2024年10月2日水曜日

大倉集古館 企画展「寄贈品展」

東京・虎ノ門の大倉集古館では、企画展「寄贈品展」が開催されています。

大倉集古館外観

今回の企画展は、大倉集古館を設立した大倉喜八郎氏の嗣子・喜七郎氏が収集した近代日本画、木彫工芸家、木内半古・省古の木彫工芸品、保坂なみの明治の刺繍、古備前再現を目指した陶芸家、森陶岳の備前焼はじめ、近年、大倉集古館に寄贈されたさまざまなジャンルの作品が見られる展覧会です。

9月14日に開幕したのですが、遅ればせながら先日、展覧会におうかがいしてきましたので、展示の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2024年9月14日(土)~10月20日(日)
開館時間 10:00~17:00 金曜日は19:00まで(入館は閉館の30分前まで)
休館日  毎週月曜日(休日の場合は翌火曜日)
入館料  一般 1,000円、大学生・高校生 800円、中学生以下無料
※展覧会の詳細、ギャラリートーク、各種割引等は同館公式サイトをご覧ください⇒https://www.shukokan.org/

*展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は主催者より広報用画像をお借りしたものです。
*展示作品はすべて大倉集古館蔵です。


1階展示室に入ってすぐに気がついたのは、大画面で鮮やかな色彩の近代日本画が多く展示されているので、とても華やいだ雰囲気が感じられることでした。


大倉喜七郎氏が愛した近代日本画

今回の企画展のメインビジュアルになっているこの作品は、花鳥画を得意とした荒木十畝の《晩秋》。秋の深まりとともに色づく紅葉の赤が印象的です。

《晩秋》荒木十畝、昭和4年(1929)


今回寄贈を受けた近代日本画のうち、《晩秋》を含む7点が昭和5年(1930)にイタリア・ローマで開催された日本美術展覧会(ローマ展)に展示されたものでした。
ローマ展は、大倉喜七郎氏の全面的な支援によって、横山大観、竹内栖鳳、川合玉堂ほか当時の日本画界を代表する画家約80名、約170点の作品が展示された大規模な展覧会でした。
今年の春の企画展「大倉集古館の春」でローマ展に出展された横山大観《夜桜》(大倉集古館蔵)を拝見しましたが、今回もまるで「ミニ・ローマ展」と思えるくらいの作品を見ることができたので、とてもうれしかったです。

続いては同じくローマ展に出展された《菊》。
正倉院宝物を思わせるエキゾチックな壺の模様がきっとローマっ子を魅了したのではないかと思える、菊池契月らしい格調の高さがうかがえる作品です。

《菊》菊池契月、昭和4年(1929)


日本の書道界や絵画界への援助を惜しまなかった喜七郎氏は、横山大観、川合玉堂に大倉組嘱託の待遇を与え、援助を行ったといわれています。

玉堂が描いた《暮るる山家》は、琳派の代名詞ともいえる「たらしこみ」の技法が見られる作品。
画面右上のまるで名刀のような鋭い三日月があらわす緊張感を感じると同時に、画面下に描かれたつぶらな瞳の子馬の可愛さに癒される作品です。

《暮るる山家》川合玉堂、大正7年(1918)



日中のかけはし・王一亭(王震)の書

《行書王之渙涼州詞軸》は、中国・清時代から民国時代初期に上海を中心に活躍した実業家で書画家の王一亭が中国・唐時代の王之渙作「涼州詞」を書写し、大倉組副頭取・門野重九郎氏に贈ったもので、のちに大倉組監査役の肥田耕三氏に贈られ、この度、ご遺族から大倉集古館に寄贈されました。
大倉集古館には、ほかにも王一亭の書や絵画が所蔵されているとのことなので、いつかはぜひ、大倉財閥と上海実業界のかけはしとなった王一亭作品をまとまって見てみたいです。

