2022年10月20日木曜日

山種美術館【特別展】没後80年記念 竹内栖鳳

 東京・広尾の山種美術館では、【特別展】没後80年記念 竹内栖鳳 が開催されています。

展覧会チラシ
(「竹」と「鳳」の一画が猫の瞳の色と同じに
なっているのがアクセントになっています。)




今年は近代京都画壇を代表する日本画家・竹内栖鳳(1864-1942)の没後80年。
今回の特別展は、同館が所蔵する竹内栖鳳作品全26点をはじめ、個人蔵の初公開作品を含む初期から晩年までの作品全37点が出品される10年ぶりの回顧展になります。

あわせて、栖鳳の先人たちや、同時代に活躍した日本画家、栖鳳の弟子たちの作品を通して、江戸時代から昭和までの京都画壇の流れをたどることもできる盛りだくさんの内容の展覧会なのです。

それではさっそく展示室内の様子をご紹介したいと思います。

展覧会概要

会 期  2022年10月6日(木)~12月4日(日)
  ※会期中、一部展示替えあり。
  前期 10月6日(木)~11月6日(日)
  後期 11月8日(火)~12月4日(日)  
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日  月曜日
入館料  一般 1300円、大学生・高校生 1000円、中学生以無料(付添者の同伴が必要)
     障がい者手帳、被爆者健康手帳をご提示の方、およびその介助者(1名)一般1100
     円、上記いずれかのうち大学生・高校生900円
     ※きもの特典:きものでご来館のお客様は、一般200円引き、大学生・高校生
      100円引きの料金となります。
     ※複数の割引・特典の併用はできません。
     入館時のオンライン予約も可能です。詳細は山種美術館公式サイトをご覧くださ   
     い。

    お得な相互割引のご案内!
     下記チケットの提示で入館料を100円割引。
     *いずれも対象券1枚につき1名様、1回限り有効。
     *入館チケットご購入時に受付にご提示ください。購入後の割引はできません。
     *他の割引との併用はできません。
     *オンラインチケットは割引対象外。

展示構成
 第1章 竹内栖鳳
 第2章 栖鳳をめぐる人々
   京都画壇の先人たち
   同時代の画家たち
   栖鳳の弟子たち
 特集 国画創作協会-栖鳳が応援した画家たち- 

山種美術館公式サイト⇒https://www.yamatane-museum.jp/

※展示室内は《班猫》を除き撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。
※掲載した作品のうち、前期後期で展示替えがあるものはその旨を表記しました。


本展限り!《班猫》が撮影できます。

同館所蔵の竹内栖鳳作品の中でも特に人気があるのが、重要文化財《班猫》。
今回に限り特別に写真撮影ができます。
 ※撮影はスマートフォン・タブレット・携帯電話に限ります。

竹内栖鳳《班猫》【重要文化財】1924(大正13)年
山種美術館蔵

今回はモデルとなった猫の写真もパネル展示されていますので、ぜひ見比べてみてください!

「班猫チャレンジ」のお知らせ
    山種美術館では、《班猫》にちなんで、毛づくろいをする猫や、《班猫》そっくりな猫
 の写真を募集しています。
  すてきな投稿には山種美術館公式アカウントからリアクションがあるかもしれません。
 ぜひご参加ください!
 
  応募期間:~2022年12月4日(日)
  応募方法:TwitterまたはInstagramでハッシュタグ「#班猫チャレンジ #山種美術館」 
       をつけて投稿すれば応募完了です。


見どころ2 個人蔵の初公開作品はじめ、バリエーション豊かな栖鳳作品が見られます!

