2023年10月18日水曜日

大阪中之島美術館 特別展 生誕270年 長沢芦雪 ー奇想の旅、天才絵師の全貌ー

大阪中之島美術館では「特別展 生誕270年 長沢芦雪 ー奇想の旅、天才絵師の全貌ー」が開催されています。

4階展示室前のフォトスポット

今回の展覧会は、江戸時代中期に京都で活躍した絵師、長沢芦雪(1754-1799)の画業を紹介する、大阪では初めての回顧展。
近年では「奇想の画家」として注目を浴び、写実性を重視する円山応挙の門下の中でも、大胆な構図と奔放な筆致による独自の画風を切り開いた芦雪は特に好きな絵師でしたので、とても楽しみにしていました。

それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。


展覧会開催概要


会 期  2023年10月7日(土)~12月3日(日)
     前期:10月7日(土)~11月5日(日) 後期:11月7日(火)~12月3日(日)
      ※会期中、一部の作品は上記以外にも展示替を行います。
休館日  月曜日
開場時間 10:00~17:00(入場は16:30まで)
会 場  大阪中之島美術館 4階展示室
観覧料  一般1800円、高大生1100円、小中学生500円  

※チケットの購入方法、展覧会の詳細、関連イベント等は同館公式サイトをご覧ください⇒長沢芦雪展

展示構成
 1章 円山応挙に学ぶ
 2章 紀南での揮毫
 3章 より新しく、より自由に
 4章 同時代の天才画家たち

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は記者内覧会で美術館の許可を得て撮影したものです。


見どころ1 個人蔵、初公開、前期後期でほぼすべて展示替~このチャンスは見逃せません!


今回の展覧会は、11点の初公開作品を含め前期後期で100点近くの芦雪作品が展示されるので、まさにサブタイトルにあるように「天才絵師の全貌」がわかる見応え十分の内容です。
ただし、一部を除き前期後期でほぼすべての作品が入れ替わり、普段は公開されない個人蔵も多くあるので、タイミングを逃したら二度と見られなくなる作品もあるかもしれません。公式サイトに掲載されている作品リストは要チェックです。

展示室に入ると長沢芦雪さんがお出迎えしてくれます。

長沢芦鳳《長沢芦雪像》江戸時代 19世紀
千葉市美術館 展示期間10/7-11/5
(11/7-12/3には加藤頴泉《長沢芦雪像》(和歌山・草堂寺)が展示されます。) 

作者の長沢芦鳳は芦雪の養子となった長沢芦洲の子。優しいおじいちゃんを描いたからなのでしょうか、型破りな画風そのものの人かと思っていましたが、温和で落ち着きのある感じの方なので、何となく心がなごんできました。


「1章 円山応挙に学ぶ」には、師・応挙と芦雪の作品が並んで展示されているので、芦雪が応挙から受けた影響の大きさがよくわかります。
虎の毛皮を観察して虎の絵を描いた応挙のように、虎の毛並みは細かく描かれていて、女性の表情もしぐさもよく似ています。

「1章 円山応挙に学ぶ」展示風景


応挙からの影響で忘れてはならないのは、可愛くてもふもふな仔犬たち。
仔犬の師弟競演もぜひご覧いただきたいです。

長沢芦雪《人物鳥獣画巻》江戸時代 18世紀
京都国立博物館 展示期間10/7-11/19


個人蔵の作品も優品が揃っています。
「3章 より新しく、より自由に」に展示されている《蹲(うずくま)る虎図》は、獰猛な虎が牙をむいてこちらににらみを利かせている様子を描いているのですが、どことなくユーモラス。やはりモデルは虎でなく猫?