《行書王之渙涼州詞》王一亭、中華民国時代・20世紀



保坂なみによる明治の刺繍

明治期に刺繍が女性が社会で生き抜いていくために必要とされた技術の一つとして教えられていたことも、保坂なみのことも知らなかったので、今回、「百花の王」牡丹や、そのまわりを舞う蝶が描かれたこの作品のように吉祥文様や花鳥が施された刺繍作品を見ることができたのは大きな収穫でした。
(中国語では、高齢の老人を意味する耄耋(もうてつ、ぼうてつ)という言葉があり、耄は猫、耋は蝶と発音が共通するので、猫も蝶もどちらも長寿の象徴なのです。)


《袱紗 牡丹に胡蝶模様刺繍》保坂なみ、明治~大正・20世紀 


木内半古・省古の木彫工芸品

木内喜八、半古、省古は三代続いて江戸・東京で活躍した木彫工芸家で、大倉家が支援したご縁で、この度、ご遺族より二代半古による一重切の竹花入や、三代省古が娘のためにつくった可愛らしい木画(寄木象嵌)の帯留ほかなどの作品が寄贈されました。

半古の《竹花入》は、まさに侘び寂びの世界。豊臣秀吉の小田原攻めに同行した千利休が作ったと伝わる《一重切花入》を思い浮かべました。

《竹花入》木内半古、明治~昭和・19~20世紀


宮内庁正倉院御物整理掛に出仕した半古と省古は、宝物の修理を通して得た知見を自身の制作に活かしたことでも知られています。
省古の《花喰織文木画帯留》に表された花の枝をくわえた瑞鳥は正倉院宝物にあしらわれていた「花喰鳥」の模様を踏襲したもので、シルクロードを通って奈良時代の日本に渡ってきた模様でした。

小さな帯留に、省古の娘さんへの愛情が込められたとても愛らしい作品です。

《花喰織文木画帯留》木内省古、明治~昭和・19-20世紀


江戸時代の竹取物語


奈良絵本とは室町時代後半~江戸時代前期に、おもに御伽草子を題材として作られた絵入の冊子のことで、嫁入道具として好まれました。
奈良絵本『竹取物語』は明治~昭和のジャーナリスト・徳富蘇峰が旧蔵し、大正13年(1924)に「威子嬢」(詳細不明)に贈ったもので、喜八郎氏とは旧知の仲の蘇峰が旧蔵したこの作品は、めぐりめぐって大倉集古館に所蔵されることになりました。


奈良絵本『竹取物語』江戸時代・17世紀


挑戦者・森陶岳の作陶


2階は1階の華やいだ雰囲気とはがらりと変わって、森陶岳による落ち着いた雰囲気の備前焼の作品が展示されています。

森陶岳は、古備前に魅せられ、一度絶えた焼成法を摸索し、さらに古備前を超えた独自の作風を切り開いた挑戦者でした。

どっしりとしたいかにも備前らしい形の《備前大蕪花入》。


《備前大蕪花入》森陶岳、昭和61年(1986)

こちらは独自性が発揮された《彩土器》。《備前大蕪花入》とほぼ同じ時期に作られたのに印象は全く異なり、弥生式土器を思わせる丸い胴体に銀やプラチナを塗って黒と白の不思議な感じのする模様をほどこした作品です。

《彩土器》森陶岳、昭和60年(1985)


ススキ?がなびく先に見えるのは満月、そして台鉢の形は半月。
ほかにも備前焼の徳利やぐい呑みが展示されているので、こんな優雅な景色をながめながら酒を飲み、料理を味わってみたいと思いました。
 
《備前半月台鉢》森陶岳、昭和61年(1986)

会期は10月20日(日)まで。
この秋おすすめの展覧会です。

2024年9月30日月曜日

相国寺承天閣美術館 企画展「禅寺の茶の湯」

京都・相国寺承天閣美術館では、企画展「禅寺の茶の湯」が開催されています。


展覧会チラシ


今回の企画展は、室町幕府第三代将軍・足利義満により夢窓疎石を開山として創建された臨済宗相国寺派大本山の相国寺と、鹿苑寺(金閣寺)、慈照寺(銀閣寺)をはじめとした塔頭寺院の協力のもと、国宝1件、重要文化財6件を含む相国寺派寺院の名品全203作品が期間中に展示される超豪華な内容の展覧会です。
(Ⅰ期のみ49作品、Ⅱ期のみ49作品、通期105作品)