今回の特別展では、同館が所蔵する栖鳳作品全26点のほかに、東京国立博物館所蔵の《松虎》(前期展示)と、初公開10点(通期展示8点+後期展示2点)を含む個人蔵11点、全部で38点の作品が展示されます。

そして、《班猫》はじめ可愛い動物たち、国内や海外のさりげない風景、四季のうつろいを感じさせてくれる風物詩、そしてお釈迦様も描かれていて、あらためて栖鳳の画業の幅の広さを感じさせてくれる、バリエーションに富んだ内容になっています。

まずは初公開の個人蔵の作品から。

左から、竹内栖鳳《焦山猛乕》1904(明治37)年、
《釈迦出山図》《立雛図》どちらも1908(明治41)年、
いずれも個人蔵

《釈迦出山図》は、6年も山で修業しても悟りを得られず、憔悴しきって山を下りてきた釈迦の姿を描いた作品。

栖鳳が描いた道釈人物画(道教、仏教に関する人物画)を見るのは初めてでしたが、釈迦の衣のしわ、画面上部の枝ぶりなど、中国南宋の画家、梁楷の国宝《出山釈迦図》(東京国立博物館)を参考にしているのがよく分かります。
栖鳳の中国絵画学習の成果が伝わってくる作品です。

続いて、可愛い動物たち。

猫だけでなく鳥も、蛙も、どれもが可愛く描かれていて、栖鳳の動物たちを見る優しさが伝わってくるようです。

左から、竹内栖鳳《みゝづく》1933(昭和8)年頃、
《風かおる》1937(昭和12)年
どちらも山種美術館蔵 


竹内栖鳳《緑池》1927(昭和2)年頃
山種美術館蔵

下の写真右の《遊鹿》(個人蔵)では鹿の親子が可愛らしく描かれていますが、魚は・・・
「可愛い」ではなく、海から上がったばかりの新鮮で美しい姿が描かれています。


左から、竹内栖鳳《松魚》、《海幸》、《遊鹿》
いずれも1926-42年頃(昭和時代)、個人蔵


そして、動物画と並んで風景画も今回の特別展の見どころのひとつです。


右から、竹内栖鳳《城外風薫》、《潮来小暑》
どちらも1930(昭和5)年 山種美術館蔵

《城外風薫》は中国江南地方の蘇州を描いた作品。
水郷に囲まれ、古い街並みが残る蘇州は、にぎやかで見どころも多くて、とてもいい雰囲気の街でした。
この作品を見ていたら蘇州をはじめとした江南地方にまた行ってみたくなりました。

一見水彩画のように見える淡い色彩の風景画も味わい深いものがありますが、落ち着いた雰囲気の水墨山水の世界にも心を惹かれます。

右から、竹内栖鳳《晩鴉》、《水墨山水》どちらも1933(昭和8)年、
《雨中山水》1932(昭和7)年頃、いずれも山種美術館蔵


この作品のタイトルはそのものずばり《水墨山水》。
墨の濃淡とにじみで表現された世界が何ともいえない透明感を出しています。
小さいですが、画面左に描かれた橋を渡る人物の姿が印象に残りました。

竹内栖鳳《水墨山水》1933(昭和8)年、
山種美術館蔵


見どころ3 江戸から昭和にかけての京都画壇の画家たちの名作が見られます!

関東地方の美術館では京都画壇の画家たちの作品をまとめて見る機会はあまり多くないので、今回の特別展は、江戸時代から明治、大正、昭和にかけての京都画壇の名作を見ることができる絶好の機会です。

江戸時代中期以降、京都画壇の主流を占めたのは円山・四条派でした。

「京都画壇の先人たち」展示風景

円山応挙に学んだ森徹山が描く兎のふわふわした毛並みは、その後の栖鳳をはじめとした京都画壇の日本画家たちにも綿々と引き継がれていることが分かります。

森徹山《兎図》19世紀(江戸時代)
山種美術館蔵

栖鳳が師事した幸野楳嶺も円山・四条派の流れを汲む画家でした。
そして、栖鳳と並んで楳嶺門下の四天王と呼ばれた、菊池芳文、都路華香、栖鳳と同時代に活躍した山元春挙の作品も並んでいるので、それぞれの画家に共通するものと個性の違いを見比べてみることができます。

