2018年4月6日金曜日

第4次メルケル内閣はどこへ向かっていくのか?(1)

「選挙に負けて連立交渉に勝ったSPD」

3月14日に発足した第4次メルケル内閣の政党ごとの大臣ポストの割り当てを見て、ふと、こういったフレーズが頭の中に浮かんできた。

全部で15ある大臣ポストの配分は、CDU 6、SPD 6、CSU 3。
連邦議会での議席数は、ともに議席数を減らしたCDUが200(-55)、CSUが46(-10)、そして「歴史的な敗北」を喫したSPDが153(-40)なので(カッコ内は前回2013年選挙時との比較)、この三党の議席数を見ると、大臣ポストの配分は明らかにバランスを欠いている。
それに大臣ポスト数だけではない。財務相、外務相といった主要ポストまでSPDが占めることになった。

昨年9月24日の連邦議会選挙の敗北を受けて当時のシュルツSPD党首は、「大連立は組まない!SPDは野党になる!」と宣言したが、CDU/CSU、FDP、緑の党によるジャマイカ連立交渉の決裂後、SPDはCDU/CSUとの連立交渉のテーブルに着き、首相になることにこだわり続けたメルケル氏の足元を見透かして、見事に実をとった形になった。

どうにか首相の座を確保したメルケル氏だが、CDU内部からも「妥協しすぎ」との批判が出て、党内での求心力が低下している中、今後どのようなかじ取りをしていくのだろうか。
第4次メルケル内閣の顔ぶれを見ても必ずしもメルケル氏の政策に好意的でない政治家が入閣しているので、メルケル首相がどうバランスをとっていくのか興味深いところ。
ちょうどZDF”Heute"に各大臣の紹介記事が掲載されていたので、ここで紹介してみたい。政府の公式プロフィールと違って、所々スパイスが効いているので、そのニュアンスを活かしながら簡潔に訳してみた。(カッコ内は筆者の補足)。

(顔写真はこちらをご参照ください。)
  第4次メルケル内閣の顔ぶれ

新メルケル内閣の新しい大臣の顔ぶれ

財務相兼副首相  オーラフ・ショルツ(Olaf Scholz) SPD 59
  前ハンブルク市長(ハンブルクは都市州なので州首相に相当)
 CDU/CSUの政治家からも財政健全化策のさらなる推進を期待されている。ハンブルク州内務相、連邦労働相を歴任、2011年からハンブルク市長、と政治経験は豊富。
外相 ハイコ・マース(Heiko Maas)  SPD  51歳 
  前司法相。ガブリエル前外相は「彼なら素晴らしいことをやってくれるだろう。」とコメント。2013年にザールラント州経済労働相から連邦司法相に就任。法律学者。
経済相 ペーター・アルトマイヤー(Peter Altmeier) CDU 59歳
  前首相府長官。メルケル首相の信任が特に厚い。今後はエネルギー政策のかじ取りも担うことになる。
内務相 ホルスト・ゼーホーファー(Horst Seehofer) CSU  68歳
  前バイエルン州首相。今後は住宅部門と地域振興(※)も担当することになるが、内務省が肥大化するとの批判も。
法務相 カタリナ・バーレイ(Katarina Barley) SPD  49
  家庭相から法務相へ。法曹界では弁護士、裁判官、続いてラインラント=プファルツ州司法省の担当官を歴任。
首相府長官 ヘルゲ・ブラウン(Helge Braun) CDU  45歳
  表舞台に出ることはあまりなかったが、首相府では知られた顔。首相府では連邦と州の調整を担当する政務次官で、特に州間財政調整と難民危機を担当。
家庭相 フランツィスカ・ギフィ(Franziska Giffy) SPD 39
2015年からベルリン・ノイケルン区長。「地方自治の源泉は現場を見ること。」がモットー。前任のハインツ・ブシュコフスキーのもとで同区の欧州委員を経験。フランクフルト・アン・デア・オーデル出身の政治学者。
労働相 フーベルトゥス・ハイル(Hubertus Heil SPD  45
  SPD院内副総務。2005年から2009年まで党幹事長。1350億ユーロ(17.55兆円)の予算を受け持ち、年金改革を担当する。政治学者。1998年からSPDの連邦議会議員。
農業相 ユリア・クレックナー(Julia Klöckner) CDU 45歳
  ラインラント・プファルツ州のCDU党首。2009年から2011年まで農業省の政務次官。今回は大臣として農業省を所管する。
交通相 アンドレアス・ショイヤー(Andreas Scheuer) CSU  43歳
  交通相としてディーゼル・スキャンダルに取り組まなくてはならない。交通分野は初めてではなく、2009年から2013年まで交通省政務次官を務めた。
CSU幹事長としてメルケル首相の難民政策を強く批判している。
国防相 ウルスラ・フォン・デア・ライエン(Ursula von der Leyen) CDU 59歳
  国防軍の装備不足を批判されても国防相に留まった。2005年からメルケル内閣で家庭相、労働相を歴任。
保健相 イェンス・シュパーン(Jens Spahn) CDU 37
  メルケル首相は党内のもっとも批判的な議員を内閣に迎え入れた。CDUの保守的路線を主張する政治学者。前財務相政務次官。
環境相 スベンニャ・シュルツェ(Svenja Schulze) SPD 49
  約20年、ノルドライン・ヴェストファーレン州の政治に携わっていた。2010年から7年間、同州の教育相。同州の教育無償化を実現。その後、同州のSPD幹事長。
教育相 アーニャ・カルリチェック(Anja Karliczek) CDU 41歳
  新閣僚の中ではおそらくもっとも表舞台に顔を出していない。2013年から連邦議会議員。昨年からCDU/CSUの院内総務。彼女の教育相への任命は多くの人にとってサプライズ。
経済協力・開発相 ゲルト・ミュラー(Gerd Müller) CSU   62
  フォン・デア・ライエン国防相と並んで二人目の留任。1994年から連邦議会議員。経済協力・開発相として、難民の原因を抑えることに取り組まなくてはならない。いわゆる「アフリカ版マーシャルプラン」を提唱。