実は知っているようで知らなかった禅寺と茶の湯の深いかかわりがわかるとても興味深い展覧会ですので、さっそく展示の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


展覧会名   企画展「禅寺の茶の湯」
会 期    [Ⅰ期]2024年9月14日(土)~2024年11月10日(日)
       [Ⅱ期]2024年11月17日(日)~2025年2月2日(日)
休館日    展示替休館 2024年11月11日(月)~11月16日(土)
       年末年始休館 2024年12月27日(金)~2025年1月5日(日)
開館時間   10時~17時(入館は16時30分まで)
拝観料    大人800円、シニア(65歳以上)600円、大学生600円、
       中学生・高校生300円、小学生200円
       ※大人の方に限り、20名様以上は団体割引で各700円
       ※障碍者手帳をお持ちの方と介護者の方一名様は無料
会 場    相国寺承天閣美術館

展覧会の詳細、関連イベント等は同館公式サイトをご覧ください⇒相国寺承天閣美術館

展示構成
 第一章 茶の湯の名品
 第二章 仏教儀礼と茶の湯
 第三章 寛政の茶会 慈照院頤神室
 最終章 平成の茶会 鹿苑寺常足亭 落慶披露茶事

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は記者内覧会で特別に許可を得て撮影したものです。



【第一展示室】

第一章 茶の湯の名品


「茶の湯」というと、茶道具の名品をめぐって争奪戦を繰り広げ、権力の誇示のために茶会を行った戦国武将たちのイメージが強いのですが、実は禅との深いかかわりがありました。
仏教行事の中ではご本尊に茶を供え、書院などで参列者に茶がふるまわれていたのです。

第一展示室の冒頭に展示されているのは、中国や朝鮮から伝来した茶道具の名品です。


「第一章 茶の湯の名品」展示風景


最初にご紹介するのは、中国から伝来した唐物の茶入《唐物茄子茶入 銘珠光(別名兵庫) 大名物 添利休消息》。


《唐物茄子茶入 銘珠光(別名兵庫) 大名物 添利休消息》
一口 中国・元時代 相国寺蔵 Ⅰ期展示


さまざまな形をした茶入がありますが、丸い形をしたものは野菜の茄子にたとえて「茄子茶入」と呼ばれています。
ここでは主役の茶入だけでなく、代々作り替えられてきた象牙の蓋や茶入を包む名物裂の仕覆(しふく)、茶入を保存する棗形の木の器・挽家(ひきや)、茶入を入れる黒漆の箱の蓋付などの付属品があわせて展示されているところにも注目したいです。
茶入はさらにいくつもの大きさの違う木箱に入れられているので、この小さな茶入がいかに大切に保存されていたのかがよくわかります。

そして蓋の箱書には千利休以前に選定された「名物」を表す「大名物」の文字が見えます。銘の「珠光」「兵庫」は、この茶入に添えられた利休の文から付けられたものでした。


続いては、黒釉の中にある細かな線条文が、兎の毛並みのようにも、稲の穂先の禾(のぎ)のようにも見える重要美術品《禾目天目茶碗》。
細かい模様をぜひ近くでじっくりご覧いただきたいです。

重要美術品《禾目天目茶碗》一口 中国・宋時代
相国寺蔵 Ⅰ期展示

日本で作られた「和物」の名品も頑張っています。

「第一章 茶の湯の名品」展示風景

利休の判がすえられている黒漆の天目台「尼ケ崎台」とともに展示されているのは「黄瀬戸珠光天目茶碗」。口縁には真鍮の覆輪がはめられているので、より一層引き締まった感じがします。
(天目茶碗とは鎌倉時代、中国浙江省天目山に留学した禅僧が持ち帰り広めたため、広い口に窄まった高台をもつ形の茶碗を指すことになりました。)


