固めるのは力士像二体。
筋骨隆々とした堂々とした体格の力士像が金剛杵を振りあげ、宝棒を地に着く姿はとても力強いのですが、体をくねらせているので、音楽に合わせてリズミカルに踊っているようにも見えました。
| 如来坐像・力士立像 晩唐~五代 10世紀 通期展示 |
日本では「兜跋」毘沙門天と呼ばれる、宝冠を被り、地天女に支えられた毘沙門天も展示されています。地天女は、もとは大地をつかさどるインドの女神なので、地天女がぐいっと持ち上げて毘沙門天がちょうど地中から登場してきた劇的な場面にも思えてきました。
| 兜跋毘沙門天立像 平安時代 10世紀末~11世紀 通期展示 |
頭上の獣頭はとぐろを巻く蛇のようなので巳(へび)神像にも見えるのですが、その姿勢は13世紀の仏教図像集『覚禅抄』に描かれる「世流布」(世に流布する)像の中の未(ひつじ)神像に近いとされている謎の十二神将像は初公開です。
運慶から湛慶を経て三代目と言われる康円作の《広目天眷属立像》は後期展示です。
奈良・天理市にあった真言宗の古刹で、江戸時代までは大伽藍を誇りましたが、明治の廃仏毀釈で全てが破壊されて、遺された寺宝も散逸してしまいました。
四天王の眷属像も、持国天眷属像と増長天眷属像は東京国立博物館、多聞天眷属像がMOA美術館に所属されています。
| 重要文化財 広目天眷属像 康円作 鎌倉時代 文永4年(1267) 後期展示 |
そして展示室4へ。
京都・浄瑠璃寺の薬師如来坐像に随侍していた十二神将の登場です。
この十二神将の特徴は何といっても、どの神将も若々しく生き生きとしていて、独特のポーズをとって、表情も豊かなことです。
こちらは前期と後期の前半(1/2-3/1)に展示される今年(2026年)の干支の《十二神将立像のうち午神像》です。
何かを考えている様子ですが、「さて、どうしたものか。」と思わずセリフを入れてみたくもなります。
| 《十二神将立像のうち午神像》 鎌倉時代 安貞2年(1228)頃 展示期間 1/2-3/1 |
十二神将は、現在は静嘉堂に7軀、東京国立博物館に5軀が分蔵されています。
今回は静嘉堂所蔵の7軀が期間を分けてすべて展示されるので、全7軀にお目にかかるチャンスです。
ホワイエには静嘉堂の名刀や槍が展示されているので、刀剣ファン必見です。
今回のテーマはたたかう仏像ですので、刀に施された毘沙門天や不動明王の彫刻にも注目したいです。
黒を基調として、楕円の窓から十二神将が顔を出すという、なんとも渋いデザインの図録も好評発売中。
ミュージアムショップにもぜひお立ち寄りください。