菊池芳文《花鳥十二ヶ月》1868-1918年頃(明治-大正時代)
山種美術館蔵 前後期で頁替あり



左から、都路華香《萬相亭》1921(大正10)年、
山元春挙《清流》1927-33(昭和2-8)年頃、《曠原放牧図》1916(大正5)年頃
いずれも山種美術館蔵


動物描写では師の栖鳳をしのぐといわれた西村五雲の《白熊》は、オットセイを捕らえる白熊の迫力ある姿を描いています。

画面からは、五雲が京都市動物園で初めて巨大な白熊を見た時の衝撃の強さが伝わってくるようです。

西村五雲《白熊》1907(明治40)年
山種美術館蔵

今回の特集は「国画創作協会-栖鳳が応援した画家たち-」。

第二展示室には国画創作協会創設時の中心メンバーで、栖鳳が教鞭をとった京都市立絵画専門学校の卒業生、土田麦僊、村上華岳、小野竹喬と、のちに同協会に加わった入江波光の作品が展示されています。

村上華岳が描いた「久遠の女性」を見ると、いつもうっとりしてしまいます。

村上華岳《裸婦図》【重要文化財】1920(大正9)年
山種美術館蔵

最後にご紹介したいのは、近代日本画界の東西の巨匠たちの合作《松竹梅》。
この作品は、日本橋・三越で開催された、当時の画壇を代表する日本画家6人による淡交会に出品されたもので、西の栖鳳、東の大観と並び称された東西の横綱と、栖鳳と同じく幸野楳嶺に師事したあと上京して橋本雅邦の門に入った川合玉堂という豪華メンバーの3人がそれぞれが梅、松、竹を描いています。

この中では、玉堂の《竹》に描かれた小鳥たちのしぐさの可愛さに特に心を惹かれました。

横山大観・川合玉堂・竹内栖鳳《松竹梅》
(右から川合玉堂《竹》、横山大観《松》、竹内栖鳳《梅》
1934(昭和9)年 山種美術館蔵


オリジナルグッズも、オリジナル和菓子も、関連イベントも盛りだくさん!

今回は《班猫》をモチーフにしたオリジナルグッズが充実しています。
「オリジナル班猫トートバッグ(税込み1,320円)は新発売!



山種美術館が所蔵する全26点の竹内栖鳳作品が収録された『山種美術館所蔵 竹内栖鳳作品集』(税込み1,100円)も新発売です。




オリジナル和菓子は今回もどれも美味しそう。
ランチメニューもあるので、美術館1階ロビーの「Cafe 椿」にぜひお立ち寄りください。


上の写真一番上から時計回りに、「蓮はな(村上華岳《裸婦図》【重要文化財】)」、「秋の風(竹内栖鳳《柿の実》)」、「ちとせ(西村五雲《松鶴》)」、「えびす鯛(竹内栖鳳《艸影帖 ・色紙十二ヶ月》のうち「鯛(1月)」)、「薫風(竹内栖鳳《風かおる》)」。
(カッコ内はモチーフにした作品。すべて山種美術館蔵)

高級美術複製画(彩美版®)第2弾が新発売!

山種美術館所蔵作品の高級美術複製画(彩美版®)の第2弾は、今回の特別展で展示中の上村松篁《白孔雀》。
ミュージアムショップにも飾られていて、案内パンフレットもいただけます。
ご自宅でも山種美術館所蔵作品をお楽しみください!



【オンライン講演会のお知らせ】

10月22日(土)14:00-15:30にはオンライン講演会が開催されます。

講師:小宮輝之氏(上野動物園 元園長・日本鳥類保護連盟 会長)
「日本画に描かれた動物たち-竹内栖鳳を中心に-」
講演会参加費 1,500円
アーカイブ視聴期間もあります。詳しくはこちらです⇒オンライン講演会

また、過去のオンライン講演会動画のアーカイブも販売中です。詳しくは同館公式サイトをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/


【公募展】Seed 山種美術館 日本画アワード 2024-未来をになう日本画新世代-

山種美術館では、日本画の新たな創造に努める優秀な画家の発掘と育成を目指し、
公募展「Seed 山種美術館 日本画アワード 2024」を開催します。
 詳しくは公募展のサイトをご覧ください⇒Seed 山種美術館 日本画アワード 2024

最後にうれしいお知らせ。

山種美術館がSNSイベント「Museum Week 2022」で『最も反響の大きい文化施設』第3位を獲得しました。

おめでとうございます!