《黄瀬戸珠光天目茶碗 添尼ケ崎台利休在判》
一口 室町時代 慈照寺蔵 通期展示


江戸時代初期の茶人で、金森流茶道の開祖・金森宗和の作と伝わり、鹿苑寺境内に建つ「夕佳亭(せっかてい)」を復元した茶室にも名品の数々が展示されいて、茶室の雰囲気をさらに盛り上げています。

「第一章 茶の湯の名品」展示風景


【第二展示室】

伊藤若冲の水墨画の傑作、重要文化財「鹿苑寺大書院障壁画」の一部を移設した第二展示室に移ります。
第二展示室の展示は、仏教儀式と茶の湯のかかわりがよくわかるのが特徴です。


第二展示室 展示風景



第二章 仏教儀礼と茶の湯


第二章には、昭和12年(1937)に相国寺第二世・春屋妙葩(しゅんおくみょうは 普明国師)の五五〇年遠忌の法要が相国寺で盛大に行われた際、相国寺本山や塔頭の茶室で設けられた茶席で用いられた春屋妙葩の墨蹟や茶道具が展示されています。


「第二章 仏教儀礼と茶の湯ー祖師の遠忌」展示風景

相国寺法堂で行われた献茶会には約500名が参列したといわれ、塔頭の茶室でも茶席が設けられ、参拝者たちが訪れたとのことですが、そのときのにぎわいが伝わってくるようです。

「第二章 仏教儀礼と茶の湯ー祖師の遠忌」展示風景


今回の展示で特に興味深かったのが、京都五山の僧が江戸時代に幕府から朝鮮修文職に任ぜられて対馬に輪番で赴いていたことでした。
将軍の代替わりの際に江戸に赴いた朝鮮通信使はよく知られていますが、約100名ほどの規模の訳官史が江戸時代に57回も対馬を訪れていたことはあまり知られていません。
その訳官史と交流したのが相国寺はじめ京都五山の僧たちだったのです。

「第二章 仏教儀礼と茶の湯ー以酊庵の茶礼」展示風景

当時の文書には、対馬にあった以酊庵(いていあん)で行った訳官史への茶の湯の饗宴の記録などが記録されているので、京都五山の僧たちが外交儀式において重要な役割を担ったことがわかります。
あわせて、約二年の任期で対馬に赴いた僧たちが持ち帰った茶道具も展示されています。


第三章 寛政の茶会 慈照院頤神室


寛政年間(1789-1801)に相国寺の塔頭慈照院の茶室・頤神室(いしんしつ)で行われた茶会の様子が再現されているのが第三章。

「第三章 寛政の茶会 慈照院頣神室」展示風景

頤神室は、千利休の孫で千家第三世、千宗旦好みの茶室で、茶会の際に狐が宗旦に成りすまして参加したところ、宗旦本人が遅れて登場したので狐はあわてて下地窓を突き破って逃げたというの逸話が残されています。
下の写真左は宗旦に化けた狐が描かれた《宗旦狐図》(慈照院蔵 通期展示)。今でも頤神室の床掛けに用いられている一幅で、今回が初公開です。

「第三章 寛政の茶会 慈照院頣神室」展示風景


最終章 平成の茶会 鹿苑寺常足亭 落慶披露茶事


最終章には、平成16年(2004)に、鹿苑寺の客殿と常足亭の落慶に際して、表千家不審庵、裏千家今日庵、武者小路千家官休庵、藪内燕庵、遠州茶道宗家、山田宗徧流不審庵の六家元を招いて連会茶事が行われた時の様子が再現されています。

「最終章 平成の茶会 鹿苑寺常足亭 落慶披露茶事」展示風景


茶事の流れに従って展示が進んで行くので、それぞれの場面でどの什物が用いられたのかがよくわかります。
 寄付(よりつき 書院)~客が寄付(よりつき)で身支度を調え、湯を飲み案内を待つ。
 本席 初座(ほんせき しょざ 常足亭小間)~茶室に入り、亭主による炭手前が始まる。
 懐石(かいせき 客殿)~客は客殿に移し、懐石料理を楽しむ。
 本席 後座(ほんせき ござ 常足亭小間)~再び茶室にて濃茶がふるまわれる。
 薄茶席 常足亭広間(うすちゃせき 常足亭広間)~小間から広間に移り、薄茶がふるまわれる。