長沢芦雪《蹲る虎図》江戸時代 寛政6年(1794)
個人蔵 展示期間10/7-11/5

大胆さが特徴の芦雪ですが、前期展示の最後には、意外にも芦雪の繊細な一面が見られる作品が展示されています。
こちらも個人蔵の《蕗図》は、秋田蕗に絵具を塗って紙に押し付けて写し取った作品ですが、そこに芦雪が加筆した数多くの蟻は触覚まで詳細に描かれているのです。
さて何匹の蟻がいるのか、ぜひお近くでご覧ください。

長沢芦雪《蕗図》江戸時代 18世紀 個人蔵
展示期間10/7-11/5



見どころ2 芦雪が紀南地方で描いた作品がまとまって見られる!


天明6年(1786)から翌年2月にかけて芦雪は和歌山の紀南地方を訪れ寺院の襖絵を描きましたが、中でもよく知られているのが本州最南端の町・串本にある無量寺の《龍図襖》と《虎図襖》。どちらも重要文化財で、今回の展覧会では前期(10/7-11/5)に展示されています。

《龍図襖》《虎図襖》をはじめとした芦雪や応挙の作品は、現在では無量寺境内にある串本応挙芦雪館で公開されているのですが、大阪・天王寺から特急くろしおに乗って串本まで約3時間かかり、それだけの時間をかけて行っても荒天時は文化財保護のため収蔵庫の入館ができないので、芦雪や応挙の襖絵が見られないこともあるのです。
(筆者は台風シーズンなどを避け、年末年始にかけて行ってきました。)

今回の展覧会では、無量寺のほかにも和歌山県田辺市にある高山寺などが所蔵する芦雪作品が一堂に会すのですから、こんなうれしいことはありません。

下の写真左は高山寺が所蔵する《寒山拾得図》。芦雪らしい筆の勢いが感じられます。
右の《酔李白・山水・瀧図》は個人蔵で今回が初公開の作品です。
左幅の瀧図の大胆な構図はいかにも芦雪。
中央の酔いつぶれた李白の顔は冒頭の芦雪の顔にどことなく似ているように見えてきました。これは自画像?などと想像してしまいます。

左 和歌山県指定文化財 長沢芦雪《寒山拾得図》江戸時代
天明7年(1787) 和歌山 高山寺 展示期間10/7-11/5 
右 長沢芦雪《酔李白・山水・瀧図》江戸時代 18世紀
個人蔵 通期展示 

芦雪が描く動物たちはどれも可愛いのが特徴ですが、この《朝顔に蛙図襖》の蛙たちはとぼけた表情をして可愛げです。朝顔の花を愛でているようにも見えます。

田辺市指定文化財 長沢芦雪《朝顔に蛙図襖》江戸時代 天明7年(1787)
和歌山 高山寺 展示期間10/7-11/5



芦雪が活躍した18世紀後半の京都では、師の応挙はじめ伊藤若冲、与謝蕪村、池大雅、曽我蕭白などの絵師たちが活躍して多士済々の様相を呈していました。
「4章 同時代の天才画家たち」では、「3章 より新しく、より自由に」の芦雪作品と並んで若冲や蕭白の作品が展示されているので、当時の京都画壇の盛り上がりぶりをうかがうことができます。


右から 長沢芦雪《旭日大亀図》、伊藤若冲《達磨図》
どちらも MIHO MUSEUM、伊藤若冲《桃花双鶏図》個人蔵
いずれも江戸時代 18世紀 展示期間10/7-11/5 
 


展示を見た後の大きなお楽しみのひとつは何といっても展覧会オリジナルグッズではないでしょうか。
作品のカラー図版はもちろん、コラムも作品解説も関連年表も掲載された展覧会公式図録は永久保存版です。図録は鮮やかなピンク色の表紙が目印。可愛い仔犬たちがデザインされたトートバッグは図録でセットで購入するとお得です。

ミュージアムショップ

ユーモラスな表情の《蹲る虎図》の虎はクッションになっていました!



まさに天才絵師・長沢芦雪の決定版ともいえる展覧会。
これは見逃すわけにはいきません。