展示も、オリジナルグッズも、関連イベントも、どれも盛りだくさんの展覧会です。
ぜひ会場にお越しください!

2022年10月11日火曜日

三井記念美術館 特別展「大蒔絵展-漆と金の千年物語」

東京・日本橋の三井記念美術館では、 平安王朝から現代まで、漆と金銀で彩られた雅やかな蒔絵の美の世界が見られる特別展「大蒔絵展-漆と金の千年物語」が開催されています。

展覧会チラシ

今回の特別展は、静岡のMOA美術館、三井記念美術館、愛知の徳川美術館の3館共同で開催されるもので、3館が所蔵する国宝、重要文化財を含む名品に加え、東京国立博物館やサントリー美術館ほかの逸品も展示されるという、まさに蒔絵の名品が大集結した「大蒔絵展」の名にふさわしい豪華版の展覧会です。

さらに、蒔絵の作品が年代順に並べられるだけでなく、関連する書跡、経典、屏風なども展示され、蒔絵が作られた時代の雰囲気も感じ取ることができる展示になっているのです。

それはさっそく展示室内の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2022年10月1日(土)~11月13日(日)
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
     ※会期中、展示替えを行います。
休館日  10月24日(月)のみ
観覧料  一般 1,300円 大学・高校生 800円 中学生以下 無料
展覧会の詳細、各種割引等は展覧会公式サイトをご覧ください⇒大蒔絵展-漆と金の千年物語

巡回展情報

静岡会場 2022年4月1日(金)~5月8日(日)  MOA美術館  終了しました。
愛知会場 2023年4月15日(土)~5月28日(日) 徳川美術館
     

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。

美術館ロビーのこのケース内の作品は撮影可です。
今回は特別展に合わせて蒔絵道具が展示されています。



展示構成
 第1章 源氏物語絵巻と王朝の美
 第2章 神々と仏の荘厳
 第3章 鎌倉の手箱
 第4章 東山文化-蒔絵と文学意匠
 第5章 桃山期の蒔絵-黄金と南蛮
 第6章 江戸蒔絵の諸相 
 第7章 近代の蒔絵-伝統様式
 第8章 現代の蒔絵-人間国宝

※解説パネルにQRコードがある作品は、スマホなどでQRコードを読み取ると展示では見えない作品の内部などを見ることができます。
今回の新しい取組みですので、ぜひトライしてみてください!




国宝、重要文化財の蒔絵の逸品が大集合! 

重厚な洋風建築の内装に囲まれて個別展示ケースが置かれているこのゴージャスな雰囲気の展示室1には、国宝や重要文化財をはじめとした平安から鎌倉、南北朝時代までの逸品が展示されています。

展示室1展示風景


中でも注目は、現存最古の絵巻、国宝「源氏物語絵巻」(徳川美術館)。
「源氏物語絵巻」は大規模修理後初めて「大蒔絵展」で公開されるもので、三井記念美術館が今回のリニューアルでLED照明に全面改修されたのと相まって、絵の中の調度品に描かれた「画中画」ならぬ「画中蒔絵」もくっきり見ることができるので、ぜひ近くでじっくりご覧いただきたいです(もしお持ちでしたら単眼鏡ご持参で)。

 国宝 源氏物語絵巻 宿木一(絵) 平安時代・12世紀 
徳川美術館 (10/1~9展示)

※国宝「源氏物語絵巻」(徳川美術館蔵)は期間限定展示です。

   国宝「源氏物語絵巻 宿木一」 10/1-9
   国宝「源氏物語絵巻 柏木一」 10/25-30
   
 上記以外の期間は、日本画家・田中親美の模本が展示されます。
 「源氏物語絵巻」の昭和10年当時の状態を現状模写したもので、本物と見間違えるくらい
 の素晴らしい出来の作品です。
 
 田中親美「源氏物語絵巻(模本)」上巻・下巻(徳川美術館蔵)
   下巻 10/10-23 上巻 10/31-11/13

空海が開いた高野山金剛峰寺が所蔵する国宝「澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃」には、燕子花(かきつばた)や沢瀉(おもだか)が咲く水辺に無数の千鳥が舞っていて、極楽浄土を思わせる幻想的な世界が描かれています。
貴重な国宝ですが、ありがたいことに通期展示です!