(※)ドイツ語ではHeimat。Heimatは、故郷、故国といった意味であるが、今まで連邦政府にはHeimatを所管する省がなく、実際に何を所管するのかはっきりしていない。手がかりとしては、ゼーホーファー内務相の故郷(Heimat)バイエルン州の財務省。同省は地域開発と”Heimat”も所管していて、主な業務は、ITのインフラ整備、地域振興のため官庁支所の設置、地域の土地政策、地域の文化保護とあるので、とりあえず「地域振興」と訳した。

メルケル首相が警戒しなくてはならないのは、主要ポストを押さえて自分たちの政策の実現を進めようとするSPDだけでない。
CDUの姉妹政党CSUも、今年の秋にバイエルン州議会選挙を控えていて、AfDがこれ以上票を伸ばすのを許すわけにはいかない。移民や難民に対して批判的な声が大きくなる中、CSUがメルケル首相の寛大な難民政策を阻止することは予想に難くない。

さて、このようにようやく成立したものの、連立内にも火種をかかえた第4次メルケル内閣はどこへ向かっていくのだろうか?

次回は、この第4次メルケル内閣を有権者がどう受け止めているのか見ていきたい。
(次回に続く)

2018年3月1日木曜日

泉屋博古館分館「生誕140年記念特別展 木島櫻谷」ブロガー内覧会

東京・六本木にある泉屋博古館分館では2月24日(土)から「生誕140年記念特別展 木島櫻谷」が始まりました。

木島櫻谷(このしま おうこく 1877(明治10)年~1938(昭和13)年)は明治から昭和にかけて活躍した京都の画家で、今回の展覧会は、没後70年の4年前に開催された第1回目に続いて2回目の木島櫻谷展です。
前半は櫻谷が得意とした動物画、後半は住友家の茶臼山本邸の大広間を飾るために制作された《四季連作屏風》をはじめ近代花鳥画、と二段構えの構成になっています。

2月24日(土)~4月8日(日) PartⅠ 近代動物画の冒険 
4月14日(土)~5月6日(日) PartⅡ 木島櫻谷の「四季連作屏風」+近代花鳥図屏風尽し

  展覧会の詳細は、泉屋博古館の公式サイトをご覧ください。
  ゲスト・トークや野地分館長のトークも開催されます。



さて、さっそくですが、先日開催されたブロガー内覧会に参加しましたので、まずは動物画の世界の魅力をご紹介したいと思います。
※掲載した写真は美術館より特別に撮影の許可をいただいて掲載したものです。

今回の展覧会の注目作品
《寒月》(京都市美術館)

展示は木島櫻谷の年代を追って、画風の変化がわかる構成になっています。

Ⅰ 青年のころ
Ⅱ 壮年のころ
Ⅲ 暮年のころ

今回ご案内いただいたのは、京都にある泉屋博古館本館の実方(さねかた)学芸課長。

「晩年は京都郊外の自宅にこもり、没後は『忘れられた画家』でしたが、4年前に開催した第1回の木島櫻谷展が好評で、その後、新たな作品情報が寄せられたことがきっかけとなって生誕140年にあらためて開催することになりました。」と実方さん。

実方さんのギャラリートークはとても丁寧でわかりやすい解説でした。
以下、実方さんのご案内で会場内をめぐってみましょう。

初めは、展示作品のほとんどが初公開という第1室から。
「《野猪図》(下の写真右)は、櫻谷の制作年代がわかる最初の作品です。猪は幕末から描かれていて、円山応挙以来の写生に基づく生物の伝統を受け継いでいます。」
「みどころは『毛かき』です。猪の毛を一本一本丁寧に描き、風にたなびく毛も表現しています。四条円山派の流れを汲む今尾景年に学んだ櫻谷は、20歳代前半からこれだけの技量を身につけていたのです。」
「《猛鷲図》は、27歳の時の作品で、京都の老舗染織商・千總(ちそう)が製作したタペストリーの原画で、今まで原画は京都画壇の重鎮に依頼されていましたが、この時は弱冠26歳の櫻谷が抜擢されました。」
「落ち葉が舞う中、今にも飛び立とうとする鷲を描いているダイナミックな構図ですが、左の翼の先端を見てください。右上から光を受けているように見えますが、これは西洋絵画的な光を感じさせる描き方で、こういうところに西洋絵画の影響が感じられます。」