足利義満が造営した山荘、北山殿を母胎とする鹿苑寺で行われたこの茶事は、義満の六〇〇年遠忌事業の一つでもあったので、足利将軍家を意識した什物が随所に登場します。

ただの木の枠のように見える炉縁ですが、実は金閣寺に実際に使われていた木なので、一部にはうっすらと金箔が残っていたりするすごいものなのです。

《国宝金閣欄干古材》一口 現代 大光明寺蔵
通期展示

足利義政が所持していた大名物として珍重された蟹の蓋置。
なぜこれが蓋置?と思ってしまいますが、もとの用途とは違う用途で用いるのは茶道具ではよくあることです。唐物茶入も中国では油壷や薬壺などとして使われていたのです。
この蟹も、もとは義政が庭に置くために制作したものなのです。

《蟹蓋置》一口 室町時代 大光明寺蔵
通期展示


本国中国ではあまり知られていなくても、日本では絶大な人気のあった中国禅僧の画家・牧谿が描いた《江天暮雪図》は、画面右下に義満の「道有」品がある東山御物でした。

《江天暮雪図》牧谿筆 一幅 中国・宋時代
鹿苑寺蔵 通期展示

他にも、唐時代に山中の隠者王休が、来客に川に張った氷を砕いて茶を煎じてもてなしたという故事を描いた円山応挙の《敲氷煮茗図》(通期展示)はじめ数多くの名品が展示されています。

「最終章 平成の茶会 鹿苑寺常足亭 落慶披露茶事」展示風景



今回の企画展のメインビジュアルになっている国宝《玳玻散花文天目茶碗》はⅡ期の展示です。

国宝《玳玻散花天目茶碗》一口 中国・宋時代 相国寺蔵
Ⅱ期展示

重要文化財《唐津鉄斑文水指》もⅡ期展示。
肥前国で窯場で焼かれた陶器のことを唐津焼と呼びますが、鉄釉によって斑文がつくりだされているのでこの名が付いている水指です。


重要文化財《唐津鉄斑文水指》一口 桃山時代 相国寺蔵
Ⅱ期展示


「禅寺の茶の湯」展のポスターやチラシは、明るくて親しみがもてて、思わず来てみたくなるデザインです。




国宝《玳玻散花文天目茶碗》のまわりを楽しそうに踊っている男女は、重要文化財《花下遊楽図屏風》の登場人物たちでした。この屏風もⅡ期展示です。

重要文化財《花下遊楽図屏風》六曲一隻 江戸時代 相国寺蔵
Ⅱ期展示


ミュージアムショップでは、展示作品の図版やわかりやすい解説が掲載された「禅寺の茶の湯」展の図録販売中です(税込1,200円)。




Ⅰ期展示も名品ぞろいですが、Ⅱ期展示も見逃せません。
初公開の作品も多数あるので、Ⅰ期もⅡ期もどちらもご覧いただきたい展覧会です。

2024年9月26日木曜日

根津美術館 企画展「夏と秋の美学 鈴木其一と伊年印の優品とともに」

東京・南青山の根津美術館では企画展「夏と秋の美学 鈴木其一と伊年印の優品とともに」が開催されています。


展覧会チラシ

今回の企画展は、今の季節にあわせて同館が所蔵する【重要文化財】鈴木其一《夏秋渓流図屏風》と、俵屋宗達の工房で制作されたことを表す伊年印が捺された《夏秋草図屏風》を中心に、色とりどりの草花や風物詩など夏から秋にかけての風情が感じられる作品が展示される展覧会です。

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


開催期間  2024年9月14日(土)~10月20日(日)
開催時間  午前10時~午後5時(入館は閉館30分前まで)
休館日   毎週月曜日
      ※ただし9月19日(月・祝)、9月23日(月・振替休)、10月14日(月・祝)は
       開館、それぞれ翌火曜日休館
入館料   オンライン日時指定予約
      一般 1300円、学生 1000円
      *障害者手帳提示者および同伴者は200円引き、中学生以下は無料
      *当日券(一般1400円、学生1100も販売しています。同館受付でお尋ね
       ください。)
会 場   根津美術館 展示室1・2