国宝 澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃 平安時代・12世紀 高野山金剛峯寺 
画像提供:高野山霊宝館

後期(10/25-11/13)には同じく高野山金剛峰寺が所蔵する重要文化財「花蝶蒔絵念珠箱」も展示されるので楽しみです。


時代とともに向上する蒔絵の技法

毎回メインの一品が展示される展示室2には、和歌山の熊野速玉大社所蔵の国宝「桐蒔絵手箱」(南北朝時代・14世紀)が展示されています。10月30日までの展示です。

展示室2展示風景 
国宝「桐蒔絵手箱」南北朝時代・14世紀 熊野速玉大社
展示期間:10/1-30

シックな照明やカーテンを背景に、金粉を一面に蒔いた手箱が燦然と輝いています。
鎌倉時代に蒔絵粉を造る技術が向上して、丸くてきれいな「丸粉」を造れることができたので、一層鮮やかな輝きを放つようになったのです。

この手箱に収められていた内容品は手前の展示室1に展示されているのであわせてご覧ください。

蒔絵と螺鈿のコラボが見事な鎌倉時代の逸品、国宝「浮線綾螺鈿蒔絵手箱」は後期に展示されます。

国宝 浮線綾螺鈿蒔絵手箱 鎌倉時代・13世紀 サントリー美術館 
(10/25~11/13展示)

展示室4に移ります。

展示室4展示風景

室町時代の蒔絵は、和歌や能を題材にした意匠が多く見られるのが特徴です。


重要文化財 砧蒔絵硯箱 室町時代・15世紀 
東京国立博物館 Image: TNM Image Archives (10/1~30展示)

銀を嵌め込んだ満月に照らされる秋草と枕。
そして、枕に描かれているのは、悪い夢を食べるとされている獏(ばく)。
獏は髙蒔絵という、レリーフのように盛り上げた技法で表現されています。

秋草や岩には文字が隠され、蓋の裏側には砧を打つ人物が描かれていて、この図柄や歌文字から『千載和歌集』の俊盛法師の歌があらわされています。
展示では蓋の下に鏡があるので、蓋の図柄も見ることができます。

展示室4「第4章 東山文化-蒔絵と文学意匠」展示風景
右が重要文化財「砧蒔絵硯箱」


桃山時代には、戦乱後の復興建設ラッシュで室内の調度品の需要も大きく増え、研出蒔絵のように乾燥に時間がかかるものでなく、黒漆の表面に金粉を蒔く平蒔絵など、時間のかからない技法で蒔絵の作品が大量生産されました。

「高台寺蒔絵」といわれ、秋草などの大ぶりの柄が特徴で、表にも側面にもあちこちに蒔絵が描かれるものが流行しました。

重要文化財 秋草蒔絵歌書簞笥 桃山時代・16世紀 高台寺
 (10/1~23展示)


京都における豊臣秀吉の居城・聚楽第を描いた「聚楽第図屏風」(三井記念美術館 通期展示)も展示されているので、聚楽第の中でも蒔絵の調度品が多く使われていたのではと想像しながら桃山時代の新しい息吹を感じることができました。

展示室4「第5章 桃山期の蒔絵-黄金と南蛮」展示風景

桃山時代のもう一つの特徴は、西洋から来日したキリスト教宣教師や商人に人気を博した、華やかな図柄の蒔絵が全体に描かれた祭礼具や家具で、「南蛮漆器」と呼ばれ多くが海外に輸出されました。