右《野猪図》(個人蔵)、左《猛鷲図》(株式会社千總)
「櫻谷は奈良にもよく写生に出かけました。《初夏・晩秋》は、右隻が初夏、左隻が晩秋を描いていて、季節感とともに空気の表現も表しています。」
「写生とはいえ、鹿の目がかわいいのが櫻谷らしい味付けですね。」

《初夏・晩秋》(京都府(京都文化博物館管理))
「《寒月》は、月夜に明かりを探りながら出てきた狐を描いています。」
「雪の鞍馬で獣の足跡を見たとき、『これは孤独な飢えた狐の足跡に違いない』と思ったのがこの作品を描くきっかけでした。」
「櫻谷は動物園に行って狐の写生をしましたが、動物園の狐はみな満腹でまるまるとしていたので、飢えた狐を描くのに苦労した、と言ったそうです。」
「竹の青は群青を使っていますが、群青を焼いて黒っぽくして重ね塗りをしています。」
「空のグレーはどういった顔料を使ったのかわからず、いまだに謎です。薄墨ではこのような光沢感が出ません。」

《寒月》(京都市美術館)(再掲)
さて、ここでユニークな展示品を紹介しましょう。
「櫻谷文庫からお借りしてきたものですが、こちらは《青のトランク》とよばれていて、青と緑の天然の岩絵具の瓶が入っていています。さまざまな色合いの青が入っていて、櫻谷の青へのこだわりを感じさせてくれます。」
「このトランクだけはカギがかかるようになっています。当時、群青は高価だったからでしょう。」

《青系絵具のトランク》(櫻谷文庫)
「今回の見どころの一つは写生帳です。画家の生の息吹が感じられます。」



そして、写生帳の展示の中にまざって展示されているのは、なんと京都市立紀念動物園の年間パスポート!
小さくて見逃してしまいそうですが、ぜひご覧になってください。
写生を重んじた櫻谷らしいですね。


第1室最後に紹介する作品は《獅子虎図屏風》。
「こちらは明治37年の作品。虎や獅子は古くから想像で描かれてきましたが、この時期には本物が見られるようになりました。京都の動物園にはライオンはいなかったので、櫻谷は大阪まで出かけて写生したそうです。」
「獅子の顔をご覧になってください。ペインティングナイフで塗ったような質感が感じられます。当時、洋画家の浅井忠が京都に住んでいたので影響を受けたのかもしれません。晩年には穏健になった櫻谷ですが、この時代の櫻谷は冒険的な試みをしていました。」
「櫻谷には、夏あるいは7月といった落款がある作品が多いのですが、祇園祭に向けて町衆たちからの注文制作が多かったからかもしれません。」

祇園祭の宵々山、宵山のあたりに新町通や室町通を歩いていると、町屋の戸が開いていて、中をのぞくと薄明かりの光がさす部屋に屏風がさりげなく飾られているといった光景を見ることがあります。
そう思いながら屏風の作品を眺めていると、どこからともなく祇園祭のお囃子の音が聞こえてくるような気になってきます。

《獅子虎図屏風》(個人蔵)

第1室と第2室をつなぐホールに展示されているのは《熊鷲図屏風》。
「熊の毛は一本一本でなく、『割筆(われふで)』という技法で描き、熊らしくしガサガサとした質感を出していますが、耳をそばだてて遠くを見つめているような顔は、知性すら感じさせられます。」
「熊は幕末から画題に取り上げられ、たいていは猛々しく描かれていましたが、櫻谷の描く動物は、どこか人間臭く、感情移入したくなるような姿に描かれていないでしょうか。」

《熊鷲図屏風》(個人蔵)

続いて第2室へ。
「30歳の時、櫻谷にとって大きな出来事がありました。第一回文展に出展した《しぐれ》が日本画部門で最高賞を取ったのです。以後、櫻谷は一躍「文展の寵児」になりました。」
「《かりくら》は櫻谷34歳の時の作品で第4回文展に出展されたものです。長い間行方がわからず探し求められていましたが、4年前、櫻谷文庫の片隅に表装もされずに竹ざおに巻かれているのが見つかりました。絵具の剥落など深刻な状態でしたが、住友財団が2年かけて修復し、今回初公開されることになりました。」

《かりくら》が見つかった時の写真は作品の解説パネルにありますので、ぜひご覧になってください。

「《かりくら》の前に立つと、目の前に馬が勢いよく飛び出してくるかのように見えないでしょうか。」
「この作品の2年後に《寒月》を描いていて、この頃から櫻谷は色彩への関心に舵を切っていきました。」