展覧会の詳細、オンライン日時指定予約、スライドレクチャー等の情報は同館公式サイトをご覧ください⇒根津美術館

*展示室内及びミュージアムショップは撮影禁止です。掲載した写真は記者内覧会で美術館より特別に許可を得て撮影したものです。
*企画展の展示作品は、すべて根津美術館所蔵です。


展示は夏から秋にかけて移り行く季節とともに進んで行きます。
はじめに「夏のおとずれ」から。



夏のおとずれ


「夏のおとずれ」展示風景

上の写真右の作品は、幕末に活躍した復古やまと絵の絵師・冷泉為恭の筆による《時鳥(ほととぎす)図》ですが、夏を告げるほととぎすの姿は描かれていません。

冷泉為恭《時鳥図》日本・江戸時代 19世紀
植村和堂師寄贈

夏が近づく頃、ほととぎすのきれいな鳴き声が聞こえて振り返ってもその姿は木の葉の蔭に隠れて見えない、ということがよくありますが、これはまさに平安後期の公卿、歌人の徳大寺実定の和歌「ほととぎす鳴きつる方を眺むれば ただ有明の月ぞ残れる」の情景を描いたものだったのです。
烏帽子を被った公卿が眺める視線の先には月が浮かんでいるだけで、その前の「ほとゝぎすなきつるかたを」の文字は残された鳴き声を表しているように思えました。


真夏の情趣


「真夏の情趣」展示風景

上の写真中央の屏風は、尾形光琳《夏草図屏風》。

尾形光琳《夏草図屏風》日本・江戸時代 18世紀


夏を中心に30種近い草花が下からモクモクと湧き上がるように対角線に配置されているこの構図は「さすが光琳!」というセンスの良さを感じます。

今回の企画展では、次の「夏から秋へ」のコーナーで弟・乾山の色絵角皿も展示されていて、兄弟のコラボが実現しているのもうれしいです。

右から 尾形乾山《色絵桔梗図角皿》《色絵桐図角皿》(5枚のうち1枚)
《色絵紫陽花図角皿》いずれも日本・江戸時代 18世紀


光琳の弟子・立林何帛の作と伝わる掛軸は、現代の私たちにとっては少し意外な題材ですが、コウモリが描かれています。

伝 立林何帛《橋蝙蝠図》日本・江戸時代18世紀
小林中氏寄贈

ドラキュラのモチーフになったり、イソップ物語では鳥とけもののどっちつかずで「ずるい」というイメージがあったりで、西洋ではあまり良くないイメージがありますが、中国では「蝙蝠」の「蝠」の字が「福」に通じることから幸福を招く縁起物とされているのです。
コウモリが飛んでいるあたりに夏の夕暮れをあらわす金泥の帯がうっすらと描かれています。


夏から秋へ


「夏から秋へ」展示風景

桜と紅葉のように春と秋の情景の組み合わせは古くから描かれていましたが、夏と秋の組み合わせが目立つようになったのは江戸時代に入ってからのことでした。
そのルーツともいえるのが伊年印《夏秋草図屏風》。

伊年印《夏秋草図屏風》日本・江戸時代 17世紀

画風から、俵屋宗達の2世代後の後継者・喜多川相説周辺で制作されたとみられるこの屏風には、夏から秋にかけての草花が高さを変えてまるで音符のようにリズミカルに配置されているので、目の前で見ていると優雅な音楽が聞こえてくるように感じられます。

続いては江戸琳派の異才・鈴木其一の重要文化財《夏秋渓流図屏風》。

【重要文化財】鈴木其一《夏秋渓流図屏風》
日本・江戸時代 19世紀


酒井抱一の内弟子時代を経て、抱一没後に独自の境地を切り開いた其一の代表作であるこの屏風は、現実の景色を描いているはずなのに、渓流はあまりに青く、緑苔はあざやかな緑一色。背景の金地と相まって現実とはかけ離れた空間にいるような雰囲気を醸し出しています。
右隻には檜にとまる蝉が描かれています。
画面全体に蝉の鳴き声が響いているようで、この作品のシュールがさらに増してくるように感じられました。