こちらも「南蛮人渡来図屏風(左隻)」(MOA美術館 通期展示)が並んで展示されているので、西洋と東洋の文化が邂逅する様子が伝わってくるようでした。

展示室4「第5章 桃山期の蒔絵-黄金と南蛮」展示風景

順番が前後しましたが、国宝の茶室「如庵」を再現した展示室3は、いつもの侘び寂びの世界とは様相が異なり、室町時代の蒔絵とコラボした華やかな能のしつらえ。

展示室3展示風景

二代将軍・徳川秀忠の娘・和子が後水尾天皇のもとに女御として入内(じゅだい)した時の行列が描かれた重要文化財「東福門院入内図屏風(左隻)」(三井記念美術館 通期展示 上の写真後方)も展示されているので、展示室4に展示されている江戸時代の御用蒔絵師・幸阿弥長重の婚礼調度の作品(下の写真)とあわせて華やかな雰囲気を感じとることができます。

展示室4「第6章 江戸蒔絵の諸相」展示風景


続いて、琳派や江戸の名工たちの世界が広がる展示室5へ。

展示室5「第6章 江戸蒔絵の諸相」展示風景

東京国立博物館でも人気の尾形光琳作・国宝「八橋蒔絵螺鈿硯箱」は前期(10/1-23)展示です。

国宝 八橋図蒔絵螺鈿硯箱 尾形光琳作 江戸時代・17~18世紀
 東京国立博物館(10/1~23展示)

加賀・前田家の御用蒔絵師、五十嵐道甫作と伝わる江戸時代初期の名品、重要文化財「秋野蒔絵硯箱」も前期展示(10/1-23)です。

三日月に照らされる秋の草花を、金髙蒔絵、金銀の切金、螺鈿、珊瑚などを用いて描いた豪華な硯箱。
展示室では蓋の下に鏡を置いて展示されているので、蓋の裏に描かれた山水図も見ることができます。


 重要文化財 秋野蒔絵硯箱 伝 五十嵐道甫作 江戸時代・17世紀
 (10/1~23展示)



人々の暮らしに広まる蒔絵の文化

18世紀以降には、高価だった蒔絵も印籠、櫛や簪(かんざし)、盃などの庶民の日々の暮らしに使う小品にも広まってきました。

浮世絵と並んで印籠や櫛などが展示されているのは展示室6。
浮世絵の女性は、髪に蒔絵で図柄が描かれた櫛をさしています。

この展示室6は、作品との距離が近く、印籠などに細かく描かれた図柄もよく見ることができるので、いつもありがたく思っています。

展示室6「第6章 江戸蒔絵の諸相」展示風景

江戸時代後期に流行したのが、蒔絵師・原羊遊斎と酒井抱一のコラボ作品。
酒井抱一の掛軸(「藤蓮楓図」MOA美術館 通期展示)が、今でいう「人気ブランド」の箱や盃に色を添えています。

展示室7「第6章 江戸蒔絵の諸相」展示風景


近代から現代へ、脈々と生き続ける蒔絵の美の世界

明治に入ると、政府の殖産興業政策のもと、欧米への輸出用に蒔絵の制作が行われるようになり、帝室技芸員制度が美術工芸作家の保護と制作奨励を支えました。

展示室7「第7章 近代の蒔絵ー伝統様式」展示風景



幕末・明治期の漆の代表的な名工、柴田是真の作品も展示されています。

五節句蒔絵手箱 柴田是真作 江戸~明治時代・19世紀 サントリー美術館
 (10/1~23展示)


フィニッシュは、昭和30年代から平成にかけての蒔絵の作品。

展示室7「第8章 現代の蒔絵-人間国宝」展示風景

今回の展覧会での最新作はこちら。
中はオルゴールになっていて、展示室では蓋を開けた状態で展示されているので、中の構造まで見ることができます。

 蒔絵螺鈿丸筥「秋奏」 室瀬和美作 平成29年(2017) ポーラ伝統文化振興財団


ミュージアムショップも秋色一色!

巡回する3館全体の作品がオールカラーで紹介されていて、作品や蒔絵の技法などの丁寧な解説も収録されている『展覧会公式図録』や、蒔絵の図柄のマグネットなど展覧会オリジナルグッズも充実しています。
現代作家さんたちの蒔絵の作品も販売中!