第2展示室風景
右が《田舎の秋》(華鴒大塚美術館)
奥が《かりくら》(櫻谷文庫)

左から《雪径駄馬》《渓上春色》(いずれも華鴒大塚美術館)、
《葡萄栗鼠》(個人蔵)、《幽渓秋色》(泉屋博古館分館)

「40歳代後半から櫻谷は、公的な仕事から身を引いて、京都郊外・衣笠の自宅にこもるようになりました。この頃、大作は減りましたが、情感を込めた小さな作品を描いています。」
「《獅子》は、茶色や墨を丹念に塗り重ねて描いた作品で、若いころ描いた獅子のように立ち姿ではなく、雄々しさはありませんが、顔に注目してください。人間の顔のようにも見えますが、こんな顔のライオンはいないのではないでしょうか(笑)。」
「老いたライオンのようにも見えますが、それは櫻谷自身を重ねているのかもしれません。」
「写生はきちんとしているのですが、この作品のように、あえてそのまま描かないのが櫻谷らしいところです。」
中央が《獅子》、右が《雁来紅に猫》(いずれも櫻谷文庫)、
左が《角とぐ鹿》(京都市美術館)
「櫻谷は、猫や狸を好んで描きました。狸はきれいでも、縁起物でもなかったので、もともと絵にならなかったのですが、衣笠の自宅近くには狸がうろうろしていたのでしょうか。」

右が《月下遊狸》(泉屋博古館分館)、《竹林老狸》(個人蔵)
《鶏》、《遅日》(いずれも個人蔵)

最後に京都にある櫻谷文庫(木島櫻谷旧邸)のご案内がありました。


3月3日(土)から4月1日(日)までの間の金土日祝に特別公開されるとのことです。
「ガラス越しでなく作品を見ることができるいいチャンスです。」と実方さん(拍手)。

さて、「木島櫻谷展PartⅠ 近代動物画の冒険」はいかがだったでしょうか。
どの動物も生き生きと描かれていて、とても素晴らしい内容の展覧会です。
ぜひとも会場で、作品をじっくりご覧になっていただければと思います。

2018年2月12日月曜日

三菱一号館美術館「ルドン-秘密の花園」展

東京丸の内の三菱一号館美術館では「ルドン-秘密の花園」展が開催されてます。

ライトアップされてオシャレな外観


ルドンというとやはり思い浮かべるのは、幾種類もの草花が花瓶からあふれんばかりに描かれている《グラン・ブーケ》(三菱一号館美術館蔵)。

こちらは撮影可のコーナーです。
正面の《グラン・ブーケ》のパネルの前でぜひ記念写真を!

今回開催された「ルドン-秘密の花園」展は、この《グラン・ブーケ》に象徴されるように、ルドンの描いた草花でいっぱいのとても華やいだ雰囲気の展覧会です。
さらに、《グラン・ブーケ》が飾られていたフランス・ブルゴーニュ地方にあるドムシー男爵の城館の食堂を再現した空間もあって、ヨーロッパの古城を訪れたようなゴージャスな気分にひたることもできます。
会期は5月20日(日)までです。

展覧会の詳細は三菱一号館美術館の公式サイトをご覧ください。

http://mimt.jp/

それでは先日開催されたブロガー内覧会の流れに沿って展覧会の様子を紹介したいと思います。
※掲載した写真は美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。なお、掲載した作品はすべてルドン作です。

はじめにドムシー男爵の城館の食堂を再現した部屋で髙橋館長からご挨拶がありました。

髙橋館長


「今回のルドン展は10年間温めていた企画で、個人的にとても思い入れのある展覧会です。」と高橋館長。
ルドンの《グラン・ブーケ》の購入をパリの老画商の御曹司から持ちかけられたのが2008年の春。その年の秋に《グラン・ブーケ》のあるブルゴーニュ地方のドムシー城を訪れ、城館の食堂に飾られた《グラン・ブーケ》が薄明かりの中、大聖堂のステンドグラスにも似た光を放っているように感じ、「この空間を再現した展覧会を開く。」と決意されたとのこと。
そして、《グラン・ブーケ》が人前で初めて公開されたのが日本でなくパリのグラン・パレで2011年3月に開催されたルドンの回顧展。髙橋館長がその開会式に日本から出席しようとした矢先、東日本大震災が発生しました。
「その後、この作品は日本に運ばれ、震災後1年にも満たない2012年1月に公開された《グラン・ブーケ》の前では、まるで雷に打たれたようにひたすら画面を見つめる人、頭を垂れて祈るように佇む人、さまざまな思いでこの絵と向き合う人々の姿が忘れられません。私にとって、震災の記憶と人々の再生の姿が重なり合うのがこの作品なのです。」