涼秋の候


「涼秋の候」展示風景

今回の企画展は絵画が中心ですが、独立ケースに展示されている焼物がおしゃれなアクセントになっています。
上の写真の手前は、江戸初期の京焼の陶工・野々村仁清作《御深井写菊花透文深鉢》。

秋の涼し気な空気感が墨の濃淡で表された水墨山水画を描いたのは、師・狩野山楽から京狩野を引き継ぎ、独創的な画風の作品を描いた狩野山雪。
水墨山水ファンにはたまらない逸品です。

狩野山雪《秋景山水図》日本・江戸時代 17世紀


秋の叢


「秋の叢」展示風景


和歌に詠われた武蔵野が描かれた屏風を見ると、ススキの影に隠れている月をつい探してしまいますが、《武蔵野図屏風》(下の写真)の左隻に描かれている月は大きくてすぐに気が付きました。そのうえ右隻には月と同じくらい大きな太陽まで描かれています。
この屏風は、中世やまと絵の日月山水図の伝統を受け継ぐものと思われている作品なのです。

《武蔵野図屏風》日本・江戸時代 17世紀


今回展示されている作品の中で一番驚いたのが《秋野蜘蛛巣蒔絵硯箱・料紙箱》でした。
箱一面に秋の草花が施された見事な蒔絵の箱のうち右の箱の蓋には繊細な蜘蛛の巣が張めぐされているので、そこにはどのような蜘蛛が描かれているのかと覗きこんでみると、蜘蛛の巣の中心には「蜘」という一文字が書かれていたのです。
蒔絵の箱には和歌の文字を「散らし書き」のように配置することはありますが、これだけ堂々とした説得力のある「散らし書き」の文字を見たのは初めてでした。

《秋野蜘蛛巣蒔絵硯箱・料紙箱》日本・江戸~明治時代 19世紀


【同時開催】

展示室5 やきものにみる白の彩り

展示室5では、白い陶磁器の数々が展示されているのですが、さまざまな色の「白」があって、どれもがそれぞれ特徴ある美しい輝きを持っていることに気が付かされます。

展示室5展示風景

どうすればこれだけ精巧で、白く滑らかな焼物を作れるのだろうと驚いたのが、中国・福建省の徳化窯で制作された《白磁千手観音坐像》。
獅子や猿、鳥などの動物を象った置物や観音像、神像に優れた徳化窯の白磁がヨーロッパで人気を博したことがよくわかりました。

《白磁千手観音坐像》徳化窯
中国・明時代 16世紀



展示室6 名残の茶

11月以降は新茶が出る季節なので、一年間楽しんだ前年の茶葉や、初夏から慣れ親しんだ風炉は10月で使い納め。展示室6には、その名残を惜しんだ茶道具が展示されています。

展示室6展示風景

「柿の蔕」とは茶碗を伏せた姿や色調が柿の蔕に似ていることによるもので、割れて繕われた姿が、分かれても合流する急流にたとえ「瀧川」という銘がつけられました。
近くでよく見ると繕われた跡がよくわかりますが、割れた茶碗に詩的なものを見出す昔の人たちの美意識に感銘を受けました。

《柿の蔕茶碗 銘 瀧川》朝鮮・朝鮮時代 16世紀




ミュージアムショップ

せっかくの機会ですので、【重要文化財】鈴木其一《夏秋渓流図屏風》の関連グッズをご自宅に飾ってみてはいかがでしょうか。

ミュージアムショップ


私は絵はがきを畳模様のシールを貼ったコレクションケースに入れて部屋に飾り、毎日眺めています。



企画展「夏と秋の美学 鈴木其一と伊年印の優品とともに」の会期は10月20日(日)まで。
夏から秋への季節の移ろいが感じられる、この秋おすすめの展覧会です。