ミュージアムショップ

展覧会は11月13日まで。展示替えもあります。
平安時代から現代まで脈々と続く日本の伝統の美の世界をぜひお楽しみください!

2022年10月3日月曜日

すみだ北斎美術館 企画展「北斎ブックワールド-知られざる板本の世界-」

すっかり暑さもやわらいで秋らしい日々が続くようになってきました。
秋といえば、芸術の秋、読書の秋。
そんな時期にぴったりの展覧会、企画展「北斎ブックワールド-知られざる板本の世界-」が東京墨田区のすみだ北斎美術館で開催されています。


3階ホワイエのフォトスポット

今回の企画展は、北斎や門人たちによって描かれた板本の魅力に迫る展覧会。

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。

展覧会概要


会 期  2022年9月21日(水)~2022年11月27日(日)
 前期:9月21日~10月23日
 後期:10月25日~11月27日
開館時間 9:30~17:30(入館は17:00まで)
休館日  毎週月曜日
     ※開館:10月10日(月・祝)、休館:10月11日(火)
会 場  3階企画展示室
観覧料  一般 1,000円 高校生・大学生 700円 65歳以上 700円
     中学生 300円 障がい者 300円 小学生以下 無料
 ※観覧日当日に限り、AURORA(常設展示室)、常設展プラス「隅田川両岸景色図巻(複製
  画)と北斎漫画」もご覧になれます。
  常設展プラスには「隅田川両岸景色図巻(複製画)」が展示されていて、北斎の絵手本の
  レプリカを手に取って読むことができる<『北斎漫画』ほか立ち読みコーナー>もあり
  ます。

 ※展覧会の詳細、関連イベント、新型コロナウイルス感染症対策等は同館公式HPをご覧
  ください⇒すみだ北斎美術館

展示構成
 序章 板本の中の板本をよむ人々
 1章 板本の基礎知識
 2章 板本に関するトピックス
 3章 所蔵者・読者の痕跡
 4章 板本の優品

※3階の企画展展示室、4階の常設展プラス展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館より特別に許可をいただいて撮影したものです。
※3階ホワイエのフォトスポット、高精細複製画は撮影可。4階AURORA(常設展示室)内は一部を除き撮影可です(いずれもフラッシュ、三脚(一脚)の使用は不可。)

3階ホワイエの高精細複製画(撮影可です)




序章 板本の中の板本をよむ人々

冒頭に展示されているのは『北斎漫画』八編。

左のページ中段には、座って熱心に板本を読んでいる男女の姿が見えます。
江戸時代の日本は世界的に見ても識字率が高かったと言われていますが、本を読むことはタバコを吸ってくつろいだり、昼寝をしたりするのと同じくらい日常的な光景だったのかもしれません。

『北斎漫画』八編(すみだ北斎美術館蔵)
通期展示


1章 板本の基礎知識

この章では、巻子本(かんすぼん)、折本(おりほん)、袋綴(ふくろとじ)といった本の装訂の変遷や、紙の質、板本の各部の名称などが紹介されています。

「1章 板本の基礎知識」展示風景


江戸時代にも再生紙を利用していたり、原稿用紙のように紙の中央の折り目部分にある三角形の印は「魚尾(ぎょび)」というなど、初めて知るようなことばかり。
丁寧な解説を読みながら、板本の知識を楽しく知ることができました。

右から、葛飾北斎『名誉美談 青砥藤綱仁政録』前帙一(すみだ北斎美術館蔵)、
葛飾北斎『青砥藤綱摸稜庵』巻之一(個人蔵) 以上は通期展示
市川甘斎『葛飾真草画譜』下(すみだ北斎美術館蔵) 頁を替えて通期展示