続いて、同じくドムシー男爵の城館の食堂を再現した部屋で、今回の展覧会を担当された学芸員の安井さんと「青い日記帳」のTakさんのギャラリートークがありました。

Takさん ルドンとはどんな画家なのでしょか。
安井さん 定義に困る画家ですね。フランス象徴主義の画家と言われますが、位置づけが
    非常に難しいです。不思議な画家です。
Takさん 技法も油彩だったり、パステル画だったりしますね。
安井さん 時系列的に説明すると、はじめは短期間ですがフランス・アカデミズムのジェ
    ロームのもとでは木炭でデッサン、続いてエッチング、パステル画、油彩、39歳
    の時に出した最初の画集『夢のなかで』はリトグラフでした。
Takさん ドムシー男爵の城館の食堂壁画が勢揃いしました。  
安井さん 《黄色い花咲く枝》(下の写真右)はルドンらしい作品です。
    断片化したものを散りばめていながら妙な統一感があります。

右《黄色い花咲く枝》、左《黄色い背景の樹》(作品番号53)
(いずれもオルセー美術館蔵)

安井さん ドムシー男爵の食堂では、《黄色い花咲く枝》の右側は窓でした。画面右端の
    中央に描かれた半円形のものは何だかわかりにくいですが、おそらく窓の外の
    木々か何かと連続しているものではないでしょうか。
     ルドンはこういった絵画空間の連続性も計算して描いています。

左が安井さん、右がTakさん。安井さんの後ろの黒いパネルが、
ドムシー城食堂装飾画配置図です。

Takさん 花と植物をメインにしていますが、ブリューゲルのように花がずらりという感じ
    ではないですね。
安井さん ルドンは複数のイメージを一つの画面に重ね合わせるのが特徴です。
     ドムシー男爵の食堂では絵はもっと高い位置に飾られていました。ちょうど絵
    の下の位置が頭の高さと思っていただけますでしょうか。
     そうすると、この《人物(黄色い花)》のように、下の方はよく見えるので対象
    は詳しく描かれ、上の方はあまりよく見えないので対象は記号のように描かれて
    います。

《人物(黄色い花)》(オルセー美術館蔵)


Takさん 花瓶にいけられた花の作品を集めた部屋がありますね。
    (「第7章 再現と想起という二つの岸の合流点にやってきた花ばな」です。写真
     は最後の各章紹介のコーナーで掲載しています。)
安井さん 20歳代中ごろの暗い背景のカチッとした作品から、パステル画、そして、にじ
    みの効果を出すため下地が塗られていないカンバスに描かれた作品まで、制作年
    の異なる花の作品を一つの部屋に集めました。

Takさん 他にこの展覧会の見どころは。
安井さん 実はこの部屋にも他に見どころがあります。
    《ドムシー男爵夫人の肖像》です。

右《ドムシー男爵夫人の肖像》(オルセー美術館蔵)
左《神秘的な対話》(岐阜県美術館蔵)


 
安井さん 肖像画では通常ここまで広い余白はとりません。
     この作品ではモデルと背景は画面の半分ずつでなく、余白の方が広く描かれて
    いますが、赤い服と黒っぽい上着を着た夫人の存在感の重さとバランスをとるた
    めこれだけ広い余白が必要になるのです。
     余白には何が描かれているかわかりません。ルドン本人も何も語りません。で
    も注文主は「これでいい。」と言う。作者と注文主の奇妙な関係がここにありま
    す。
     その隣の作品《神秘的な対話》では、若い女性が赤い木の枝を持っています。
    《黄色い背景の樹》(作品番号51の方)や《二人の踊女》にも赤い木の枝が描かれ
    ていて、何かを暗示しているのでしょうが、これについて本人は何も語らないの
    で、何を暗示しているかはわかりません。

《黄色い背景の樹》(作品番号51)(オルセー美術館蔵)
右の暖炉の上の作品が《二人の踊女》(横浜美術館蔵)
「第2章 人間と樹木」の部屋に展示されています。

安井さん 作品全体の雰囲気としてあいまいなままにしておく、それがルドンの特徴と言
    えるのではないでしょうか。(拍手)

そして最後に会場内をご案内しましょう。
展覧会は8章構成になっていますので、各章ごとに紹介していきます。

第1章 コローの教え、ブレスダンの指導

第1章には、画家としてのデビューが遅かったルドンの長い修行の初期にコローの助言をもらい、版画家ブレスダンからエッチングの指導を受けて制作した作品が並んでいます。



第2章 人間と樹木

ルドンの夢想世界に登場する生きものたちは樹木のかたわらにいます。



第3章 植物学者 アルマン・クラヴォ―

ルドンは10代の頃に出会ったアルマン・クラヴォ―からフローベールやエドガー・アラン・ポー、ボードレールを教えてもらいました。





第4章 ドムシー男爵の食堂装飾

トークショーでも紹介されたドムシー男爵の食堂装飾が再現された部屋です。


上の写真は3階ですが、2階にもドムシー男爵の食堂装飾が再現された部屋があります。


第5章 「黒」に棲まう動植物

最初の画集『夢のなかで』からの作品も、ボードレール『悪の華』を題材にした作品もここにあります。



第6章 蝶の夢、草花の無意識、水の眠り
展覧会チラシの表紙を飾った《眼をとじて》(岐阜県美術館蔵)が展示されているのがこの部屋です。こんな素晴らしい作品が日本にあるなんてうれしいですね。