2章 板本に関するトピックス

板本の基礎知識に続いて、この章では北斎や門人たちが板本のために工夫した絵画表現や初摺と後摺の比較などが紹介されています。


描かれた化物が匡郭(きょうかく=本文を囲む枠)をはみ出していたり、上部の匡郭を無くして奥行きを表現したり、匡郭を絵の一部に組み込んだり、ドラマチックな展開の物語の挿絵はこうでなくっちゃ、という迫力いっぱいの表現はこちら。

左から、蹄斎北馬『千代曩媛七変化物語』巻之五、葛飾北岱『忠兵衛梅川赤縄
奇縁伝 古之花双紙』、蹄斎北馬『田村物語』巻之弐
いずれもすみだ北斎美術館蔵、通期展示

次のページをめくると何が飛び出してくるのかと、当時の読者のわくわくしながら読んでいた気持ちが伝わってくるようです。


ページをめくりながら隅田川の両岸のカラフルな景色が楽しめるのは葛飾北斎『絵本隅田川 両岸一覧』上。
同じ上巻を3冊並べて見開き3ページ分の図柄が見られるように展示されています。

葛飾北斎『絵本隅田川 両岸一覧』上(すみだ北斎美術館蔵)
頁を替えて通期展示


下の写真右が狂歌本『東遊』、左が『東遊』の北斎の挿絵のみを集めて色摺りにして出版された3冊本『画本東都遊』のうち下巻。

挿絵とは本文に付随するものなのですが、挿絵だけが集めてられて一冊の本になってしまうというのは、さすが北斎!
(私もどちらか一つを買うとなると、挿絵だけのカラーの方がほしいです。)

右から 葛飾北斎『東遊』、『画本東都遊』下
どちらもすみだ北斎美術館蔵
 頁を替えて通期展示

今ではあってはならないことなのですが、著作権という考えがなかった当時は、人の作品を盗用しようが何しようが売れればいいという時代。

下の写真は、右が本物、左が図柄を盗用したもの。
こういうものが出回るというのは、やはりそれだけ北斎の人気がすごかったということなのでしょう。

右から、葛飾北斎『北斎漫画』八編、絵師不詳『絵合たのしみ草』
どちらもすみだ北斎美術館蔵、通期展示


3章 所蔵者・読者の痕跡

この章では、所蔵者や読者による書き込みなどの痕跡が紹介されています。


「3章 所蔵者・読者の痕跡」展示風景

所蔵者が所蔵印を押したり、コメントを書き込むのはわかりますが、貸本屋が所蔵していたものには、読者によって悪役の顔が擦り潰されていたり、作品の批評が書き込まれていたりするものや、「落書きしないように」という貸本屋の注意書きが書かれているものもありました。

図書館で本を借りる側としては、落書きなんてとんでもないと思い、貸本屋さんを応援したくなりますが、江戸時代にも今と同じような貸す側と借りる側の攻防があったのですね。


4章 板本の優品

この章では、褪色が少なく鮮明な色のまま伝えらえた多色摺の本や、初公開の希少本などが紹介されています。

「4章 板本の優品」展示風景

中でも特に必見なのが、魚屋北溪の『三都廼友会』(前期展示)と『得吉方廼瀧』(後期展示)。

こちらは展覧会オリジナルリーフレットの画像。
上が前期展示の『三都廼友会』、下が後期展示の『得吉方廼瀧』(どちらもすみだ北斎美術館蔵)。

『三都廼友会』の月が照らす波の表現に銀摺が用いられていて、『得吉方廼瀧』の空の雲は金摺、川の波は銀摺で表現されているという超豪華版。



他にも板本に関する用語の解説や、初摺や後摺の違いなどをオールカラーで紹介したオリジナルリーフレットは1階ミュージアムショップで販売中(税込300円)。
下の写真右の青い表紙が目印です。

ミュージアムショップ

ミュージアムショップでは、今回の企画展に合わせて『北斎漫画』ほかの豆本を販売中。
豆本は小さいながらも細部まで精巧に再現されていますので、見本のページをめくってご覧ください。手前には虫メガネも用意されています。

ミュージアムショップ


北斎の時代にタイムスリップした気分で板本の世界が楽しめる展覧会です。
ぜひお楽しみください!