第7章 再現と想起という二つの岸の合流点にやってきた花ばな

トークショーで紹介された部屋です。制作年の異なる花瓶にいけられた花の絵が並んでいます。



第8章 装飾プロジェクト

ルドンの下絵による椅子や衝立とルドンの下絵そのものが展示されています。



 
さて、みなさんいかがだったでしょうか。
春を先取りしたとても素晴らしい展覧会です。おススメです。










2018年1月29日月曜日

静嘉堂文庫美術館「歌川国貞」展

静嘉堂文庫美術館「歌川国貞」展に行ってきました。
先日開催されたブロガー内覧会に続いて2回目でした。
内覧会のトークショーやギャラリートークを思い出しつつ、とても詳しく丁寧な作品解説パネルを読みながら、一つ一つの作品をあらためてじっくり味わうことができました。

美術館入口の撮影スポットでパチリ

国貞作品は前後期ですべて入れ替わります。
会期は3月25日(日)までですが、両方見るなら前期展が終わる2月25日(日)までに一度行っておく必要があるので要注意です。
江戸の街にタイムスリップできるとても素敵な展覧会です。おすすめです。

展覧会の詳細は美術館の公式サイトをご覧ください。

http://www.seikado.or.jp/

それでは、展覧会の様子は先日参加したブロガー内覧会の進行に沿ってご紹介したいと思います。
※掲載した写真は美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。なお、掲載した作品はすべて静嘉堂文庫美術館蔵で、歌川広重との合作以外は歌川国貞(三代歌川豊国)作です。

はじめに楽しいトークショーがありました。
ゲストは太田記念美術館の主席学芸員で、浮世絵や出版文化がご専門の日野原健司さん、出演は、静嘉堂文庫の20万冊もの蔵書をひとりでカバーする「スーパー司書」静嘉堂文庫主任司書の成澤麻子さん、そしてナビゲーターは「美術関係の草分け的ブロガー」Takさんです。

Takさん   国貞というと、みなさんどういう浮世絵を思い浮べますでしょうか。
       日野原さん、国貞は何を得意としていた絵師だったのでしょうか。
日野原さん  今日の私の役割は、国貞が江戸後期いかに大人気だったか、みなさんに記
      憶していただくことだと思っています。       
       当時の人気ナンバーワンは北斎でも国芳でもなく国貞でした。
       作品数も多く、数えきれないほどで、最低でも1万、あるいは2~3万点も
      の作品があるのでは、と言われています。
       今回の展覧会で展示されいてる作品は、国貞作品のほんの一部です。
       また、活動期間も長く、ヒットを飛ばしてから亡くなるまで50年以上も第
      一線で活躍していました。広重や国芳は35年くらいだったのと比べると、と
      ても長かったのです。
       国貞が得意だったのは美人画と役者絵。これは浮世絵の王道中の王道で、
      これらを一手に引き受けていました。
Takさん   今回の展覧会ではどのようなジャンルの作品が展示されていますか。
成澤さん   多いのは女性の錦絵と役者絵です。当館では約4000点の国貞作品を所蔵し
      ていますが、所蔵作品でも女性の錦絵が多いです。
日野原さん  美人画では特に女性たちの着物を見ていただきたい。着物は季節や着る人
      の身分、年齢によって違うのですが、髪型を含めて、それを丁寧に描き分け
      ています。
成澤さん   静嘉堂では、作品をひとつずつ保存するのでなく、一枚一枚を貼りこんだ
      画帖仕立てになっていて、広げるととても長くなります。
       これはおそらく、岩崎家の女性たちが当時のファッションに興味をもって
      集めたものを、見やすくするためバラバラにならないようにしたのではと考
      えられています。
       展示がしづらいので、何度はがそうと思ったことか(笑)。
       前期後期ですべて展示替えをするのですが、展覧会の構成上、後期展示す
      るものは白い紙で隠してあるのでご了承ください。
日野原さん  当時は光に弱い絵の具を使っていたので、すぐに退色してしまうのです
      が、画帖仕立てにしていたおかげで、当時の色が鮮やかに残っているのでし
      ょう。紫や淡いピンク色といった残りにくい色が残っています。
       国貞は遊女だけでなく普通の女性、暮らしのワンシーンを描いています。
      江戸の女性の着物やくらしを知るには国貞ですね。
成澤さん   今回の展覧会のミニブックは『江戸の女性』と『江戸の役者』の2冊に分け
      ました。歌麿はキレイな女性を描きましたが、国貞はそれこそ隣のおばちゃ
      ん、あそこのお姉さん、長屋のおかみさんといった身近な女性たちを描いて
      いました。

ミニブック 各350円(税込)

今回の展覧会のサブタイトルは「錦絵に見る江戸の粋な仲間たち」です。
       芸術というのを脇において、江戸の町に遊びに行って市井の人たちに会い
      に行く気分でご覧になっていただければと思います。
Takさん   今回の展覧会でこれはという作品は。
日野原さん  《今風化粧鏡》です。鏡に向かって化粧をしている女性を描いているの
      で、画面が丸くなっています。会場には江戸時代の鏡を置いているので、
      見比べることができますね。


《今風化粧鏡》

成澤さん   ポーラ文化研究所から江戸時代の化粧道具をお借りして展示しています。
      化粧台の引き出しが手前でなく横についていますが、手前だと引き出しをあ
      けたときに鏡から離れてしまいます。女性はお化粧をするとき自然と顔を鏡
      に近づけるので、引き出しは横についています。なるほど女性の考えること
      は江戸時代も今も変わらないのだなと思いました。
日野原さん  《今風化粧鏡》は6点揃っています。眉毛を書いたり、お歯黒を塗ったり
      年齢や身分による化粧の仕方の違いがよく描かれています。
成澤さん   化粧はきれいに見せるものですが、お化粧に失敗している絵もあります。
      歯だけを黒く染めるのは難しかったと思います。国貞はリアルな等身大の女
      の人たちの姿を描いていました。
Takさん   作品番号44の《蚊やき》というのはおもしろい題ですね。

左から《星の霜当世風俗(外出)(蚊やき)(水くみ)》

日野原さん  蚊帳の中に入ってきた蚊を焼く場面です。季節感があります。
成澤さん   それぞれの絵が何をしている場面か、一点一点解説を見ていただくとよく
      わかります。この絵では、炎の上に巨大な蚊が描かれています。
日野原さん  この作品でもう一つ見ていただきたいのは、蚊帳の彫りです。細かいとこ
      ろまで手を抜いていません。
成澤さん   錦絵は、絵師、彫り師、摺り師の見事な技量で出来上がっています。女性
      の髪の生えぎわ、細い鼻、きれいな目、多色摺りの木版で細かく表現してい
      ます。
Takさん   今回の展覧会の見るべきポイントは。
日野原さん  ここでしか見られない肉筆画ですね。

右から《芝居町 新吉原 風俗絵鑑(幕間)(車引き)(舞台裏)(浅間ヶ嶽)》

これは歌舞伎の場面で、一人ひとりの表情が生き生きと描かれいています。
      上から役者を見ている女性、下では食事している人、舞台の裏には舞台が見
      えなくて不満そうな人。舞台裏も見せています。楽器を演奏している人、自
      分の出番を前に準備をしている人。
       成澤さん、国貞の肉筆画はあまりないですか。
成澤さん   他には扇子でしょうか。
日野原さん  この作品は特殊な絵の具で緻密に描いているので、身分の高い人の特注品
      でしょう。
       国貞は、私たちが江戸の世界に一番入っていける作品を描いた人。
      今回の展覧会をきっかけに一人でも多くの人に知っていただきたいです。
      (拍手)

続いて展示室内で成澤さんのギャラリートーク。

成澤さん「錦絵は今でいうところの写真や広告、タレントのプロマイド。芸術作品ということは頭から離していただいて、近所のお姉さんたちに会い行きましょう。」

入口には錦絵の制作過程がわかる《今様見立士農工商》。
右の《職人》は、摺師と彫師に見立てた女性たちがそれぞれの作業をしたり、休息をとっているところを、左の《商人》は、版元の店先の様子を描いている。《商人》には店先に新刊の宣伝ポスターが下がっているのが見えます。

右が《今様見立士農工商 職人》左が《同 商人》

続いてトークショーでも話題になった、鏡枠の中にお化粧をしている女性を描いた《今風化粧鏡》シリーズ。
一番左の(鉄漿(かね)つけ)はお歯黒を塗っていて失敗した女性。口のまわりが黒くなっています。
「あっ、という声が聞こえてきそう。」と成澤さん。
「(房楊枝)は紅色の歯磨き粉で歯を磨いている女性、(眉毛抜き)は毛抜きで眉を整える遊女、(牡丹刷毛)はお化粧の仕上げをしている女性、この髪の毛の生えぎわやうねりの線、彫師の腕前をご覧になってください。(眉かくし)は今でいうと小学校高学年の女の子が手習い中に眉を隠して結婚したときの顔を思い描いているところ。(合わせ鏡)はもう一枚の鏡を合わせて後髪を確認しているところ。鏡の傍らには当時流行したブランド品のおしろいの包みが描かれています。この絵を見た人がこのおしろいを買いたくなるという広告にもなっています。」

左から《今風化粧鏡(鉄漿つけ)(房楊枝)(眉毛抜き)
(牡丹刷毛)(眉かくし)(合わせ鏡)》
「《江戸自慢》のシリーズは、初夏から秋にかけての江戸の風物詩を描いたもので、《江戸自慢 五百羅漢施餓鬼》の蚊帳の網目が見事です。こういった技をもった彫師や摺師に思いをはせていただきたいです。」

右から《江戸自慢 両国夕涼》《同 駒込富士参り》
《同 洲崎廿六夜》《同 五百羅漢施餓鬼》

「次は《星の霜当世風俗》のシリーズです。(行燈)の女性が行燈に入れた手の影や柔らかく体に沿っている着物の表現が見事です。画面右側の屏風には男性の着物がかかっていて、お盆の上の茶碗も2つあって、男性の存在がうかがえます。」
「このように細かいところまで描き込まれているので、すみからすみまでご覧になっていただくと、当時の江戸の様子がわかります。またとびぬけてきれいな人でなく、普通の女性を描いているのも国貞の特徴です。」

右から《星の霜当世風俗(行燈)(待合)》《江戸八景ノ内 上野》

「ここからは3枚つづりの作品が並びます。《蘭船 舶来鳥、ギヤマン燈籠》の船、オウム、ランタンはつくりものの見世物です。錦絵は今でいえばテレビ。最先端のものを描いて当時の人たちに見せたのです。前にいる女性たちが着ている服も当時の流行の最先端。後ろの異国のものも女性のファッションも楽しめるようになっています。」

手前から歌川国貞《蘭船 舶来鳥 ギヤマン燈籠》《娼家内証花見図》

「《歳暮乃深雪》は、冬の身支度をした女性二人と、前垂れを頭からかぶり、大徳利と提灯を手に持って酒を買いに急ぐ女性が行き合う場面。冬の夕暮れの一瞬を切り取った素晴らしい作品です。左の女性の持つ提灯には、この作品の版元の「河長」という文字が入っていて、さりげなく出版社の宣伝をしています。」
「今回の展示では、作品の解説パネルに版元の名前も入れたので、ぜひご覧になっていただきたいです。」
左が歌川国貞《歳暮乃深雪》右が《四季遊ノ内春 佃島白魚網ノ図》

「《誂織当世島(金花糖)》の女性が持っている皿に乗っているものは、金魚の形をした金花糖という砂糖菓子。当時は高価だった砂糖もこの頃には庶民の元にもやってきた証拠でしょう。」
「卯の花月は陰暦の四月。初もの好きだった江戸の人たちが特に好きだったのが初がつお。中央でかつおをさばくかつお売りに長屋のおかみさんたちがお皿を持って買いに来ている場面。初夏の庶民の長屋の明るい雰囲気が伝わってきます。こういった日常生活のワンシーンを見事に描くのが国貞の力量でしょう。」

右から《誂織当世島(金花糖)》《誂織当世島(くわえ楊枝)》
《嵯峨ノ開帳朝参りの図》《卯の花月》
《卯の花月》側から見たところ

こちらは役者絵のコーナー。
「こちらは、鼻高幸四郎といわれた五代目松本幸四郎。頭の前の部分は髪を一筋一筋彫り、後頭部のグレーの部分も細かく彫っています。服のグレーを出すために十版以上の板を使っていて、白い部分もかすかに凹凸の模様の入った透かし彫り。豪商からの依頼で作られたもので、とても高価な仕上がりになっています。」

手前が歌川国貞《仁木弾正左衛門直則 五代目松本幸四郎 秋野亭錦升 後 錦紅》
奥は《古今俳優似顔大全 松本家系譜》
「幕末のように世の中が安定していないときには、謀反人のような道からはずれた人をほめたたえる風潮がありました。」
「《豊国漫画図絵 袴垂保輔》は大盗賊を、《豊国漫画図絵 将軍太郎良門》は妖術を使う平将門の息子を描いたもので、《袴垂保輔》の毛皮の表現などがとても細かく描かれています。」

左のケースが《豊国漫画図絵 袴垂保輔》と《豊国漫画図絵 将軍太郎良門》

三代歌川豊国を名乗った国貞と歌川広重の合作もあります。
三代豊国が人物を描き、広重が背景を描いたとても豪華な競演。
「柳亭種彦『偐紫田舎源氏』は源氏物語のパロディーで、舞台を室町時代に移したもの。国貞のさし絵とともにものすごい人気で13年間もベストセラーを続けましたが、女性遍歴の多い主人公・光氏が、多くの側室をもった当時の十一代将軍徳川家斉を揶揄したものということで絶版になり、版木は没収されました。」
「しかし、その後も人気のあった光氏は独り歩きして描かれ続けました。それが『源氏絵』です。」

手前が《風流源氏夜の庭》奥が《見立源氏琴碁書画之内 彩色のいろくらべ》

そしてこちらは同じく三代豊国が人物を描き、広重が背景を描いた《双筆五十三次》のシリーズ。
富士山を眺めながらくつろぐ西行がいい味出してます。

手前から《双筆五十三次 吉原》《同 沼津》《同 大磯》《同 程かや》 

そして最後は、トークショーで紹介した肉筆画《芝居町 新吉原 風俗絵鑑》をじっくりご覧になってください。芝居小屋の賑やかな雰囲気が描かれています。それでも一番右の(浅間ヶ嶽)では、騒ぎすぎて係の人に注意されている人もいます。注目です。

さて、「歌川国貞展」はいかがだったでしょうか。
ぜひその場で江戸の雰囲気にひたってみてください。

後期も楽しみです。